旅立ちの日
宴の翌朝
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
「おはようございます、マリアです。
少しお話ししてもいいですか?」
「少し待って下さい、着替えますので。」
「朝早くにごめんなさい。」
「大丈夫ですよ、ではすぐ着替えますね。」
と言い、ロイスは寝巻きを脱ぎ、旅に出る服装に着替えた。
旅に出ると言っても、そこらの冒険者よりはかなり軽装である。
「お待たせしました、どうぞ入ってください。」
「お邪魔します」
と言って、部屋を見渡す。
「ベットとテーブルと椅子しか無いのですね。」
「寝る以外で部屋に来ないので、それにまだ2週間しかここにいてませんから」
とロイスは苦笑した。
「え?2週間ってどうゆう事ですか?」
「私は生まれて14日目ですよ?継承魔法を受けて、1週間生死を彷徨い、目覚めてから世界の最新の情報を集め、昨日、魔の国、ガラン帝国に行き、帰りに精霊の森に寄ってマリアに会いました。
それが今の私の人生全てです」
と言って笑っているが、マリアは何が面白いのか分からず、苦笑した。
「て事は私の方がお姉さんだね!マリアお姉ちゃんって呼んでみて下さい!」
「嫌です」
「ムスーっ」
「擬態語を口に出さないで下さい、絶対に呼びません。
それより話とはなんですか?」
「私とシエルに関してです、シエルが母の契約精霊だった事は少し話しましたよね?
そして、私がお腹に出来た時にシエルが聖の上位精霊になった事。
その件に関してなんですが、そもそも私は半分精霊なので、契約出来ないと思っていたのですが、何故か契約出来てしまって、おそらく母の血が混ざってるからと、納得はしてたのです。
なんせ人と精霊のハーフなんて、今まで前例が無かったので。
普通は人族と精霊が契約すると、人族が少し魔力が上がり、精霊の得意属性の魔法の効率や能力が上がる程度だったのですが、私とシエルの場合は、私の能力向上、元々下位の全属性使えたのですが、光は聖に進化しました。
そしてシエルに関しては、光の最上位精霊にしか使えない魔法まで使える様になってしまったのです。
今はまだ私とシエル、後お父様しか知らないのですが、何故進化したのかを少し探してみたいと思いまして、旅立ちの途中で気になるところがあれば、寄ってもらいたいのです。」
「それでしたら、全然問題ありませんよ。
50年しか無いとは言いましたが、ただ見て回るだけでしたら、3日もあれば世界中回れますので、私が知りたいのは、今の人族の現状です。
何を思い、何を考え、何をするのか、それを知り、人族がこのまま暮らしていていいのか、滅ぼした方がいいのか、それを考える旅でもありますので、寄り道は多いに結構ですよ。」
「ロイスさんは、人族を滅ぼすおつもりなのですか?」
「それはまだわかりません、ただ今の現状が続くなら、後50年で、星が死んでしまいます。
それだけは阻止しなければなりませんので、滅ぼすと言っても半分程度に減らすだけでも充分効果はあるでしょうが、人族の繁栄力を考えると、半分残すだけで、また500年後には同じ事をしなければならないかもしれない。
そう考えると滅ぼすのも一つの手ではあるとは思います。
ですから、何が最善の策なのか?を探す旅と考えています。」
「凄く壮大な旅ですね、50年で人の全てがわかるのでしょうか?」
「それはわかりません、聖母神カルス様や、魔神バーダリア様がおられる国はある程度は理解してくれているとは思いますが、やはり両神共、自分のいる国の人は守りたいと思っているでしょう。
ですから滅ぼすと言うのは最悪の場合と言うだけで、やりたい訳では無いですよ。
しかしある程度は減らさないと、増え過ぎです。」
「何か他に良い案が出るといいですね。
やはり、間引きすると言うのですか?気持ちのいいものではありませんし、誰にも死んでほしく無いと、個人的には思ってしまいます。」
「マリアのその考えは、持っていていい物だと思います。
それで何かいい案が浮かぶかもしれませんし。
お話は以上ですか?」
「はい、私からは以上です、ありがとうございました。」
「では、少しシエルと話たいのですが、いいですか?マリアもいてもらって構いません。」
「シエルとですか?昨日から連絡が取れなくて、回路も切られちゃってるんですよ。
戻ったら伝えましょうか?」
「一方的に切ることも可能なのですか?」
「最上位に近い存在になって可能になったみたいですね、どこで何をしてるのかさっぱりわかりません。」
「そうですか、ならこの話は大丈夫です、忘れた下さい。」
「何か腑に落ちませんが、わかりました忘れます」
「すいません」
とロイスは少し笑い話を終えた。
そろそろ旅立ちの時間の頃合いかと思い、部屋を出ようとすると、
「失礼します。」
「何かあった?エレン。」
メイド服のエレンが部屋の前で立っていた。
「ベルトランド様が、朝食くらい食べてから行けと。」
「わかったよ、ありがとう、すぐ向かうね。」
と聞き、エレンは姿を消した。
「エレンさんは何者ですか?気配も無いし、魔力の残留なども無いし、あの人に襲われたら絶対勝てる気しないんですけど。」
「エレンは今の僕より、と言うか父上の次に強いですよ。私達の暗部を務めてくれています。
今消えたのも魔法使ってませんしね。
私でも、襲われたら勝てないと思います。」
竜王の次に強いと聞きマリアは驚いた、竜王は神すら殺せると聞いているからだ、つまり神レベルの強さと言うことだ。
「竜族の方は強い人しかいないのですね、昨日の宴でも存在が凄すぎる人が沢山いて、内心ビクビクしてました。」
「でもみんないい方ですよ、ただ人族に混ざって冒険者になってる内の2人が若干曲者なので、あった時は気を付けてくださいね。」
と何故か不穏なセリフをロイスはニコニコしながら言って来た。
「何故そんなニコニコしながら言ってくるのですか?」
「会えばわかります。
ほら、着きましたよ。」
とロイスは部屋に入って行った。
中に入ると、父と母が席に座り、2人に着席を促す。
「おはよう、ロイス、マリアさん、よく眠れたかしら?」
「おはようございます、お母様、とても寝心地が良くて、ぐっすり眠れました。
お父様も、ありがとうございました」
とニコリと笑いお礼を伝えると、
「アーマンドよ、娘もいいものだな。」
「頑張りますか?」
ゴホン!
「父上、母上、食事にしましょう。」
と言い、ロイスは席に座り、マリアにも着席を促す、マリアは意味が分からず、言われるがまま席に座った。
席に座るとすぐ、エレンが全員分の食事を持って来て、皆の前に配膳する。
基本、竜族の食事は肉を生で食べるか焼いて食べるしか無い。
しかし、人族に紛れて冒険者をしている竜族たちのおかげで、香辛料や調理器具といったものが入ってきているため、人族の里で料理を学ぶものもいた。
エレンは万能で、人族が作る料理も一通りは作ることができる。
そのため、本日の朝食は、パンにハムエッグといった定番の朝食であった。
「ロイスよ、もうそろそろ旅立つのか?」
「はい、食事を済ませたら立つつもりです。」
それを聞いた母アーマンドが、
「たまには帰ってきてくださいね、マリアちゃんとももっとお話ししたいし」
「はい、わかりました。」
「お母様ありがとうございます、次来た時には、もっと沢山お喋りして下さい」
とマリアが嬉しそうに答えた。
「ロイス、立つ前にアンムート様への挨拶と、あの場所に行ってから立ちなさい。」
「わかりました、マリアも紹介してから行きます。」
と言い、程なくして4人は食事を終えた。
「では父上、母上行って来ます。」
「任せたぞ。」
「はい」
ロイスとベルトランドが言葉を交わし、父と母にお辞儀をして部屋を後にした。
マリアもお辞儀をし、ロイスの後に続いて行った。




