122 転移魔法
フィーネたちの鎧が完成してから二週間が経った。
今日はミハエルの鎧が完成しているはずの日だ。
「よし。それじゃ、ミハエルの鎧をみにいくか」
「おう」
「そうね」
「楽しみです」
フィーネの皮鎧姿を見る限り、スマートでカッコイイデザインなので、きっとミハエルにもよく似合うだろう。
俺の分も早くできてほしいものだな。
楽しみにしつつ皮工房へと向かう。
工房に入ったところで奥さんが声をかけてきた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「中へどうぞ。ご案内します」
「ありがとうございます」
奥さんに案内されて工房の奥へと向かう。
「おう、きたか」
「今日は宜しくお願いします」
「ああ、もうできてるから調整するか」
「はい、お願いします」
ミハエルがグレーの皮鎧を装備し、ニルベルトさんに調整してもらっている。
「ある程度調整はできるが、お前は一年もたんかもしれんな」
「まじすか」
「お前まだ十三だろ?」
「はい」
「男だからなぁ、多分無理だぞ。女はそこまで大幅に変わらんがな、男は急にでかくなる」
ミハエルの装備した皮鎧のあちこちをいじりながらニルベルトさんがそう言った。
「まぁ、うちはアフターケアもちゃんとしてるからな、サイズが厳しくなったらまたこい。調整してやる」
「はい」
まぁさすがに鎧は服と違ってサイズに余裕をもたすことはできないからな。
シックなグレーな皮鎧を装備したミハエルは実によく似合っている。
フィーネだとスマートだったが、男が装備するとまた違った雰囲気だ。
「ほれ、どうだ? 関節部分に問題はねぇか?」
ぐるぐると腕をまわしたりしゃがんだりして確認していたミハエルが頷く。
「はい、問題ないっすね」
「よし、まぁなんか問題あったらまたこい」
「はい」
こうして俺たちは皮工房を出た。
あとは俺の分だけである。
「いいな、俺も早く着たいな」
「おう、いいぞ。動きやすいし軽いからな。ただ問題はサイズだよな」
「それだなぁ」
「ルカさ、こう、魔法でぱっと飛べたりするやつ作れねぇの?」
「ん? 飛べる?」
「そう。サイズ調整で結構頻繁にこの街にこないといけねぇだろ?」
「あー。なるほどな。それは考えてなかったな」
「試してみてくれよ」
「そうだな」
そのまま宿屋へと戻り解散となったので、俺は部屋に戻ってソファーに腰かけ、先ほどミハエルに言われた魔法を考えてみることにした。
実際俺たちはまだ成長期で皮工房には何度もくることになるわけだが、シュルプからここまでは遠い。
そうなると、もう少し気軽にここへ来れるようにしたい。
となると転移ができるといいんだよな。
これまではシュルプでしか動いてなかったが、いずれは俺たちはあちこちを巡る予定なのだ。
そうなると転移があると便利になる。
そもそも創れるのか? といえば多分だが、創れはする。
多分ではあるのだが。
とはいえ創る前にしっかりイメージしなければならない。
さすがに記憶した場所に転移は俺の記憶力勝負になるので、ゲームのように、あらかじめ設定ポイントを作り、そこを選べばそこに転移できるというのがいいな。
この場合一度その場所を訪れないといけないが、それなら問題はない。
のんびり馬車で旅をするのも楽しいのだ。
あとはそれをゲート式か接触型にするか。
まぁ、ゲート式が無難か。
ああ、これはかなりの魔力を消費するな。
普通の人ではまず無理だろう。
……うん。よし、できたな。
ちょっと試してみたいな。
設定はしないにしても一度発動してみるか。
俺はその場で転移魔法を発動してみると、ゲームのようにポンと画面が浮かび、ポイントの設定画面がでてきた。
一番上のあいてる項目を触ると、今いる場所を登録するかどうかの画面がでる。
「なるほど、想像した通りにできてるな。とりあえずいいえにしておこう」
『いいえ』を選択したあと転移魔法を解除し、登録するならどこがいいかと考える。
「街中はありえないから外になるが……。ちょっと上から見てみるか」
俺は宿屋を出て街の外へと向かう。
北門から外へでて人のいない場所で光学迷彩と飛行魔法をかけ、空中へと飛び上がった。
かなりの高度まであがったので少し寒い。
眼下に街を見渡しながらもどこがいいかと辺りを見回して目当てをつける。
街から少し離れた場所、森の中にぽっかりと開けた場所があった。
「お、あそこなんかいいかもしれないな」
そのままそこへ飛んでいく。
開けた場所には池があった。
「なるほど、池があるからここだけ開けているのか。特に危険な生物が近くにいるわけでもないし、ここがいいかもしれないな。ここから街まで歩けば大体二時間くらいか。ちょうどいいな」
再度転移魔法を発動させこの場所を登録する。
登録名はクレンベルでいいだろう。
転移魔法の登録一覧にはクレンベルの名前だけがある。
シュルプも登録しないと転移はできないな。
とりあえずはお試しで、少し離れた場所まで再度飛び、転移魔法を発動する。
目の前には黒いアーチ状のゲートが生成された。
その黒いゲートを通ると、先ほど俺が登録した場所へと通り抜けることができた。
再びゲートをくぐり戻る。
ゲートは一分ほどすると消え、跡形もない。
そのまま飛び上がり、登録したところへ向かう。
そちらも特にゲートがあったような痕跡はなく、消えている。
問題なく成功のようだ。
そこでふと、これはダンジョンにも使えるのかと思いついた。
だけど、なんとなくだがダメな気がする。
それでも一度試してみるのは悪くない。
街へ向けて森の中を歩きつつ、途中で出会ったゴブリンを殺しながら進む。
大体二時間ほどで森を抜けることができた。
距離的にも問題はないな、これだけの距離があれば簡単に人が来ることもないだろう。
そのまま歩いて北門から再び入り、今度はダンジョンへと向かう。
ダンジョンへ向かってる最中にミハエルと偶然あった。
「おう、ルカ。何してんんだ?」
「ああ、ミハエルか。どっかいくのか? 俺はこれからちょっと実験でダンジョンいくけど」
「俺は別に何もねぇよ。ただぶらついてただけだ。実験て何すんんだ?」
「あー……」
堂々と話す内容でもないので俺は耳を軽く叩き、ミハエルが頷いたので通話魔法を繋げる。
いつも通りザザっとノイズ音がして繋がった。
『んで?』
『ほら、さっきニルベルトさんとこから戻るときに、ミハエルが言っただろ? 簡単に飛べる魔法創れって』
『あー、言ったな。お? もしかしてできたのか?』
『ああ、一応な。基本は現地に行ってから登録が必要だがな』
『へー。すげぇじゃん』
『まぁな。でまぁ、ダンジョンはできるのかなと思ってその実験に今向かってんだよ』
『なるほどな。暇だしついてっていいか?』
『ああ、別にいいぞ。一応、できないだろうなってのは思うんだよな』
『無理なのか?』
『多分な。なんとなく無理な気がするんだよ。でもまぁ、試しもせずに決めつけるのもダメだからな』
『それもそーだな』
そんな会話をしつつ、俺とミハエルはダンジョン管理所へと向かい、そのままダンジョンへと潜った。
「とりあえず六十五階でいいんじゃね?」
ミハエルの言葉に俺は頷く。
「そうだな、人もいないだろうし」
六十五階へと飛び、転移魔法を発動してみる。
発動自体は問題なくできたし、登録画面もでた。
しかし、登録をしようとしても表示されずダメだった。
ゲームだったら『エラー』の文字や『ここでは登録できません』などが表示されていそうである。
「うん、やっぱり無理だな。登録ができない」
「ふぅん。なんでなんだろうな?」
「そもそもダンジョンが不思議なところだからな」
「まぁそうだな。転移柱なんかどういう構造かわかんねーしなぁ。宝箱なんかもすげぇよな」
「そうそう。ほんとダンジョンて不思議なとこだよ」
「つか、どうする?」
「せっかくダンジョンきたし、少し狩りして帰るか?」
「いいね。どうせ暇だったし」
「久しぶりにペア狩りだな」
「おう」
ミハエルは二ッと笑うと拳を向けてきたので俺も拳をぶつける。
「んじゃ行こうぜ」
「ああ」
俺たちは六十四階へとあがり、久々に二人だけの狩りをした。
もう随分と久しぶりに感じる。
あのときは俺が後衛でミハエルが前衛として分かれていたが、今は二人とも前衛だ。
いつもと同じ二人で前衛で狩りをしているのに、なんだか新鮮に感じる。
少しだけ、レオンと戦っていたときの楽しさが浮かんでくる。
フィーネやエルナがいない分きついのだが、そのきつさが逆に楽しい。
思わず笑みが浮かぶ。
戦闘中にチラリと見えたミハエルも笑みを浮かべていた。
それを見て俺の笑みも深まる。
ただ、楽しい。
かつて前世で友人たちと遊びにいってバカ騒ぎをしたのを思い出す。
楽しかったな。
そして今、そのときと同じくらいに楽しい。
生物を殺して楽しいと思うのはどうかとは思うが、殺すことが楽しいわけではない。
友達と一緒に何かをしている、そしてそれがギリギリの挑戦というのが楽しいのだ。
楽しいことばかりじゃないし、辛いこともある。
前世じゃ経験することがない人をこの手で殺すなんてこともある世界だ。
ゲームもないし、漫画やテレビなんかの娯楽もない。
それでもこの世界に生まれることができてよかった。
ミハエルたちや家族に出会えてよかった。
「楽しいな! ミハエル!」
「ああ! 楽しいな!」
俺とミハエルは夕方までただただ、暴れまわった。
フィーネたちがいないので守らなくていい分、危険な狩り方をした。
彼女たちに見られたら怒られるかもしれない、そんな狩り方だ。
だけど、楽しかった。
友達とただバカな遊びをしているときのそんな気分だった。
もう経験することはないと思っていたのに、懐かしさと嬉しさが沸き上がる。
「あー、疲れた」
「疲れたな。体もあちこち痛いし」
「俺はそーでもねぇな」
「へぇ、やっぱ鎧が違うせいか?」
「かもしんねぇ。結構攻撃当たったけど痛くねぇな」
「いいな。俺も早く欲しいな」
「おう、いいぞー」
「あ、ていうか、フィーネたちには内緒だぞ。今日の狩り方がバレたら絶対怒られるだろ」
「あー、だな。つーか、フィーネよりエルナのが怖そうだわ」
「ああ、確かに。怒ったらエルナの方が怖そうだな」
俺もミハエルも思わず苦笑する。
「また二人でこようぜ、ルカ」
「ああ、そうだな。たまにはいいな」
「でもエルナたちには秘密な」
「はは。もちろんだ。俺も怒られたくないからな」
「さて、んじゃ帰るかー?」
「そうしようか。そろそろいい時間だ。皮鎧のよさもわかったし、ちょうどよかったな」
「おう」
そうして俺とミハエルはダンジョンを出て宿屋へと戻った。
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