第35話 好きな人がいる日常
月曜日。
朝。
七時二十分。
「…………」
スマホ。
鳴る。
Yuu。
『おはよう!』
『おはよう』
『今日も学校だね』
『そうだな』
『眠い』
『昨日早く寝るって言ってなかった?』
『言った』
『何時に寝た?』
『一時』
『早くない』
『ゲームしてたら遅くなった』
『知ってる』
『何で!?』
『一緒にやってたから』
『あ』
「…………」
笑う。
昨日の夜。
十一時に終わる。
予定だった。
でも。
『あと一戦!』
黒瀬。
言う。
結局。
一時まで遊んだ。
『今日眠そうだったら起こしてね』
『授業中?』
『休み時間!』
『分かった』
『約束!』
『うん』
スマホ。
置く。
制服。
着る。
鏡。
見る。
「…………」
いつもと。
同じ朝。
でも違う。
学校に行く理由。
また一つ。
増えた。
黒瀬に会える。
それだけ。
少し楽しみ。
◇
教室。
「おはよう!」
陽斗。
「おはよう」
「湊!」
「何」
「土曜日どうだった!?」
「…………」
来た。
「何が」
「黒瀬!」
「声」
「ごめん!」
陽斗。
近づく。
「家来たんだろ!?」
「うん」
「どうだった!?」
「勉強した」
「それだけ!?」
「ゲームも」
「…………」
陽斗。
俺。
見る。
「湊」
「何」
「お前」
「うん」
「本当にそれだけ?」
「…………」
思い出す。
駅。
改札。
『もっと好きになった』
黒瀬に言った。
俺も返した。
「…………」
「湊?」
「…………」
「何その顔!」
「何も」
「絶対何かあった!」
玲司。
席に来る。
「橘」
「何」
「朝からうるさい」
「だって!」
「朝倉」
「何」
「楽しかった?」
「うん」
「ならよかった」
「…………」
玲司。
笑う。
「それだけ?」
陽斗。
「それだけ」
「玲司!」
「何」
「もっと聞けよ!」
「本人が話したくなったら話すだろ」
「…………」
俺。
玲司。
見る。
そういうところ。
助かる。
「ありがとう」
「別に」
玲司。
席に戻る。
「…………」
陽斗。
まだ俺を見る。
「何」
「親友なのに」
「…………」
「俺だけ何も知らない」
「今度話す」
「本当!?」
「うん」
「約束!」
「分かった」
◇
「朝倉君!」
声。
振り返る。
黒瀬がいた。
「おはよう」
「おはよう」
「…………」
黒瀬。
俺を見る。
少し。
笑う。
「何」
「土曜日」
「うん」
「楽しかったね」
「そうだな」
「…………」
「何」
「また行きたい」
「いいよ」
「…………」
黒瀬。
嬉しそうに笑う。
「やった」
「今度は」
「うん」
「勉強じゃなくても」
「…………」
黒瀬。
目。
丸くする。
「いいの?」
「うん」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「朝倉君」
「何」
「最近」
「うん」
「誘ってくれること増えたね」
「…………」
確かに。
前は俺から。
誰か。
誘うなんて。
なかった。
今は。
普通に言える。
「黒瀬だから」
「…………」
言って。
気づく。
「…………」
黒瀬。
固まる。
「……え?」
「…………」
「朝倉君?」
「…………」
逃げることはできる。
でも。
逃げたくない。
「黒瀬といるの」
「うん」
「楽しいから」
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「……そっか」
「うん」
「私も」
「…………」
「朝倉君といるの」
「うん」
「楽しい」
「…………」
それだけ。
なのに。
嬉しい。
◇
昼休み。
「ねえ!」
水瀬。
「何」
黒瀬。
「土曜日!」
「…………」
「朝倉君の家!」
「莉央!」
「どうだった!?」
「勉強した!」
「知ってる!」
「じゃあ何!?」
「他に!」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「…………」
水瀬。
にやにや。
「何その顔」
「何でもない」
「…………」
「由香」
「何」
「何かあったでしょ」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「何もない!」
「嘘」
「嘘じゃない!」
「…………」
小宮山。
笑う。
「由香ちゃん」
「何?」
「お母さんに会ったんだよね?」
「うん」
「どうだった?」
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
「優しかった」
「うん」
「朝倉君に似てた」
「…………」
俺。
止まる。
「どこが」
「優しいところ」
「…………」
陽斗。
笑う。
「湊、優しいもんな!」
「何でお前まで」
「事実!」
玲司。
頷く。
「まあな」
「…………」
小宮山。
笑う。
「私もそう思う」
「…………」
水瀬。
「由香が好きになるの分かる」
「…………!」
黒瀬。
固まる。
「莉央!」
「…………」
俺。
止まる。
「…………」
水瀬。
口。
押さえる。
「あ」
「…………」
沈黙。
「…………」
黒瀬。
真っ赤。
「ち、違う!」
「…………」
「そういう意味じゃ!」
「…………」
陽斗。
俺。
見る。
玲司。
水瀬。
見る。
小宮山。
困った顔。
「…………」
水瀬。
慌てる。
「友達として!」
「…………」
「由香が朝倉君と仲良くなるの分かるって意味!」
「…………」
黒瀬。
頷く。
「そう!」
「…………」
俺。
何も言えない。
でも。
心臓が速い。
水瀬。
今。
何言おうとした。
多分分かる。
でも。
本人が言ってない。
だから。
まだ聞かない。
◇
放課後。
「朝倉君」
黒瀬。
「何」
「今日」
「うん」
「一緒に帰れる?」
「バイト」
「あ」
「ごめん」
「ううん!」
黒瀬。
笑う。
「頑張ってね」
「うん」
「…………」
「何」
「今日」
「うん」
「ゲームできる?」
「十時くらいなら」
「分かった」
「…………」
「待ってる」
「…………」
その言葉。
最近よく聞く。
でも嬉しい。
「うん」
「また夜ね」
「また」
◇
バイト。
カフェ。
午後五時。
「朝倉君」
店長。
「はい」
「今日もよろしく」
「お願いします」
制服。
着る。
注文。
取る。
飲み物。
運ぶ。
片づけする。
いつもの仕事。
でも。
今日は少し違う。
「…………」
黒瀬。
家に来た。
土曜日。
思い出す。
母さん。
黒瀬と話してた。
楽しそうだった。
俺の知らない。
母さんの顔。
見た気がする。
「…………」
嬉しい。
でも。
少し不思議。
今まで。
家。
学校。
別世界。
だった。
学校。
誰とも話さない。
家。
一人でゲーム。
バイト。
お金を稼ぐ。
それぞれ。
別だった。
今。
黒瀬が家に来て。
少し。
世界が繋がった。
「朝倉君」
「はい」
「大丈夫?」
「はい」
「ぼーっとしてた?」
「すみません」
「疲れてる?」
「大丈夫です」
「ならよかった」
「…………」
集中。
しないと。
◇
午後九時。
バイト。
終わる。
「お疲れさまでした」
「お疲れ」
店を出る。
夜。
少し。
涼しい。
「…………」
スマホ。
見る。
通知。
Yuu。
『お疲れさま!』
午後八時五十分。
「…………」
黒瀬。
時間覚えてる。
『終わった』
送る。
すぐ。
既読。
『お疲れ!』
『今帰り?』
『うん』
『気をつけてね』
『ありがとう』
『十時からできそう?』
『できる』
『やった!』
「…………」
笑う。
仕事。
終わる。
帰る。
ゲームする。
それだけ。
でも。
待ってる人がいる。
嬉しい。
◇
午後十時。
ログイン。
ロビー。
Yuu。
いる。
『おかえり!』
『ただいま』
『お疲れさま!』
『ありがとう』
『今日何戦する?』
『三戦くらい』
『了解!』
マッチ開始。
いつものゲーム。
いつもの連携。
でも。
少し違う。
黒瀬が好き。
自覚してから。
ゲーム中。
チャット。
見るだけで。
嬉しい。
『右二人!』
『見えてる』
『詰める?』
『待つ』
『了解!』
いつものやり取り。
なのに。
楽しい。
◇
三戦目。
終了。
『今日はここまで?』
『うん』
『了解!』
少し。
間。
『朝倉君』
『何』
『今日の昼』
「…………」
来た。
『莉央のこと』
『うん』
『ごめんね』
『何が』
『変なこと言って』
『…………』
『気にしてない』
『本当?』
『うん』
少し。
考える。
『でも』
『何?』
『ちょっと嬉しかった』
「…………」
送る。
既読。
止まる。
『え!?』
『何で!?』
『…………』
答え。
分かってる。
でも。
まだ。
全部。
言わない。
『秘密』
『ずるい!』
『黒瀬も秘密多いだろ』
『それはそうだけど!』
「…………」
笑う。
少し。
間。
『朝倉君』
『何』
『私も』
『うん』
『ちょっと嬉しかった』
「…………」
胸。
温かい。
『そっか』
『うん』
『…………』
『何』
『何でもない!』
「…………」
またそれ。
◇
翌日。
朝。
「湊!」
陽斗。
「何」
「今度の土曜日!」
「うん」
「空いてる!?」
「午前なら」
「じゃあ!」
「何」
「家行っていい!?」
「…………」
そういえば。
約束した。
「いいよ」
「マジ!?」
「うん」
「玲司!」
「聞こえてる」
「ゲーム大会!」
「…………」
玲司。
俺。
見る。
「朝倉」
「何」
「本当にいいの?」
「うん」
「迷惑じゃない?」
「別に」
「…………」
少し。
考える。
「来てほしい」
「…………」
玲司。
目。
丸くする。
「…………」
陽斗。
固まる。
「湊」
「何」
「お前」
「うん」
「本当に変わったな」
「…………」
そうかもしれない。
前だったら。
誰かが家に来る。
考えられない。
今は。
自分から。
来てほしい。
と言える。
「…………」
嬉しい。
自分でも。
◇
「何の話?」
黒瀬。
近づく。
「土曜日!」
陽斗。
「何」
「湊の家!」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「朝倉君の家?」
「うん」
「…………」
少し。
考える。
「いいな」
「…………」
陽斗。
笑う。
「黒瀬はもう行っただろ!」
「そうだけど!」
「今度は男子会!」
「男子会?」
「ゲーム大会!」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「朝倉君」
「何」
「私も行きたい」
「…………」
「また?」
「うん」
「…………」
陽斗。
笑う。
「じゃあ六人で集まればいいじゃん!」
「…………」
六人。
俺の家に。
「…………」
考える。
黒瀬。
陽斗。
玲司。
水瀬。
小宮山。
全員。
俺の部屋。
「…………」
狭い。
「無理」
「即答!?」
「部屋狭い」
「リビング!」
「母さんいる」
「挨拶する!」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「楽しそう」
「うん」
小宮山。
「六人でゲーム?」
「そう!」
水瀬。
「私あんまりゲームしないけど」
「教える!」
陽斗。
「陽斗君が?」
「俺も教わる!」
「…………」
玲司。
ため息。
「誰が教えるんだよ」
「湊!」
「…………」
俺。
見る。
六人。
全員。
笑ってる。
「…………」
「朝倉君?」
黒瀬。
「何」
「嫌?」
「…………」
前だったら。
嫌だった。
というより。
怖い。
だった。
自分の場所。
誰かが入る。
それを考えるだけで。
怖かった。
でも。
今は。
「嫌じゃない」
「…………」
「むしろ」
少し。
考える。
「楽しそう」
「…………」
陽斗。
笑う。
「決まり!」
「まだ日程」
「後で決める!」
「…………」
水瀬。
「じゃあグループに送るね!」
スマホ。
出す。
『放課後』
『朝倉家ゲーム大会開催予定!』
『勝手に決めるな』
俺。
返す。
『本人許可済み!』
陽斗。
『楽しみ』
小宮山。
『お菓子持ってく!』
水瀬。
『機材確認しとく』
玲司。
『また行ける!』
黒瀬。
「…………」
笑う。
六人。
俺の家。
まだ。
想像できない。
でも。
楽しみ。
◇
放課後。
黒瀬。
隣。
「朝倉君」
「何」
「最近」
「うん」
「楽しそうだね」
「…………」
「そう?」
「うん」
「…………」
少し。
考える。
「楽しい」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「そっか」
「うん」
「よかった」
「…………」
「何」
「最初」
「うん」
「朝倉君」
「うん」
「いつも一人だったから」
「…………」
去年。
教室。
休み時間。
寝たふり。
昼は一人。
誰とも話さない。
俺。
「…………」
「心配してた?」
「うん」
「…………」
「でも」
黒瀬。
笑う。
「今は」
「うん」
「いっぱい笑う」
「…………」
「私」
「何」
「それが嬉しい」
「…………」
胸。
温かい。
「黒瀬のおかげ」
「…………」
「え?」
「最初」
「うん」
「フレンド申請」
「…………」
「してくれたから」
「…………」
黒瀬。
止まる。
「…………」
「何」
「それ」
「うん」
「私も言おうと思ってた」
「…………」
「何を」
「最初」
黒瀬。
笑う。
「Nagiが一緒に遊んでくれたから」
「…………」
「私も」
「うん」
「ゲームがもっと楽しくなった」
「…………」
同じだった。
俺だけじゃない。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「これからも」
「うん」
「一緒にいてね」
「…………」
俺。
黒瀬。
見る。
好きって言いたい。
今。
でも。
まだ全部を言う。
勇気がない。
「うん」
「…………」
「ずっと」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「約束」
「約束」
◇
夜。
机に向かう。
参考書を開く。
でも。
考える。
黒瀬が言った。
『これからも一緒にいてね』
俺は答えた。
『ずっと』
「…………」
ずっと。
簡単に言った。
でも。
本気だった。
高校。
卒業しても。
大学。
違っても。
住む場所。
変わっても。
黒瀬の隣に。
いたい。
「…………」
それは。
友達として。
じゃない。
もっと近い。
存在として。
「…………」
夏。
あと少し。
去年。
初めて会った。
あの日から。
一年。
そのとき。
ちゃんと言う。
決めた。
でも。
今思う。
夏。
待たなくても。
いいかもしれない。
好きって気持ち。
毎日大きくなる。
黒瀬が笑うたび。
話すたび。
隣を歩くたび。
もっと。
好きになる。
「…………」
俺。
どうしたら。
いいんだろう。
そのとき。
スマホ。
鳴る。
Yuu。
『朝倉君』
『何』
『今日も楽しかったね』
『うん』
『最近』
『うん』
『学校行くの楽しみ』
「…………」
『俺も』
『本当?』
『うん』
『何で?』
「…………」
考える。
答え。
分かってる。
『黒瀬に会えるから』
打つ。
指。
止まる。
「…………」
送る。
少し。
怖い。
でも。
嘘じゃない。
送信。
『黒瀬に会えるから』
「…………」
既読。
つく。
返事。
来ない。
一分。
二分。
「…………」
言いすぎた?
いや。
事実。
でも。
重い?
「…………」
通知。
『…………』
『朝倉君』
『何』
『そういうこと』
『うん』
『急に言わないで』
「…………」
『嫌だった?』
送る。
すぐ。
既読。
『違う!』
『全然違う!』
『嬉しい!』
「…………」
胸。
温かい。
『私も』
『うん』
『朝倉君に会えるから』
『学校楽しい』
「…………」
スマホ。
見る。
何度も読む。
嬉しい。
本当に。
『そっか』
『うん』
『…………』
『何』
『何でもない!』
「…………」
笑う。
『おやすみ』
『おやすみ!』
◇
スマホ。
置く。
窓。
見る。
夜。
静寂。
「…………」
去年の今頃。
俺は学校に行く理由。
なかった。
勉強するだけ。
授業受けるだけ。
誰とも話さない日々。
でも。
今は違う。
学校に行けば。
陽斗がいる。
玲司がいる。
水瀬。
小宮山。
もいる。
そして。
黒瀬がいる。
笑って。
話して。
一緒に帰る。
ゲームする。
そんな毎日が。
当たり前になった。
「…………」
でも。
当たり前じゃない。
最初にフレンド申請。
一つなかったら。
今はなかった。
あの日。
Yuu。
俺。
友達になってくれた。
それが始まりだった。
「…………」
今。
俺は。
黒瀬が好き。
友達としてじゃない。
一人の女の子として。
好き。
その気持ち。
もう隠す必要ない。
でも。
ちゃんと伝える。
タイミング。
考えたい。
黒瀬。
大切だから。
今の関係。
壊したくないから。
じゃない。
これからもっと。
一緒にいたいから。
「…………」
夏。
待つつもりだった。
でも。
もし。
その前に言いたい。
瞬間が来たら。
そのときは逃げない。
そう決めた。
俺の人生。
初めてできた。
友達。
今。
一番。
好きな人。
黒瀬由香。
その人が隣にいる日常。
俺はもう。
手放したくない。




