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『クラスでほとんど誰とも話さない俺の、人生で初めてできた友達は――クラスで一番人気の女子だった。』  作者: 湊


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44/45

第44話 六人で過ごす日曜日と、海まであと三日。


 夏休み九日目。


 日曜日。


 午前九時十二分。


「…………」


 目が覚める。


 カーテン。


 隙間から差し込む日差し。


 蝉の声。


 そして。


 スマホ。


 震える。


「…………」


 画面を見る。


 由香。


『由香:おはよう、湊!』


『由香:今日は六人で会えるね!』


『由香:楽しみ!』


「…………」


 思わず笑う。


 昨日。


 デートしたばかり。


 映画。


 昼食。


 買い物。


 そして。


 帰り際。


 明日も会えるね。


 そう言って。


 由香は嬉しそうに笑っていた。


 その明日。


 今日がもう来てしまった。


『湊:おはよう』


 送信。


 すぐに既読。


『由香:起きた!』


『湊:今起きた』


『由香:あはは!』


『由香:今日は十四時集合だよ!』


『湊:覚えてる』


『由香:よかった!』


「…………」


 まるで。


 俺が忘れると思っているみたいだ。


 まあ。


 昔の俺だったら。


 日曜日に友達と集まる予定なんて。


 そもそもなかったけど。


『由香:ねえ湊』


『湊:何?』


『由香:今日、ちょっと早く会えない?』


「…………」


 早く。


 集合は十四時。


『湊:何時?』


『由香:十三時半くらい!』


『湊:いいよ』


『由香:やった!』


『由香:じゃあ駅前で待ってるね!』


「…………」


 スマホを置く。


 天井。


 見上げる。


 昨日も会った。


 今日も会う。


 それなのに。


 由香は。


 まだ会いたいと思ってくれる。


 ……俺もだけど。


     ◇


 午前十時。


 自分の部屋。


 参考書。


 開く。


 数学。


 問題集。


「…………」


 今日は。


 午後から予定がある。


 だから。


 午前中。


 勉強。


 集中。


 一問目。


 二問目。


 三問目。


 順調。


 そのとき。


 スマホ。


 震える。


「…………」


 グループチャット。


『放課後』


『陽斗:お前ら!!』


『陽斗:今日の会議の議題を発表する!!』


『莉央:また会議なの?』


『玲司:昨日も言ったが、現地で決めればいいことが多いぞ』


『陽斗:甘いな玲司!』


『玲司:何が』


『陽斗:準備が大事なんだよ!』


『琴葉:確かに持ち物は確認しておきたいね』


『陽斗:そう!!』


『陽斗:琴葉は分かってる!!』


『莉央:琴葉を巻き込まないで』


「…………」


 笑う。


 陽斗。


 今日も元気。


 そのあと。


『玲司:海水浴場の候補は確認したか?』


『陽斗:もちろん!』


『玲司:どこがよかった?』


『陽斗:…………』


『莉央:見てないでしょ』


『陽斗:今から見る!!』


「…………」


 予想通り。


 玲司。


 大変そうだ。


 俺も。


 候補を確認する。


 電車で行ける海水浴場。


 駅からの距離。


 更衣室。


 シャワー。


 売店。


 遊泳区域。


 玲司。


 ちゃんと調べてくれている。


「…………」


 こういうところ。


 本当に頼りになる。


『湊:玲司が送ってくれた一番目の場所、よさそう』


『玲司:俺もそこが第一候補』


『琴葉:私もそこがいいと思う』


『莉央:じゃあそこにしよっか』


『由香:賛成!』


『陽斗:俺も!!』


『玲司:お前は今確認したんだろ』


『陽斗:細かいことは気にするな!』


「…………」


 場所。


 決定。


 案外。


 早かった。


 ……陽斗が余計なことを言わなければ。


     ◇


 午後一時二十分。


 駅前。


 待ち合わせ場所。


「…………」


 少し早い。


 由香との約束。


 十三時半。


 あと十分。


 スマホ。


 確認。


『由香:もうすぐ着く!』


『湊:俺も着いた』


『由香:早い!』


「…………」


 いつものやり取り。


 そして。


 少しして。


「湊ー!」


 声。


 振り返る。


 由香。


 小走りで近づいてくる。


 白い半袖のトップス。


 淡いブルーのロングスカート。


 小さなショルダーバッグ。


 今日は。


 髪をゆるくまとめている。


「おはよう!」


「おはよう」


「待った?」


「今来たところ」


「本当?」


「うん」


「…………」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


「よかった!」


「…………」


 昨日も思ったけど。


 私服の由香。


 まだ。


 見慣れない。


 学校では。


 いつも制服。


 それが当たり前だった。


 でも。


 夏休み。


 会うたび。


 違う服。


 違う髪型。


 そのたび。


 少しだけ。


 どきっとする。


「湊?」


「何?」


「どうしたの?」


「……いや」


「…………」


 由香。


 顔を覗き込む。


「また何か考えてた?」


「……今日も似合ってるなって」


「…………」


 由香。


 固まる。


 そして。


 顔。


 赤くなる。


「……ありがと」


「うん」


「…………」


 少しの沈黙。


 由香。


 小さく笑う。


「湊もかっこいいよ」


「…………」


 今度は。


 俺が黙る。


「ふふ」


 由香。


 楽しそう。


「今日もお返し!」


「…………」


 最近。


 このやり取り。


 定番になりつつある。


     ◇


「ねえ、湊」


「何?」


「ちょっと歩こ!」


「いいよ」


 集合まで。


 まだ三十分。


 駅前。


 商店街。


 並んで歩く。


 日曜日。


 人が多い。


 家族連れ。


 学生。


 買い物客。


「…………」


 由香。


 俺の隣。


 少し近い。


 そして。


 そっと。


 手を差し出す。


「…………」


 俺。


 その手を見る。


 由香。


 少し照れたように笑う。


「……繋いでもいい?」


「うん」


 手。


 握る。


 温かい。


 柔らかい。


 由香。


 嬉しそうに笑う。


「…………」


 昨日。


 映画館でも繋いだ。


 でも。


 こうして。


 普通に街を歩きながら。


 手を繋ぐ。


 まだ。


 少し恥ずかしい。


 それでも。


 離したいとは思わなかった。


「湊」


「何?」


「今日も会えて嬉しい」


「……昨日も会っただろ」


「うん!」


「…………」


 由香。


 笑う。


「でも、今日も嬉しいの!」


「…………」


 俺も。


 同じだった。


     ◇


 午後一時五十五分。


 駅前。


 集合場所に戻る。


 すると。


「おーい!!」


 陽斗。


 遠くから。


 手を振る。


 その隣。


 玲司。


「お前ら早いな!」


「陽斗もな」


「俺はいつも早いぞ!」


「前回は最後の方だったけどな」


 玲司。


 冷静。


「…………」


 陽斗。


 少し黙る。


「……細かいことは気にするな!」


「…………」


 俺。


 笑う。


 すると。


 陽斗。


 俺たちの手を見る。


「…………」


 視線。


 下。


 俺の手。


 由香の手。


「おお?」


「…………」


 由香。


 気づく。


 顔。


 赤くなる。


 でも。


 手。


 離さない。


「湊!」


「何?」


「お前ら、もう普通に手繋ぐんだな!」


「…………」


 俺。


 少し困る。


「……まあ」


「うおお!」


「うるさい」


 玲司。


 ため息。


「恋人同士なんだから普通だろ」


「いや、分かるけどさ!」


「…………」


 陽斗。


 嬉しそうに笑う。


「何か、いいな!」


「…………」


 その言葉。


 少し意外だった。


 からかわれると思っていた。


 でも。


 陽斗。


 本当に嬉しそうだった。


「……ありがとう」


「おう!」


 陽斗。


 俺の肩を叩く。


「幸せになれよ!」


「…………」


 大げさ。


 まだ。


 付き合い始めたばかりなのに。


 でも。


 嬉しかった。


     ◇


「ちょっとー!」


 声。


 振り返る。


 莉央。


 琴葉。


 到着。


「陽斗君、声大きい!」


「おお! 来たか!」


「来たかじゃないよ!」


 莉央。


 呆れる。


 琴葉。


 小さく笑う。


「みんな早いね」


「うん」


 由香。


 頷く。


 そして。


 莉央。


 俺たちを見る。


「…………」


 視線。


 手。


「…………」


 にやり。


「へえー?」


「莉央!」


 由香。


 すぐ反応。


「まだ何も言ってないよ?」


「絶対何か言おうとした!」


「ふふ」


 莉央。


 笑う。


「仲良しだねー」


「…………」


 由香。


 顔。


 赤い。


 俺も。


 多分。


 同じ。


「よし!」


 陽斗。


 両手を叩く。


「全員揃ったな!」


「うん」


「それじゃあ!」


 陽斗。


 大きく息を吸う。


「第二回! 六人思い出作り会議を――」


「早く入ろう」


 玲司。


 遮る。


「…………」


 全員。


 笑う。


     ◇


 午後二時十分。


 ファミレス。


 前回と同じ店。


 六人掛け。


 テーブル。


 陽斗。


 スマホを置く。


「よし! 今日こそちゃんと会議するぞ!」


「前回もちゃんとしてたよ」


 琴葉。


 笑う。


「そうだよね!」


 由香。


 頷く。


「海も決まったし!」


「…………」


 玲司。


 陽斗を見る。


「今日は何を決めるんだ?」


「まずは持ち物!」


「それなら必要だな」


「だろ!」


 陽斗。


 得意そう。


 スマホ。


 メモを開く。


「水着!」


「うん」


「タオル!」


「うん」


「サンダル!」


「うん」


「浮き輪!」


「…………」


 玲司。


 少し考える。


「それは必要な人だけでいいだろ」


「俺は持っていく!」


「分かった」


「あと!」


 陽斗。


 勢いよく続ける。


「ビーチボール!」


「いいね!」


 莉央。


 笑う。


「六人で遊べそう!」


「だろ!」


 琴葉。


 手を挙げる。


「日焼け止めも忘れないようにしないと」


「確かに!」


 由香。


 頷く。


「あと帽子!」


「飲み物もな」


 玲司。


「現地でも買えるだろうけど、最初から持っておいた方がいい」


「うん」


 俺。


 頷く。


 そして。


 玲司。


 スマホを操作する。


「あと、海水浴場の設備は確認した」


「おお!」


 陽斗。


「更衣室、シャワー、売店はある。ただ、混む可能性はあるから早めに行った方がいい」


「じゃあ朝集合?」


 莉央。


「そうだな」


 玲司。


「九時くらいには現地に着きたい」


「…………」


 朝。


 早い。


 でも。


 夏休み。


 海。


 それくらい。


 普通なのかもしれない。


「湊、大丈夫?」


 由香。


 俺を見る。


「うん」


「よかった!」


 由香。


 笑う。


「私、早起き頑張る!」


「…………」


 普段。


 由香。


 朝が少し弱い。


 以前。


 ゲームで夜更かしした翌日。


 眠そうにしていたこともある。


「寝坊するなよ」


「しないよ!」


「本当?」


「…………」


 由香。


 少し考える。


「……多分!」


「…………」


 俺。


 笑う。


「じゃあ朝連絡する」


「本当!?」


「うん」


「やった!」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


 その横。


 莉央。


 にやり。


「彼氏が起こしてくれるんだー?」


「莉央!」


「いいなー!」


「もう!」


「…………」


 いつもの光景。


 俺。


 少し笑う。


     ◇


 午後二時四十分。


 会議。


 続く。


「じゃあ海で何する?」


 陽斗。


「泳ぐ!」


 莉央。


「ビーチボール!」


 由香。


「砂浜で遊ぶのも楽しそう」


 琴葉。


「写真も撮りたい!」


 莉央。


「いいね!」


 由香。


 頷く。


「六人でいっぱい撮ろう!」


「…………」


 写真。


 そういえば。


 修学旅行。


 六人で撮った写真。


 今もスマホに残っている。


 あのとき。


 初めて。


 自分から写真を撮りたいと思った。


 今度は海。


 六人。


 また新しい思い出。


「湊?」


 由香。


 俺を見る。


「写真、いっぱい撮ろうね!」


「うん」


「二人でも!」


「…………」


 少し。


 照れる。


「……うん」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


 すると。


 陽斗。


 身を乗り出す。


「俺とも撮れよ!」


「…………」


 俺。


 陽斗を見る。


「もちろん」


「おお!」


 陽斗。


 嬉しそう。


「約束な!」


「うん」


 玲司。


 小さく笑う。


「俺も一枚くらいは写るか」


「一枚だけ!?」


 莉央。


 驚く。


「もっと撮ろうよ!」


「…………」


 玲司。


 少し困った顔。


「……分かった」


「やった!」


 琴葉。


 笑う。


「みんなで撮ろうね」


「…………」


 六人。


 また笑った。


     ◇


 午後三時。


 注文したデザート到着。


 由香。


 チョコレートパフェ。


 莉央。


 いちごパフェ。


 琴葉。


 チーズケーキ。


 陽斗。


 大きなパンケーキ。


 玲司。


 アイスコーヒー。


 俺。


 バニラアイス。


「いただきます!」


 由香。


 嬉しそう。


「…………」


 会議。


 また食事会になった。


 まあ。


 予想通り。


「ねえ、由香」


 莉央。


 パフェを食べながら。


「水着、結局どれにしたの?」


「…………」


 由香。


 スプーン。


 止まる。


「……内緒!」


「えー!」


 莉央。


 笑う。


「私たち一緒に買いに行ったじゃん!」


「そうだけど!」


「湊君に見せるまで秘密なんでしょ?」


「…………」


 由香。


 顔。


 赤くなる。


「莉央!」


「ふふ」


 莉央。


 楽しそう。


「可愛いの選んでたもんねー」


「…………」


 俺。


 アイスを食べる。


 なるべく普通に。


 聞いていないふり。


 でも。


 耳が勝手に反応する。


「湊君」


 莉央。


 俺を見る。


「楽しみ?」


「…………」


 逃げられない。


「……まあ」


「まあ?」


「……楽しみだよ」


「…………」


 由香。


 固まる。


 そして。


 顔。


 真っ赤。


「……湊」


「何?」


「…………」


 由香。


 小さな声。


「……ありがと」


「…………」


 何で。


 お礼言われたんだろう。


 でも。


 由香。


 嬉しそうだった。


 その横。


 陽斗。


 大きく頷く。


「いやー! 青春だな!」


「お前も高校生だろ」


 玲司。


 冷静。


「そうだった!」


「…………」


 全員。


 笑う。


     ◇


 午後三時半。


 会議。


 ようやく終了。


 決まったこと。


 海水浴場。


 集合時間。


 持ち物。


 当日の大まかな予定。


 そして。


 天気が悪い場合。


 延期。


「よし!」


 陽斗。


 スマホを閉じる。


「完璧!」


「今回はちゃんと決まったね」


 莉央。


 笑う。


「だろ!」


「玲司君のおかげだけど」


「…………」


 陽斗。


 少し黙る。


「……それは認める!」


「珍しいな」


 玲司。


「…………」


 また笑う。


 すると。


 琴葉。


 窓の外を見る。


「まだ時間あるね」


「そうだね」


 由香。


 頷く。


「このあとどうする?」


 莉央。


 少し考える。


「せっかく六人揃ってるし、何かしたいよね」


「…………」


 陽斗。


 突然。


 立ち上がる。


「よし!」


「何?」


「ゲームセンター行こうぜ!」


「…………」


 俺。


 少し笑う。


 ゲームセンター。


 陽斗。


 好きだな。


「いいね!」


 由香。


 即答。


「私も行きたい!」


 莉央。


「楽しそう」


 琴葉。


 頷く。


 玲司。


 ため息。


「……まあ、いいか」


「決まり!」


 陽斗。


 嬉しそうに笑う。


     ◇


 午後四時。


 ゲームセンター。


 店内。


 音と光。


 人が多い。


「うおお!」


 陽斗。


 テンション。


 高い。


「まず何する!?」


「落ち着いて」


 莉央。


 笑う。


「…………」


 由香。


 俺の隣。


「湊」


「何?」


「今日は何で勝負する?」


「…………」


 勝負。


 前回。


 リズムゲーム。


 五回。


 俺。


 三勝。


 由香。


 二勝。


「またリズムゲーム?」


「うん!」


 由香。


 笑う。


「リベンジ!」


「…………」


 そういえば。


 約束していた。


 次は勝つ。


 そう言っていた。


「いいよ」


「やった!」


 由香。


 嬉しそう。


 すると。


 陽斗。


 割り込んでくる。


「俺もやる!」


「…………」


 玲司。


 小さく笑う。


「お前、前にボロ負けしてなかったか?」


「今回は違う!」


「何が?」


「練習した!」


「…………」


 俺。


 陽斗を見る。


「本当?」


「……動画見た!」


「…………」


 練習してない。


 全員。


 笑う。


     ◇


 リズムゲーム。


 一回戦。


 陽斗。


 俺。


 対戦。


「いくぞ湊!」


「うん」


 曲。


 開始。


 画面。


 流れるノーツ。


 陽斗。


 必死。


 俺。


 集中。


 結果。


 俺。


 勝利。


「うわああ!」


 陽斗。


 頭を抱える。


「何でだよ!」


「…………」


 玲司。


 笑う。


「動画を見るだけじゃ上手くならないだろ」


「くそー!」


 莉央。


 笑う。


「陽斗君、最後めちゃくちゃだったよ!」


「分かってる!」


「…………」


 由香。


 俺を見る。


「次、私!」


「うん」


 二回戦。


 由香。


 俺。


 対戦。


「今日は負けないからね!」


「俺も」


 曲。


 開始。


 難易度。


 少し高い。


 由香。


 真剣。


 俺も集中。


 結果。


 僅差。


 由香。


 勝利。


「やったー!!」


 由香。


 両手を上げる。


「…………」


 俺。


 画面を見る。


 負けた。


 普通に。


「湊!」


「何?」


「勝った!」


「うん」


「ふふ!」


 由香。


 嬉しそう。


「リベンジ成功!」


「…………」


 悔しい。


 少し。


 でも。


 由香。


 本当に嬉しそう。


 それを見ると。


 まあいいかと思ってしまう。


「朝倉君、顔緩んでるよ?」


 莉央。


 にやり。


「…………」


 俺。


 顔を戻す。


「……そんなことない」


「あるある!」


「…………」


 由香。


 俺を見る。


「湊?」


「何?」


「もう一回やる?」


「…………」


 俺。


 少し笑う。


「もちろん」


「…………!」


 由香。


 嬉しそうに笑った。


     ◇


 午後四時四十分。


 ゲームセンター。


 クレーンゲーム。


「…………」


 琴葉。


 ぬいぐるみを見つめている。


 小さな。


 白いウサギ。


「可愛いね」


 由香。


「うん」


 琴葉。


 頷く。


「でも、難しそう」


「…………」


 陽斗。


 前に出る。


「任せろ!」


「え?」


「俺が取ってやる!」


「…………」


 玲司。


 小さくため息。


「大丈夫か?」


「余裕!」


 陽斗。


 百円。


 投入。


 アーム。


 動く。


 降りる。


 掴む。


 少し持ち上がる。


 落ちる。


「…………」


 陽斗。


 固まる。


「……惜しい!」


「そうかな?」


 莉央。


 笑う。


「もう一回!」


 百円。


 投入。


 結果。


 失敗。


 三回目。


 失敗。


 四回目。


 失敗。


「…………」


 玲司。


 陽斗の肩を叩く。


「そろそろやめとけ」


「いや! あと一回!」


「…………」


 俺。


 景品を見る。


 位置。


 少しずれている。


 あと一回。


 上手くいけば。


 取れそう。


「陽斗」


「何?」


「少し右を狙った方がいいと思う」


「右?」


「うん」


「よし!」


 陽斗。


 アームを動かす。


 右に少し。


 降下。


 掴む。


 持ち上がる。


 そして。


 落下口。


「…………」


 ころん。


 ぬいぐるみが落ちる。


「おおお!!」


 陽斗。


 叫ぶ。


「取れた!!」


「すごい!」


 琴葉。


 驚く。


「やったじゃん!」


 莉央。


 笑う。


 陽斗。


 景品を取り出す。


 そして。


 琴葉に差し出す。


「ほら!」


「え?」


「欲しかったんだろ?」


「…………」


 琴葉。


 目を丸くする。


「……いいの?」


「もちろん!」


「…………」


 琴葉。


 少し照れたように笑う。


「ありがとう、橘君」


「おう!」


 陽斗。


 嬉しそう。


「…………」


 俺。


 その光景を見る。


 何だかいいな。


 そう思った。


 すると。


 由香。


 俺の袖を引く。


「湊」


「何?」


「…………」


 由香。


 小さく笑う。


「一昨日の猫、思い出した」


「…………」


 花火大会。


 射的。


 猫のぬいぐるみ。


 俺が取った。


 由香。


 今も大切にしてくれている。


「まだ持ってる?」


「もちろん!」


 由香。


 即答。


「ベッドのところに置いてる!」


「…………」


 嬉しい。


 素直に。


「そっか」


「うん!」


 由香。


 笑う。


「毎日見てるよ」


「…………」


 少し。


 照れる。


 でも。


 嬉しかった。


     ◇


 午後五時十分。


 ゲームセンターを出る。


 夕方。


 日差し。


 少し弱くなっている。


「いやー! 楽しかった!」


 陽斗。


 大きく伸びをする。


「負けてばっかりだったけどね」


 莉央。


 笑う。


「最後に取っただろ!」


「そうだね」


 琴葉。


 嬉しそうに笑う。


 手には。


 白いウサギのぬいぐるみ。


「ありがとう、橘君」


「おう!」


 陽斗。


 少し照れたように笑う。


「…………」


 玲司。


 俺の隣に来る。


「湊」


「何?」


「海、楽しみだな」


「うん」


「…………」


 玲司。


 少し笑う。


「六人でこういうことするの、何だか当たり前になったな」


「…………」


 当たり前。


 その言葉。


 少しだけ。


 胸に残る。


 昔。


 俺には。


 友達がいなかった。


 放課後。


 一人。


 休日。


 一人。


 夏休み。


 一人。


 それが。


 当たり前だった。


 でも。


 今は違う。


 六人で集まる。


 遊ぶ。


 笑う。


 次の予定を決める。


 それが。


 当たり前になっている。


「……そうだな」


 俺。


 小さく笑う。


「本当に」


 玲司。


 頷く。


「いいことだな」


「うん」


     ◇


 午後五時半。


 駅前。


 解散。


「じゃあ水曜日!」


 陽斗。


 手を振る。


「寝坊するなよ!」


 玲司。


「お前こそ!」


「…………」


 莉央。


 笑う。


「じゃあまたね!」


「またね」


 琴葉。


 手を振る。


 四人。


 それぞれ帰っていく。


 残ったのは。


 俺と由香。


「…………」


 由香。


 俺を見る。


「湊」


「何?」


「今日も楽しかったね」


「うん」


「…………」


 少しの沈黙。


 由香。


 笑う。


「六人でいると、ずっと笑ってる気がする」


「そうだな」


「…………」


 由香。


 俺の手を握る。


「湊」


「うん?」


「高校最後の夏休み、いっぱい思い出作ろうね」


「…………」


 何度も。


 聞いた言葉。


 でも。


 そのたび。


 嬉しい。


「うん」


 俺。


 握り返す。


「絶対」


 由香。


 嬉しそうに笑った。


     ◇


 午後九時。


 自分の部屋。


 スマホ。


 震える。


 グループチャット。


『放課後』


『陽斗:海まであと三日!!』


『莉央:カウントダウン好きだね』


『琴葉:楽しみだね』


『玲司:天気予報は今のところ問題なさそう』


『由香:やったー!』


『陽斗:全員遅刻するなよ!!』


『玲司:お前が一番心配だ』


『陽斗:何で!?』


「…………」


 笑う。


 そして。


 個人チャット。


 由香。


『由香:湊!』


『湊:何?』


『由香:今日もありがとう!』


『湊:こちらこそ』


『由香:楽しかった!』


『湊:うん』


『由香:ねえ』


『湊:何?』


『由香:水曜日、楽しみにしててね』


「…………」


 また。


 水着の話だろうか。


『湊:楽しみにしてる』


『由香:本当?』


『湊:うん』


『由香:…………』


『由香:可愛いって思ってくれるかな』


「…………」


 画面。


 見つめる。


 少し考える。


 そして。


 返信。


『湊:由香なら何着ても可愛いと思う』


 送信。


 数秒。


『由香:…………』


『由香:もう!!』


『湊:何?』


『由香:そういうこと言うのずるい!!』


「…………」


 思わず笑う。


 また。


 ずるい。


『湊:本当のことだけど』


『由香:…………』


『由香:大好き!』


「…………」


 俺。


 小さく笑う。


『湊:俺も大好き』


 送信。


 すぐに既読。


『由香:…………』


『由香:水曜日、いっぱい一緒に遊ぼうね!』


『湊:約束』


『由香:約束!』


「…………」


 スマホ。


 置く。


 ベッド。


 横になる。


 天井。


 見上げる。


 海まで。


 あと三日。


 六人で。


 初めての海。


 由香と。


 初めての海。


 そして。


 付き合ってから。


 初めての夏。


「…………」


 楽しみ。


 それだけじゃない。


 少し。


 緊張もする。


 でも。


 きっと。


 楽しい一日になる。


 そう思える。


 今の俺には。


 一緒に笑ってくれる友達がいる。


 そして。


 大好きな彼女がいる。


 高校最後の夏休み。


 まだ始まったばかり。


 でも。


 もう。


 忘れられない思い出が。


 たくさん増えている。


「…………」


 水曜日。


 早く来ないかな。


 そんなことを考えながら。


 目を閉じる。


 ……ちなみに。


 その夜。


 なかなか眠れなかった。


 原因は。


 多分。


 由香の水着。


 ……いや。


 絶対。


 それだけじゃない。


 六人で海に行く。


 そのことが。


 本当に。


 楽しみだった。


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