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『クラスでほとんど誰とも話さない俺の、人生で初めてできた友達は――クラスで一番人気の女子だった。』  作者: 湊


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34/45

第34話 初めて、君が俺の家に来る日


 土曜日。


 午前九時。


「…………」


 部屋。


 見渡す。


 机。


 綺麗。


 床。


 綺麗。


 ベッド。


 綺麗。


「…………」


 もう一回。


 見る。


 特に問題ない。


 はず。


「湊ー!」


 下。


 母さん。


「何!」


「掃除機使うー?」


「もう使った!」


「そうなの?」


「うん!」


「…………」


 少し。


 間。


「珍しいわねー!」


「…………」


 うるさい。


 自覚あるけど。


     ◇


 今日。


 黒瀬が。


 家に来る。


 目的は。


 中間テストの勉強。


 それだけなのに。


「…………」


 落ち着かない。


 昨日の夜。


 机。


 片づけた。


 ゲーム。


 機材。


 整理した。


 本棚。


 並べ直した。


 普段。


 気にしないところ。


 気になる。


「…………」


 女子を家に呼ぶ。


 初めて。


 しかも。


 黒瀬。


 好きな人。


「…………」


 大丈夫。


 なのか。


 俺。


     ◇


 スマホ。


 鳴る。


 Yuu。


『おはよう!』


『おはよう』


『起きてる?』


『起きてる』


『よかった!』


『何が』


『寝坊してたらどうしようかと』


『黒瀬じゃないんだから』


『ひどい!』


『事実』


『今日は絶対寝坊しないもん!』


『もう起きてるだろ』


『そうだった』


「…………」


 笑う。


『何時に行けばいい?』


『十三時くらい』


『分かった!』


『駅まで迎えに行く』


 既読。


 少し。


 間。


『え!?』


『何』


『迎えに来てくれるの!?』


『道分からないだろ』


『そうだけど!』


『嫌?』


『嫌じゃない!』


『むしろ嬉しい!』


「…………」


 嬉しい。


 言われる。


 こっちも。


 嬉しい。


『じゃあ十三時』


『約束!』


『うん』


     ◇


 午前十一時。


 母さん。


 買い物から帰ってくる。


「ただいまー」


「おかえり」


「湊」


「何」


「お菓子買ってきた」


「…………」


 袋。


 見る。


 クッキー。


 チョコ。


 ジュース。


「多くない?」


「そう?」


「二人だぞ」


「余ったら食べればいいじゃない」


「…………」


「黒瀬さん、甘いもの好き?」


「多分」


「じゃあよかった」


 母さん。


 冷蔵庫。


 開ける。


「ところで」


「何」


「黒瀬さんって」


「うん」


「どんな子?」


「前も聞いた」


「そうだった?」


「うん」


「だって気になるじゃない」


「…………」


 母さん。


 笑う。


「湊が初めて家に呼ぶ友達なんだから」


「…………」


 初めて。


 それ。


 何回も。


 言われる。


「普通の子だよ」


「そう」


「うん」


「可愛い?」


「…………」


 止まる。


「何で」


「聞いてみただけ」


「…………」


 可愛い。


 それは。


 当然。


 でも。


 母さんに。


 言う必要ない。


「……まあ」


「…………」


 母さん。


 目。


 丸くする。


「まあ?」


「うん」


「可愛いの?」


「…………」


「湊?」


「可愛いよ」


「…………」


 言った瞬間。


 後悔。


「…………」


 母さん。


 笑う。


「そっかあ」


「何」


「何でもない」


「…………」


 その顔。


 絶対。


 何でもなくない。


     ◇


 十二時四十分。


 家。


 出る。


「行ってきます」


「迎え?」


「うん」


「気をつけてね」


「分かった」


「湊」


「何」


「緊張しすぎないようにね」


「…………」


「してない」


「そう?」


「うん」


「ふふ」


「…………」


 絶対。


 バレてる。


     ◇


 駅。


 十二時五十五分。


 改札前。


 待つ。


「…………」


 スマホ。


 見る。


 まだ五分早い。


「朝倉君!」


「…………」


 声。


 振り返る。


 黒瀬がいた。


「おはよう!」


「もう昼」


「じゃあこんにちは!」


「うん」


 黒瀬。


 笑う。


 いつもは制服。


 でも。


 今日は私服。


 淡い色のブラウス。


 薄手のカーディガン。


 スカート。


 髪。


 いつもより。


 少し丁寧に巻いてる。


「…………」


「朝倉君?」


「何」


「どうしたの?」


「いや」


「…………」


「何」


「今日」


 少し。


 考える。


「雰囲気違う」


「…………!」


 黒瀬。


 顔。


 赤くなる。


「え!?」


「髪」


「…………」


「いつもと違う」


「…………」


 黒瀬。


 髪。


 触る。


「分かる?」


「うん」


「…………」


「何」


「頑張った」


「そうなんだ」


「うん」


「似合ってる」


「…………」


 黒瀬。


 固まる。


「…………」


「黒瀬?」


「ちょっと待って」


「何」


「心の準備」


「…………」


 何の。


「……ありがとう」


 小さく。


 言う。


「うん」


 俺も。


 少し。


 照れる。


     ◇


 駅。


 出る。


「朝倉君の家って遠い?」


「歩いて十分くらい」


「近いね」


「うん」


「いつもこの道?」


「学校帰りは」


「そうなんだ」


 黒瀬。


 周り。


 見る。


「…………」


「何」


「朝倉君が普段歩いてる道」


「うん」


「初めて来た」


「そうだな」


「…………」


 黒瀬。


 少し。


 笑う。


「何か嬉しい」


「何で」


「知らなかったこと」


「うん」


「また一個知れたから」


「…………」


 そういう言葉。


 ずるい。


「黒瀬」


「何?」


「俺も」


「え?」


「黒瀬の知らないこと」


「うん」


「まだいっぱいあると思う」


「…………」


「だから」


 少し。


 考える。


「これから知りたい」


「…………」


 黒瀬。


 立ち止まる。


「…………」


「何」


「朝倉君」


「最近」


「本当にずるい」


「また?」


「また!」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「でも」


「何」


「嬉しい」


「…………」


「そっか」


     ◇


 家。


 到着。


「ここ」


「…………」


 黒瀬。


 家。


 見る。


「朝倉君の家」


「そう」


「…………」


「何」


「本当に来ちゃった」


「約束しただろ」


「そうだけど!」


「入る?」


「…………」


 黒瀬。


 深呼吸。


「うん!」


 玄関。


 開ける。


「ただいま」


「お邪魔します!」


 黒瀬。


 少しだけ。


 大きい声。


「はーい!」


 母さん。


 奥から出てくる。


「あら」


「…………」


 黒瀬。


 固まる。


「初めまして!」


 頭。


 下げる。


「黒瀬由香です!」


「…………」


 母さん。


 少し驚く。


 そして。


 笑う。


「初めまして。湊の母です」


「今日はお邪魔します!」


「そんなに緊張しなくていいのよ」


「は、はい!」


「…………」


 俺。


 見る。


 黒瀬。


 普段は。


 クラスで。


 一番の人気者。


 誰とでも。


 普通に話す。


 なのに。


 今。


 緊張してる。


「黒瀬」


「何!?」


「声」


「…………」


「大きい」


「ごめん!」


「ふふ」


 母さん。


 笑う。


「可愛い子ね」


「…………!」


 黒瀬。


 顔。


 赤い。


「そ、そんな!」


「湊から聞いてたけど」


「…………」


 俺。


 固まる。


「母さん」


「何?」


「何を」


「可愛い子だって」


「…………」


 終わった。


「…………」


 黒瀬。


 俺。


 見る。


「朝倉君?」


「…………」


「そんなこと言ってたの?」


「…………」


 母さん。


 笑う。


「言ってたわよ」


「…………」


 黒瀬。


 真っ赤。


「……そっか」


「…………」


 俺。


 天井。


 見る。


 帰りたい。


 自分の家。


 なのに。


     ◇


「じゃあ、ゆっくりしていってね」


 母さん。


「ありがとうございます!」


「お菓子も持っていくから」


「そんな、お気遣いなく!」


「いいのいいの」


 母さん。


 台所に戻る。


「…………」


 黒瀬。


 俺。


 見る。


「朝倉君」


「何」


「可愛いって」


「…………」


「言ったの?」


「…………」


 逃げられない。


「言った」


「…………」


「何」


「……嬉しい」


「…………」


「ありがとう」


「…………」


「うん」


 心臓。


 うるさい。


     ◇


 二階。


 俺の部屋。


「ここ」


「…………」


 黒瀬。


 入口で止まる。


「…………」


「何」


「朝倉君の部屋」


「そう」


「…………」


「入らないの?」


「入る!」


 黒瀬。


 一歩入る。


「…………」


 周り。


 見る。


 机。


 本棚。


 ベッド。


 ゲーム。


 機材。


「わあ」


「何」


「本当にゲーム好きなんだね」


「知ってるだろ」


「そうだけど!」


 黒瀬。


 パソコンに近づく。


「これ!」


「何」


「いつも使ってるやつ?」


「うん」


「Nagiの?」


「そう」


「…………」


 黒瀬。


 少し笑う。


「ここで」


「うん」


「私とゲームしてたんだ」


「…………」


「そうだな」


「…………」


 黒瀬。


 椅子。


 見る。


「ここに座って?」


「うん」


「毎晩?」


「ほぼ」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「何か不思議」


「何が」


「画面の向こう」


「うん」


「ここだったんだね」


「…………」


 確かに。


 俺も。


 黒瀬の部屋。


 知らない。


 いつも。


 聞こえる。


 キーボードの音。


 向こうは。


 どんな場所なのか。


 知らない。


「今度」


 黒瀬。


「何」


「私の部屋も来る?」


「…………」


「…………」


 黒瀬。


 固まる。


「あ!」


「…………」


「今の!」


「うん」


「変な意味じゃなくて!」


「分かってる」


「本当に!?」


「うん」


「…………」


 黒瀬。


 顔。


 赤い。


「……でも」


「何」


「いつか」


「うん」


「来てほしい」


「…………」


「分かった」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


     ◇


「じゃあ」


 俺。


 参考書。


 出す。


「勉強」


「…………」


 黒瀬。


 パソコン。


 見てる。


「黒瀬」


「何?」


「勉強」


「…………」


「黒瀬」


「あとちょっと!」


「…………」


「ゲーム禁止」


「えー!」


「約束」


「分かった!」


 黒瀬。


 机に向かう。


 俺。


 隣に座る。


「どこ分からない?」


「ここ」


 数学の問題集。


 開く。


「二次関数?」


「うん」


「これ前やっただろ」


「忘れた」


「…………」


「教えて」


「分かった」


     ◇


 三十分。


「ここで代入する」


「うん」


「で、整理」


「…………」


「黒瀬?」


「分かんない」


「どこ」


「全部」


「…………」


「ごめん!」


「大丈夫」


 俺。


 紙を取る。


 式。


 書く。


「まず」


「うん」


「ここ」


「うん」


「この値を入れる」


「…………」


 黒瀬。


 真剣に見る。


「なるほど」


「分かった?」


「多分」


「じゃあ次」


「えー!」


「自分でやらないと」


「厳しい!」


「普通」


「…………」


 黒瀬。


 鉛筆。


 持つ。


 考える。


「…………」


 横顔。


 見る。


 普段明るい。


 黒瀬。


 今は真剣。


 少し。


 眉寄せてる。


 唇。


 小さく。


 動く。


「…………」


 可愛いと思う。


「朝倉君」


「!」


「何」


「ここ」


「うん」


「合ってる?」


「…………」


 問題。


 見る。


「合ってる」


「やった!」


 黒瀬。


 笑う。


「できた!」


「うん」


「朝倉君のおかげ!」


「自分で解いた」


「でも教えてくれたから」


「…………」


 嬉しい。


 普通に。


     ◇


 コンコン。


「湊ー」


「何」


「お茶持ってきたわよ」


「ありがとう」


 母さん。


 入ってくる。


 お盆に。


 クッキーとジュース。


「勉強進んでる?」


「はい!」


 黒瀬。


 笑う。


「朝倉君、教えるのすごく上手です!」


「あら」


 母さん。


 嬉しそう。


「そうなの?」


「はい!」


「湊、昔から説明するの苦手だったのに」


「母さん」


「そうだったんですか?」


「そうなのよ」


「…………」


 黒瀬。


 俺。


 見る。


「成長したんだね」


「うるさい」


「ふふ」


 母さん。


 笑う。


「黒瀬さん」


「はい」


「湊と仲良くしてくれてありがとうね」


「…………」


 黒瀬。


 少し驚く。


「え?」


「この子」


「…………」


「昔からあまり友達の話しなくて」


「…………」


「学校どうなのかなって」


 母さん。


 俺。


 見る。


「少し心配してたの」


「…………」


「でも最近」


「うん」


「よく笑うようになったから」


「…………」


 黒瀬。


 黙る。


「きっと」


 母さん。


 笑う。


「黒瀬さんたちのおかげね」


「…………」


 俺。


 何も言えない。


 母さん。


 そんなこと。


 考えてた。


 知らなかった。


「…………」


 黒瀬。


 少し。


 考える。


「……違います」


「え?」


「朝倉君」


「…………」


「最初から優しかったです」


「…………」


「ただ」


 黒瀬。


 俺。


 見る。


「ちょっと話すのが苦手だっただけで」


「…………」


「今も」


「うん」


「すごく優しいです」


「…………」


 母さん。


 笑う。


「そう」


「はい」


「ありがとう」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「こちらこそ」


「…………」


 俺。


 顔。


 上げられない。


 何。


 この空気。


 恥ずかしい。


 でも。


 嬉しい。


     ◇


 母さん。


 部屋から。


 出る。


「…………」


 静か。


「朝倉君」


「何」


「お母さん」


「うん」


「優しいね」


「そうだな」


「…………」


「何」


「何か」


 黒瀬。


 笑う。


「朝倉君に似てる」


「…………」


「どこが」


「優しいところ」


「…………」


「あと」


「何」


「ちょっと照れ屋」


「…………」


「俺?」


「うん」


「母さんは違うだろ」


「朝倉君は?」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「やっぱり」


「…………」


 勝てない。


     ◇


 午後三時。


「休憩!」


 黒瀬。


 両手。


 上げる。


「まだ一時間半」


「頑張った!」


「まあ」


「でしょ!」


「…………」


 黒瀬。


 パソコン。


 見る。


「ゲーム」


「…………」


「ちょっとだけ!」


「一試合」


「やった!」


 俺。


 パソコン。


 起動。


 黒瀬。


 隣の椅子。


 座る。


「…………」


「何」


「いつも」


「うん」


「画面越しなのに」


「そうだな」


「今日は隣」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「変な感じ」


「うん」


「でも」


「何」


「嬉しい」


「…………」


 俺も。


 嬉しい。


     ◇


 ゲーム。


 起動。


「じゃあ」


 黒瀬。


「うん」


「私、横で指示する!」


「操作しないの?」


「一台しかないでしょ」


「まあ」


「だから!」


「うん」


「私が司令塔!」


「…………」


「頼む」


「任せて!」


 マッチ。


 開始。


「右!」


「見えてる」


「敵二人!」


「分かってる」


「回復!」


「今してる」


「朝倉君!」


「何」


「私の指示聞いてる!?」


「聞いてる」


「本当に!?」


「うん」


「…………」


 黒瀬。


 頬。


 膨らませる。


「いつものNagiと違う」


「何が」


「今日は反抗的」


「いつもだろ」


「…………」


「そうだった」


「…………」


 笑う。


     ◇


 終盤。


「あと二部隊!」


 黒瀬。


「分かってる」


「右の高台!」


「見えてる」


「詰める?」


「待つ」


「何で?」


「向こう同士戦わせる」


「…………」


 黒瀬。


 画面。


 見る。


「なるほど」


「うん」


「じゃあ」


 少し。


 笑う。


「いつもの作戦だね」


「そう」


 敵。


 交戦。


 始まる。


「今!」


 黒瀬。


「分かってる!」


 俺。


 動く。


 撃つ。


 最後の一人。


 倒す。


 画面に表示される。


 CHAMPION。


「やったー!」


 黒瀬。


 立つ。


「勝った!」


「うん」


「朝倉君!」


「何」


「ハイタッチ!」


「…………」


 手。


 上げる。


 ぱん。


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「やっぱり」


「何」


「私たち最強!」


「そうだな」


「…………」


 ゲームの中。


 初めての友達ができた。


 あの頃。


 まさか。


 こうして。


 同じ部屋。


 隣に座って。


 笑う日が来るなんて。


 思わなかった。


     ◇


 午後四時。


「そろそろ帰るね」


 黒瀬。


「送る」


「いいの?」


「うん」


「ありがとう」


 荷物。


 まとめる。


 階段。


 降りる。


「お邪魔しました!」


 黒瀬。


 母さん。


 出てくる。


「あら、もう帰るの?」


「はい!」


「またいつでも来てね」


「ありがとうございます!」


「湊」


「何」


「ちゃんと送ってあげなさい」


「分かってる」


「ふふ」


 黒瀬。


 笑う。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ」


 母さん。


 少し。


 考える。


「黒瀬さん」


「はい」


「湊と仲良くしてあげてね」


「…………」


 黒瀬。


 俺。


 見る。


 そして。


 笑う。


「もちろんです」


「…………」


「ずっと」


「…………」


「仲良くしたいです」


「…………」


 母さん。


 嬉しそうに笑う。


「ありがとう」


「…………」


 俺。


 何も言えない。


     ◇


 駅まで。


 歩く。


「朝倉君」


「何」


「今日」


「うん」


「楽しかった」


「勉強?」


「それも!」


「ゲーム?」


「それも!」


「じゃあ何」


「…………」


 黒瀬。


 少し。


 考える。


「朝倉君のこと」


「…………」


「またいっぱい知れたから」


「…………」


「楽しかった」


「…………」


 心臓。


 速い。


「俺も」


「…………」


「黒瀬が来てくれて」


「うん」


「嬉しかった」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「よかった」


     ◇


 駅。


 改札。


「じゃあまた月曜日」


 黒瀬。


「うん」


「…………」


「何」


「また行っていい?」


「…………」


「家」


「いいよ」


「本当?」


「うん」


「…………」


 黒瀬。


 少し。


 笑う。


「じゃあ」


「何」


「次は」


 少し。


 間。


「勉強じゃなくてもいい?」


「…………」


 俺。


 黒瀬。


 見る。


「いいよ」


「…………」


「遊びに来れば」


「…………」


 黒瀬。


 顔。


 赤い。


「うん!」


「…………」


「約束ね」


「約束」


 黒瀬。


 改札。


 通る。


 振り返る。


「朝倉君!」


「何」


「今日」


「うん」


「お母さんに会えてよかった!」


「…………」


「私」


 黒瀬。


 笑う。


「もっと朝倉君のこと好きになった!」


「…………」


 止まる。


「…………」


 黒瀬も。


 止まる。


「…………!」


「あ!」


 黒瀬。


 真っ赤。


「違っ!」


「…………」


「そういう!」


「…………」


「友達として!」


「…………」


「…………」


 言い訳。


 早い。


 でも。


 俺はもう。


 分かる。


 気がする。


「…………」


「黒瀬」


「何!?」


「俺も」


「…………」


「今日」


「うん」


「黒瀬のこと」


「…………」


「もっと好きになった」


「…………」


 言った。


 でも。


 まだ。


 友達。


 なのか。


 それ以上。


 なのか。


 言ってない。


「…………」


 黒瀬。


 固まる。


 目。


 丸い。


「…………」


「……そっか」


 小さい。


 声。


「うん」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


 今まで。


 見た中で。


 一番嬉しそう。


「じゃあね!」


「うん」


「また月曜日!」


「また」


 黒瀬。


 改札の。


 向こうに。


 消える。


「…………」


 俺。


 その場で立つ。


 しばらく。


 動けない。


 好きと言った。


 初めて。


 黒瀬本人に。


 でも。


 まだ。


 本当の意味で。


 全部伝えてない。


「…………」


 夏。


 もうすぐ。


 そのときは。


 ちゃんと言う。


 逃げない。


 曖昧にしない。


 俺は。


 黒瀬由香が。


 好き。


 友達として。


 じゃなく。


 一人の。


 女の子として。


 その言葉。


 次はちゃんと伝える。


     ◇


 夜。


 Yuu。


『今日はありがとう!』


『こっちこそ』


『お母さんにもよろしくね!』


『分かった』


『また遊びに行っていい?』


『いいよ』


『やった!』


 少し。


 間。


『朝倉君』


『何』


『今日最後に言ったこと』


「…………」


『うん』


『嬉しかった』


「…………」


『俺も』


『私が言ったこと』


『うん』


『忘れないでね』


『忘れない』


『約束』


『約束』


 スマホ。


 置く。


 部屋。


 見る。


 黒瀬。


 今日座ってた。


 椅子。


 勉強してた。


 机。


 ゲーム見てた。


 パソコン。


「…………」


 同じ。


 部屋。


 なのに。


 少し。


 違って。


 見える。


 ここは。


 俺が一人でいる場所。


 だった。


 誰にも。


 見せたことなかった場所。


 今日。


 初めて。


 友達が来た。


 好きな女の子が来た。


 そして。


 帰ったあと。


 こんなに寂しいなんて。


 思わなかった。


「…………」


 また。


 来てほしい。


 勉強じゃなくても。


 ゲームじゃなくても。


 ただ一緒にいる。


 それだけでもいい。


 そう思う相手。


 初めてできた。


 人生で初めてできた。


 友達。


 今。


 俺が。


 一番好きな人。


 その人に。


 今日。


 初めて。


『もっと好きになった』


 と言えた。


 まだ。


 全部じゃない。


 でも。


 一歩進んだ。


 確かに。


 進んだ。


 次は。


 曖昧じゃなく。


 ちゃんと伝える。


 



 俺は。


 黒瀬が好きだ。





 その日まで。


 あと少し。


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