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亡国の新法

アスタリア臨時王都の執務室。

山積みの書類を前にして、僕はまず、この国の根幹となる「法」の制定から着手した。

「アーサー様。これは……?」

僕が徹夜で書き上げた法案に目を通した女王エレノアが、驚きに目を瞬かせた。

「『アスタリア全民平等法』です。人間であれ、獣人であれ、ドワーフであれ、このアスタリアの地を踏み、法を遵守する者には等しく基本的人権を保障し、職業選択の自由と財産権を認める……というものです」

かつて他国で法律相談を受けていた時、僕は亜人たちが人間社会でいかに理不尽な搾取と差別を受けているかを痛いほど見てきた。彼らは強靭な肉体や手先の器用さを持っているにもかかわらず、奴隷同然の扱いを受けている。

ならば、法によって彼らを「対等な国民」として迎え入れれば、必ずこの国の巨大な力になるはずだ。

「……周辺諸国の貴族たちが激怒しそうな法案ですね」

エレノアはクスリと笑った後、一切の躊躇なく、その法案に女王の印璽サインを押した。

「ですが、私はあなた様の綴る『法』の力を誰よりも信じています。布告しましょう」

新法の噂は、瞬く間に近隣諸国のスラムや難民キャンプに広まった。

「アスタリアに行けば、正当な報酬がもらえる」「人として扱ってくれる」

その希望を胸に、迫害されていた屈強な獣人たちや、優秀なドワーフの職人たちが、人間の難民たちに混じって続々と国境を越えてやってきた。

労働力が集まったところで、次に直面したのは「食糧問題」だった。

かつての戦火で荒れ果て、栄養を失った痩せた大地。人間の難民たちは「こんな土じゃ麦は育たない」と絶望していた。

「諦めるのは早いですよ。土が死んでいるなら、生き返らせればいいんです」

僕は前世の歴史知識であるノーフォーク農法(四輪作)』の概念を彼らに教えた。

「まずは土地を四つに分けます。カブ、クローバー、大麦、小麦の順番で、毎年植えるものを変えていくんです。特にクローバーは、空気中の栄養を土に固定し、土地を痩せさせない魔法の草です。しかも、カブとクローバーは家畜の冬の餌になる」

さらに、人間の排泄物や落ち葉を発酵させた「堆肥」の作り方を指導した。

ここで真価を発揮したのが、種族を超えた「協力」だった。

「おおっ、ドワーフの旦那たちが作ってくれた新しいクワ、めちゃくちゃ土が掘りやすいぞ!」

人間の農夫が歓声を上げる。

「任せな! 俺たち獣人が馬の代わりに重い荷車を引いて、堆肥を畑に撒いてやるぜ!」

屈強な獣人たちが笑い合いながら、荒れ地を次々と開墾していく。

エレノアは泥だらけになりながら畑の視察に訪れ、民たちに自ら水筒を差し出し、労いの言葉をかけた。

「皆の者、アスタリアのためにありがとう。あなたたちの汗は、決して裏切りません」

美しく気高い女王のその振る舞いが、種族の壁を越えて民たちの心を一つに結びつけていた。

知識と、団結。

荒涼としていたアスタリアの大地は、活気に満ちた緑の畑へと、確かな一歩を踏み出していた。

お読みいただきありがとうございました。

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