【12】円卓の決意
夜が明けて、昏倒していた騎士達が目を覚ますと、孤児院は大騒ぎになる。
騎士達はレックスとシンイに状況を確認すると、慌てて孤児院を飛び出して行き、しばらくすると騎士の一団がワラワラと押しかけて来たのだった。一団の中には、ハオ・エンテ騎士団長の姿もあった、その彼は周りの騎士達に指示を飛ばし状況確認を急いでいる。
また事件のあった教会は完全に閉鎖され、さらにロキたちは次から次に押しかけてくる騎士達に質問攻めにされてしまったのだった。
そうなる前、ロキたちはユウが意識を失った後、ロキたちは急いでマザー・クラリスら合流すると全員で口裏を合わせていたのだが。昨晩、女に化けた悪魔が孤児院に来てロキたちを人質にし、マザー・クラリスの姿に姿を変えて孤児院と病院を乗っ取ろうと画策したと。
教会の中でロキ、レックス、シンイは体の自由を奪われ人質となっていたところ、トリニティーと灰色と名乗る仮面の男が乗り込んできて悪魔を倒した。そう次から次にやってくる騎士達に、同じ様に説明していた。
お昼を過ぎる頃には少し落ち着きを取り戻したものの、レックスとシンイも孤児院の中で足止めされている。マザー・クラリスは孤児院と病院を行ったり来たり、そんな中、ロキは騎士達がユウの部屋に近づかないように一人で気をもんでいた。
またしばらくすると、ラディックと名乗る騎士がレックスとシンイに会いに来たのだった。彼は二人の姿を孤児院の食堂の中で確認すると、ほっとした様な表情を浮かべて話しかけた。
「レックス、シンイ、二人とも大丈夫だったか?」
「はい、ラディック隊長。 私もシンイも何とか無事でした」
「そうか、それは良かった。 それから、何が起きたかは何度も説明しているとは思うが、もう一度だけ私に教えてくれないか?」
そう言ってラディックは椅子に座って質問を始めたのだった。
「……。 それで、その灰色は悪魔を倒して去って行ったと」
「そうです、トリニティーさんの助けもありましたが、戦いが終わるとすぐに帰って行きました」
「他に、何か変わった事はなかったのか?」
「ラディック隊長……。 変わった事とは?」
「何でも良いんだ、気になることがあれば教えて欲しい。 シンイ君も何かないかな?」
「……。 何も、無いです……」
「そうですね、私も特に気になったことはありませんでした。 とにかく私たちは体が動かなかったので、ただ見守っていたとしか……」
「そうか、それなら良いんだ。 ありがとう二人とも、もう少しで調査は一先ず落ち着くだろう。 そうしたら、今日は帰ってゆっくり休んでくれ」
「はい、ありがとうございます!」
そう言って、ラディックは食堂から去っていったのだった。
さて、所は変わり、王城の中では重鎮たちが昨晩の悪魔の襲撃に頭を悩ませていたのだった。円卓を囲み、皆が厳しい表情で騎士団からの報告を聞いていた。
「……。 王国内での死者は今のところ確認されておりません、引き続き事件現場の周囲を第一騎士団団長を陣頭に警戒を続けております。 また悪魔が使ったという毒の分析ですが、王国魔術師長の元で進めておりますが現時点では詳細不明です。 以上が、昨晩の悪魔襲撃の報告です」
そう騎士が言い終わると、その円卓の奥に座っていた老人が、その立派なひげを撫でながらつぶやいた。
「被害が少なかったのは何よりだが、引き続き警戒を怠らないようにハオ騎士団長には伝えてくれ」
「はい、了解いたしました!」
そう言って騎士が出て行くと、円卓に残された面々は相談を始めるのだった。
「それで、その組合の男は何者だ」
ひげの老人は、そう前を見て話しかける。その先には白髪交じりの男がいた、彼は組合の地下でユウに依頼を出す男に瓜二つだったが。そして、その男は鋭い目を光らせて老人を見返しながら、こう答える。
「彼は半年くらい前から組合で働き始めた者です。 猿型の魔獣の事件はご存じかと思いますが、その時に活躍をして組合の色付きとなりました。 今回は王国周辺の村に出没したと思われる、悪魔の動向を探れと依頼を出しております」
「では、何者か素性は知っているのか?」
「詳しい話はなにも。 その双剣術から帝国の間者ではとの噂があります。 また素顔は仮面で隠しており、声も変えている様ですが、私は騎士学校の生徒と同じくらいではなかと推察しております」
「なら、お前はどう思っている? キースよ」
「マルシュ大臣、私は、私は今回の件で自身の判断が揺らいでおります。 当初から、私は彼を疑っておりました、悪魔が化けて王国に侵入しているのではとも。 猿の魔獣の件も、我々に信用させるための演技であったのではと、ですが……」
その話を、円卓の面々は緊張の面持ちで聞いていた。ひげの老人、そうマルシュ大臣は一人興味深げな顔でキースを眺め、目を細めた。
「キースよ、お前の言いたい事も分からなくはないが、今は私情を挟むべきではない」
「はい、マルシュ大臣、理解しております……」
「引き続き騎士団には警戒を続けるように強く伝え、少しでも怪しい者は捕らえてよ。 この時期に陛下のお心を使わせるわけにはいかん。 我々は何としても次の祭り事を成し遂げなければならんのだ」
「はっ!」
まるで老人とは思えないマルシュの力強い言葉に、一同は声を揃える。そして、彼は最後にキースに向かって声をかけた。
「キースよ、後で私の執務室に来なさい」
そして、キースはマルシュを見つめ、一つ頭を下げたのだった。
すると、円卓の部屋の大きな扉がギィーと開いた。円卓に座っていた面々が振り向くと、彼らはすぐさま立ち上がり、扉の方にむき直すと一礼をした。
扉を開けて入ってきたのは、ハオ騎士団長よりも一回り背の高い屈強な男だったのだ。そして、野太い声で全員に声をかける。
「皆の者、そう畏まらなくてもよい」
「失礼致しましたギー陛下。 それで、どのようなご用件でしょうか?」
マルシュ大臣は、そう問いかける。
「うむ、悪魔の件が気になってな。 出来れば報告を早く聞きたくて、こう出向いてしまったのだ。 ハッハッハ!」
そう、大きな声で笑った。
「そうでしたか、これは申し訳ございません。 すぐに私がご報告させて頂きますので、どうぞお部屋でお待ちください」
「そうか、頼んだぞマルシュ! お前たちが頼りだ。 娘も最近は少し元気が出てきてな、あと三ヶ月だ、何とかお前たちには踏ん張って欲しい!」
「もちろんですとも、これは我々の悲願でもあります」
「あぁ……。 これは我々の悲願だ……」
そう言って、ギーは少しだけ表情に影を落とす、そして、彼の拳は強く握られている。だが、すぐさま気を取り直すと、ギーはマルシュにこう伝えた。
「そうだ、マルシュよ。 マリーアの事だが、出来るだけ協力してやって欲しい。 色々と無茶な事を言っているとは聞くが、それでもあいつが一生懸命考えてやっている事なのだ」
「はい、王女殿下の心中は我々も察しております。 我々で出来ることならば、その協力は惜しみません」
「すまないな、マルシュ。 」
「ギー陛下、我々の心と魂は陛下の、そして王国のために」
そう言って、マルシュは右手を胸に当てて一礼をする。そして、周りにいた者たちもギーに向かって礼をするのだった。




