第32話 あと少しなのに、届かない
朝。
六時二十分。
目が覚める。
「…………」
知らない天井。
一瞬。
どこか考える。
修学旅行。
二日目。
隣。
陽斗。
寝てる。
布団。
半分。
落ちてる。
玲司。
普通に。
寝てる。
「…………」
スマホ。
見る。
通知。
一件。
Yuu。
『おはよう』
六時十二分。
「…………」
早い。
『おはよう』
返す。
すぐ。
既読。
『起きてた!』
『今起きた』
『寝れた?』
『普通』
『私はあんまり』
『何で』
少し。
間。
『考え事』
「…………」
多分。
昨日。
好きな人の話。
『俺も』
『え』
『少し考えてた』
既読。
『昨日の話?』
『うん』
長い。
間。
『そっか』
『うん』
それだけ。
でも。
何となく。
同じこと。
考えてた。
気がする。
◇
「おはよー!」
朝食会場。
水瀬。
元気。
「朝から声でかい」
玲司。
「陽斗よりマシ」
「俺まだ何も言ってない!」
「存在が」
「ひどくない!?」
「朝倉君」
「何」
黒瀬。
俺。
見る。
「おはよう」
「おはよう」
「…………」
「…………」
昨日。
『好きな人いるの?』
『いる』
思い出す。
黒瀬も。
同じなのか。
黒瀬。
少し。
目。
逸らす。
「…………」
何か。
昨日までと違う。
「由香」
水瀬。
「何?」
「顔赤くない?」
「赤くない!」
「朝から?」
「朝だから!」
「意味分かんない」
「莉央!」
「…………」
俺。
味噌汁。
飲む。
「湊」
陽斗。
小声。
「何」
「頑張れ」
「朝からやめろ」
「何も言ってない」
「言ってる」
「…………」
玲司。
笑ってる。
全員。
面倒。
◇
二日目。
午前。
クラス全体行動。
「うわ!」
陽斗。
「すげえ!」
「だから声」
玲司。
「今日何回言うの!?」
「必要なだけ」
観光地。
人。
多い。
「六人で写真撮ろ!」
小宮山。
「いいね」
水瀬。
「朝倉君」
「何」
「今日も笑ってね」
「努力する」
「成長した」
「うるさい」
近くにいた先生。
「撮ってやるぞ」
「お願いします!」
六人。
並ぶ。
俺。
黒瀬。
隣。
昨日と同じ。
でも。
今日は。
妙に。
意識する。
「もっと詰めろー」
先生。
「…………」
黒瀬。
近づく。
腕。
触れる。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「緊張してる?」
「してない」
「私もちょっと」
「…………」
「何で」
「知らない」
シャッター。
「お前ら前向けー」
「すみません!」
水瀬。
笑う。
「二人の世界入らないで」
「入ってない!」
黒瀬。
即答。
「…………」
俺。
否定。
できない。
「朝倉君も何か言って!」
「写真撮るぞ」
「そこ!?」
◇
昼前。
体験施設。
班で分かれる。
「二人組作ってください」
「…………」
係員。
簡単に。
言う。
六人。
三組。
「俺、玲司!」
陽斗。
「勝手に決めるな」
「嫌?」
「別に」
「じゃあ決定!」
「琴葉」
水瀬。
「一緒にやろ」
「うん」
「…………」
残る。
俺。
黒瀬。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「余ったね」
「そうだな」
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「でも」
「うん」
「嫌じゃない」
「俺も」
「…………」
去年。
余るの。
嫌だった。
今は。
二人余った。
でも。
意味。
全然違う。
「三組できましたね」
係員。
「では始めます」
◇
体験。
伝統工芸。
小さい。
アクセサリー。
作る。
「難しい」
黒瀬。
「そこ違う」
「え?」
「こっち」
「どこ?」
「貸して」
手。
伸ばす。
黒瀬。
持ってる。
部品。
触る。
指。
触れる。
「…………」
「…………」
二人。
止まる。
「朝倉君」
「何」
「手」
「うん」
「…………」
「ごめん」
「謝らなくていいけど」
「…………」
離す。
「何で二人とも固まってんの?」
向かい。
水瀬。
「何でもない!」
黒瀬。
「聞いてないのに由香が答えた」
「…………」
「莉央」
「はいはい」
「朝倉」
玲司。
「何」
「顔」
「うるさい」
「まだ何も言ってない」
「言うだろ」
「…………」
黒瀬。
小声。
「みんな最近ひどい」
「そうだな」
「朝倉君のせいでもあるよ」
「何で」
「…………」
「知らない」
「理不尽」
◇
完成。
「できた!」
黒瀬。
小さな。
青い。
ストラップ。
「朝倉君は?」
「これ」
「黒?」
「うん」
「朝倉君っぽい」
「そう?」
「うん」
「黒瀬のも」
「私っぽい?」
「青好きだろ」
「覚えてる?」
「キーホルダーも青系選んでた」
「…………」
「何」
「朝倉君」
「うん」
「私のこと結構見てるよね」
「…………」
言われる。
最近。
よく。
「黒瀬もだろ」
「え?」
「俺のこと」
「…………」
「結構見てる」
「…………」
黒瀬。
固まる。
「違う?」
「…………」
「違わない」
「…………」
今度。
俺。
困る。
「ほらー!」
水瀬。
「置いてくよー!」
「今行く!」
◇
午後。
班別行動。
六人。
歩く。
「食べ歩き!」
陽斗。
「昼食べたばっかり」
小宮山。
「旅行中は別腹!」
「使い方違う」
玲司。
「これ食べたい!」
水瀬。
「私も」
黒瀬。
「朝倉君は?」
「食べる」
「即答」
「美味そう」
「じゃあ六個!」
「勝手に決めるな」
「食べるんでしょ?」
「食べる」
「じゃあいいじゃん」
六人。
串。
持つ。
「写真!」
水瀬。
「食べる前に!」
「また?」
俺。
「いっぱい撮るって言ったじゃん」
黒瀬。
「そうだった」
「忘れないで」
「うん」
スマホ。
構える。
六人。
入らない。
「誰か撮って」
「自撮りでいいだろ」
玲司。
「腕長い人!」
陽斗。
「玲司!」
「俺?」
「一番背高い!」
「関係ある?」
「ある!」
玲司。
スマホ。
持つ。
「寄って」
全員。
集まる。
俺。
端。
黒瀬。
隣。
「朝倉君」
「何」
「もっと」
「入ってる」
「遠い」
「…………」
黒瀬。
俺の。
袖。
引く。
「これでいい」
「うん」
カシャ。
「…………」
写真。
見る。
六人。
笑ってる。
「いいね」
小宮山。
「送って」
「グループに入れる」
玲司。
『放課後』
写真。
届く。
「…………」
保存。
「朝倉君」
「何」
「また保存した?」
「うん」
「全部?」
「ほぼ」
「…………」
「黒瀬は?」
「全部」
「同じじゃん」
「うん」
笑う。
「同じ」
◇
夕方。
予定。
少し空く。
「どうする?」
陽斗。
「集合まで四十分」
玲司。
「お土産追加?」
小宮山。
「座りたい」
水瀬。
「歩き疲れた」
「じゃあカフェ」
黒瀬。
「近くにあるよ」
「賛成!」
店に入る。
混んでる。
「四人席と二人席ならすぐご案内できます」
店員。
「…………」
六人。
見る。
「じゃあ」
水瀬。
「四人と二人で」
「誰が二人?」
陽斗。
「…………」
水瀬。
黒瀬。
俺。
見る。
「決まりじゃない?」
「莉央」
「何?」
「…………」
黒瀬。
何も。
言えない。
「俺たち四人でいい」
玲司。
「朝倉と黒瀬、二人席」
「玲司まで!?」
「別にいいだろ」
「…………」
俺。
黒瀬。
見る。
「嫌?」
「嫌じゃない!」
「じゃあ行こ」
「…………」
「うん」
◇
二人席。
向かい。
黒瀬。
「…………」
「…………」
六人で。
旅行。
来てる。
なのに。
こうして。
二人になる。
少し。
嬉しい。
「朝倉君」
「何」
「みんな」
「うん」
「わざとだよね」
「多分」
「…………」
「嫌だった?」
「ううん」
即答。
「むしろ」
止まる。
「何」
「…………」
「ちょっと嬉しい」
「…………」
黒瀬。
メニュー。
顔。
隠す。
「何」
「言ったら恥ずかしくなった」
「…………」
「朝倉君は?」
「俺も」
「…………」
「嬉しい」
メニュー。
少し。
下がる。
目が合う。
「そっか」
「うん」
何してる。
俺たち。
ほぼ。
お互い。
言ってる。
ようなもの。
なのに。
最後だけ。
言えない。
◇
「昨日」
黒瀬。
「うん」
「チャット」
「好きな人?」
「…………」
「直球」
「黒瀬から聞いたんだろ」
「そうだけど」
「うん」
「…………」
黒瀬。
ストロー。
触る。
「同じクラスなんだね」
「うん」
「私も」
「うん」
「…………」
沈黙。
「朝倉君」
「何」
「その人」
「うん」
「仲いい?」
「…………」
黒瀬。
仲…。
いい。
かなり。
「いい」
「そっか」
「黒瀬は?」
「…………」
「いいよ」
「そっか」
「うん」
また沈黙。
「よく話す?」
黒瀬。
「毎日」
「…………」
「黒瀬は?」
「毎日」
「…………」
「二人で出かけたりする?」
「する」
「…………」
「私も」
「…………」
待て。
これ。
黒瀬の相手。
俺じゃない?
毎日話す。
二人で出かける。
同じクラス。
「…………」
でも。
黒瀬。
他の男子。
毎日話す。
可能性ある。
二人で。
出かける。
「…………」
ある?
「朝倉君?」
「何」
「すごい考えてる」
「いや」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「その人」
「うん」
「ゲームする?」
「…………」
もう。
それ。
答えだろ。
「する」
「…………」
黒瀬。
固まる。
「…………」
「黒瀬?」
「するんだ」
「うん」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「そっか」
「うん」
「…………」
「黒瀬の好きな人は?」
聞く。
「ゲーム」
「…………」
黒瀬。
口。
開く。
「する」
「…………」
俺だろ。
これ。
俺じゃなかったら。
誰。
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
俺も。
見る。
多分。
黒瀬も。
同じこと。
思ってる。
「…………」
「…………」
あと。
一言。
『それって俺?』
聞けば。
終わる。
いや。
始まる。
でも。
「お待たせしました」
「!」
二人。
同時。
動く。
店員。
飲み物。
置く。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
「…………」
「…………」
タイミング。
最悪。
いや。
助かった。
どっち。
◇
「朝倉君」
「何」
「今」
「うん」
「何か聞こうとした?」
「…………」
「黒瀬も?」
「…………」
「うん」
また。
止まる。
「…………」
「やめとく?」
黒瀬。
聞く。
少し。
怖そう。
俺も。
怖い。
「…………」
「今日は」
「うん」
「やめとく」
「…………」
「そっか」
黒瀬。
少し。
安心したような。
少し。
残念そうな。
顔。
「でも」
「うん」
「いつか」
俺。
言う。
「ちゃんと話す」
「…………」
「俺から」
黒瀬。
目。
見開く。
「…………」
「うん」
小さく。
頷く。
「待ってる」
「…………」
また。
その言葉。
今度は。
意味が違って。
聞こえた。
◇
店。
出る。
四人。
待ってる。
「遅い!」
陽斗。
「十五分」
玲司。
「何話してたの?」
水瀬。
「秘密」
黒瀬。
「お」
「何」
「由香が秘密って言った」
「言うでしょ!」
「朝倉」
玲司。
「何」
「顔」
「何」
「惜しかった?」
「…………」
「何で分かる」
「やっぱり」
「玲司」
「何」
「後で」
「分かった」
「何!?」
陽斗。
「俺も混ぜろ!」
「嫌」
「何で!」
◇
ホテル。
二日目。
夜。
男子部屋。
「で!?」
陽斗。
「何」
「何があった!?」
「うるさい」
「カフェ!」
「別に」
「二人で何話した!?」
「好きな人」
「…………」
陽斗。
止まる。
「は?」
「お互い」
「好きな人」
「同じクラス」
「仲いい」
「毎日話す」
「二人で出かける」
「…………」
「ゲームもする」
「…………」
陽斗。
俺。
見る。
「湊」
「何」
「それ」
「うん」
「お前のことじゃないの?」
「…………」
「俺も思った」
「じゃあ何で告白してない!?」
「怖かった」
「そこまで来て!?」
「橘」
玲司。
「気持ちは分かる」
「玲司!」
「確定じゃない」
「いやほぼ確定だろ!」
「ほぼと確定は違う」
「…………」
そう。
それ。
「もし」
俺。
「違ったら」
「うん」
「終わる」
「…………」
陽斗。
黙る。
「でも」
玲司。
「何」
「朝倉」
「うん」
「黒瀬に言ったんだろ」
「何を」
「いつかちゃんと話すって」
「…………」
「うん」
「なら」
玲司。
俺。
見る。
「もう逃げられないな」
「…………」
「分かってる」
「いつ?」
陽斗。
「まだ」
「修学旅行中?」
「…………」
考える。
旅行。
特別。
雰囲気。
ある。
でも。
ここで。
勢い任せ。
違う気がする。
「多分」
「うん」
「今じゃない」
「何で」
「ちゃんと」
黒瀬に伝えたい。
「自分で決めたときに言いたい」
「…………」
陽斗。
笑う。
「そっか」
「うん」
「じゃあ」
「何」
「そのときは報告しろ」
「何で」
「親友だろ!」
「…………」
親友。
陽斗。
普通に。
言う。
「…………」
「何」
「いや」
「何だよ」
「別に」
少し。
嬉しい。
「分かった」
「マジ!?」
「成功したら」
「失敗したら!?」
「寝込む」
「そのときも来い!」
「嫌」
「行くからな!」
「勝手にしろ」
「玲司も!」
「行く」
「…………」
笑う。
俺。
好きな人の話。
友達にしてる。
こんな日。
来ると思わなかった。
◇
一方。
女子部屋。
「由香」
「何」
「で?」
水瀬。
「何が」
「カフェ」
「…………」
「二人で何話したの?」
「秘密」
「昨日私たちには好きって認めたのに?」
「それとこれは別!」
「じゃあ」
小宮山。
「何か進んだ?」
「…………」
由香。
枕。
抱える。
「多分」
「うん」
「朝倉君の好きな人」
「私」
「…………」
「だと思う」
水瀬。
拍手。
「やっと!」
「静かに!」
「何でそう思ったの?」
小宮山。
「同じクラスで」
「毎日話して」
「二人で出かけて」
「ゲームするって」
「…………」
水瀬。
「それ由香以外誰?」
「分かんない!」
「いないよ」
「でも!」
「由香」
「何」
「朝倉君、女子と二人で出かける相手」
「…………」
「他にいると思う?」
「…………」
「いない」
「ゲーム毎日する女子」
「…………」
「私」
「じゃあ」
「でも!」
由香。
顔。
赤い。
「本人から聞いてない!」
「面倒くさい!」
「莉央!」
「両想いほぼ確定なのに!」
「ほぼでしょ!」
「…………」
小宮山。
笑う。
「二人似てるね」
「どこが!?」
「最後の一歩が怖いところ」
「…………」
由香。
黙る。
「朝倉君」
「うん」
「いつかちゃんと話すって」
「…………」
水瀬。
表情。
変わる。
「それ言ったの?」
「うん」
「俺からって」
「…………」
「由香」
「何」
「待ちな」
「…………」
「多分」
水瀬。
笑う。
「ちゃんと来るから」
「…………」
「うん」
由香。
小さく。
頷く。
「待つ」
◇
三日目。
最終日。
「帰りたくない!」
陽斗。
「昨日から言ってる」
玲司。
「終わるの早すぎる!」
「分かる」
水瀬。
「私ももう一泊したい」
小宮山。
「朝倉君は?」
黒瀬。
「帰りたい」
「え」
「疲れた」
「ひどい!」
「でも」
「うん」
「終わるのは」
少し。
考える。
「寂しい」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「私も」
◇
最後。
自由時間。
お土産。
追加で買う。
「朝倉君」
「何」
「これ」
黒瀬。
小さい。
猫のストラップ。
「猫」
「うん」
「可愛い」
「珍しい」
「私も可愛いもの好きだよ!」
「知ってる」
「…………」
「何」
「知ってるんだ」
「ゲームセンターで猫取っただろ」
「あ」
「クッションも」
「覚えてる」
「うん」
黒瀬。
ストラップ。
二個。
取る。
「二個?」
「…………」
「一個」
俺に差し出す。
「え」
「お揃い」
「…………」
「嫌?」
「嫌じゃない」
「じゃあ」
「買う」
「私が見つけたから私が買う」
「いや」
「いいの」
「でも」
「修学旅行のお土産」
「誰への」
「朝倉君」
「…………」
「だから」
黒瀬。
笑う。
「受け取って」
「…………」
「分かった」
「よし」
◇
会計。
終わる。
黒瀬。
猫のストラップ。
俺に渡す。
「はい」
「ありがとう」
「つける?」
「今?」
「うん」
「じゃあ」
旅行。
六人。
お揃いのキーホルダー。
その隣。
猫のストラップ。
つける。
黒瀬も。
同じ。
「…………」
二つのお揃い。
一つは六人。
一つは二人。
「朝倉君」
「何」
「これ」
猫。
触る。
「二人だけだね」
「…………」
「そうだな」
「…………」
嬉しそう。
笑う。
「大事にしてね」
「黒瀬も」
「もちろん」
◇
帰りのバス。
「席!」
水瀬。
「行きと同じでいい?」
小宮山。
「いいよ」
陽斗。
「俺玲司!」
「別にいいけど」
「何で毎回その反応!?」
「朝倉君」
「うん」
言われる前に。
もう分かる。
「隣」
「うん」
座る。
◇
バスが走る。
疲れ。
全員。
静か。
黒瀬。
窓。
見る。
「朝倉君」
「何」
「楽しかったね」
「うん」
「一番何が楽しかった?」
「…………」
選べない。
六人。
ご飯。
観光。
水族館。
展望台。
夜。
陽斗。
玲司。
話。
今日。
猫。
「全部」
「何でもいいと同じ」
「違う」
「じゃあ一個」
「…………」
考える。
「六人で」
「うん」
「回ったこと」
「…………」
「それが一番」
黒瀬。
笑う。
「私も」
「うん」
「…………」
「でも」
「何」
「二番目は?」
「…………」
何。
その質問。
「黒瀬は?」
「私?」
「うん」
「…………」
少し。
考える。
「朝倉君と」
「うん」
「二人で写真撮ったこと」
「…………」
「あと」
猫のストラップ。
触る。
「これ」
「…………」
「二つある」
「それ二番目じゃない」
「同率」
「ずる」
「朝倉君は?」
「…………」
俺。
スマホ。
開く。
写真。
夕日。
二人。
向き合って。
笑ってる。
「俺も」
「…………」
「写真」
黒瀬。
目。
見開く。
「ほんと?」
「うん」
「…………」
「何」
「嬉しい」
「そっか」
「うん」
◇
しばらくして。
「朝倉君」
「何」
「眠い」
「寝れば」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「何」
「行き」
「うん」
「肩」
「…………」
「ああ」
「また」
「…………」
「借りてもいい?」
聞くの。
ずるい。
「いいよ」
「…………」
黒瀬。
ゆっくり。
俺の肩。
頭乗せる。
「重かったら言って」
「大丈夫」
「うん」
目。
閉じる。
「朝倉君」
「何」
「三日間」
「うん」
「ありがとう」
「何が」
「いっぱい」
「…………」
「俺も」
「うん」
少しして。
寝息。
聞こえる。
「…………」
行き。
心臓。
うるさかった。
今も。
うるさい。
でも。
少し違う。
黒瀬。
好き。
ちゃんと。
伝える。
まだ怖い。
でも。
もうずっと。
このままでいる。
つもりはない。
黒瀬。
言った。
『待ってる』
あれが。
どういう。
意味だったか。
分からない。
でも。
俺から。
言う。
そう。
決めた。
◇
学校。
到着。
「終わったー!」
陽斗。
「現実!」
水瀬。
「明日休みでよかった」
小宮山。
「部活ある」
玲司。
「俺も!」
「頑張れ」
俺。
「他人事!」
「他人だから」
「親友だろ!?」
「…………」
また。
普通に。
言う。
「そうだな」
「…………」
陽斗。
止まる。
「え」
「何」
「認めた」
「何を」
「親友!」
「うるさい」
「湊ー!」
「抱きつくな」
「照れるな!」
「本気でやめろ」
「ふふ」
小宮山。
笑う。
水瀬。
スマホ。
出す。
「最後!」
「何」
「六人で写真」
「ここで?」
「修学旅行終わりの一枚」
「撮ろ」
黒瀬。
「うん」
近くの先生。
頼む。
「はい、撮るぞー」
六人。
並ぶ。
俺。
黒瀬。
隣。
陽斗。
玲司。
水瀬。
小宮山。
「笑えよー」
先生。
「はい!」
シャッター。
切れる。
◇
『放課後』
夜。
水瀬。
大量の写真。
送る。
『三日分!』
『多い』
玲司。
『200枚!?』
陽斗。
『もっと撮ればよかった』
小宮山。
『十分でしょ笑』
黒瀬。
俺。
写真。
見る。
六人。
笑ってる。
食べてる。
ふざけてる。
観光。
水族館。
展望台。
最後。
集合写真。
「…………」
一年前。
俺のスマホ。
学校の写真。
ほとんど。
なかった。
今。
多すぎる。
スクロール。
終わらない。
「…………」
保存する。
全部。
◇
個人。
通知。
黒瀬。
『三日間ありがと』
『こっちこそ』
『楽しかった?』
『何回聞くの』
『何回でも』
『楽しかった』
『よかった』
少し。
間。
『私も』
『今までで一番楽しい修学旅行だった』
『修学旅行何回行ったの』
『小学校と中学校』
『じゃあ3回』
『そう』
『朝倉君は?』
「…………」
小学校。
中学校。
記憶はある。
でも。
班。
誰と一緒だった。
あまり。
覚えてない。
『俺も』
『一番』
既読。
『…………』
『何』
『嬉しい』
『うん』
『朝倉君』
『何』
『昨日の』
「…………」
来る。
『いつかちゃんと話すってやつ』
『うん』
長い。
間。
『忘れないでね』
「…………」
『忘れない』
今度は。
すぐ。
返す。
『うん』
『待ってる』
「…………」
やっぱり。
その言葉。
『黒瀬』
『何?』
好き。
今。
言える。
スマホ。
文字なら。
でも。
違う。
ちゃんと。
顔見て。
言う。
『何でもない』
『またそれ?』
『うん』
『じゃあ待つ』
「…………」
『いつか聞かせて』
『分かった』
◇
スマホ。
置く。
鞄。
見る。
六人。
お揃いのキーホルダー。
その隣。
黒瀬と二人だけ。
猫のストラップ。
俺には。
五人。
友達がいる。
その中の。
一人。
人生で。
初めて。
できた。
友達。
今は。
好きな人。
修学旅行で。
俺は。
初めて。
その気持ちを。
誰かに。
言った。
『黒瀬のこと、好き』
次。
言う相手はもう。
決まってる。
黒瀬由香。
本人。
ただ。
まだ。
少しだけ。
時間が必要。
怖いから。
じゃない。
ちゃんと。
伝えたいから。
高校生活。
最後の。
修学旅行。
それが。
終わったとき。
俺たちの距離は。
始まる前より。
確実に。
近くなっていた。
あと一歩。
その一歩を。
次は。
俺から。
踏み出す。




