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『クラスでほとんど誰とも話さない俺の、人生で初めてできた友達は――クラスで一番人気の女子だった。』  作者: 湊


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43/45

第43話 彼女との約束と、友達との約束。


 夏休み七日目。


 金曜日。


 午前八時十五分。


「…………」


 暑い。


 カーテンの隙間。


 差し込む日差し。


 蝉の声。


 そして。


 スマホ。


 震える。


「…………」


 最近。


 目覚まし時計より。


 スマホの通知で起きることが多い。


 画面を見る。


 由香。


『由香:おはよう、湊!』


『由香:今日も暑いね!』


『由香:ちゃんと起きてる?』


「…………」


 起きた。


 今。


『湊:おはよう』


 送信。


 すぐに既読。


『由香:起きてた!』


『湊:今起きた』


『由香:あはは!』


『由香:おはよう!』


「…………」


 さっきも言われた。


 まあ。


 いいか。


『由香:明日楽しみだね!』


『湊:うん』


『由香:どこ行こうか?』


「…………」


 明日。


 土曜日。


 由香と会う約束。


 水曜日。


 図書館で勉強した帰り。


 次は土曜日に会おうと決めた。


 ただ。


 行き先。


 まだ決まっていない。


『湊:由香は行きたいところある?』


『由香:うーん』


『由香:湊と一緒ならどこでもいい!』


「…………」


 嬉しい。


 けど。


 それだと決まらない。


『湊:じゃあ考えておく』


『由香:私も考える!』


『湊:うん』


『由香:今日もバイト?』


『湊:午後から』


『由香:頑張ってね!』


『湊:ありがとう』


「…………」


 スマホを置く。


 天井。


 見上げる。


 夏休み。


 一週間。


 まだ一週間。


 なのに。


 もう。


 いろんなことがあった。


 花火大会。


 告白。


 初デート。


 六人での作戦会議。


 由香との勉強。


 そして。


 明日も。


 由香と会う。


「…………」


 少し前の俺なら。


 考えられなかった。


 予定があること。


 誰かに会いたいと思うこと。


 誰かが。


 俺に会いたいと言ってくれること。


 全部。


 当たり前じゃなかった。


 だから。


 一つ一つ。


 大切にしたい。


     ◇



 午前九時。


 朝食。


 母さん。


 向かいの席。


「湊」


「何?」


「明日も出かけるの?」


「…………」


 箸。


 止まる。


「何で?」


「昨日、スマホ見ながら予定調べてたでしょ」


「…………」


 見られていたらしい。


「……うん」


「黒瀬さん?」


「うん」


「…………」


 母さん。


 にこにこ。


「いいわねえ」


「何が?」


「青春してるなあって」


「…………」


 その言い方。


 やめてほしい。


「でも」


 母さん。


 少し真面目な顔になる。


「勉強は大丈夫?」


「やってるよ」


「そう」


「午前中は毎日勉強してるし」


「うん」


「バイトもあるから、遊んでばっかりじゃないよ」


「分かってるわよ」


 母さん。


 笑う。


「ただ、無理しすぎないでね」


「…………」


 無理。


 しているつもりはない。


 でも。


 最近。


 少し予定が増えた。


 勉強。


 バイト。


 友達。


 由香。


 全部。


 大事。


 だからこそ。


 時間。


 足りない。


「……気をつける」


「うん」


 母さん。


 嬉しそうに頷いた。



     ◇



 午後零時四十分。


 アルバイト先。


 更衣室。


 制服に着替える。


 スマホ。


 確認。


 通知。


 グループチャット。


『放課後』


『陽斗:重大発表!!』


『莉央:また?』


『玲司:今度は何だ』


『陽斗:海の前に一回集まろうぜ!』


『琴葉:何か決めることある?』


『陽斗:ある!』


『莉央:何?』


『陽斗:海で何して遊ぶか!』


『玲司:現地で決めればいいだろ』


「…………」


 陽斗。


 本当に楽しみにしているらしい。


 海。


 来週の水曜日。


 あと五日。


 場所。


 候補は決まった。


 天気。


 まだ分からない。


 それでも。


 陽斗の頭の中。


 すでに海らしい。


『陽斗:日曜とかどう!?』


『莉央:日曜なら空いてるよ』


『琴葉:私も午後なら』


『玲司:俺も午後なら大丈夫』


『由香:私も!』


「…………」


 日曜日。


 予定。


 確認。


 午前。


 勉強。


 午後。


 空いている。


『湊:午後なら行ける』


『陽斗:決まり!!』


『莉央:また全員集合だね』


『陽斗:今度はちゃんと会議するぞ!』


『玲司:前回もそう言ってたな』


「…………」


 思わず笑う。


 そのとき。


 店長。


「朝倉君、そろそろお願い!」


「はい!」


 スマホ。


 しまう。


 仕事。


 開始。



     ◇



 午後五時二十分。


 アルバイト終了。


「お疲れさまでした」


「お疲れ!」


 店長。


 カウンターの向こう。


「朝倉君、明日は休みだったよね?」


「はい」


「よかった。最近忙しかったから、ゆっくり休んでね」


「ありがとうございます」


「…………」


 明日。


 休み。


 でも。


 ゆっくり休む予定はない。


 由香と会う。


 それだけで。


 もう楽しみだった。


     ◇



 帰り道。


 夕方。


 空。


 少し赤い。


 スマホ。


 震える。


 由香。


『由香:お疲れさま!』


『湊:ありがとう』


『由香:明日のことなんだけど!』


『湊:うん』


『由香:行きたいところ決まった!』


「…………」


 早い。


『湊:どこ?』


『由香:映画!』


「…………」


 映画。


 そういえば。


 初デートのとき。


 行きたい場所の候補に挙がっていた。


『湊:いいね』


『由香:本当!?』


『湊:うん』


『由香:じゃあ映画行こう!』


『湊:何見る?』


『由香:それがね』


 少し間。


『由香:恋愛映画!』


「…………」


 恋愛映画。


 由香と。


 二人で。


「…………」


 少し。


 緊張する。


『湊:分かった』


『由香:大丈夫?』


『湊:何が?』


『由香:湊、恋愛映画とか好きかなって』


「…………」


 正直。


 あまり見たことがない。


 普段。


 映画を見るなら。


 アクション。


 SF。


 そういうものが多い。


 でも。


『湊:由香となら見たい』


 送信。


 数秒。


『由香:…………』


『由香:もう!』


『湊:何?』


『由香:そういうこと言うのずるい!』


「…………」


 最近。


 本当によく言われる。


『湊:本当のことだけど』


『由香:…………』


『由香:大好き!』


「…………」


 立ち止まる。


 画面。


 見つめる。


 好き。


 付き合い始めてから。


 何度も言われた。


 それでも。


 毎回。


 嬉しい。


『湊:俺も好き』


 送信。


 すぐに既読。


『由香:明日早く来ないかな!』


「…………」


 俺も。


 そう思う。



     ◇



 翌日。


 土曜日。


 午前十時四十五分。


 駅前。


 待ち合わせ。


 今日は十一時集合。


 少し早く着いた。


「…………」


 スマホ。


 確認。


 由香から。


 メッセージ。


『由香:もうすぐ着く!』


『湊:俺も着いた』


『由香:早い!』


「…………」


 少しして。


「湊!」


 声。


 振り返る。


 由香。


 白いブラウス。


 淡いピンクのロングスカート。


 小さなバッグ。


 長い髪。


 今日は。


 少しだけ巻いている。


「おはよう!」


「おはよう」


「待った?」


「今来たところ」


「本当?」


「うん」


「…………」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


「よかった!」


「…………」


 今日も。


 可愛い。


 そう思う。


 すると。


 由香。


 俺の顔を覗き込む。


「湊?」


「何?」


「何か言いたそう」


「…………」


 鋭い。


「……今日の服」


「うん?」


「似合ってる」


「…………」


 由香。


 固まる。


 そして。


 顔。


 赤くなる。


「……ありがと」


「うん」


「…………」


 少しの沈黙。


 由香。


 小さく笑う。


「湊もかっこいいよ」


「…………」


 今度は。


 俺が黙る。


「ふふ」


 由香。


 楽しそう。


「お返し!」


「…………」


 最近。


 こういうやり取り。


 増えた。


 恥ずかしい。


 でも。


 嫌じゃない。



     ◇



 午前十一時十分。


 映画館。


 チケット売り場。


「これ!」


 由香。


 上映スケジュールを指差す。


 恋愛映画。


 高校生の男女。


 幼なじみ。


 卒業までの一年間。


 そんな物語らしい。


「これが見たいの?」


「うん!」


「いいよ」


「やった!」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


 チケット。


 二枚。


 購入。


 上映開始。


 十一時四十分。


 まだ少し時間がある。


「飲み物買おうか」


「うん!」


 売店。


 由香。


 メニューを見る。


「ポップコーンも食べたい!」


「いいよ」


「半分こしよ!」


「うん」


 ポップコーン。


 キャラメル味。


 ドリンク。


 二つ。


「…………」


 由香。


 満足そう。


 映画。


 始まる前から。


 楽しそうだ。



     ◇



 午前十一時三十五分。


 スクリーン。


 入場。


 薄暗い館内。


 席。


 中央付近。


 並んで座る。


「…………」


 由香。


 隣。


 距離が近い。


 当然。


 映画館だから。


 でも。


 意識してしまう。


 由香。


 小さな声。


「湊」


「何?」


「楽しみだね」


「うん」


「…………」


 少しして。


 由香。


 そっと。


 俺の手を見る。


「…………」


 そして。


 小さな声。


「……手」


「ん?」


「…………」


 由香。


 顔を赤くする。


「……繋いでもいい?」


「…………」


 心臓。


 跳ねる。


 花火大会。


 初めて手を繋いだ。


 昨日まで。


 何度か繋いだ。


 それでも。


 まだ。


 慣れない。


「……いいよ」


 俺。


 手を差し出す。


 由香。


 そっと握る。


「…………」


 温かい。


 柔らかい。


 少しだけ。


 力が入る。


 由香。


 嬉しそうに笑う。


「……ありがと」


「うん」


 そして。


 照明。


 暗くなる。


 映画が始まった。



     ◇



 上映中。


 スクリーン。


 主人公の男子。


 幼なじみの女子。


 ずっと一緒にいた二人。


 でも。


 お互いの気持ち。


 伝えられない。


 すれ違う。


 傷つく。


 そして。


 少しずつ。


 距離が縮まる。


「…………」


 隣。


 由香。


 真剣。


 スクリーンを見つめている。


 握った手。


 まだ離していない。


 映画の中。


 男子が女子に告白する。


 その瞬間。


 由香。


 少しだけ。


 俺の手を強く握った。


「…………」


 俺も。


 握り返す。


 由香。


 こちらを見る。


 目が合う。


 そして。


 小さく笑う。


「…………」


 映画。


 まだ続いている。


 でも。


 その笑顔。


 少しだけ。


 スクリーンより気になった。



     ◇



 午後一時四十分。


 上映終了。


 映画館を出る。


「…………」


 由香。


 目元。


 少し赤い。


「泣いた?」


「…………」


 由香。


 俺を見る。


「……ちょっとだけ」


「そっか」


「だって!」


「うん」


「最後、すごくよかったんだもん!」


「そうだな」


 卒業式。


 主人公の男子。


 幼なじみの女子に。


 ようやく。


 想いを伝えた。


 長いすれ違い。


 その終わり。


 ハッピーエンド。


「湊はどうだった?」


「よかったと思う」


「本当?」


「うん」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


「よかった!」


 そして。


 少しだけ。


 表情が変わる。


「……ねえ」


「何?」


「私たちも、もうすぐ卒業だね」


「…………」


 卒業。


 まだ半年以上ある。


 でも。


 確かに。


 近づいている。


「そうだな」


「…………」


 由香。


 少し俯く。


「映画みたいに、離れ離れになったらどうしようって思っちゃった」


「…………」


 進路。


 大学。


 将来。


 まだ。


 全部決まったわけじゃない。


 俺も。


 考えることはある。


 でも。


「……由香」


「うん?」


「まだ卒業まで時間あるし」


「うん」


「今からそんなに心配しなくてもいいと思う」


「…………」


 由香。


 俺を見る。


「……そうかな」


「うん」


 少し考える。


 そして。


 続ける。


「それに」


「うん」


「卒業したら終わりってわけじゃないだろ」


「…………」


 由香。


 目を丸くする。


「……湊」


「何?」


「…………」


 少しだけ。


 目元が潤む。


 でも。


 すぐに。


 笑った。


「……うん!」


「…………」


 俺も。


 小さく笑う。


 未来のことは分からない。


 でも。


 今。


 由香と一緒にいたい。


 その気持ちだけは。


 はっきりしている。



     ◇



 午後二時十分。


 ショッピングモール。


 フードコート。


 昼食。


 由香。


 今日は。


 ハンバーガー。


 俺。


 オムライス。


「いただきます!」


「いただきます」


 由香。


 一口。


「んー!」


「美味しい?」


「美味しい!」


「…………」


 相変わらず。


 食べるとき。


 本当に幸せそう。


「湊」


「何?」


「一口いる?」


「…………」


 由香。


 ハンバーガーを差し出す。


「……いいの?」


「うん!」


「じゃあ」


 受け取ろうとする。


 でも。


 由香。


 動かない。


「…………」


 俺を見る。


 にこにこ。


「……由香?」


「何?」


「…………」


 その笑顔。


 見覚えがある。


 水曜日のアイス。


 あのとき。


 由香。


 スプーンを差し出してきた。


 そして。


 今日は。


 ハンバーガー。


「…………」


 まさか。


「……食べさせてくれるの?」


「…………」


 由香。


 顔。


 赤くなる。


「……うん」


「…………」


 少しだけ。


 周りを見る。


 人。


 多い。


 かなり。


「……ここで?」


「…………」


 由香。


 周りを見る。


 そして。


 自分でも恥ずかしくなったらしい。


「……やっぱりやめる!」


「…………」


 思わず笑う。


「じゃあ普通に一口もらう」


「うん!」


 ハンバーガー。


 受け取る。


 一口。


「美味しい」


「でしょ!」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


「…………」


 こういう時間。


 本当に。


 楽しい。



     ◇



 午後三時。


 ショッピングモール。


 雑貨店。


 由香。


 アクセサリーを眺めている。


「…………」


 俺。


 少し離れた場所で待つ。


 すると。


 スマホ。


 震える。


 陽斗。


 個人チャット。


『陽斗:湊!』


『湊:何?』


『陽斗:今何してる?』


「…………」


 今。


 由香とデート。


『湊:出かけてる』


『陽斗:由香と?』


『湊:うん』


『陽斗:やっぱり!!』


「…………」


 何が。


 やっぱりなんだ。


『陽斗:最近ずっと由香と一緒じゃん!』


『湊:そうでもない』


『陽斗:そうだろ!』


『陽斗:俺とも遊べよ!』


「…………」


 思わず笑う。


 この前も。


 似たようなことを言われた。


『湊:日曜会うだろ』


『陽斗:それは六人だろ!』


『湊:うん』


『陽斗:男同士でも遊ぼうぜ!』


「…………」


 男同士。


 陽斗。


 玲司。


 俺。


 三人。


 そういえば。


 最近。


 三人だけで遊んでいない。


 以前なら。


 そんなこと。


 考えもしなかった。


 でも。


 今は。


 陽斗も。


 玲司も。


 大切な友達。


『湊:いいよ』


 送信。


 すぐに既読。


『陽斗:マジ!?』


『湊:うん』


『陽斗:じゃあ今度ゲームセンター行こうぜ!』


『湊:いいよ』


『陽斗:玲司も誘う!』


『湊:うん』


『陽斗:よっしゃー!!』


「…………」


 画面を見ながら。


 笑う。


 すると。


「湊?」


 声。


 顔を上げる。


 由香。


 隣に立っていた。


「誰と話してたの?」


「陽斗」


「陽斗君?」


「うん」


「何だって?」


「今度、男三人で遊ぼうって」


「…………」


 由香。


 少し驚く。


 そして。


 嬉しそうに笑った。


「いいじゃん!」


「うん」


「楽しそう!」


「そうだな」


 由香。


 俺を見る。


「湊、最近すごく楽しそうだね」


「…………」


 少し考える。


「……そうかな」


「うん!」


「…………」


 由香。


 笑う。


「前よりいっぱい笑うようになった!」


「…………」


 そうなのかもしれない。


 昔。


 教室に一人。


 誰とも話さない。


 笑うことも。


 ほとんどなかった。


 でも今は。


 由香がいる。


 陽斗がいる。


 玲司がいる。


 莉央がいる。


 琴葉がいる。


 そして。


 みんなと過ごす時間。


 楽しい。


「……由香のおかげかも」


「…………」


 由香。


 目を丸くする。


「え?」


「由香が最初に友達になってくれたから」


「…………」


 由香。


 少し黙る。


 そして。


 ゆっくり笑った。


「……そっか」


「うん」


「…………」


 由香。


 俺の手を握る。


「じゃあ、これからもいっぱい笑ってね」


「…………」


 俺。


 握り返す。


「うん」


 由香。


 嬉しそうに笑った。



     ◇



 午後四時半。


 駅前。


 帰る時間。


「今日も楽しかった!」


 由香。


 笑う。


「俺も」


「映画、また行こうね!」


「うん」


「次はアクション映画とか!」


「いいな」


「湊の好きな映画も見たい!」


「…………」


 由香。


 本当に。


 いろんなことを一緒にしたがる。


 でも。


 それが嬉しい。


「じゃあ今度は俺が選ぶよ」


「うん!」


 少しの沈黙。


 由香。


 俺を見る。


「……ねえ」


「何?」


「明日も会えるね」


「…………」


 明日。


 日曜日。


 六人で集まる。


「そうだな」


「ふふ」


 由香。


 笑う。


「今週、いっぱい会えたね」


「うん」


「…………」


 少しだけ。


 寂しそうな顔。


「でも、明日は二人きりじゃないね」


「…………」


 俺。


 由香を見る。


「六人も楽しいだろ」


「うん!」


 由香。


 すぐに頷く。


「もちろん!」


 そして。


 少し照れたように笑う。


「でも、湊と二人の時間も好きだから」


「…………」


 心臓。


 少し速くなる。


「……俺も」


「…………」


 由香。


 嬉しそうに笑う。


 そして。


 小さな声。


「じゃあ、明日も少しだけ二人で話そうね」


「うん」


「約束!」


「約束」


     ◇



 午後九時。


 自分の部屋。


 スマホ。


 震える。


 グループチャット。


『放課後』


『陽斗:明日十四時集合!!』


『莉央:了解!』


『琴葉:駅前でいいんだよね?』


『玲司:前回と同じファミレスでいいだろ』


『陽斗:よし!』


『由香:楽しみ!』


『湊:了解』


 そして。


 別の通知。


 陽斗。


『陽斗:湊!』


『湊:何?』


『陽斗:来週の海終わったら男三人で遊ぼうぜ!』


『湊:うん』


『陽斗:約束な!』


『湊:約束』


「…………」


 スマホを置く。


 ベッド。


 横になる。


 天井。


 見上げる。


 彼女との約束。


 友達との約束。


 勉強。


 バイト。


 夏休み。


 予定。


 どんどん増えていく。


「…………」


 昔。


 俺の夏休み。


 予定なんて。


 ほとんどなかった。


 バイト。


 勉強。


 ゲーム。


 それだけ。


 でも。


 今は違う。


 明日。


 六人で集まる。


 来週。


 海へ行く。


 そのあと。


 陽斗と玲司と遊ぶ。


 由香とも。


 また出かけたい。


「…………」


 全部。


 楽しみだ。


 ただ。


 少しだけ思う。


 時間。


 足りるかな。


 勉強も。


 バイトも。


 友達も。


 由香も。


 全部。


 大切にしたい。


 だから。


 どれか一つだけを選ぶんじゃなくて。


 全部。


 ちゃんと向き合いたい。


「…………」


 そんなことを考えていると。


 スマホ。


 また震える。


 由香。


『由香:湊』


『湊:何?』


『由香:今日もありがとう!』


『湊:こちらこそ』


『由香:明日も楽しみ!』


『湊:うん』


『由香:ねえ』


『湊:何?』


『由香:湊と付き合えてよかった』


「…………」


 画面。


 見つめる。


 胸が温かくなる。


 少し考える。


 そして。


 返信。


『湊:俺も、由香と付き合えてよかった』


 送信。


 すぐに既読。


『由香:…………』


『由香:大好き!』


『湊:俺も大好き』


「…………」


 送ったあと。


 少し。


 恥ずかしくなる。


 でも。


 後悔はない。


 今思っていること。


 ちゃんと伝えたかった。


 すると。


 由香から。


 もう一通。


『由香:明日、いっぱい笑おうね!』


「…………」


 思わず笑う。


『湊:うん』


 スマホ。


 置く。


 目を閉じる。


 明日。


 また六人で会える。


 それだけで。


 楽しみだった。


 高校最後の夏休み。


 まだ。


 始まったばかり。


 でも。


 きっと。


 忘れられない夏になる。


 そんな予感がしていた。


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