ー第3節 光り輝く拳による物理的な説教、それは逃避を許さぬブラック上司よりも厳しい現実への引き戻し
第3節 光り輝く拳による物理的な説教、それは逃避を許さぬブラック上司よりも厳しい現実への引き戻し
『愚か者が……死の冷たさに抱かれよ!』
リッチが絶叫し、巨大な氷の槍を無数に放った。絶対零度の冷気が空間を凍らせる。
だが、相田は止まらない。
彼は氷の槍を、まるで暖簾をくぐるように叩き落とし、歩みを進めた。
「死んで楽になる? そんなのは退職してから言え! 俺たちはまだ現役なんだよ!」
ドォォォォン!!
相田の右拳が、リッチの障壁を貫いた。
障壁がガラスのように砕け散る。リッチは驚愕に目を見開く(眼球はないが)。
『物理攻撃……!? 馬鹿な、我が障壁は概念的な死の拒絶――』
「御託はいい!」
相田はリッチの胸倉を掴み、強引に引き寄せた。
至近距離で見合う、骸骨と社畜。
「いいか、よく聞け。極楽ってのはな、死んだ後に行く場所じゃない。今ここ、この泥沼のような現実の中に、自分で作り出すものなんだよ!」
相田の拳が光り輝く。
それは聖属性魔法などではない。毛玉が相田の「説教したい欲求」をエネルギーに変換し、物理的な質量として拳に乗せたものだ。
「死んで逃げるな! 歯を食いしばって生きろ! そして美味いものを食え!」
強烈な右ストレート。
ボゴォッ!!
リッチの顔面が歪んだ。
アンデッドである彼に痛みはないはずだった。だが、相田の拳には「生の実感」という、アンデッドにとって最も忌避すべき情報が込められていた。
殴られるたびに、リッチの脳内(?)に、生前の苦労、喜び、悲しみ、そしてビールの味が強制的にフラッシュバックする。
『や、やめろ……! 思い出したくない……! 生の苦しみを……!』
「思い出せ! それが生きるってことだ!」
左フック。ボディブロー。アッパーカット。
容赦ない連打。
傍から見れば、骸骨を一方的に虐待するサラリーマンという異様な光景だった。
麗華は目を輝かせて見守っている。
「すごい……。師匠は、死者に対してすら『生きることの尊さ』を拳で説いている……! なんて慈悲深い……!」
慈悲かどうかは怪しかった。ただ、相田は「自分だけ楽して死のうなんてズルい」と思っているだけだった。




