130 ミハエルとレオンの再戦
翌日、俺たちと『シュラハト』のメンバー全員で南門から出た。
しばらく道を歩き、途中で森の中へと入っていく。
森の中へ入ってしばらくしてから声をかける。
「それじゃあ魔法をかけますが、空を飛ぶので最初は怖いかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「大丈夫かそうじゃないかと言えば、私は大丈夫じゃないけど、これも経験だからね」
「俺は楽しみだぜー?」
「俺はちょっと怖いな」
レオン以外はやはり少し怖いようだ。
まぁそれが普通だろう。
「とりあえず、魔法をかけたあとは暴れずに身を任せてください。俺たちが牽引しますので」
「わかったよ」
俺は全員に光学迷彩と飛行魔法をかける。
「ゆっくりと上がりますので、どうしても怖い場合は目を瞑っていてください。危険はありませんし、俺たちが必ず守りますから」
そう声をかけてゆっくりと俺たちはそれぞれの手を引いて空にあがった。
俺はレオンとエアハルトさんの手をとり、ミハエルがマリウスさんとニクラスさん。
フィーネが、イザークさんとエルナの手を引いている。
エアハルトさんからは多少緊張している様子が伝わってはくるが、落ち着いているようだ。
レオンからは楽し気な声がするけども。
「おー。エアハルト、空飛んでるぜー。楽しいな、これ」
「そうかい。私は緊張してるよ。お前のようにまだ楽しめないな」
「そーかー? おーすげぇな。鳥ってこんな感じで見てんのかね」
「レオンは楽しんでおいてくれ。私は少し目を瞑る」
こうしてゆっくりとゆっくりと高度をあげ、開けた場所へと向かった。
開けた場所へとつき、ゆっくりと地面に下りたあとはレオン以外は地面に座りほっと一息ついていた。
それでも腰が抜けたりや膝が震えるなどはなかった。
さすがAランクだ。
レオンは随分空の旅が楽しかったようで、ミハエルとの試合のあと一人で飛びたいと言ってきた。
まぁ別にレオンなら問題ないだろうから、終わったらなと言っておく。
「さて、それじゃあそろそろ始めるか?」
「おう、俺はいつでもいいぞ」
「おー、俺もいいぜー」
ミハエルとレオンの声に頷いてから他のメンバーに声をかける。
「みなさんはそれなりに距離をとってくださいね」
「ああ」
「そうするよ」
「ええ」
全員が十分な距離をとったのを確認して二人に告げる。
「じゃあお互い十歩離れてくれ」
「おう」
「あーもう楽しいな。早くやりてぇ」
「ほら、早く離れろ、レオン」
「へーへー」
二人が十歩離れたところで俺は手をあげる。
「いいか」
「おう」
「いいぜー」
二人を見やってから俺は手を振り下ろした。
「始め!」
俺はそのまま距離をとり、ぐるっと回ってみんなのもとへ向かった。
すでに二人は剣を激しくぶつけあっている。
そのまま歩いていき、エアハルトさんが端っこにいたので、その隣へといく。
「ミハエル君はまた強くなったみたいだね」
「そうですね。でも、レオンもまた強くなっていますね」
「そうだね、レオンに追い付こうと死に物狂いで私たちは訓練しているんだけど、私たちが強くなったらさらにその先へ行くんだ、あいつは。私たちはずっとレオンを追いかけていくことになりそうだよ」
「そうですね、俺もそんな感じです。強くなったかなと思ってもミハエルがその二歩も三歩も先へいっていて、追いつけそうにないです」
「ルカ君はでも魔法があるだろう?」
「ええ、でも俺の魔法をミハエルは知っているので。それに明日は俺もレオンに勝てるかはわかりませんね。以前に俺の魔法を見られてますから」
「それもそうだね、一度見ただけで読み取れるのは本当にズルいよね」
そう言ってエアハルトさんは苦笑した。
俺も苦笑しながら答える。
「ええ、本当に。同じ技が二度目は通じないってのがきついです」
ミハエルとレオンは今は少し距離をとっている。
若干ミハエルの方が疲れがみえているようだ。
それでも、以前よりレオンも疲れが出ているように見える。
二人とも笑みを浮かべたまま、同時に飛び出した。
レオンが上段から大剣を振り下ろし、ミハエルがそれを受けて流し、流した勢いでレオンに切りかかる。
レオンはすぐに横に転がりミハエルの攻撃を避けた。
二人ともすでに土まみれだ。
それでも楽しそうに切り合っている。
レオンが横なぎに大剣を振り、ミハエルはしゃがんでそれを躱し、切りかかろうとしてすぐに後方に跳躍すると、ミハエルが先ほどまでいた場所をレオンの大剣が薙ぐ。
すぐにミハエルがバネのように跳ねてレオンに迫る。
再びレオンが大剣を薙ごうとするが、それを止め大剣でミハエルの攻撃を防いだ。
二人は入れ代わり立ち代わり攻守を代えて剣をぶつけ合う。
剣がぶつかるたびにオレンジの火花があがり、二人の獰猛な笑みが浮かび上がる。
レオンは以前ミハエルと戦ったときとは違い、最初から全力を出しているようだった。
それはミハエルがレオンと同じくらいに強くなっているということになる。
二人はすでに肩で息をするほどになっていた。
そろそろ決着がつくだろう。
そう思って見ていると、レオンがミハエルに仕掛けた。
激しくぶつかり合い、大量の火花が散る。
一際強くぶつかり、はじかれるようにミハエルが離れた。
しばらくにらみ合っていたが、ミハエルが剣を地面に突き立てた。
どうやら決着がついたらしい。
それを確認したレオンが大剣を放り出して仰向けに倒れた。
ミハエルも同じように剣をそのままに仰向けに倒れた。
俺たちは二人の元へ歩いて行く。
「お疲れ、ミハエル」
「おう。また負けたわ」
「そうだな」
「お疲れさま、レオン」
「おー。楽しかったぜー」
「最初から全力だったのかい?」
「ああ、そーだな。ミハエルの野郎、知らねぇうちにくっそ強くなってやがった」
そう文句を言うレオンは実に楽し気な笑みを浮かべている。
そんなレオンの文句にミハエルが答える。
「お前こそまた強くなってんじゃねーか。追い抜けたかと思ったのによ」
「ははは。当たり前だろ。ルカに負けて楽しかったけどやっぱ悔しかったんだからな」
「次は俺が負かしてやんよ」
「やってみやがれ」
泥まみれの二人にハイヒールと浄化魔法をかける。
転がったまま二人から礼の言葉が飛んできた。
「サンキュー、ルカ」
「おー助かる。って、ミハエル今の言葉なんだ?」
「あー? ああ、サンキューか」
「それ、なんだよ?」
「ありがとうって意味だよ。気軽に言える言葉なんだってよ」
「ふぅん?」
そんな二人を放置して俺はエアハルトさんに声をかけた。
「そうだ。エアハルトさん」
「なんだい?」
「以前、お話しした、ジャベリンを覚えませんか?」
「ああ、お願いできるかい?」
「ええ。魔力量的にたくさんは撃てないと思いますが……」
「うん、そうだろうね。一回撃てれば大体どのくらい消費するかわかるから大丈夫だよ」
「そうですか。ではどういった魔法か教えますね」
「うん、よろしくお願いするよ」
俺はジャベリンの構造や、どういうものかを詳しく伝えた。
俺のジャベリンは大きすぎるので、エルナに頼んでジャベリンを何度か撃ってもらい、それを見せた。
エアハルトさんはエルナのジャベリンをじっと見つめ、イメージを固めていく。
一度目は発動せず、二回目も三回目も発動はしなかったが、四回目で辛うじて発動した。
しかし槍の形にはなったものの、すぐに消えてしまった。
そこからエアハルトさんは何度も繰り返し発動させ、発動を失敗したときは魔力消費をしていなかったので、三十回ほど繰り返したところでやっとジャベリンが発動した。
「お、発動したじゃん」
レオンがそうエアハルトさんに言ったところで、エアハルトさんはチラリとレオンを見てから、レオンに向けてジャベリンを発射した。
レオンは慌ててジャベリンを避ける。
「うおっ あぶねぇな!」
「はは。すまないな。そうか。切り裂かずに避けたか」
「なんだよ。当たったらあぶねぇぞ、あれ」
「レオンがそういうならこれは私にとっての切り札にできそうだね」
エアハルトさんの言葉にレオンが不機嫌な顔になる。
「俺で実験すんなよな、エアハルト」
「ははは。すまないな。お前なら魔法を撃ち込んでも切り払うか、避けてくれるだろうからな」
絶対的な信頼を寄せた言葉にレオンは不機嫌そうな顔のまま少し頬を赤くしてそっぽをむいた。
そんなレオンを見て俺は少しだけ笑う。
本当に仲の良い素晴らしいパーティだなと思う。
しばらくして、レオンが俺に声をかけた。
「あ、そーだ。ルカ、飛行魔法かけてくれよ」
「ああ。まぁ落ちて骨折れても治してやるよ」
「おう、頼むわ」
「あ、せっかくだから私もお願いしていいかな?」
「あ、じゃあ俺も頼むよ」
結局『シュラハト』のメンバー全員が飛行魔法を望み、全員にかけた。
レオン以外はゆっくりと慎重に飛んでいたが、レオンは急に飛び上がりそしてバランスを崩して墜落した。
「いってぇ! ルカー回復してくれー。足折れたー」
「お前……もう少し慎重に飛べよ……」
俺は呆れつつも、レオンにハイヒールをかける。
「お、治った。さんきゅー」
治った途端、レオンはまた飛び上がっていった。
学ばないやつだ。
そこから五回ほどレオンは墜落し、足や手を折った。
それでも最終的には自由に空を飛べるようになっている。
エアハルトさんたちもぎこちなくはあるが空を自由に飛べるようになっていた。
ただ、ニクラスさんは高所が少し苦手なようで、低空飛行を楽しんでいた。
エルナも『シュラハト』のメンバーが飛行訓練してる間にミハエルと一緒に飛ぶ訓練をしていた。
エルナはバランスをとるのが苦手だったようだが、ミハエルに手を引かれながら訓練を繰り返し、なんとか飛べるようになっていた。
みんなが空中を飛んでいる間、俺の隣にフィーネがやってきた。
「みんな楽しそうね」
「ああ、そうだな」
「明日はルカがレオンと戦うのよね」
「ああ」
「勝てそう?」
「あー。どうだろうな、正直言って難しいかもしれない。俺の攻撃魔法はもうレオンは知ってるからな」
「そう。でも、こうして競い合える相手がいるというのはいいものね」
「ああ。それはあるな」
「ミハエルとレオンの戦いを見て、心が震えたもの」
「うん、俺もだ」
「明日、あなたとレオンの戦いを見れたら、きっともっと心が震えそうだわ」
「フィーネの心を震わせれるように、頑張るよ」
「楽しみにしているわ」
そう言ってフィーネはふわりと笑みを浮かべる。
俺の心臓が少し跳ねる。
……明日は頑張ろう。そう思う。
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