ー第2節 死こそが救済と説く骸骨の王に対し、生きて苦しむことこそが嗜みだと主張する相田の平行線な問答
第2節 死こそが救済と説く骸骨の王に対し、生きて苦しむことこそが嗜みだと主張する相田の平行線な問答
リッチの虚ろな眼窩に、青白い炎が灯った。
『……ほう。我が安息の波動に抗うか。愚かな人間よ』
リッチが杖を振ると、空間が歪み、数多のアンデッドが召喚された。腐った騎士、亡霊、スケルトン。死の軍勢が相田を取り囲む。
『生は苦痛の連続だ。老い、病み、失い、最後は無に帰す。ならば、今ここで終わりを迎えることこそが慈悲ではないか?』
リッチの言葉は、ある意味で真理だった。
限界まで働かされ、心をすり減らした社畜時代の相田なら、あるいは頷いていたかもしれない。
だが、今の彼は違う。
毛玉と同化した彼は、苦しみすらもスパイスに変える術を知っている。
「慈悲? 笑わせるな」
相田は鼻で笑った。
迫りくる腐った騎士の剣を、素手で受け止める。
ガキンッ! という金属音が響く。相田の皮膚は、内側からのエネルギーで鋼鉄以上に硬化していた。
「痛いのも、辛いのも、全部生きてる証拠だろ。それを放棄して『楽になりたい』だなんて、とんだ甘えだ」
バキィッ!
相田は騎士の剣をへし折り、そのまま裏拳で騎士の兜を粉砕した。
「残業代が出ない? 上司がクソ? それがどうした。その理不尽な現実の中で、いかにして安酒を美味く飲むか工夫する。それこそが人生の醍醐味だろうが!」
相田の主張は、ブラック企業で鍛え上げられた鋼の社畜精神論だった。
しかし、その瞳は澄み切っている。
彼は本気で言っていた。苦労なくして、ビールののどごしは生まれないと。
『理解不能だ。なぜ自ら茨の道を歩む?』
「茨? 違うな。これはツマミだ」
相田は一歩踏み出した。
その背中から、金色のオーラが噴出する。それは「生」への執着と、「今を楽しむ」という強欲なまでの肯定のエネルギーだった。
「麗華さん、見ておきなさい。あれが、仕事をサボって楽をしようとする悪い管理職の典型です」
後ろで呆然としていた麗華に声をかける。
「は、はいっ! 師匠のお言葉、肝に銘じます! 死への逃避は、職務放棄と同じ!」
麗華が何か勘違いしたままメモを取る仕草をした。
相田は満足げに頷き、リッチに向かって拳を構えた。
「さあ、業務改善命令だ。そのふざけた根性、叩き直してやる」




