世界樹にて
10分程歩くと、マリアはとても大きな木の前で止まった。
「ロイス様ならこの樹の事はわかりますよね?この樹が世界樹です。
私達精霊が守る、この星のマナの源となる樹です。」
「ええ、しかし知識としてしか知りませんでしたので、実際に目にすると圧巻ですね。
遠くから見ると、一つの小山のような見た目でしたが、ここまで近くに来ると、凄まじい程の生命力を感じます。」
ロイスは世界樹を見上げ、その力強さに感動していた。
「私の母は人間なのですが、私を産むとすぐに亡くなってしまったそうです。
しかし母の願いで、この世界樹に埋葬されたと聞いています。
精霊に何かがあると、一度魂が世界樹に吸収されて再生されるので、母もそれにあやかり、精霊となって復活しないかと望んでいたようで。
ですから、この世界樹は私にとって母のようなものなのです。
何年かかるかわかりませんが、母が精霊として復活出来るように毎日祈ってます。」
そう言い、マリアは微笑んではいるが、少し悲しそうな顔を見せた。
「南北の戦争時代を除けば、本来精霊と人族は縁の深い関係でしたからね。
人の魂がどうなるかはわかりませんが、精霊の様に生まれ変わるというのもあるのかも知れません。
いつか会えたらいいですね。」
ロイスはそう言うと前方に視線を向け、跪いた。
「お初にお目にかかります、精霊王アバン様、現竜王ベルトランドの子ロイスと申します、この度はお子様の誕生と聞き、挨拶させて頂きたく立ち寄らせて頂きました。」
「そんな跪かなくてよろしいですよ、ロイスさん。
アンムートから話は聞いていますよ、継承魔法で10日間も眠っていたとか、これまでは2、3日で済んでいたのに、現竜王夫婦は凄まじい力と知識をお持ちの様で。
よく耐えて生還しましたね、あなたの誕生こそ賛辞に値しますよ。
それに竜族は私に跪くものじゃありませんよ。
本来、星のマナを必要としないあなた方は、私達にとっては羨望に値し、神に近い存在なのですから。
私も他の神々と肩を並べてはいますが、所詮は星からのマナがなければ生きていけない寄生虫の様なものですから、堂々となさって下さい。」
アバンはそう言いロイスを立ち上がらせる為、手を差し出した、その手をロイスが取り、2人は固く握手を交わす。
「ありがとうございますアバン様、しかしアバン様にお子様が産まれたと聞き、とても驚いたのですが、どういった経緯なのですか?」
ロイスが徐に聞くと、アバンは少し笑いながら。
「ここではなんですので、少し景色の良いところでお茶でもしませんか?」
アバンが上を指差しながら言い、ロイスがすぐに、
「はい」と答えると、着いてこいと言わんばかりにアバンが飛んで行くのについて行った。
アバンが比較的葉の少ない道を飛んでくれていたので、ロイスもそれに続く。
しばらくすると、世界樹の8合目くらいの場所に、鳥の巣の様に枝や葉が敷き詰められた、開けた場所に到着し、中央にはテラスの様になった場所があり、長テーブル一つと椅子が8脚用意されている場所に着いた。
「ロイスさん、どうぞこちらへ。」
アバンがそう声を掛けながら、椅子を引き、ロイスへ着席を促す。
「ありがとうございます」
そう言いロイスが座ると、アバンも向かいの席に座る。
「マリア」
「はい」
アバンに声を掛けられたマリアが、パチんと指を鳴らした。
するとテーブルの上に、紅茶の入ったポットやカップ、バスケットに入った果物などが現れ、ロイスは驚いた。
「これは創造魔法ですか?とても高度な魔法がつかえるのですね」
「私にも詳しくはわからないのですが、お父様によると、精霊と人間の血が混ざり、特殊なスキルが身についたのでは?と言う見解なそうですが、この魔法は世界樹の近くじゃないと、力が足らなくて使えないのです。」
マリアは笑いながらそう答え、
「マリア、あなたもこちらに座りなさい。
詳しくは私から話しましょう。」
「はい、お父様」
と言い、マリアがアバンの隣に座る。
「ではまずは、マリアの出生から話をしましょうか。
実は7年ほど前に、精霊の森の結界の少し離れた場所で、1人の若い女性が怪我していてね、その女性が精霊魔法師だった為、契約していた精霊が私に助けを求めて来たのが切っ掛けで、私は彼女、名前をユーリと言うのですが、ユーリの容態を見て、魔力過剰症と魔毒による意識低下が見られたので、直接看病していたのです。
魔毒の方は世界樹の葉ですぐに治療は終わったのですが、過剰症の方が厄介でして、そしてユーリが生死の境に彷徨い続ける間、約ひと月程、私は毎日の様に、彼女の魔力を全て吐き出させ、少しずつ彼女に馴染ませるように私の魔力を送る治療を行っていました。
少量の魔力でしたが、やはり少し副作用が出ましてね、馴染ませるのに時間がかかっただけですが、だんだん顔色も良くなり、回復して行っていました。
そして、魔力の補充が済み、後は目覚めを待つのみとなった段階で、私は少し異変を感じて、ユーリの体を探ってみたのです。
するのお腹の中に小さいですが、私とユーリ以外の魔力を感じたのです。
最初はとても驚きました、精霊が人に魔力を流しただけで、子が宿るなど聞いた事も考えた事もありませんでしたからね。
後に検証したのですが、他の精霊達では子が宿る事もなく、結果は、おそらく精霊王である私の力と、もともと精霊魔法師が精霊の力に魔力が馴染んでいた事、そしてユーリ自身が精霊の魔力に対して、強い適合性があった事による偶然だと結論付けました。
私もマリア以外に子を作るつもりもありませんでしたのでね。
深くは検証していません。
そしてユーリの容態ですが、マリアの成長速度が人のそれを遥かに超えていましてね、私がどれだけ力を流しても、マリアがそれを吸収してしまう為、少しずつ回復はしていき、意識もたまに戻る事もあったのですが、やはり魔力の渦に耐え切れず、この子を産む頃には随分衰弱してしまいましてね。
それを見兼ねた私達が、マリアが外に出ても大丈夫であろうと考えられる程、力を持った段階で、魔法を使い取り出しました。
しかし、ユーリの衰弱を止める事は叶わず、マリアを産んでから1か月程で亡くなってしまいました。
1か月の間にユーリの意識がたまに戻る時があり、話をする機会もあり、マリアを育てて行って欲しい事、ユーリが死んだら精霊達と同じ様に世界樹に魂を送って欲しい事など、ユーリとユーリの契約精霊の子にもお願いされ、私は願いを聞き入れる事にしました。
人族が世界樹に取り込まれ、精霊達と同じ様に転生を繰り返すかは謎ですが、私の魔力で満たしていた魂でしたので、一縷の望みはあるかと思いましてね。
そして現在に至ると言う事です。」
アバンの隣にいるマリアが少し悲しそうな顔ながらも、希望も持っているような力強い目で座っていた。




