ジャンクフードの逆襲! 押し寄せるオーク軍団と『からあげクン』
エレインの一件から数日。
俺は街の宿屋の一室で、今後の身の振り方を考えていた。
手元にある「日本の晩飯」のストックは、無限というわけではない。
俺の固有スキル【晩飯の余韻】によって、食べた後も『ゴミ(容器)』をマジックバッグに入れておけば、一日一回、少量の魔力を消費することで中身が「再生成」されることが判明している。
つまり、実質的な無限供給は可能なのだが、バリエーションを増やすことはできない。
今ある手札は、牛丼の頭(物理特化バフ)ポテトサラダ(魔法特化バフ)缶ビール(???)醤油風味の唐揚げ(未検証)これらをどう運用していくかが、この異世界を生き抜く鍵だ。
そんな思考を遮るように、街の鐘が激しく鳴り響いた。
カン! カン! カン! カン!連打される鐘の音。これは『警戒レベル:赤』。
街に未曾有の危機が迫っている合図だ。
俺は急いでギルドの広場へと向かった。
そこには、顔を強張らせた冒険者たちが集まっていた。
「おい、マジかよ……! 北の森から『オークの軍勢』がこっちに向かって進軍してきてるって!?」
「その数、およそ三千! しかも、統率しているのは変異種の『オーク・ジェネラル』だ!」
三千のオーク。
この街の守備隊と冒険者を合わせても、戦力は五百に満たない。
正面からぶつかれば、数時間で街は蹂躙され、略奪の限りを尽くされるだろう。
「カズト!」
人混みをかき分けて、ガウルさんがやってきた。
彼の後ろには、装備の修理を終えた『紅蓮の牙』のメンバーと、エレインもいる。
「ガウルさん、状況は?」
「最悪だ。ギルド長は籠城を主張しているが、この街の壁は三千のオークの突撃に耐えられるほど頑丈じゃない。やるなら、森の出口の狭い峡谷で、奴らの先頭を叩いて足止めするしかない」
「足止めって……五百で三千を相手にするんですか?」
「ああ。だが、俺たちにはお前の『神の料理』がある。……カズト、今回はパーティー単位でのバフが必要だ。全員の能力を底上げできるような、そんな料理はあるか?」
俺は腕を組み、マジックバッグの中身を脳内で検索した。
全員に行き渡り、かつ集団戦に適したバフをもたらす料理。
「……あります。一パックに五個入り。ちょうど『紅蓮の牙』のメンバー全員分だ」
俺が取り出したのは、赤と白のパッケージが特徴的な、日本のコンビニのスナックコーナーの王者。
『からあげクン(レギュラー風味)』だ。
ガウル、エレイン、そして他のメンバー三人(軽戦士のレオン、魔術師のミリア、盗賊のジノ)に一個ずつ配る。
「ほう、これは鶏肉の揚げ物か。一口サイズで食べやすそうだな」
と、軽戦士のレオン。
「カズトさんの料理なら、絶対に美味しいはずです!」
と、すっかり信者になったエレイン。
「みんな、これを食べてくれ。効果は……集団戦闘における『絶対連携』と『速度特化』だ」
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【アイテム:からあげクン(レギュラー)】
付与スキル:【迅速の連撃】
効果:600秒間、移動速度および攻撃速度を『600%』に上昇させる。
付与スキル:【戦陣の共有】
効果:効果時間中、視界と感覚をパーティー内で共有する。さらに、仲間が攻撃を当てた対象へのダメージが、連撃数に応じて最大10倍まで上昇する。
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全員が一斉に唐揚げを口に含む。
サクッ、ジュワッ。
心地よい衣の食感のあと、鶏胸肉とは思えないほどのジューシーな旨味と、絶妙な塩加減が口いっぱいに広がる。
「う、美味い……! なにこれ、油っこくないのに凄くジューシー!」(ミリア)
「身体が……軽い! まるで羽が生えたみたいだ!」(ジノ)
「よし、行くぞ野郎ども! カズトの飯の力、オークどもに見せてやれ!」
ガウルの号令とともに、『紅蓮の牙』の五人が峡谷の防衛線へと飛び出していった。
その動きは、もはや人間の域を超えていた。
【迅速の連撃】によって6倍となった速度は、残像を生み出すレベルだ。
ジノが超高速でオークの足を払い、体勢を崩したところにレオンの短剣が目にも留まらぬ速さで突き刺さる。
さらにミリアの魔法が、ガウルの大剣が、完璧なタイミングで連鎖していく。
【戦陣の共有】によるコンボ補正が乗るたび、攻撃の威力は倍加していった。
「10コンボ! 20コンボ! まだまだ行くぜ!」
ガウルの一振りが、コンボ10倍の補正により、オーク・ジェネラルの一撃を遥かに凌駕する破壊力となってオークの群れを吹き飛ばす。
エレインにいたっては、超高速で動き回りながら、傷ついた他パーティーの冒険者たちを瞬時に回復して回る「戦場の韋駄天聖女」と化していた。
「な、なんだあのパーティーは……!? わずか五人で、オークの進軍を完全に止めていやがる!」
後方で見守っていた守備隊の隊長が、顎が外れんばかりに驚愕している。
三千の軍勢は、完璧な連携と圧倒的な速度を誇る『紅蓮の牙』によって、完全に分断され、各個撃破されていった。
オークの死体の山が築かれる中、ボスのオーク・ジェネラルが恐怖に顔を歪めて逃げ出そうとしたが、ジノの超高速の投擲ナイフによって眉間を撃ち抜かれ、絶命した。
戦いは、わずか十分で決着がついた。
怪我人ゼロ。
街の被害ゼロ。
圧倒的な大勝利だった。
「ふぅ……。カズト、この『からあげクン』ってやつは、軍隊を一つ滅ぼせるレベルの兵器だな」
帰還したガウルが、額の汗を拭いながら苦笑いした。
「まぁ、美味しいですからね。でも、これで俺たちの名前は、さらに広まっちゃうかもしれません」
「そのことなんだが……」
ガウルが少し真面目な顔になる。
「ギルド長から伝言だ。王都から『特使』がこの街に向かっているらしい。どうやら、暴虐竜を倒したバフ術師――お前の噂を聞きつけたみたいだ」
ついに恐れていたことが起きた。
王宮の連中が、俺の能力に気づき始めたらしい。
だが、今の俺には頼もしい仲間と、マジックバッグに眠る「最強の晩飯ストック」がある。
「来るなら来い、ですよ。王宮の連中にも、日本の味をたっぷり叩き込んでやりますから」
俺は不敵に笑い、次の戦いに向けて、マジックバッグの『缶ビール』をそっと撫でた。
これのスキルは、まだ秘密だ。




