【11】奇跡の代償
しばらくして院長室に入ってきたのは、ロキとレックスの二人だった。二人はユウが倒れているのを見つけると、すぐさま彼に駆け寄ったのだった。
「ユウ、大丈夫なの? マザー・クラリスを助けたって……」
「あぁ、そうだ……。 悪いけど、俺を部屋まで連れて行ってくれないか」
「ちょっと待ってろよ、ユウ。 とりえあず、俺におぶさってくれ」
苦しそうにつぶやくユウを見ていたレックスは、そう言ってユウの隣にしゃがみ込んだ。そのまま、ロキに肩を貸されて、ユウはレックスにおぶさった。
「院長室で委員長におんぶされるとはな……」
「馬鹿言ってるんじゃねぇよ」
多少、場の雰囲気を和ませようとしたユウだったが、すぐさまレックスにツッコミを入れられる。そして、空元気で笑うのだが、その後、沈黙が続いてしまうのだった。
「ねぇ、ユウは大丈夫なんだよね? 死んだりしないよね?」
もう少しでユウの部屋に着こうとすると、ロキは心配そうな表情を浮かべて問いかけてきた。
「大丈夫だ……。 あんまり力を使いすぎると、体に力が入らなくなって、意識を失うんだよ」
その言葉に、ロキもレックスもまた黙り込んでしまうのだった。そうしながら、ようやくユウの部屋の前までつくと、急いでロキが扉を開けて二人を中に入れたのだった。
殺風景な部屋には窓が一つ、雨の降り止んだ空はまだ薄暗いが、少しずつ日が明けてきていた。そして、ユウは窓際のベッドの上に下ろされると、こう話を続けた。
「マザー・クラリスとシンイの二人はどうした?」
「あぁ、そうだね。 二人は病院の方を見回りに行っているよ。 急にマザー・クラリスが教会に駆け込んできたから僕たち驚いちゃったよ」
「ねぇ、ユウはマザー・クラリスにあの力を使ったの?」
「あぁ……」
「大丈夫だ、だが数日は起きないと思う」
「そんな……」
二人はベッドの横に立ちすくんでは、酷く困惑した表情でユウを見返した。
「大丈夫だ、本当に死んだりしない。 だけどな、その間は何も出来ない。 だから頼みがある。」
「なっ、何でも言ってよユウ、僕たちに出来ることなら頑張るから!」
「たいした事じゃないんだ、とりあえず、このローブを脱がせてくれ。 それとな、今晩起こった事は灰色のローブを羽織った白い仮面の男が解決したと誰かに聞かれたら答えて欲しい」
「灰色のローブの男?」
レックスは横から、そう問いかける。
「あぁ、俺が組会で働いているときの姿だ、まだ正体はバレていないと思うがな」
「お前、それって組合の色付きって事か?」
「あぁ、灰色って呼ばれてる。 そいつは黒い双剣を使って戦うんだ、だけど奇跡の事は誰も知らない。 正確には口止めしてるだけだけどな……」
「とんでもないな、お前……」
「灰色? 色付き?」
ロキはユウのローブを脱がせていたが、ユウとレックスの会話についてこられないのか、途中で口を挟んできたのだった。
「ロキは知らないのか? 組合があるだろう冒険者とか傭兵とかの、そこで実力を認められた者は色の名前で呼ばれるんだよ、王国でも十人っていないくらいの実力者って事だ」
そう答えるレックスを、ロキはポカンとした顔で見返した。
「なっ、ユウ、何してるんだよ! まさか、たまに夜に孤児院を抜け出してたのって……。 僕たちに黙ってそんな仕事してたの!」
「うるさいな、個人的に仕事はするって最初に会ったとき伝えただろう」
ユウは酷く疲れた顔をして、ロキに言い返す。ローブを脱がされたユウは、そのままベッドに横になると、さらにこう続けるのだった。
「とりあえず、全員で口裏を合わせて欲しい。 トリニティーの事は本人にどうすれば良いか確認してくれ、たぶん悪いようにはしないと思う」
「待ってよユウ、本当の事を伝えたら、王国の騎士だって分かって……」
「ロキ、それは難しいだろ。 王国が大陸の大結界の要だって知ってるだろ、もしユウの正体がバレたら何を言っても処刑されるぞ」
「そうだ、ロキ。 こればっかりはな。」
そうユウは一言伝えると、表情に暗い影を落とす。
「前にも似たような事があったが、結局は殺されかけたよ。 その時は一ヶ月以上も意識を失ってたが、結局は知り合いに命がけで助けてもらって、今こうしてるけどな……」
そう聞いた二人は、黙り込んでしまう。
「いいんだ、とりあえずローブをどこかに隠しておいてくれ。 それと、もしお前らの立場が危うくなったら、俺を王国に引き渡せ」
「そんな事、そんな事出来るわけ……」
そうロキは言いかけて、最後まで言葉を返す事が出来なかった。そうしている間に、ゆっくりとユウの瞼が閉じ始めるのだった。
「もうそろそろ限界だ…… そうだ、すまないが……学校の……にわに……」
「何? ユウ! 聞き取れないよ!」
「アリスが……」
「アリス? アリスって誰? ユウ! ユウってば!」
そうして、ユウの意識は途切れてしまった。まるで死んでしまった様に眠るユウを見て、残された二人は慌てて体を揺すってみるも反応がない。
ロキはユウの胸に耳を当てて、僅かに感じ取れた鼓動に一安心するも、この後どうすれば良いのかとレックスを見て狼狽えるのだった。
そうこうしながら、この波乱に満ちた嵐の夜は、ゆっくりと明けていった。




