ー第3節 罵詈雑言すらも毛玉フィルターで賛美歌へ、アンチを慈愛の微笑みで浄化する聖人ムーブが炸裂する
第3節 罵詈雑言すらも毛玉フィルターで賛美歌へ、アンチを慈愛の微笑みで浄化する聖人ムーブが炸裂する
視聴者が増えれば、当然、招かれざる客もやってくる。
同時接続数が一千人を超えたあたりで、コメント欄の空気が変わった。
『やらせ乙』
『スーツでダンジョンとか舐めてんの?』
『どうせ弱いモンスターいじめてるだけだろ』
『死ね』
『キモい』
アンチコメントの嵐だ。匿名という鎧をまとった悪意が、画面を埋め尽くす。
普通の配信者なら顔をしかめるか、無視を決め込む場面だ。
相田は立ち止まり、流れるコメントを見つめた。
「おや、たくさん文字が流れていますね」
相田には、その文字の悪意が読めないわけではない。だが、認識する前に、脳内の毛玉が仕事をした。
『――フィルタリング開始。悪意ある思念を、肯定的なエネルギーへ変換し、脳内へ投影する』
ギュルルン。
相田の視界の中で、棘のある言葉たちが、ピンク色の花びらのようなエフェクトに包まれていく。
『死ね』という言葉は、『あなたは永遠の命を得るべきだ』という詩的な表現に。
『キモい』という言葉は、『個性的で素晴らしいオーラだ』という称賛に。
『やらせ』という言葉は、『まるで映画のような奇跡の技だ』という感嘆に。
毛玉の超解釈によって、罵詈雑言はすべて、熱烈なラブレターへと書き換えられた。
相田の表情が、パァァァッと明るく輝いた。
それは作り笑顔ではない。心からの喜びと、人類への愛に満ちた、聖母のような微笑みだった。
「皆さん……なんて温かい言葉なんでしょうか」
相田は胸に手を当て、カメラに語りかける。
「私の健康を祈ってくださり、ありがとうございます。私の存在をそこまで肯定してくださるなんて……身に余る光栄です」
『は?』
『煽り耐性カンストか?』
『いや、ガチで喜んでるぞこの顔』
アンチたちが困惑する。自分たちの投げた泥団子が、相手には美しい花束として届いているような感覚。
「『死ね』と書いてくれた方……それはつまり、今の苦しみから解放され、安らかな世界へ行けるようにという祈りですね? あなたの優しさに救われます。あなたにも、幸多からんことを」
相田は画面の向こうの見知らぬ誰かに向かって、深々と頭を下げた。
静寂。
そして爆発。
『聖人だ……』
『アンチを感謝で殴り返したwww』
『浄化される……俺の汚れた心が洗われていく……』
『【悲報】アンチ、光に焼かれて消滅』
悪意は、相田という鏡の前では無力だった。すべてが反転し、癒やしの光となって拡散していく。
投げ銭が飛び交い始めた。
『感動した』
『お酒代にしてくれ』
『壺を買わせてください』
画面が極彩色のスパチャで埋め尽くされるが、相田は「おや、画面が綺麗ですね」としか思っていなかった。




