121 懐かしのモンスター
宿屋での朝食を終えてダンジョンへとやってきた。
ここ最近は五十五階から六十階の間を適当に往復して狩りしていたが、そろそろ六十五階を目指すことにした。
ちなみにだが、Aランクの彼らは基本狩場は五十階だったらしい。
俺たちが狩りをしながら五十五階を目指していたときに、五十一階への階段に向かう途中にいたので出会ったのだ。
他にルートがあれば人がいることには気づいていたので避けたかったのだが、そのルート以外では五十一階にいくことができなかったので仕方なかった。
なので仕方なくそのルートを通ったのだが、俺たちを見た彼らは目を見開いて驚いていた。
俺は軽く会釈しつつ通ることを告げてそのまま通り過ぎ、AランクなのにBランク相当の狩場にいるんだなと驚きはしたのだが、どうやら鉱山ダンジョンと素材ダンジョンでは違ったらしい。
素材ダンジョンではどうも五十階からがAランク相当になるのだそうだ。
確かにB相当にしては少し強いなと思いはしたが、まさかAランク相当とは思わなかった。
初めて精算所で清算したときのおっさんの驚き方の理由が後々そのおっさん自身に五十階からがAランク相当だと教えてもらってわかったのだ。
ただ、シュラハトならぬるいだろうなと思っていたら、喋り好きなおっさんは、以前シュラハトがここで素材集めをしていたときはもっと深くまで潜っていたらしく、そのおかげで素材に詳しくなれたんだと言っていた。
それを聞いた俺は、そうだろうなと普通に納得した。
『シュラハト』にはなんとなくライバル意識を持ってしまうのだが、それでも少しだけ誇らしくも思ってしまったりもする。
だけど、先を歩いてて欲しいと思うのに、追い越したいとも思ってしまう。
なんだか不思議な感情だ。
六十階の道を歩きながらそんなことを考えていると、最初の敵グループに出会った。
ここからはどうやら敵の数は増えるらしく、新しい敵ではあるが最初から六匹体制である。
種類としては一種類のようで、かつて俺たちのCランク試験で廃鉱山にいたヴェルクフェだった。
ただ、あのときとは少しだけ見た目や大きさが違う。
廃鉱山にいたヴェルクフェよりも大きく、全長百五十センチほどだろうか。
全身が岩のような肌なのは同じだが、前に見たのは緑色に光る線が所々に走っていたのだが、このヴェルクフェは赤い線だ。
そういった違いはあるが、それ以外は以前に見た通りだろう。
二足歩行で、手は四本生えており上側の二本が長く、手足の爪は鉤爪状になっている。
目は大きなアーモンド型で、吊り目になっていて白目はない。
耳は魚のヒレのような形をしていて、口は円形の丸い形をしている。
あのときとは違い、とくに岩を食べたりはせずにただうろうろと歩き回っているだけだ。
相変わらず気持ち悪いとしか言いようがない。
「つーかさ、あれに山妖精って名付けたやつどういう意図があってつけたんだろうな」
「そうだな。一般的に妖精のイメージは可愛いからな」
「妖精と呼ぶにはちょっと難しいわね」
「可愛くないです」
ちなみに攻撃方法は基本的にはあの廃鉱山にいたのと同じ近接攻撃ではあるが、あちらが口から石を吐き出す攻撃だったのに対して、このヴェルクフェはファイアボールを口から吹き飛ばしてくるらしい。
ただ、速度は普通のファイアボールよりも少し速くサイズも小さいようだ。
「なるほどな。ま、とりあえずやってみっか。天井にあがりそうだから、あがったやつ頼んでいいか?」
「ああ、あがったやつは魔法で落とすわ」
「おう、頼んだ」
ミハエルが走り出したところで俺も走り出す。
相変わらず奇妙な鳴き声をあげている。
ドアが軋むようなギィィィという鳴き声をあげて口から火の玉を吐き出した。
俺もミハエルも火の玉を切り裂いてヴェルクフェへと攻撃する。
数匹が天井に上がっていたので魔法を撃ち込み下へ落としておく。
落ちてくる最中にミハエルが突き刺して止めを刺していた。
戦ってみてわかったのは、以前倒したものよりも数段動きが速いということだろうか。
連携もそれなりにしてくるので少し厄介ではある。
基本的には天井に登られても、俺も落とすし、フィーネたちも落としてくれるので速さと多少の連携以外はそれほどでもない。
相変わらず気持ちの悪いヴェルクフェを狩りつつ、ダンジョンで夜を過ごしながらも俺たちは六十五階を目指した。
ヴェルクフェは六十二階まで出現し、最終的には十匹のグループになった。
ここまでくるとさすがに動きは速いし連携してくるしでかなり面倒ではあった。
何よりこちらのヘイトを無視して後衛の方にいこうとする個体がいたのでそれを阻止するのが忙しかった。
基本的にミハエルに暴れてもらい、俺は後衛にいこうとする個体を阻止するという動きになった。
ただこの役割にしたら結構楽にはなったので良かったとは思う。
まぁ、代わりにミハエルが随分と忙しそうではあったけども。
六十三階へ下り、最初の敵グループを見つけた。
レプティールフント。
数は六匹、見た目はコボルトに近いが毛はなく、皮膚の質感は爬虫類に近い。
尻尾はトカゲのような尻尾をしている。
頭部には鉄の兜をかぶり、鉄の胸当てを装備していていて、手には鉄の鈍器や弓を装備している。
装備自体はそこまでいい物ではないようだ。
ただ、動きが素早く、連携力が高いらしい。
連携されるのは非常に厄介だ。
「とりあえずヴェルクフェのときと同じ感じでやってみるか」
「おう、ほんじゃ俺は突っ込むわ」
「私は弓を狙うわね」
「サポート頑張ります!」
「ああ、頼んだ」
ミハエルが走り出し、俺は少ししてから様子を伺いつつ戦闘に参加する。
ヴェルクフェのときと違い、こちらは人間に近い連携をしてくれるようだ。
基本的に弓が後衛を狙い、鈍器を持ったやつが前衛を狙ってくるようだ。
正直こういう動きの方が楽ではある。
ヴェルクフェはランダムで後衛に向かってくるので実に面倒だったのだ。
何回か様子見をしたが後衛を攻撃するのは弓だけのようだ。
これなら俺が弓を優先して倒せばそう大変でもなくなる。
次の敵から俺が弓を優先して倒す作戦に切り替えたところ、ヴェルクフェのときよりも楽に倒せるようになった。
これなら数が増えても問題はないだろう。
数日をかけて六十五階まで到達し、俺たちはダンジョンを出た。
ダンジョンから出た俺たちはギルドへ清算に向かった。
ギルドにはいると、ちょうど清算を終えたAランクの彼らがいた。
俺たちを見た彼らは嫌そうな顔をしてすぐに俺たちから視線を逸らし、足早にギルドを出ていった。
「随分嫌われてるようだな、俺たち」
苦笑しつつそう言うと、ミハエルが答えた。
「ま、自分たちより下に見てたやつらが自分たちより上ってのがまぁ気にいらねぇんだろうな。んでも突っかかってこねぇだけいいだろ」
「まぁな」
清算を終え、ギルドを出ようとしたところで受付嬢さんに声をかけられた。
「イストワールの皆さま、少し宜しいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「ギルドマスターがお話しがあるそうで、お時間ございますか?」
ハインさんから話しというのが何かはわからないが、別に問題はないので了承した。
受付嬢さんに案内され、ギルドマスターの部屋へと通された。
俺たちが部屋へ入ると、受付嬢さんは頭を下げてそのまま部屋を出ていった。
「やあ。悪いね、とりあえずかけてくれ」
「失礼します」
執務机にいたハインさんに促され、俺たちはソファーに腰かけた。
ハインさんが執務机からこちらへやってきて腰かける。
「さて、呼びだしてすまないね」
「いえ、それは問題ありませんが、なんでしょう?」
「……そういえば、君たちは数日いなかったのはダンジョンに潜っていたのかい?」
ハインさんがあからさまに話題を変えることに疑問を抱きつつも答える。
「ええ。そうですが……」
「そうか。今何階まで潜ってるのか聞いても?」
「はい。今は六十五階です」
「はは。すごいね、本当に。アーロンが自慢していたのを実感するよ。Aランク上位の狩場に行ってるわけか。気位の高いうちに常駐してるAランクも少しは奮起してくれるといいんだがね」
そう言って苦笑するハインさんに俺は何とも言えず黙っているしかできない。
そんな俺を見てからハインさんは一つ溜め息をついてから話し始めた。
「別に君たちをどうこうする気はないんだがね、聞いておきたいことがある」
ハインさんの言葉になんとなく俺は予想がついた。
「はい」
「まぁ、もう分かっていると思うが、以前君たちに絡んだCランクがいただろう?」
「ええ」
「数日前、北門から出ていったのを最後に行方が知れなくなった」
「そうですか」
「彼らが北門を出る少し前、君たち二人が北門を出た記録が残ってる」
「……」
「ああ、先にも言ったが、別に君たちをどうこうする気はない。ただ、事実を知っておきたい。あいつらは元冒険者とはいえ、俺がCランク試験の試験官をしていてね。当時からいつかこうなるんじゃないかと思うような態度ではあったが、それでも俺が面倒をみたやつらだからね」
「そうですか……」
「あいつらはもう死んでいるんだね?」
「はい。俺とミハエルで殺しました」
「そうか……。どうしてそうなったか聞いてもいいかい?」
ハインさんの言葉に俺は頷き、事のあらましを説明した。
「――なるほどな。どこまであいつらは愚かなんだろうな。何度も俺は指導したんだが……。バカは死なないと学ばんのかもしれんな……」
少しだけ寂しそうに苦笑する。
「うん、ルカ君ありがとう。ミハエル君も、すまなかったね。バカのために手を汚させて」
「いえ、俺たちこそ、すみません。もっと方法があったかもしれません」
「いや、これしかなかったと、俺は思うよ。だけど、若い未来ある君たちに手をかけさせたことが俺の不始末ではあるな。それこそ俺が情けなどかけず殺しておけばよかったよ……」
そう呟いて、ハインさんは自分の手を見つめていたが、その手をぎゅっと握ると俺たちをみた。
「いや、すまないね。今日は。ありがとう」
「いえ」
「まぁ、何かあったら気軽に言ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
そうして俺たちはギルドマスターの部屋を出た。
最後尾にいた俺がギルドマスターの部屋の扉を閉めるときにチラリと見たハインさんは、再び自分の手を見つめ寂しそうにしていた。
彼らを失って寂しいのか、導けなくて寂しいのか、それとも、己で最期の引導を渡せぬことへの寂しさか。
何かは分からないが、全てかもしれない。
ハインさんの胸の内は俺には到底わかりはしないが、あのようないい人に指導してもらえていたのに、彼らは本当に残念であったとしか言いようがない。
何とも言えない寂しさと情けなさを心に渦巻かせながら俺たちはギルドを出た。
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修正
・ただ、速度はファイアボールより速いようだ。
→ただ、速度は普通のファイアボールよりも少し速くサイズも小さいようだ。
分かりにくかったので修正しました。




