第37話 夏まで待てない理由
月曜日。
朝。
教室。
「湊!」
「何」
「筋肉痛!」
「…………」
陽斗。
腕。
押さえてる。
「何で」
「昨日の部活!」
「サッカーだろ」
「そう!」
「足じゃないの?」
「筋トレした!」
「…………」
知らない。
「痛い!」
「じゃあ動かすな」
「冷たい!」
玲司。
隣。
座る。
「橘」
「何」
「朝から元気だな」
「筋肉痛なんだって!」
「知ってる」
「心配して!」
「大丈夫そう」
「何で!?」
「声が大きいから」
「…………」
笑う。
いつもの朝。
でも。
俺は少し違う。
考えてる。
夏。
花火。
黒瀬と二人。
約束した。
その日。
告白する。
そう決めた。
でも。
「…………」
夏まで。
まだ時間ある。
その間。
普通に。
過ごせるだろうか。
◇
「おはよう!」
黒瀬。
教室。
入る。
水瀬。
小宮山。
一緒。
「おはよう」
俺。
返す。
「朝倉君!」
「何」
「土曜日」
「うん」
「楽しかったね!」
「何回言うの」
「何回でも!」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「またみんなで遊びたい」
「うん」
「…………」
少し。
間。
「二人でも」
「…………」
黒瀬。
小声で言う。
「…………」
俺。
見る。
「うん」
「…………」
「二人でも」
黒瀬。
顔。
赤い。
「…………」
水瀬。
後ろで笑ってる。
「由香」
「何!?」
「朝から楽しそう」
「普通!」
「そう?」
「そう!」
小宮山。
くすくす。
笑う。
「…………」
俺。
黒瀬。
見る。
目が合う。
二人。
少し笑う。
◇
一時間目。
現代文。
「では」
先生。
教科書。
閉じる。
「来週から中間考査だ」
「…………」
教室がざわつく。
「範囲はここまで」
黒板に書く。
「三年生だからな」
「…………」
「進路も意識して勉強するように」
進路。
その言葉。
少し引っかかる。
大学。
受験。
卒業。
あと一年もない。
「…………」
黒瀬。
隣にいる。
今は当たり前。
でも。
卒業したら。
どうなる。
分からない。
◇
昼休み。
「テスト嫌だー!」
陽斗。
机に突っ伏す。
「さっきまで筋肉痛だっただろ」
玲司。
「今は精神的に痛い!」
「意味分からない」
水瀬。
笑う。
「私も数学やばい」
「莉央も?」
黒瀬。
「うん!」
「仲間!」
「仲間じゃなくて勉強しなよ」
玲司。
「藤堂君、厳しい!」
小宮山。
問題集。
開く。
「みんなで勉強会する?」
「いいね!」
黒瀬。
「賛成!」
水瀬。
「湊の家!」
陽斗。
「何で」
「この前楽しかったから!」
「勉強会だぞ」
「分かってる!」
「…………」
玲司。
陽斗。
見る。
「本当に?」
「…………」
「もちろん!」
「間があった」
「気のせい!」
俺。
少し考える。
「図書館は?」
「いいね」
小宮山。
「静かだし」
「…………」
陽斗。
止まる。
「静か?」
「うん」
「…………」
「陽斗君」
水瀬。
「無理そう」
「何で!?」
「声」
「…………」
玲司。
笑う。
「自覚あるだろ」
「ない!」
「それが問題」
◇
放課後。
進路指導室前。
「…………」
掲示板を見る。
大学。
資料。
奨学金。
入試。
情報が並ぶ。
「…………」
俺。
資料を一枚取る。
学費。
生活費。
奨学金。
返済。
数字が並ぶ。
「…………」
現実だ。
黒瀬が好き。
それは本当。
でも。
俺。
考えないといけないこと。
他にもある。
「朝倉」
「…………」
振り返る。
玲司。
「何してる?」
「進路」
「…………」
玲司。
資料を見る。
「大学?」
「うん」
「決まった?」
「まだ」
「…………」
「金」
「うん」
「考えると」
少し。
止まる。
「選択肢、狭い」
「…………」
玲司。
隣に立つ。
「奨学金は?」
「調べてる」
「給付型も?」
「うん」
「…………」
玲司。
少し考える。
「朝倉」
「何」
「黒瀬には?」
「…………」
「進路の話」
「家の事情は知ってる」
「うん」
「でも」
「大学のことはまだ」
「…………」
玲司。
頷く。
「そっか」
「…………」
「話してみてもいいんじゃない?」
「…………」
「黒瀬、ちゃんと聞いてくれると思う」
「…………」
分かってる。
黒瀬。
優しい。
ちゃんと。
聞いてくれる。
でも。
好きな人。
だから。
余計。
難しい。
「…………」
「考えとく」
「うん」
◇
帰り道。
「朝倉君!」
黒瀬。
走ってくる。
「…………」
「待って!」
「待ってる」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「一緒に帰ろ!」
「うん」
二人。
歩く。
「進路指導室いた?」
「…………」
「見てた?」
「うん」
「大学?」
「そう」
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
「決まった?」
「まだ」
「そっか」
「黒瀬は?」
「…………」
「迷ってる」
「何で」
「行きたいところはあるけど」
「うん」
「本当にそこでいいのかなって」
「…………」
黒瀬。
前。
見る。
「朝倉君」
「何」
「卒業したら」
「うん」
「どうなるんだろうね」
「…………」
同じこと。
考えてた。
「分からない」
「うん」
「でも」
「何」
「まだ時間ある」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「そうだね」
「うん」
「…………」
少し。
間。
「朝倉君」
「何」
「卒業しても」
「うん」
「ゲーム」
「…………」
「一緒にしてくれる?」
「…………」
俺。
黒瀬。
見る。
「当たり前だろ」
「…………」
「約束したし」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「覚えてた」
「うん」
「…………」
「忘れない」
黒瀬。
少し嬉しそう。
笑う。
「私も」
◇
駅の近く。
公園。
通る。
「…………」
黒瀬。
立ち止まる。
「何」
「ちょっと座らない?」
「…………」
時間を見る。
今日は。
バイトない。
「いいよ」
ベンチに座る。
夕方。
風。
少し涼しい。
「…………」
黒瀬。
空。
見る。
「もうすぐ夏だね」
「うん」
「…………」
「花火」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「覚えてる?」
「もちろん」
「…………」
「二人で」
「うん」
「行く約束」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「楽しみ」
「俺も」
少し。
沈黙。
「朝倉君」
「何」
「最近」
「うん」
「よく考え事してる?」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「分かる?」
「うん」
「何で」
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「見てるから」
「…………」
またそれ。
でも。
嬉しい。
「進路?」
「それも」
「…………」
「他にも?」
「…………」
俺。
黒瀬。
見る。
好きだと言いたい。
今。
でも。
まだ怖い。
「ある」
「…………」
「何?」
「…………」
言えない。
でも。
逃げたくない。
「いつか話す」
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「また?」
「うん」
「…………」
「ごめん」
「ううん」
黒瀬。
首。
振る。
「待ってる」
「…………」
その。
言葉。
胸に刺さる。
何回待たせてる。
俺。
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「朝倉君」
「何」
「無理しなくていいからね」
「…………」
「話したくなったら」
「うん」
「ちゃんと聞くから」
「…………」
優しい。
だから。
余計。
好きになる。
◇
帰宅。
午後六時。
「ただいま」
「おかえり」
母さん。
台所。
「湊」
「何」
「今日、遅かったね」
「寄り道」
「そう」
「…………」
母さん。
笑う。
「黒瀬さん?」
「…………」
「何で分かる」
「何となく」
「…………」
母さん。
手。
止める。
「湊」
「何」
「黒瀬さんのこと」
「…………」
「好きなの?」
「…………」
止まる。
「…………」
母さん。
俺。
見る。
逃げられない。
「…………」
「うん」
小さく。
答える。
「…………」
母さん。
少し驚く。
そして。
笑う。
「そっか」
「…………」
「初恋?」
「…………」
考える。
小学校。
中学校。
好きな人。
誰かいたのかもしれない。
でも。
こんな気持ちは初めて。
「……多分」
「…………」
母さん。
笑う。
「よかったね」
「何が」
「好きな人ができて」
「…………」
俺。
黙る。
「湊」
「何」
「大切にしなさいね」
「…………」
「うん」
◇
夜。
午後九時半。
ゲーム。
ログイン。
Yuu。
待ってる。
『おかえり!』
『ただいま』
『今日もやる?』
『うん』
『やった!』
マッチ開始。
いつもの連携。
いつものチャット。
でも。
俺。
少し。
考えてる。
黒瀬が言った。
『待ってる』
修学旅行。
カフェ。
言った。
『待ってる』
帰ってきた。
夜にも言った。
『待ってる』
今日。
公園でも。
また言った。
「…………」
何回待たせるつもりなんだ。
俺は。
◇
ゲーム。
終了。
『今日はここまで?』
『うん』
『了解!』
少し。
間。
『朝倉君』
『何』
『今日の公園』
『うん』
『楽しかった』
「…………」
『俺も』
『また寄りたい』
『いいよ』
『…………』
『何』
『何でもない!』
「…………」
笑う。
でも。
今夜は少し違う。
『黒瀬』
『何?』
『夏の花火』
『うん!』
『楽しみにしてる』
『私も!』
指。
止まる。
言いたい。
でも。
文字じゃない。
顔を見て。
伝える。
そう決めた。
『その日』
『うん?』
『ちゃんと話したいことがある』
「…………」
送る。
既読。
つく。
返事。
来ない。
一分。
二分。
「…………」
長い。
少し怖い。
でも。
逃げない。
通知。
『…………』
『朝倉君』
『何』
『それって』
「…………」
来る。
『修学旅行のときの話?』
『うん』
すぐ。
既読。
『…………』
『そっか』
『うん』
『分かった』
少し。
間。
『待ってる』
「…………」
また。
その言葉。
でも。
今度は違う。
俺。
ちゃんと。
日を決めた。
逃げない。
『ありがとう』
『うん!』
『楽しみにしてる』
『俺も』
『おやすみ』
『おやすみ!』
◇
スマホ。
置く。
椅子の背もたれ。
寄りかかる。
「…………」
言った。
花火。
その日にちゃんと。
話す。
黒瀬は分かってる。
多分。
何を話すのか。
もう分かってる。
それでも。
待ってる。
そう言ってくれた。
「…………」
夏。
まだ少し先。
でも。
今日も俺。
一歩進んだ。
修学旅行。
終わったあの日。
決めた。
『次は俺から』
その約束。
少し近づいた。
黒瀬が好き。
その気持ち。
ちゃんと伝える。
友達としてじゃなく。
一人の女の子として。
黒瀬由香。
俺は。
お前が。
好きだ。
その言葉を言う日が。
決まった。
あとは。
俺が踏み出すだけ。




