ー第4節 輪廻の呪縛を断ち切る毛玉の捕食、そして強制的に成仏させられた死の王の最期
第4節 輪廻の呪縛を断ち切る毛玉の捕食、そして強制的に成仏させられた死の王の最期
ボロボロになったリッチは、最後の力を振り絞った。
『おのれ……ならば、道連れだ! 貴様も、この永遠に続く円環の呪いに囚われるがいい!』
リッチの体が崩壊し、黒い霧となって相田にまとわりついた。
それは「円環の呪い」。
生まれ変わり、また苦しみ、死ぬ。その終わりのない徒労感を魂に植え付け、精神を崩壊させる禁断の呪術。
相田の視界が暗転しかける。
「おっと、これは少し重いな……」
未来永劫続く労働のイメージ。永遠に終わらない月曜日。
普通の人間なら発狂するレベルの精神攻撃だ。
だが、ここで相田の最強のパートナーが動いた。
『――円環? 否。流れは一方通行だ』
毛玉が相田の胸から飛び出し、黒い霧を大口を開けて(口はないが)吸い込み始めた。
『苦しみも、悲しみも、ただ流れて消える泡沫に過ぎない。それを留めようとするから澱むのだ。流せ。忘れろ。そして食らえ』
ズズズズズッ!
リッチの放った最強の呪いが、毛玉の中に吸い込まれていく。
『うむ。コクがあって美味い。まるで熟成されたチーズのようだ』
毛玉は満足げにゲップをした。
呪いを無効化されたリッチの意識が、霧の中で絶望する。
『バ、バカな……。我が呪いを、食べた……!?』
「言っただろ。お前はただのツマミだって」
相田は霧が晴れた空間で、スッと右手をかざした。
その手は、優しく、穏やかだった。
「もう十分だろ。仕事は終わりだ。定時に帰れ」
相田はリッチの核となる魔石に触れ、指で弾いた。
パチン。
その瞬間、リッチを構成していた負のエネルギーが、すべて「無」へと還元された。
リッチの表情(骸骨だが)が、最後にふっと緩んだように見えた。
『……ああ、そうか。私はただ……帰りたかったのか……』
光の粒子となって、リッチは消滅した。
それは浄化ではない。強制退勤だった。
静寂が戻る。
相田は大きく伸びをした。
「ふぅ。さて、空気も良くなったし、飲み直しますか」
彼は何事もなかったかのように、瓦礫に座り直し、ワンカップを手に取った。
麗華が駆け寄ってくる。
「師匠! お見事でした! 死の誘惑を断ち切り、迷える魂を救済する……まさに生き仏!」
「いや、だから私はただ……まあいいか。麗華さんも飲む?」
「はい! 喜んで!」
廃墟のダンジョンで、二人は乾杯をした。
その様子は配信こそされていなかったが、もし誰かが見ていれば、それは現代の神話の一幕に見えたかもしれない。
ただの酒飲みと、その弟子。
彼らの旅は、まだまだ続く。




