第38話 約束の日まで、あと少し
火曜日。
朝。
七時十分。
「…………」
スマホ。
見る。
通知。
一件。
Yuu。
『おはよう!』
『おはよう』
『昨日はちゃんと寝れた?』
『普通』
『本当?』
『何で』
『何となく!』
「…………」
何となく。
多分。
黒瀬も。
昨日。
考えてた。
あの話。
『夏の花火』
『その日、ちゃんと話したいことがある』
送った言葉。
今でも。
覚えてる。
当然。
昨日。
だから。
『黒瀬は?』
『え?』
『寝れた?』
少し。
間。
『…………』
『あんまり』
「…………」
やっぱり。
『何で』
『考え事』
『俺も』
既読。
少し。
間。
『同じこと?』
「…………」
画面。
見る。
同じ。
だと思う。
『多分』
『…………』
『そっか』
それだけ。
でも。
何となく。
伝わる。
黒瀬も。
待ってる。
俺も。
その日を。
待ってる。
◇
教室。
「おはよー!」
陽斗。
「おはよう」
「湊!」
「何」
「テスト勉強してる!?」
「してる」
「…………」
陽斗。
固まる。
「裏切り者!」
「何が」
「俺まだ何もしてない!」
「知ってる」
「何で!?」
「顔」
「顔で分かるの!?」
玲司。
後ろ。
「分かる」
「玲司まで!?」
「昨日、問題集開いてないだろ」
「…………」
「図星?」
「…………」
陽斗。
目。
逸らす。
「今日からやる!」
「毎日言ってる」
「…………」
水瀬。
笑う。
「陽斗君、テスト前になると毎回それだよね」
「今回は本気!」
「前も言ってた」
小宮山。
「ふふ」
「琴葉まで!」
六人。
笑う。
いつもの朝。
でも。
俺。
少し。
黒瀬。
意識する。
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
目。
合う。
「…………」
少し。
笑う。
「おはよう」
「おはよう」
それだけ。
なのに。
昨日までと違う。
そんな感じがする。
◇
二時間目。
数学。
「来週から中間考査だからな」
先生。
黒板。
書く。
「今日は演習問題を解いてもらう」
「…………」
黒瀬。
問題集。
開く。
少し困った顔。
「…………」
俺。
小声。
「黒瀬」
「何?」
「分からない?」
「…………」
小さく。
頷く。
「ここ」
問題。
指す。
「…………」
見る。
「この前やったやつ」
「そうなの!?」
「うん」
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
「あ!」
「思い出した?」
「うん!」
「じゃあできる」
「…………」
黒瀬。
鉛筆。
動かす。
数分して。
「できた!」
小声。
「…………」
俺。
見る。
「合ってる」
「やった」
黒瀬。
笑う。
「朝倉君のおかげ」
「黒瀬が解いた」
「でも」
「うん」
「教えてくれたから」
「…………」
嬉しい。
普通に。
◇
昼休み。
「勉強会!」
陽斗。
「何」
「今日放課後!」
「急だな」
玲司。
「だってテスト!」
「来週だろ」
「もう来週!」
「…………」
水瀬。
笑う。
「陽斗君、焦りすぎ」
「焦るだろ!」
「昨日からやればよかったのに」
小宮山。
「…………」
陽斗。
黙る。
「正論やめて!」
「ふふ」
黒瀬。
俺。
見る。
「朝倉君」
「何」
「今日、時間ある?」
「バイトない」
「じゃあ」
「うん」
「一緒に勉強しない?」
「いいよ」
「やった!」
陽斗。
割り込む。
「俺も!」
「…………」
黒瀬。
少し。
止まる。
「…………」
水瀬。
笑う。
「陽斗君」
「何」
「空気」
「え!?」
「読んで」
「…………」
陽斗。
俺。
黒瀬。
見る。
「…………」
「あ」
玲司。
ため息。
「遅い」
「…………」
陽斗。
慌てる。
「じゃあ俺、玲司と!」
「勝手に決めるな」
「頼む!」
「…………」
玲司。
少し笑う。
「いいけど」
「よっしゃ!」
小宮山。
水瀬。
見る。
「私たちも図書室行こうか」
「そうだね」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「…………」
少し。
笑う。
「二人だね」
「そうだな」
◇
放課後の図書館。
窓際。
二人席。
座る。
「…………」
黒瀬。
問題集。
開く。
「朝倉君」
「何」
「ここ教えて」
「うん」
俺。
隣。
座る。
式。
書く。
「まず」
「うん」
「ここを整理」
「…………」
黒瀬。
真剣に見る。
「で」
「うん」
「この値を代入」
「…………」
「あ!」
「分かった?」
「うん!」
「じゃあ次」
「…………」
黒瀬。
鉛筆。
動かす。
少し。
考える。
俺。
横顔。
見る。
「…………」
綺麗。
何回見ても。
可愛い。
「朝倉君」
「!」
「何」
「ここ」
「うん」
「合ってる?」
「…………」
問題。
見る。
「合ってる」
「やった!」
黒瀬。
笑う。
「…………」
俺。
少し笑う。
◇
一時間後。
「休憩!」
黒瀬。
伸びる。
「まだ一時間」
「頑張った!」
「まあ」
「でしょ!」
黒瀬。
水。
飲む。
「…………」
少し静か。
図書館。
窓の外。
夕方の光が入る。
「朝倉君」
「何」
「昨日のこと」
「…………」
来た。
「うん」
「花火の日」
「うん」
「話したいことがあるって」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「本当に」
「うん」
「その日?」
「…………」
俺。
頷く。
「うん」
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「そっか」
「うん」
「…………」
「何」
「楽しみ」
「…………」
心臓。
速い。
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
「でも」
「何」
「緊張もする」
「…………」
「俺も」
「…………」
黒瀬。
目。
丸くする。
「朝倉君も?」
「うん」
「…………」
少し。
笑う。
「一緒だね」
「そうだな」
◇
「朝倉君」
「何」
「一つ聞いていい?」
「うん」
「…………」
黒瀬。
少し迷う。
「その話」
「うん」
「私にとって」
「…………」
「嬉しい話?」
「…………」
止まる。
答え。
分かってる。
でも。
黒瀬がどう思うか。
分からない。
「…………」
俺。
少し。
考える。
「そうだったらいい」
「…………」
「俺は」
「うん」
「黒瀬に喜んでほしい」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「…………」
「そっか」
「うん」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「じゃあ」
「何」
「楽しみにしてる」
「…………」
「うん」
◇
図書館。
出る。
夕方の風。
少し涼しい。
「朝倉君」
「何」
「今日はありがとう」
「うん」
「数学」
「分かった?」
「前より!」
「ならよかった」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「あと」
「何」
「一緒にいられて嬉しかった」
「…………」
俺。
少し。
笑う。
「俺も」
「…………」
黒瀬。
嬉しそうに笑う。
◇
駅まで歩く。
「朝倉君」
「何」
「夏休み」
「うん」
「何か予定ある?」
「バイト」
「…………」
「それ以外」
「勉強」
「…………」
「それ以外!」
「…………」
黒瀬。
頬。
膨らませる。
「遊ぶ予定!」
「…………」
少し。
考える。
「花火」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「それ!」
「うん」
「他には?」
「…………」
俺。
黒瀬。
見る。
「黒瀬と遊びたい」
「…………」
黒瀬。
止まる。
「…………」
「え?」
「…………」
「今の」
「うん」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「……私も」
「…………」
「朝倉君と」
「うん」
「いっぱい遊びたい」
「…………」
嬉しい。
ただそれだけ。
◇
駅。
改札。
「じゃあまた明日」
黒瀬。
「うん」
「…………」
「何」
「朝倉君」
「何」
「最近」
「うん」
「毎日楽しい」
「…………」
俺。
笑う。
「俺も」
「…………」
「黒瀬がいるから」
「…………」
黒瀬。
固まる。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「それ」
「ずるい」
「…………」
「何で」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「もっと好きになっちゃう」
「…………」
止まる。
「…………」
黒瀬。
真っ赤。
「あ!」
「…………」
「違う!」
「…………」
「いや、違わないけど!」
「…………」
黒瀬。
口。
押さえる。
「…………」
俺。
何も言えない。
でも。
嬉しい。
多分。
今聞きたい言葉。
ほとんど。
聞いてる。
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「忘れて」
「…………」
前。
だったら。
分かった。
そう言ってた。
でも。
今。
「無理」
「…………」
「嬉しかった」
「…………」
黒瀬。
少し笑う。
「……そっか」
「うん」
「…………」
「じゃあ」
黒瀬。
小さく言う。
「忘れなくていい」
「…………」
俺。
頷く。
◇
夜。
午後九時。
風呂。
上がる。
リビング。
母さん。
テレビ見てる。
「湊」
「何」
「夏休み、バイト増やすの?」
「まだ分からない」
「そう」
母さん。
少し考える。
「でも、たまには遊びなさいよ」
「…………」
「せっかくお友達もできたんだから」
「分かってる」
「黒瀬さんとも?」
「…………」
俺。
母さん。
見る。
「何で黒瀬」
「ふふ」
「…………」
「別に?」
絶対分かってる。
「……遊ぶ予定はある」
「あら」
「…………」
「楽しんできなさい」
「うん」
それ以上。
母さんは。
聞かなかった。
助かった。
◇
午後十時。
ゲーム。
ログイン。
ロビー。
Yuu。
待ってる。
『おかえり!』
『ただいま』
『今日も三戦?』
『うん』
『了解!』
マッチ開始。
いつものゲーム。
いつもの連携。
でも。
今日は。
黒瀬。
妙に静か。
『右に敵』
『了解』
『回復して』
『うん』
「…………」
いつもなら。
もっと。
騒がしい。
勝てば。
喜んで。
負ければ。
悔しがる。
それが。
Yuu。
なのに。
今日は。
『黒瀬』
『何?』
『元気ない?』
少し。
間。
『あるよ!』
『本当?』
『うん!』
『じゃあ何で静か』
『…………』
既読。
止まる。
『考え事してた』
『何の』
『秘密!』
「…………」
また。
秘密。
『そっか』
『うん』
『でも』
『何』
『悪い考え事じゃないよ』
「…………」
『ならよかった』
◇
三戦目。
終了。
今日は。
二勝。
一敗。
『惜しかったー!』
『最後ミスった』
『私も!』
『次は勝とう』
『うん!』
いつものやり取り。
戻ってきた。
そろそろ。
終わる。
そう思ったとき。
『朝倉君』
『何』
『花火大会のことなんだけど』
「…………」
手。
止まる。
『うん』
『さっき調べてた』
『何を』
『日程!』
「…………」
そういうことだったのか。
『見つかった?』
『うん!』
『夏休みに入ってすぐの土曜日!』
『そうなんだ』
『六人のグループにも送ろうと思ったんだけど』
『うん』
『…………』
『何』
『先に朝倉君に言いたかった』
「…………」
画面。
見る。
少し笑う。
『ありがとう』
『うん!』
少し。
間。
『ねえ』
『何』
『六人で行くのとは別に』
『うん』
『二人で見る約束』
『覚えてる』
『…………』
『よかった』
「…………」
忘れるわけない。
『黒瀬』
『何?』
『その日はバイト入れないようにする』
既読。
すぐ。
『え!?』
『いいの!?』
『うん』
『でもバイト大丈夫?』
『まだシフト決まってないから』
『…………』
『何』
『嬉しい』
「…………」
『そっか』
『うん!』
少しして。
また。
通知。
『じゃあさ』
『うん』
『当日、何着ていこうかな』
『好きなのでいいと思う』
『それが一番困る!』
『何で』
『…………』
『朝倉君に可愛いって思ってほしいから』
「…………」
固まる。
画面見つめる。
返事。
考える。
でも。
上手い言葉。
出ない。
『…………』
『朝倉君?』
『いる』
『ごめん!』
『何が』
『今の忘れて!』
「…………」
また忘れて。
でも。
今日は少し違う。
『黒瀬』
『何?』
『浴衣とか』
『…………』
『似合うと思う』
送信。
数秒。
既読。
『…………』
『朝倉君』
『何』
『それ反則』
『何で』
『…………』
『浴衣にする』
「…………」
思わず笑う。
『楽しみにしてる』
『うん!』
『じゃあおやすみ!』
『おやすみ』
ログアウト。
◇
スマホ。
机。
置く。
「…………」
浴衣。
黒瀬。
着るらしい。
「…………」
想像する。
でも。
上手く想像できない。
学校。
制服。
休日。
私服。
どっちも見た。
でも。
浴衣。
初めて。
「…………」
多分。
似合う。
絶対。
似合う。
そう思った瞬間。
スマホ。
また鳴る。
Yuu。
『あ!』
『何』
『一つ聞き忘れた!』
『何を』
『朝倉君も浴衣着る?』
「…………」
俺。
浴衣。
持ってない。
『持ってない』
『そっか!』
『ごめん』
『謝らなくていいよ!』
少し。
間。
『じゃあ私だけ浴衣だね』
『そうなる』
『…………』
『何』
『見つけてね』
「…………」
『何を』
『私のこと』
「…………」
続けて。
メッセージ。
『人いっぱいだと思うから!』
『…………』
俺。
少し。
考える。
『見つけるよ』
『本当?』
『うん』
『黒瀬なら分かる』
送る。
すぐ。
既読。
でも。
返事。
来ない。
「…………」
一分くらいして。
『…………』
『もう!』
『何』
『本当にずるい!』
「…………」
笑う。
『おやすみ!』
『おやすみ』
今度。
通知。
止まる。
「…………」
窓の外。
見る。
まだ。
梅雨。
明けてない。
夜空。
雲。
多い。
でも。
頭の中。
もう。
夏だった。
人混み。
屋台。
花火。
そして。
浴衣を着た黒瀬。
「…………」
どんな顔。
するんだろう。
俺を見つけたとき。
少し。
楽しみだった。
いや。
かなり楽しみだった。
そんなこと。
考えながら。
俺は。
机の上のカレンダーを開いた。
夏休み。
最初の土曜日。
その日付に。
小さく。
丸をつける。
そして。
横に。
二文字。
書いた。
『黒瀬』
「…………」
誰にも。
見せるつもり。
ない。
ただの予定。
なのに。
書いた文字を見て。
少し。
笑ってしまった。




