ー第2節 視聴者困惑のまったり配信、しかし相田の無駄のない動きと戦闘は見る者の精神を強制的に安定させる
第2節 視聴者困惑のまったり配信、しかし相田の無駄のない動きと戦闘は見る者の精神を強制的に安定させる
配信開始から三十分。
視聴者がぽつりぽつりと現れ始めた。おそらく、サムネイルの奇妙な脱力感に釣られた暇人たちだろう。
『なんだこの配信』
『スーツ? サラリーマンの遭難?』
『タイトルやる気なくて草』
コメント欄が動き出す。だが、相田はコメントを逐一確認して媚びを売るようなことはしない。ただ淡々と、地下水道の通路を歩いていた。
その歩き方が、異様だった。
背筋は糸で吊られたように真っ直ぐ。足音は一切しない。水たまりを避ける動作も、まるで舞踏のように滑らかで、一切のエネルギーロスが感じられなかった。
見ているだけで、なぜか心が落ち着く。
視聴者たちは、画面から発せられる不思議な「凪」の波動に呑まれ始めていた。
『なんか……ずっと見てられるなこれ』
『環境映像?』
『歩き方が綺麗すぎる』
その時、通路の奥から影が飛び出した。
ジャイアントラット。体長一メートルはある巨大ネズミだ。鋭い牙を剥き出しにして、相田の喉笛に飛び掛かる。
「危ない!」とコメントが流れるよりも早く、相田は動いた。
いや、動いたようにすら見えなかった。
ただ、スッと半歩、体をずらしただけだ。
ネズミは空を切る。そのすれ違いざま、相田はネズミの後頭部に、そっと手を添えた。
「お眠り」
トン、と軽く叩くような掌打。
それだけで、ジャイアントラットは空中で糸が切れたように脱力し、地面にドサリと落ちた。即死だった。外傷はない。脳に直接衝撃を伝え、生命活動を強制停止させたのだ。
「ふむ。ネズミの肉はちょっと臭みが強いかな……。ジャーキーにすればいけるか」
相田は慣れた手つきでナイフを取り出し(百円ショップのものだ)、手早く解体を始めた。
血飛沫一つ浴びない、手術のように精密な作業。
『え?』
『今何した?』
『強すぎワロタ』
『解体がプロの料理人なんだが』
コメント欄の流れる速度が加速する。
相田は血のついたナイフを布で拭い、カメラに向かって穏やかに微笑んだ。
「一品目、確保です。命に感謝ですね」
その笑顔には、殺生の罪悪感も、勝利の昂りもなかった。あるのは、ただ純粋な「いただきます」という感謝の念だけ。
視聴者数は、いつの間にか三桁を超えていた。
『この人、ヤバい』
『見てるだけで肩こりが治った気がする』
『謎のヒーリング効果があるぞこの配信』
SNSで拡散され始めた。「最強の社畜が癒やしの探索をしてる」と。




