123 Sランクモンスター
あれから二週間、俺の皮鎧もついに完成して、あとは帰るだけとなった。
ニルベルトさんにお礼と別れの挨拶をし、サイズ調整にまた来ることを告げて工房を出て、今は冒険者ギルドへきている。
「お待たせしました、どうぞ」
受付嬢さんに案内され、ハインさんのいるギルドマスターの部屋へと向かう。
「やあ。今日はどうしたんだい?」
「今日はご挨拶にきました」
「ああ、そうか。皮鎧が完成したんだね。うん、みんなとてもよく似合っているじゃないか」
「ありがとうございます」
「ああ、そうだ。すまないがアーロンにこれを渡してもらえるかな?」
そう言ってハインさんが取り出したのは俺たちがギルドマスターから受け取ったのと同じ封蝋がされた手紙だった。
「はい、お預かりします」
「ああ、頼むよ。それにしても君たちがいなくなるのは惜しいね」
俺が首を傾げると、苦笑しながらハインさんが話し始めた。
「はは。分かっていなかったか。君たちがきたおかげでうちに常駐してるAランクが到達できない階層のドロップ品が大量に在庫として確保できたからね。それに彼らも少し奮起してくれたようなんだ」
どうやら常駐してるAランクはレッドボアの階層でもう随分長いこと停滞していたらしい。
角が高く売れるというのもあるし、彼ら以外にAランクがここにはおらず、常に彼らがトップだったゆえにライバルがいなくてそこで満足をしていたらしい。
ただ、俺たちBランクがあっさりそこを超えていったことで彼らは訓練をはじめ、今は五十五階を目指して努力をしているそうだ。
彼らの態度はあまりいいものではなかったが、そうして努力しているのは素晴らしいことだと思う。
「そんなわけで、君たちのおかげで彼らも成長したようだ」
「そうでしたか。俺たちも彼らに負けないように努力をしたいと思います」
「うん、君たちはまだまだ伸びそうだね。またいつでもクレンベルを訪れてくれ」
「はい。また来たいと思います。ありがとうございました」
そうして俺たちはギルドを出て、預けていたギルドの馬車を受け取りにいった。
馬車に乗り、クレンベルの街を出る。
なんだかんだと二ヶ月近くいたので少しだけ寂しく感じるが、シュルプに帰るという喜びの方が大きい。
「なんか、長いようで短かったな」
ミハエルのそんな呟きに俺も頷く。
「そうだな。でも、色々とあったな」
「おう、本当にな」
たったの二ヶ月ではあるが、本当に色々なことがあった。
一番はやはり元Cランクの彼らのことだろう。
彼らには様々な道があったとは思う。
俺たちが来なければまだ彼らは生きていたかもしれない。
だけど俺たちはクレンベルに来て、彼らと出会ってしまった。
彼らの道を途絶えさせてしまったが、俺は彼らを忘れることはないだろう。
その他にはスリにあいかけたことだろうか。
スリをしようとした少年は、まだカールと同じくらいの年齢の子で、クレンベルの街の孤児院で暮らす子だった。
最初は悪ぶっていたが、発言の内容はどう見ても孤児院を庇うような言葉ばかりだった。
だから、孤児院を訴える気も咎める気もないからと、ゆっくりと話を聞いていくと、あの子がスリをしようとした目的は同じ孤児院で暮らす血の繋がらない弟や妹たちに美味しい物を食べさせたいという理由だった。
孤児院が経済的に困窮しており、いつもひもじい思いをしているらしい。
だけど、自分はまだ七歳で働くこともできず、でも幼い弟や妹たちがお腹が空いたと泣いてる姿が辛くてなんとかしたかったようだ。
最後は目にたくさんの涙を溜めてごめんなさいと謝ってくれたので、俺は少年の頭を撫でて抱き上げ、少年と妹や弟たちを救うために、一緒に孤児院へと向かった。
孤児院を運営しているというお婆さんと会い、少年はお婆さんにスリをしようとしたことを素直に話をして謝罪していた。
お婆さんは少年の話を聞いて顔を覆って少年に謝罪しながら泣き崩れた。
お婆さんを落ち着かせてから、さらに詳しく聞いたところ、孤児院は個人運営で、人々の寄付や息子さん夫婦の別の仕事で稼いだお金で運営をしていて、常にお金が足りず厳しい状態だったらしい。
子供たちにたくさんご飯を食べさせてあげられなくていつも心苦しかったのだと、お婆さんは言っていた。
息子さんやその奥さんにも苦労をかけてしまっていて、お婆さんももう孤児院をやめようかとずっと悩んでいたらしい。
だけど、息子さんも奥さんも、お婆さんを励ましてずっと続けてきたのだそうだ。
お婆さんが引退されたあとは今度は奥さんが運営していくつもりなのだとか。
奥さんはこの孤児院出身らしく、息子さんとは幼馴染の関係だったらしい。
だからこそ、この孤児院をなくしたくないのだと言っていた。
それを聞いた俺は孤児院に寄付をした。
かつてリバーシを作ったときに稼いだお金だ。
結局自分の稼ぎだけでどうとでもなっていたのでずっと放置したままだったあぶく銭だ。
孤児院を運営してるお婆さんとその息子さん夫婦には最初はそんなにたくさん頂けないと固辞されたが、子供たちの為だと思って受け取って欲しいと説得し、受け取ってもらった。
彼らにはとても感謝されたが、これであの子がスリなどをせずに笑顔になってくれたらそれでいいのだ。
お婆さんと息子さん夫婦の好意で一緒に子供たちと食事をとったが、お腹いっぱいご飯を食べられたことにみんなが笑顔になっていた。
少年も満面の笑みでみんなと笑い合っていたのを見られたので、本当によかったと思う。
皮鎧の調整でクレンベルには時々いくことになるだろうから、そのときにちょくちょく様子を見にいこうと思っている。
今回の寄付は金貨五枚なので、子供たちの衣服や運営費を考えればそれほど長期間もつわけではない。
裏庭で野菜も育てているらしいので多少は賄えるとは思うが。
それでも、今後も定期的に寄付はしていこうと思っている。
まだリバーシで稼いだお金はたくさんあるので問題はない。
次に訪れたときは幼児用の玩具やリバーシ、塩や砂糖も持っていこう。
勉強道具も用意していってもいいな。
勉強ができればきっと働く先も増えるはずだ。
あの子もスリではなく、自分の力で稼ぎ、孤児院を支えていってほしい。
そのためには俺もできることはしてあげよう。
そんなことを考えつつ、俺は馬車を進める。
馬車を進めて一週間が経ったある日、俺のミニマップに赤い光点が灯った。
「ん、なんかモンスターがいるな。フィーネ、馬車を停めてもらっていいか?」
「わかったわ」
何のモンスターかわからないので一旦フィーネに馬車を停めてもらい調べることにした。
ただのハグレゴブリンあたりならいいが、何があるかわからない。
「ミハエル、モンスターが一匹いるから、ちょっと付き合ってくれ」
「あいよ」
「じゃ、フィーネとエルナは馬車の護衛頼むな」
「ええ、気を付けてね」
「ああ、ありがとう」
俺は馬車を降り、ミハエルと共に赤い光点の方へ向けて歩き始めた。
少し歩いたところで、俺とミハエルは気配を薄めて進む。
――気配を薄めるなんてのも最近できるようになったことだ。これをできるようになってからは俺が以前どれだけ気配を撒き散らしていたかよく分かるというものだ。
ミハエルとはすでに通話魔法をつなげているのでそのまま話す。
『なんだろうな、ミハエルわかるか?』
『いや、わかんねぇな。ただかなり強いことは確かだ。気配がなさすぎる』
ハグレゴブリンではないことは俺も気づいてはいたが、どうやらかなり強いようだ。
もしかするとAか、Sランクのモンスターの可能性がある。
気配を薄めたまま、足音をできるだけ立てずに赤い光点を目指す。
動かない赤い光点の近くまできたところで濃厚な血の臭いがしてきた。
ミハエルと目を合わせ眉を顰める。
『もしかして人が襲われたか?』
『可能性はある』
ゆっくりと歩を進め、ギリギリのところまで近づいて木陰に隠れ様子を伺う。
『ルカ、あれ見ろ』
ミハエルの視線の先を追うと、そこには大型の獣が倒れていた。
野生のバッフルホーンのように見える。
その倒れるバッフルホーンの前でしゃがみ込んでいるソレは、バッフルホーンの肉を引きちぎっては口へ運んでいる。
赤い光点はどうやらアレのようだ。
『あれは、モンスターか』
『何かわかるか?』
『ああ……Sランク、だな』
『まじか。こんなとこで会うとはな……』
バッフルホーンの食事に夢中なソレは、頭部は鉄の兜をすっぽり被ったような見た目で、顔はまるでゾンビかグールのようだ。
ただ体は筋肉質で黒い皮膚で覆われていて、重要器官部分は頭部と同じように鉄のような物で覆われている。
トカゲのような尻尾が生えているが、その尻尾は蛇腹の鉄のような物で覆われ、鉄は鋭く刃のようだ。
肉を引きちぎっている手や腕もまるで防具や武器のような鉄で覆われている。
そんなSランクモンスターはシュバルツデーモンというらしい。
『わかってるのは名前くらいで、攻撃方法などは不明だ。ただ出会えば死しかないと言われてるみたいだな』
『まじかよ。でも、やるしかねぇな』
『ああ。問題はあの体を覆う鉄のような部分か』
『あれな、なんとなくアダマンでも厳しい気がするんだよな』
『ミハエルがそう言うならそうだろうな』
『ただ、フィーネとエルナはこのまま呼ばねぇ方がいい。守りきれる自信がねぇし、多分アレは弱いのを狙う。フィーネはなんとかなるだろうが、エルナには無理だ』
『そうだな。やるにしてもアレをフィーネたちから離さないとだめだ』
『おう、どっちにしろ逃げられねぇしな。あいつ俺らに気づいてるのに、無視して食事続けてやがる』
『完全に俺たちを格下扱いか』
『そうらしいな。んじゃルカあいつに後悔させてやろうぜ』
ミハエルが俺の方を見て二ッと笑う。
俺も笑いミハエルに答える。
『ああ、後悔させてやろう』
俺のかけれるだけの魔法をお互いにかけ、俺とミハエルは剣を抜く。
俺はレオンと戦ったときと同じ魔法をかけたので動くだけで筋肉がうめき声をあげる状態だ。
シュバルツデーモンはかつて戦ったシュタルクドラッヘよりも強い気がする。
最後に自身とミハエルにリジェネをかけ、俺たちは木陰から姿を出した。
食事をしていたシュバルツデーモンはその手を止めると、ゆっくりと立ち上がり、真っ赤に濡れた口をもぐもぐと動かしながらこちらを向いた。
その目は何を映しているのか、黒い瞳がこちらをじっと見つめている。
ドシンと尻尾が地面を穿つ。
その音が戦闘開始の合図となり、俺とミハエルとシュバルツデーモンの戦いが始まった。
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