ー第4節 監視カメラに映る奇跡の映像、そして一人の少女が目撃した強さの真理
第4節 監視カメラに映る奇跡の映像、そして一人の少女が目撃した強さの真理
相田が去った後のオフィスで、生き残った社員たちは我に返った。
壁に空いた大穴。消滅したオークの残骸。そして、普段は空気のようだった男が残した圧倒的な破壊の痕跡。
「あいつ……なんなんだよ……」
誰かが呟いた言葉は、全員の総意だった。
だが、事態はこれだけでは終わらなかった。
このオフィスビルはダンジョン関連企業が入居しているため、セキュリティレベルが高く、監視カメラの映像はリアルタイムでクラウドサーバーに保存される仕組みになっていた。
そして、パニックになった誰かが、救助を求めるためにSNSへ「今まさに死にそうです」というコメントと共に、社内カメラのリンクを投稿してしまっていたのだ。
その映像は、瞬く間に拡散された。
『社畜、覚醒』『素手でオーク粉砕』『リアルワンパンマン現る』
そんなトレンドワードと共に、相田の穏やかな顔と、慈悲深いパンチの映像が世界中を駆け巡った。
――都内某所、高級タワーマンションの一室。
巨大なモニターの前に、一人の少女が座っていた。
神宮寺麗華。十九歳にして、国内トップクラスの探索者クラン『天照』の次期当主候補。その美貌と実力で『戦乙女』とも呼ばれる彼女は、今、食い入るように画面を見つめていた。
画面の中では、疲れ切った顔のサラリーマンが、半眼でオークを消滅させている。
「……美しい」
麗華はため息をついた。
彼女は悩んでいた。強さを求め、技術を磨き、魔力を高めてきた。だが、何かが足りない。どんなに敵を倒しても、心は渇くばかりだった。
だが、この男はどうだ。
殺意がない。憎しみがない。闘争心すら感じられない。
ただ、在るがままに振る舞い、結果として敵が消え去っている。
「これこそが……『無我の境地』! 私が求めていた強さの真理!」
麗華の瞳が輝く。
彼はきっと、世を忍ぶ仮の姿として社畜を演じていたに違いない。あの「諸行無常だな」という言葉。あれはただの口癖ではない。世界の理を知り尽くした者だけが発せる、聖なるマントラなのだ。
「見つけたわ。私の師匠」
麗華は立ち上がった。
手には最新鋭の探索者用デバイス。すぐに情報屋に連絡を取る。
「この男の居場所を特定して。今すぐに。……ええ、礼は弾むわ」
一方、そんなこととは露知らず。
相田は近くの公園のベンチで、コンビニで買ったワンカップ大関を開けていた。
「あー、すっきりした」
『素晴らしい波動だ。おかげで極上のデザートになった』
相田の胸ポケットから、毛玉がひょっこりと顔(?)を出している。
「これからどうしようかな、おつまみさん」
『案ずるな。風の吹くまま、気の向くまま。まずはその酒を飲み干せ』
「それもそうだな」
相田はグイッと酒を煽る。
再び世界が輝きだす。無職になった不安など、微塵も感じない。
最強の社畜(元)と、謎の毛玉。そして彼を追う勘違いお嬢様。
奇妙な因果の歯車は、ここから加速していくことになる。




