夏の怪談
バカな元王太子が引き起こした『切り裂き魔』事件も一段落し、僕の日常は再び「弱き者を法で守る」忙しくも充実した日々に戻っていた。
ギルド最上階の居住スペース。
書類の山を片付け、深い眠りに落ちていた夜更けのことだった。
ふと、部屋の中が凍りつくような冷気に包まれたのを感じ、僕は目を覚ました。
「……ん?」
月明かりだけが差し込む寝室のベッドの足元に、『それ』は立っていた。
透き通るような銀糸の髪。人ならぬ青白い発光。どこか品格を感じさせる、息を呑むほど美しい女性の【亡霊】だった。
『……持たざる者の盾よ。どうか、私の声を聞いてください』
脳内に直接響くような、悲痛な声。
「貴女は……?」
『私は、先代の王妃。現国王の母にあたる者です。……私はかつて、双子の子を産みました』
亡霊の言葉に、僕は息を呑んだ。王室の公式記録では、先代王妃が産んだのは現国王ただ一人のはずだ。
『私は、一人は死産だったと聞かされてきました。ですが……あの子は、裏で捨てられ、今も王都の市井で生きているのです。どうか、あの子を探し出し、身分を証明して本来の地位へ戻してあげてください。……哀れな、私の子を』
そこまで告げると、先代王妃の亡霊は涙を流しながら、霧散するようにふっと姿を消した。
「……アーサー様。今、不敬な悪霊があなた様の安眠を妨げようとしたため、塩と聖水で浄化しようとしたのですが……間に合いませんでした。申し訳ございません」
いつの間にかベッドの脇に立っていたエレノアが、銀の十字架と鈍器を手にして悔しそうに頭を下げていた。
「いや、除霊はしなくていいからね!? ……でも、ただの夢じゃない。ギルドの情報網で調べる必要があるな」
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