第5章 第1節 世界を救った翌日も変わらぬ安アパートの日常、相田悟は英雄ではなくただの酒飲みとして朝を迎える
第5章 現世、即ち安らぎの地
第1節 世界を救った翌日も変わらぬ安アパートの日常、相田悟は英雄ではなくただの酒飲みとして朝を迎える
世界が救われた翌日、相田悟の朝はいつも通りに始まった。
正確には、Aランクダンジョン「奈落の摩天楼」の最深部で「死の王」を殴り倒し、アンデッド化の呪いから都市を守った翌日だ。ニュースでは「謎の光り輝く拳を持つ男」の話題で持ちきりだったが、当の本人は六畳一間の安アパートで布団にくるまっていた。
チュンチュン、と雀が鳴いている。
平和だ。
あまりにも平和すぎて、二度寝をキメようか迷うほどだった。
「……んぁ」
相田はのそのそと起き上がり、万年床から這い出した。
身体の節々が少し痛む。昨日のリッチ殴打の反動だろうか。いや、おそらく飲み過ぎて床で寝てしまったせいだ。
「おはよう、おつまみさん」
相田が声をかけると、枕元に鎮座していた灰色の毛玉が、ポフンと跳ねた。
『うむ。今日の波動も悪くない。微かに残る二日酔いの頭痛、それもまたスパイスだ』
相田の脳内に、相変わらず重厚な声が響く。
相田は洗面所に向かい、鏡を見た。
そこには、少し顔色の良くなった無職の青年が映っていた。以前のような死相は消え、目の下のクマも薄くなっている。
「さて、今日は何をしようか」
とりあえず、冷蔵庫を開ける。中身は空っぽだ。昨日、帰還祝いと称して麗華と飲み明かした際に、ツマミの備蓄をすべて食い尽くしてしまったからだ。
「買い出しですね」
相田は着替えた。ヨレヨレのTシャツとジャージ。これが最強の社畜(元)のオフスタイルだ。
アパートのドアを開けると、そこには眩しい太陽と、湿気を含んだ初夏の風があった。
そして、もう一つ。
「おはようございます、師匠!!」
ドアの真ん前に、直立不動で待機している少女がいた。
神宮寺麗華だ。
彼女は完璧なメイクと、どこかの令嬢らしい清楚なワンピースに身を包んでいた。ただし、背中には相変わらず巨大なハルバードケースを背負っている。
「……おはようございます、麗華さん。朝早いですね」
「はい! 師匠の朝の身支度をお手伝いしようと思いまして、四時から待機しておりました!」
「通報されますよ」
相田は苦笑した。
世界を救った実感など微塵もない。だが、この少し騒がしくて、どこか温かい日常が戻ってきたことだけは確かだった。




