エルフの聖女と、秘められた『マヨネーズ』の狂気
暴虐竜を討伐した俺たちは、一躍ギルドの英雄となった。
……といっても、実際に戦ったのはガウルさんたちなので、俺は「謎の凄腕バフ術師」として、一部の上級冒険者の間でのみ噂される存在になっていた。
下手に目立つと王宮の奴らに見つかって面倒なことになるから、これは好都合だ。
「カズト様、こちらにおいででしたか」
冒険者ギルドの個室で、俺が次の「晩飯」の仕込み(といっても、パックに入った惣菜をどう配分するか考えるだけだが)をしていると、ノックと共に一人の女性が入ってきた。
彼女の名前はエレイン。
美しい金髪をなびかせたエルフであり、この街の教会の聖女でもある。
そして、ガウルたちのパーティーの専属ヒーラーだ。
しかし、今の彼女の顔はひどく青ざめていた。
「どうしたんですか、エレインさん。そんな深刻な顔をして」
「実は……教会の地下深くにある『封印の祭壇』に異変が起きたのです。かつて世界を滅ぼしかけた魔王の眷属『常闇の執行者』の封印が弱まり、邪気が漏れ出しています。このままでは、あと数日で街が呪いに包まれてしまいます……」
「魔王の眷属……。ガウルさんたちは?」
「先ほどの暴虐竜との戦いで、武器や防具のガタが来てしまい、現在ドワーフの工房で徹夜の修理中です。動けるのは私と、戦闘能力のないカズト様だけ……。ですが、カズト様の『あの料理』があれば、私でも戦えるかもしれないと思い、恥を忍んで参りました」
エレインが深く頭を下げる。
豊満な胸元が強調され、俺は思わず目を逸らした。
下心がバレたら、聖女の光魔法で浄化されかねない。
「分かりました。街が滅んだら俺も困るし、協力します。……ただ、エレインさん。君に戦ってもらうとなると、ガウルさんの時とは違う『毛色の違う料理』が必要になる」
「毛色の違う、ですか?」
「ああ。エルフの君は、肉よりも野菜や、少しジャンクなものがいいかもしれない。……これなんかどうかな」
俺が取り出したのは、コンビニの定番商品。【半熟卵のポテトサラダ(小パック)】だ。
当然、これにも俺の固有スキルによって、とんでもない能力が付与されている。
俺は【鑑定】を発動し、ステータスを確認した。
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【アイテム:半熟卵のポテトサラダ(コンビニ仕様)】
付与スキル:【神聖の極光】効果:500秒間、自身の魔力および精神力を『800%』に上昇させる。
さらに、放つ魔法すべてに『属性反転・神聖』を付与する。
付与スキル:【半熟の不滅(トロ~リ・ライフ)】効果:効果時間中、致死ダメージを受けてもHPが1残り、3秒間の無敵状態になる(発動回数制限なし)。
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「よし、これならいける。エレインさん、これを食べてくれ」
「これは……大地の芋を潰したもの、ですか? それに、この白い不思議な泥のようなソースは……?」
「マヨネーズっていう、我が郷土が誇る悪魔の調味料だよ。まぁ、食べてみて」
エレインは恐る恐るスプーンを取り、ポテトサラダを口に運んだ。
咀嚼した瞬間、彼女の長い耳がピクンと跳ね上がった。
「っ……!? なん、ですかこれは……! 濃厚、なのに爽やか! 酸味とコクが絶妙に絡み合い、この中央にある『半熟卵』を崩した瞬間、口の中が天界の楽園へと変わりました! 美味しい、美味しすぎます、カズト様!」
エルフの聖女が、マヨネーズの暴力的な旨味の前に陥落した。
それと同時に、彼女の身体から、凄まじい密度の白い光が噴き出し始める。
「な、何ですかこの魔力は……!? 体内にあるマナの泉が、まるで濁流のように溢れ出て……! それに、頭が冴え渡り、世界の真理が見えるようです!」
「マヨネーズの力は偉大だからね。よし、封印の祭壇へ行こう」
教会の地下へと続く階段を降りると、そこはすでに禍々しい紫色の霧で満ちていた。
最深部には、巨大な黒い結晶。
その結晶がひび割れ、中から漆黒の甲冑を纏った骸骨の騎士――『常闇の執行者』が這い出てきているところだった。
『オオオオ……生キタル者ノ、魂ヲ……』「不浄なる者よ、光の御名において退け!」エレインが杖を掲げる。普段なら、彼女の魔法は回復や防御がメインだ。
攻撃魔法の『ライト・アロー』を使っても、中級魔獣を怯ませるのが精一杯のはずだった。
しかし、今の彼女は【神聖の極光】によって魔力が8倍になっている。
「『聖なる輝きよ、敵を穿て(シャイニング・ジャッジメント)』!!」
彼女が放ったのは、最高級の広域殲滅魔法だった。
本来なら国家宮廷魔術師が十人がかりで儀式を行うレベルの魔法が、エレインの杖から「太さ数メートル」のレーザーとなって照射された。
ドガガガガガガガオォォォン!!地下空間が真っ白な光で満たされる。
『常闇の執行者』は、自分が何を受けているのか理解すらできないまま、存在そのものを分子レベルで消滅させられた。
それどころか、地下の頑丈な岩壁を突き破り、遥か彼方の地平線まで光の柱が伸びていくのが見えた。
「……あ」
エレインは杖を持ったまま、呆然と光の抜けた穴を見つめていた。
「私……今、何を……?」
「いや、素晴らしい威力だったよ、エレインさん。街の危機は去ったね」
「あ、あの、カズト様……。私、聖女を辞めて、今日からマヨネーズの使徒になってもよろしいでしょうか?」
「それはちょっと、教会の偉い人に怒られるからやめておこうか」
俺は苦笑いしながら、ポテトサラダの空きパックを片付けた。
日本の惣菜、エルフの価値観をバグらせるには十分すぎたようだ。




