ー第2節 スーパーの特売品を巡る静かなる戦い、そこで見つけた日常の些細な幸せこそが至高の贅沢である
第2節 スーパーの特売品を巡る静かなる戦い、そこで見つけた日常の些細な幸せこそが至高の贅沢である
二人は近所のスーパーへ向かった。
麗華は相田の後ろを三歩下がって歩き、周囲を警戒している。まるで要人警護だ。
「麗華さん、そんなにキョロキョロしなくていいですから」
「油断大敵です、師匠。昨日のリッチの残党がいるかもしれませんし、何より師匠の尊いお姿を盗撮しようとする輩がいるかもしれません」
「私はただの無職ですけどね」
スーパーに入ると、相田の目は真剣になった。
タイムセール。
賞味期限間近の惣菜や、少し傷んだ野菜が並ぶワゴン。こここそが、相田にとっての主戦場だ。
「む……この半額シールの貼られたアジの刺身……少し色が悪いか?」
相田はパックを手に取り、吟味する。
『腐りかけこそ至高。熟成された旨味と、腹を壊すかもしれないというスリル。それらを飲み込む度胸こそが、魂を研磨する』
毛玉が適当なことを言う。
「そうですね。生姜をたっぷり乗せればいけるでしょう」
相田はカゴに入れた。
麗華が横から最高級和牛のパック(五千円)を差し出してくる。
「師匠! こちらをどうぞ! 私のカードで!」
「いけません。それは脂が多すぎて胃もたれします。それに、苦労して手に入れた半額のアジの方が、精神的な栄養価が高いのです」
「な、なるほど……! 『清貧』の教えですね! 物質的な価値に惑わされず、モノの本質を見抜く心眼……勉強になります!」
麗華は感動してメモを取っている。
周囲の主婦たちが怪訝な顔で見ているが、相田は気にしなかった。
彼にとって、この日常の些細な選択こそが生きている実感そのものだった。
巨悪を倒すことよりも、今夜の晩酌のアテをどうするか真剣に悩むこと。その悩みこそが、平和の証拠であり、何よりの贅沢なのだ。
買い物を終え、二人は公園のベンチに座った。
缶ビールを開ける。
プシュッ。
炭酸の弾ける音が、青空に吸い込まれていく。
「乾杯」
「乾杯です、師匠」
昼間から飲む背徳感。
喉を通る冷たい液体。
相田は目を細めた。
「……ふぅ。生きてるって感じがするな」




