ー第2節 強さへの渇望に蝕まれた少女の猛攻を、相田は暖簾のように受け流し続ける
第2節 強さへの渇望に蝕まれた少女の猛攻を、相田は暖簾のように受け流し続ける
「構えなさい、相田悟! 貴方のその『無我』の領域、私が暴いてみせますわ!」
麗華が咆哮と共に跳躍した。
速い。
一般人の目には残像すら映らないだろう。音速を超えた踏み込みから放たれるハルバードの一撃は、戦車すら両断する威力がある。
だが、相田の世界は依然としてスローモーションだった。
『右斜め上、四十五度からの斬撃。殺意の純度、九十八パーセント』
毛玉が冷静に解析情報を送ってくる。
(危ないなぁ。そんな重いもの振り回して、腰を痛めますよ)
相田は、まるで散歩中に飛んできたボールを避けるかのように、半身を引いた。
ブンッ!!
相田の鼻先数センチを、巨大な刃が通過する。風圧でネクタイが舞い上がるが、相田の表情は変わらない。半眼のまま、慈愛に満ちた眼差しで麗華を見つめていた。
「なっ……!?」
麗華は驚愕した。
今の攻撃は、彼女の全力だった。殺すつもりで放ったわけではないが、受けてみろという気概は込めていた。それを、あくびをするような動作で躱されたのだ。
「逃げないで! 私と戦ってください!」
麗華は追撃を繰り出す。
横薙ぎ、突き、袈裟斬り。嵐のような連撃が相田を襲う。
その全てが必殺の威力だ。ダンジョンの壁や地面が次々と破壊され、瓦礫の山が築かれていく。
しかし、相田には掠りもしない。
彼は柳のように揺らめき、時には最小限の動きで刃の側面に触れて軌道を逸らし、時にはただ一歩下がるだけで攻撃を無効化した。
「はぁ……はぁ……ッ! なぜ! なぜ当たらないの!?」
麗華の呼吸が荒くなる。
彼女の心は焦りで満たされていた。
幼い頃から天才と呼ばれ、努力を重ねてきた。だが、上には上がいた。ダンジョンの深層には、人知を超えた化け物が跋扈している。今のままでは勝てない。もっと強く、もっと速くならなければ。
その強迫観念が、彼女を蝕んでいた。
焦れば焦るほど、技は雑になり、隙が生まれる。
『苦味が強くなっている。そろそろ食べ頃だ』
毛玉が促す。
(そうですね。彼女も疲れているようですし、少し休ませてあげましょう)
相田は、麗華の突きに合わせて一歩踏み込んだ。
そこは、彼女の間合いの内側。死の領域。
だが相田にとっては、そこが最も安全な場所だった。
「少し、肩の力を抜きましょうか」
相田の手が、麗華の手首を優しく掴んだ。




