第31話 六人で行く、最初で最後の修学旅行
集合場所。
朝七時。
眠そうな顔。
大きなバッグ。
いつもとは違う私服。
それだけで、普段の学校とは空気が違って見えた。
「全員いるなー!」
先生の声が飛ぶ。
「班ごとに確認して、代表者は報告!」
「はい!」
陽斗が返事をする。
「一班、二班……」
「俺ら何班だっけ」
「三班」
玲司。
「そうだった」
「班長でしょ?」
小宮山が笑う。
「橘君、大丈夫?」
「大丈夫!」
「不安しかない」
水瀬。
「お前ら班長への信頼なさすぎない!?」
「朝倉君」
「何」
隣。
黒瀬。
「眠い?」
「少し」
「私も」
「寝坊したからだろ」
「それは言わない約束」
「してない」
「…………」
黒瀬。
少し。
睨む。
「朝倉君が電話してくれたから間に合ったし」
「じゃあ感謝して」
「したじゃん」
「もう一回」
「調子乗ってる」
「冗談」
「…………」
笑う。
朝から。
こんな。
普通に。
話してる。
「三班!」
陽斗。
「全員います!」
「よし。バス乗れー!」
先生。
手。
上げる。
俺たちも。
動く。
「行こ!」
黒瀬。
「うん」
◇
バス。
「席どうする?」
水瀬。
「自由?」
「クラス内なら自由だって」
小宮山。
「じゃあ俺窓!」
陽斗。
「子ども」
玲司。
「酔うんだよ!」
「それなら窓側の方がいいね」
「琴葉だけ優しい!」
「私も窓がいい」
水瀬。
「由香は?」
「私?」
黒瀬。
俺。
一瞬。
見る。
「…………」
「どこでも」
「じゃあ」
水瀬。
笑う。
「朝倉君の隣でいいんじゃない?」
「…………」
「え」
「私、琴葉と座るし」
「俺は橘」
玲司。
「決まり」
「ちょっと待って」
黒瀬。
「何?」
「別に嫌じゃないけど!」
「誰も嫌って言ってないよ」
「莉央!」
「ほら、後ろ詰まってる」
「…………」
結局。
俺。
窓側。
黒瀬。
隣。
「…………」
「よろしく」
「うん」
「何でちょっと緊張してるの?」
「してない」
「してる」
「黒瀬こそ」
「してない」
「じゃあいいだろ」
「…………」
二人。
黙る。
「朝倉君」
「何」
「今日長いね」
「何が」
「一緒にいる時間」
「…………」
朝七時。
夜。
ホテル。
確かに。
「嫌?」
「逆」
「…………」
「楽しみ」
「…………」
そういう。
言い方。
最近。
増えた。
「俺も」
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「うん」
◇
バス出発。
クラス。
うるさい。
陽斗。
後ろの誰かと喋ってる。
水瀬。
小宮山。
お菓子交換してる。
「朝倉君」
「何」
「これ食べる?」
黒瀬。
グミ。
「もらう」
「何味?」
「何でも」
「禁止」
「…………」
「忘れた?」
「じゃあぶどう」
「はい」
「ありがとう」
「…………」
一時間経つ。
声が減る。
前。
寝てる人。
増える。
「…………」
黒瀬も。
静か。
「寝た?」
小声。
返事ない。
「…………」
寝てる。
窓。
反対。
黒瀬。
頭。
少し。
揺れる。
右。
左。
「…………」
危ない。
そう思った。
瞬間。
こつ。
「…………」
肩。
重い。
黒瀬の頭。
俺の肩。
「…………」
え。
寝てる。
普通に。
「…………」
動けない。
いや。
動いたら。
起きる。
別に。
このままで。
いい。
「…………」
良くない。
心臓。
うるさい。
髪。
近い。
匂い。
する。
「…………」
窓。
見る。
景色。
全然。
入ってこない。
前。
座席。
間。
陽斗。
顔。
出す。
「…………」
目。
合う。
陽斗。
俺。
見る。
黒瀬。
見る。
口。
開く。
「言うな」
小声。
先に言う。
陽斗。
両手。
上げる。
にやにや。
消える。
「…………」
最悪。
あとで。
絶対。
言われる。
◇
「ん……」
しばらく。
して。
黒瀬。
動く。
「…………」
顔。
上げる。
「…………」
「おはよう」
「…………」
俺。
見る。
肩。
見る。
状況。
理解。
「…………!」
一気に。
離れる。
「ご、ごめん!」
「別に」
「私ずっと!?」
「二十分くらい」
「そんなに!?」
「多分」
「起こしてよ!」
「寝てたから」
「だからって!」
「疲れてるかと思って」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「重かった?」
「別に」
「ほんと?」
「うん」
「…………」
「何」
「朝倉君」
「うん」
「優しいね」
「普通」
「そういうところ」
「何」
「…………」
黒瀬。
窓。
向く。
「何でもない」
また。
それ。
◇
最初の観光地。
到着。
「集合写真撮るぞー!」
先生。
クラス。
並ぶ。
「三班こっち!」
陽斗。
「何で仕切ってるの」
水瀬。
「班長だから!」
「今だけ班長っぽい」
「莉央!」
「朝倉君」
「何」
黒瀬。
隣。
「写真」
「クラスのだろ」
「だから?」
「何」
「隣」
「…………」
「ここいて」
「元からいる」
「動かないでね」
「動かない」
「よし」
「何が」
先生。
「撮るぞー!」
カメラ。
見る。
「はい、チーズ!」
シャッター。
切れる。
「もう一枚!」
その瞬間。
「湊!」
陽斗。
後ろから。
肩。
掴む。
「おい」
「笑え!」
「やめろ」
「朝倉君」
黒瀬。
笑う。
「ふふっ」
「橘」
「何」
「あとで覚えとけ」
「顔怖い!」
シャッター。
もう一度。
◇
午前。
全体行動。
寺。
庭。
古い。
街並み。
「湊!」
陽斗。
「写真!」
「嫌」
「何で!」
「お前と二人は嫌」
「ひどくない!?」
「じゃあ六人で撮ろ」
小宮山。
「賛成!」
水瀬。
「先生に頼む?」
「そこにいる人にお願いしよう」
玲司。
近くの観光客。
お願いする。
「撮りますね」
「お願いします!」
並ぶ。
陽斗。
玲司。
俺。
黒瀬。
小宮山。
水瀬。
「もうちょっと真ん中寄ってくださーい」
「はい!」
黒瀬。
一歩。
近づく。
肩。
触れる。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「笑って」
「無理」
「じゃあ」
黒瀬。
小声。
「今日楽しい?」
「…………」
水族館。
同じ。
「楽しい」
「…………」
黒瀬。
笑う。
俺も。
多分。
少し。
笑った。
シャッター。
「撮れましたよ」
「ありがとうございます!」
確認。
「いいじゃん!」
水瀬。
「朝倉君笑ってる」
小宮山。
「ほんとだ」
玲司。
「湊!」
「何」
「俺との写真は!?」
「いらない」
「何でだよ!」
◇
昼。
班別行動。
「ここから!」
陽斗。
しおり。
掲げる。
「我々三班の自由!」
「先生から離れるだけ」
玲司。
「テンション下げるな!」
「まずご飯だよね?」
水瀬。
「賛成」
小宮山。
「予定だと」
黒瀬。
しおり見る。
「この店」
「混んでる」
俺。
「ほんとだ」
「待つ?」
陽斗。
「次の予定ずれる」
玲司。
「別の店探す?」
水瀬。
「朝倉君」
黒瀬。
「何食べたい?」
「…………」
「何でもは禁止」
「分かってる」
周り。
見る。
「向こう」
「何?」
「定食」
「いいじゃん」
「行こ!」
俺。
提案。
全員。
ついてくる。
「…………」
変な感じ。
前だったら。
絶対しなかった。
俺が行きたいと言う。
みんな行く。
「朝倉君」
「何」
「嬉しそう」
「そう?」
「うん」
「…………」
「何」
「私も嬉しい」
「何で」
「秘密」
「また?」
「うん」
◇
昼食。
「いただきます!」
陽斗。
「声でかい」
「腹減った!」
「分かるけど」
六人。
同じ。
テーブル。
「これ美味しい」
小宮山。
「一口食べる?」
水瀬。
「食べる」
「由香も?」
「うん」
「男子は?」
「欲しい!」
陽斗。
「玲司君は?」
「もらう」
「朝倉君」
「何」
「これ食べる?」
黒瀬。
自分。
皿。
指す。
「何」
「一口」
「いいの?」
「うん」
小皿を取る。
分けようとする。
「…………」
黒瀬。
箸。
止まる。
「何」
「いや」
「?」
「これ」
自分の。
箸。
見る。
「…………」
初詣。
りんご飴。
思い出す。
「あ」
「…………」
水瀬。
見てる。
「…………」
「莉央」
「何?」
「見ないで」
「何も言ってない」
「顔」
「最近由香そればっかり」
「だって!」
黒瀬。
新しい箸。
取る。
俺の小皿。
乗せる。
「はい」
「ありがとう」
「…………」
「何」
「何でもない」
「美味しい」
「ほんと?」
「うん」
「よかった」
「…………」
陽斗。
玲司。
俺。
見る。
「何」
「いや」
陽斗。
首。
振る。
「俺も欲しい」
「陽斗君は自分の食べて」
「何で湊だけ!?」
「朝倉君が先に聞かれたから」
「差別!」
「うるさい」
◇
午後。
商店街。
「お土産!」
陽斗。
「班長どこ行った」
玲司。
「今は観光客!」
「戻って」
「はい」
「朝倉君」
黒瀬。
「お母さんのお土産探そ」
「覚えてた?」
「言ったじゃん」
「うん」
二人。
店。
見る。
「甘いもの好き?」
「普通」
「じゃあお菓子?」
「多分」
「これどう?」
「…………」
箱。
見る。
「いいかも」
「こっちは?」
「そっちの方が好きそう」
「じゃあそれ」
「うん」
「決まり」
取る。
「…………」
黒瀬。
嬉しそう。
「何」
「一緒に選んだ」
「そうだな」
「朝倉君のお母さんに」
「うん」
「…………」
「何」
「ちょっと緊張する」
「何で黒瀬が」
「知らない」
「…………」
黒瀬。
俺の母親。
会ったことない。
でも。
いつか。
「…………」
そこまで。
考えて。
やめる。
早い。
さすがに。
「朝倉君?」
「何」
「顔赤い」
「暑い」
「今日そんな暑くない」
「歩いたから」
「怪しい」
「…………」
◇
「由香!」
水瀬。
「こっち!」
「何?」
「お揃い!」
小物。
売ってる店。
「六人で?」
「そう」
キーホルダー。
色違い。
同じ。
デザイン。
「高校生でお揃い?」
玲司。
「嫌?」
小宮山。
「嫌じゃない」
「じゃあ決まり」
「玲司即落ち」
陽斗。
「橘は?」
「買う!」
「人のこと言えない」
六個。
並べる。
「色どうする?」
水瀬。
「じゃんけん?」
「好きなのでいいだろ」
俺。
「朝倉君何色?」
「これ」
濃い。
青。
「じゃあ私これ」
黒瀬。
少し。
明るい。
青。
「近い色」
小宮山。
「ほんとだ」
「…………」
黒瀬。
「たまたま!」
「誰も何も言ってない」
水瀬。
「莉央!」
「はいはい」
結局。
全員。
買う。
鞄。
つける。
「…………」
六人。
同じ。
キーホルダー。
「いいな」
俺。
小さく言う。
「え?」
黒瀬。
「何でもない」
「今言った」
「いいなって」
「…………」
「お揃い」
「うん」
黒瀬。
笑う。
「私も好き」
「…………」
「こういうの」
「…………」
「何で黙るの」
「最後まで言え」
「え?」
「びっくりする」
「何に!?」
「何でもない」
◇
水族館。
「来た!」
黒瀬。
「二回目みたいなテンション」
「別の水族館だから!」
「そうだけど」
「朝倉君」
「何」
「クラゲ!」
「やっぱり」
「何が!」
六人。
入る。
陽斗。
「でか!」
水瀬。
「魚見てその感想?」
「分かりやすい」
玲司。
小宮山。
静かに。
水槽。
見てる。
「琴葉」
「何?」
「楽しい?」
「うん。すごく」
「よかった」
六人。
それぞれ。
見る。
でも。
気づくと。
黒瀬。
隣。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「また私見てた?」
「見てない」
「絶対見てた」
「魚」
「前もそれ言った」
「魚見に来てるから」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「同じだね」
「何が」
「この前と」
「…………」
二人。
水族館。
思い出す。
「でも」
黒瀬。
「うん」
「今日は六人」
「うん」
「それも楽しい」
「うん」
「…………」
少し。
間。
「でも」
「何」
「二人の時とは違う」
「…………」
「悪い意味じゃないよ」
「分かってる」
「朝倉君は?」
「…………」
六人。
楽しい。
二人。
楽しい。
違う。
「俺も」
「…………」
「二人の時は」
「うん」
「黒瀬としか話さないから」
「…………」
「当たり前だけど」
「それが?」
「…………」
言葉。
探す。
「特別」
「…………」
黒瀬。
止まる。
「……そっか」
「うん」
「私も」
「…………」
「二人の時」
黒瀬。
俺。
見る。
「特別」
「…………」
言葉。
重なる。
でも。
その先。
まだ。
言わない。
◇
「二人ともー!」
水瀬。
向こう。
「何してるの!」
「行くよ!」
「今行く!」
黒瀬。
「朝倉君」
「うん」
「行こ」
「うん」
◇
最後。
展望台。
予定。
少し。
遅れた。
夕方。
空。
オレンジ。
「間に合った!」
陽斗。
「走った」
水瀬。
「班長が道間違えたから」
玲司。
「一回だけ!」
「十分ロス」
「ごめんなさい!」
景色。
広い。
「綺麗」
小宮山。
「すごいね」
黒瀬。
柵。
近づく。
「朝倉君」
「何」
「来て」
隣。
立つ。
「…………」
街。
夕日。
遠くに。
山。
「写真!」
水瀬。
「まず六人!」
「誰か頼む?」
「撮りますよ」
近くの人。
「お願いします!」
並ぶ。
六人。
「もっと寄ってください」
「はい!」
また。
黒瀬。
隣。
肩。
触れる。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「楽しい?」
「楽しい」
「ふふ」
シャッター。
◇
「よし!」
陽斗。
「戻るぞ!」
「集合時間あるからね」
玲司。
「分かってる!」
「朝倉君」
黒瀬。
「…………」
「何」
「ちょっとだけ」
「うん」
「写真」
「さっき撮った」
「二人」
「…………」
約束。
してた。
「分かった」
「やった」
水瀬。
少し。
離れた。
ところ。
「撮ろうか?」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「お願いする?」
「うん」
「莉央お願い」
「任せて」
夕日。
背中。
「二人もっと寄ってー」
「普通でいい」
「遠い」
「これで」
「もうちょっと」
「莉央!」
「はいはい」
黒瀬。
一歩。
近づく。
肩。
触れる。
腕。
少し。
触れる。
「…………」
「由香」
「何」
「朝倉君の方見て」
「え?」
「朝倉君も」
「何で」
「いいから」
黒瀬。
見る。
俺も。
見る。
「…………」
目。
合う。
「何」
「ふふ」
「何」
「近い」
「黒瀬が寄った」
「莉央が」
「撮るよー」
「待っ――」
カシャ。
「…………」
「莉央!」
「いい写真」
「見せて!」
水瀬。
スマホ。
見る。
「ほら」
「…………」
俺。
黒瀬。
向き合って。
笑ってる。
後ろ。
夕日。
「…………」
「消す?」
水瀬。
聞く。
「…………」
「いや」
俺。
「そのままで」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「いいの?」
「うん」
「…………」
「送って」
「了解」
通知。
来る。
保存。
「私にも!」
「はいはい」
黒瀬も。
保存。
「…………」
また。
一枚。
増えた。
◇
ホテル。
夜。
「疲れたー!」
陽斗。
ベッド。
飛び込む。
「風呂先行くぞ」
玲司。
「ちょっと休ませて」
「寝るなよ」
「寝ない!」
「朝倉」
「何」
「風呂行く?」
「行く」
「湊!」
「何」
「置いてくな!」
「早く来い」
◇
風呂。
夕食。
自由時間。
男子部屋。
四人。
俺。
陽斗。
玲司。
同じ班。
別の男子。
一人。
その男子。
友達の部屋。
遊び行った。
結果。
三人。
「…………」
嫌な。
予感。
「湊」
「何」
陽斗。
ベッド。
座る。
「今日楽しかったな」
「うん」
「…………」
「何」
「素直」
「最近そればっかり」
「だって去年の湊なら」
「分かった」
「まだ言ってない!」
「同じ」
玲司。
スマホ。
触る。
「橘」
「何」
「聞くなら早く聞け」
「…………」
来た。
「玲司」
「何」
「裏切るな」
「何が」
「空気作り」
「面倒」
「…………」
陽斗。
俺。
見る。
「湊」
「何」
「前にも聞いた」
「うん」
「もう一回聞く」
「…………」
分かる。
何聞くのか。
「お前」
陽斗。
真面目。
顔。
「黒瀬のこと、好きだろ」
「…………」
部屋。
静か。
前。
聞かれたとき。
『分からない』
そう。
答えた。
でも。
今。
分かる。
黒瀬。
好き。
「…………」
否定。
したくない。
もう。
「うん」
「…………」
陽斗。
固まる。
「え」
「好き」
「…………」
「黒瀬のこと」
「…………」
言った。
初めて。
ちゃんと。
口に出した。
「マジ?」
「聞いたのお前だろ」
「いや!」
陽斗。
立つ。
「え!?」
「うるさい」
「湊が!?」
「何」
「認めた!?」
「うん」
「玲司!」
「知ってた」
「何で!?」
「前に聞いた」
「おい」
「好きかもしれない、まで」
「…………」
陽斗。
「俺だけ知らなかった!?」
「多分みんな分かってる」
玲司。
「え!?」
「本人以外」
「…………」
「いや」
俺。
止める。
「本人にも」
「何?」
「何でもない」
分からない。
黒瀬。
どこまで。
分かってる。
「いつから!?」
陽斗。
「分からない」
「きっかけ!」
「それも」
「告白は!?」
「してない」
「する!?」
「…………」
そこ。
「分からない」
「何で!」
「橘」
玲司。
「落ち着け」
「無理!」
「お前の恋愛じゃない」
「友達の初恋だぞ!?」
「…………」
初恋。
「多分」
「多分!?」
「誰か好きになったの初めて」
「…………」
陽斗。
静かになる。
「そっか」
「うん」
「…………」
少し。
笑う。
「よかったな」
「何が」
「好きな人できて」
「…………」
「俺」
陽斗。
「湊が最初の頃」
「うん」
「マジで誰にも興味ないのかと思ってた」
「俺も」
「自分で?」
「うん」
「…………」
「でも」
陽斗。
笑う。
「黒瀬なら分かる」
「何が」
「湊が好きになるの」
「…………」
「いい子だし」
「うん」
「可愛いし」
「…………」
「そこ否定しないんだ」
「可愛いだろ」
「…………」
陽斗。
口。
開く。
「湊」
「何」
「お前今日どうした!?」
「何が」
「強い!」
「意味分からない」
玲司。
少し。
笑ってる。
「で」
玲司。
「どうしたい」
「…………」
「黒瀬と」
付き合いたい。
その言葉が頭に浮かぶ。
でも。
「今」
「関係」
「壊したくない」
「またそれ?」
「また?」
「前も言ってた」
「…………」
「でも」
玲司。
「今は?」
「…………」
今は友達。
楽しい。
二人で出かける。
ゲームも毎日する。
でも。
黒瀬。
誰かと付き合う。
嫌。
俺が。
隣にいたい。
「付き合いたい」
「…………」
初めて。
言った。
「多分」
「多分つけるな!」
陽斗。
「うるさい」
「そこは言い切れ!」
「…………」
息。
吐く。
「付き合いたい」
「よし!」
「何がよし」
「じゃあ告白!」
「簡単に言うな」
「好きって言うだけ!」
「それが難しい」
「…………」
陽斗。
俺。
見る。
「湊」
「何」
「怖い?」
「…………」
「うん」
普通に。
言う。
「断られるのも」
「うん」
「そのあと」
「うん」
「今までみたいにいられなくなるのも」
「…………」
「怖い」
陽斗。
黙る。
玲司。
黙る。
「そりゃそうだよな」
陽斗。
言う。
「うん」
「俺でも怖い」
「彼女いないのに?」
「それ関係ある!?」
「あるだろ」
「今真面目な話!」
「…………」
笑う。
「でも」
陽斗。
「俺は応援する」
「…………」
「何を」
「湊」
「うん」
「黒瀬と付き合え」
「命令?」
「応援!」
「言い方」
「玲司も!」
「俺も」
「…………」
「まあ」
玲司。
「急がなくていいと思う」
「うん」
「でも」
俺。
見る。
「逃げ続けるなよ」
「…………」
「分かってる」
いつか。
言いたい。
そう。
思ってた。
今。
少し。
変わる。
いつか。
じゃなく。
ちゃんと。
言う。
その気持ち。
少し強くなる。
◇
同じ頃。
女子部屋。
「由香」
「何?」
水瀬。
ベッド。
座る。
小宮山。
隣。
「恋バナしよ」
「…………」
「来た」
「逃げないで」
「逃げてない」
「じゃあ聞くね」
「…………」
「好きな人いる?」
「…………」
由香。
固まる。
「莉央」
「何?」
「直球すぎない?」
「時間もったいないし」
「修学旅行の夜だよ?」
「関係ある?」
「ある」
「じゃあ」
水瀬。
笑う。
「朝倉君のこと好き?」
「…………」
「莉央!」
「答えて」
「何で朝倉君なの!?」
「違うの?」
「…………」
「琴葉!」
由香。
助け求める。
「え?」
「何か言って!」
小宮山。
少し。
考える。
「私は」
「うん!」
「由香ちゃん、朝倉君のこと好きだと思う」
「琴葉!?」
「ごめん」
「何で!?」
「見てたら」
「…………」
「分かるから」
「…………」
由香。
枕。
抱く。
「そんな分かりやすい?」
「かなり」
水瀬。
「…………」
「いつから?」
「分かんない」
「気づいたのは?」
「…………」
由香。
顔。
埋める。
「多分」
「うん」
「クリスマス」
「遅い」
「何で!?」
「私はもっと前から怪しいと思ってた」
「私も」
小宮山。
「嘘!」
「嘘じゃないよ」
「…………」
「で?」
水瀬。
「好きなんでしょ?」
「…………」
長い。
沈黙。
「……うん」
「…………」
「好き」
小さい。
声。
「朝倉君が」
「やっと言った!」
「莉央うるさい!」
「だって!」
「誰にも言わないでよ!」
「言わない」
小宮山。
「私も」
「絶対だからね!」
「分かってる」
「…………」
「告白する?」
「無理!」
「即答」
「だって!」
由香。
顔。
上げる。
「朝倉君」
「うん」
「私のこと」
「うん」
「友達だと思ってるし」
「…………」
水瀬。
小宮山。
目。
合わせる。
「何」
「いや」
「何!?」
「本気で言ってる?」
「え?」
「由香」
水瀬。
「朝倉君」
「うん」
「クリスマス二人で出かけて」
「うん」
「手作りチョコ喜んで」
「うん」
「春休み水族館二人で行って」
「…………」
「今日もずっと由香の近くにいて」
「…………」
「さっき二人で写真撮ってたよね」
「…………」
「それで?」
「…………」
「友達としか思われてない?」
「だって」
「うん」
「朝倉君だよ?」
「どういう意味」
「恋愛とか」
由香。
少し。
笑う。
「分かってなさそう」
「…………」
水瀬。
「それは」
「でしょ?」
「前ならね」
「え?」
「最近」
水瀬。
笑う。
「ちょっと違うと思うけど」
「…………」
「何が」
「自分で考えて」
「莉央!」
「由香ちゃん」
小宮山。
「何?」
「私も」
「うん」
「諦めなくていいと思う」
「…………」
由香。
黙る。
「別に」
水瀬。
「今すぐ告白しろとは言わないけど」
「うん」
「由香が朝倉君好きなら」
「…………」
「友達だから、で逃げるのやめたら?」
「…………」
由香。
枕。
見る。
「それ」
「うん」
「朝倉君にも言われそう」
「じゃあ正解」
「…………」
笑う。
「怖いんだもん」
「何が?」
「今の関係」
「うん」
「なくなるの」
「…………」
「毎日ゲームして」
「うん」
「学校で話して」
「うん」
「二人で出かけて」
「うん」
「それが」
由香。
小さく。
「なくなるの嫌」
「…………」
「そっか」
水瀬。
今度は。
茶化さない。
「じゃあ」
「うん」
「ゆっくりでいいんじゃない?」
「…………」
「でも」
笑う。
「多分、由香が思ってるより」
「何」
「いいところまで来てると思うよ」
「…………」
「何それ」
「秘密」
「莉央!」
◇
男子部屋。
消灯。
少し前。
スマホ。
鳴る。
Yuu。
『起きてる?』
『起きてる』
『今何してる?』
陽斗。
ベッド。
寝転ぶ。
玲司。
スマホ。
『恋バナ終わった』
打つ。
消す。
『何も』
『そっちは?』
既読。
『秘密』
「…………」
やっぱり。
『恋バナ?』
既読。
止まる。
『…………』
『何』
『何で分かったの』
『昼言ってた』
『あ』
『した?』
『した』
「…………」
聞きたい。
『黒瀬』
『何?』
好きな人。
いる?
打つ。
でも。
消す。
『楽しかった?』
『うん』
『何それ』
『朝倉君は?』
「…………」
『した』
送る。
『え!?』
『恋バナ!?』
『うん』
『誰と!?』
『橘と玲司』
『何話したの!?』
「…………」
言えるわけない。
『秘密』
『ずるい!』
『黒瀬も秘密だろ』
『…………』
『それはそう』
「…………」
少し。
間。
『朝倉君』
『何』
『好きな人』
「…………」
心臓。
跳ねる。
『いるの?』
「…………」
画面。
見る。
今日。
陽斗。
聞かれた。
『黒瀬のこと、好きだろ』
『うん』
答えた。
もう。
否定。
したくない。
『いる』
送る。
「…………」
既読。
つく。
返事。
来ない。
一分。
『そっか』
それだけ。
「…………」
『黒瀬は?』
送る。
既読。
長い。
『いるよ』
「…………」
胸。
締まる。
いる。
黒瀬。
好きな人。
いる。
俺。
かもしれない。
違う。
かもしれない。
『そっか』
同じ。
返す。
『うん』
「…………」
『朝倉君』
『何』
『その人』
止まる。
『同じ学校?』
「…………」
黒瀬だよ。
『うん』
既読。
『同じクラス?』
「…………」
そこまで。
聞く?
『うん』
既読。
また。
止まる。
『そっか』
「…………」
『黒瀬は?』
聞く。
『同じ学校』
『同じクラス?』
長い。
長い。
『うん』
「…………」
同じ。
クラス。
男子。
誰。
陽斗?
玲司?
他にもいる。
当然。
黒瀬は人気。
話す男子多い。
「…………」
嫌。
誰か知りたい。
『誰』
打つ。
消す。
聞くの怖い。
『朝倉君』
『何』
『誰かは』
黒瀬。
『まだ秘密ね』
「…………」
『分かった』
『朝倉君も』
『うん』
『秘密?』
ここ。
言う?
黒瀬。
好き。
本人に今。
チャット。
なら言える?
「…………」
無理。
『まだ』
送る。
『そっか』
少し。
間。
『じゃあ』
『いつか教えてね』
「…………」
『黒瀬も』
『うん』
『約束』
『約束』
◇
スマホ。
置く。
天井。
見る。
黒瀬に。
好きな人いる。
同じ。
学校。
同じ。
クラス。
「…………」
可能性。
ある。
俺。
かもしれない。
でも。
違うかもしれない。
今まで。
黒瀬の言葉。
思い出す。
『二人の時は特別』
『また二人で行きたい』
『朝倉君の名前、最初に探した』
『一緒にゲームする時間、かなり好き』
「…………」
期待。
しても。
いい?
でも。
怖い。
「湊」
暗い部屋。
陽斗。
「何」
「まだ起きてる?」
「うん」
「黒瀬?」
「…………」
「何で分かる」
「顔光ってた」
「スマホだから」
「そういう意味じゃない」
「寝ろ」
「はいはい」
少し。
沈黙。
「湊」
「何」
「頑張れよ」
「…………」
「うん」
今度は。
否定。
しなかった。
◇
別の部屋。
「由香」
水瀬。
「何」
「まだ起きてる?」
「うん」
「朝倉君?」
「…………」
「分かりやす」
「莉央!」
「静かに」
「…………」
「何話してたの?」
「言わない」
「ふーん」
「…………」
「でも」
由香。
スマホ。
胸に置く。
「何?」
「朝倉君」
「うん」
「好きな人いるって」
「…………」
「へえ」
「同じクラスだって」
「…………」
「莉央」
「何?」
「どうしよう」
「何が」
「私じゃなかったら」
「…………」
「怖い」
水瀬。
少し。
黙る。
「由香」
「何」
「それ」
「うん」
「多分向こうも同じこと思ってるよ」
「え?」
「何でもない」
「何それ!」
「寝よ」
「莉央!」
「おやすみ」
「…………」
小宮山。
布団の中。
「由香ちゃん」
「琴葉?」
「大丈夫だと思う」
「…………」
「何が?」
「色々」
「二人とも何なの!?」
◇
同じ。
ホテル。
違う。
部屋。
俺たちは。
同じ。
こと。
考えていた。
好きな人が。
いる。
同じ学校。
同じクラス。
そこまで。
分かった。
なのに。
最後の。
一人。
名前だけ。
聞けない。
言えない。
俺は。
黒瀬が。
好き。
黒瀬は。
誰が。
好き。
その答えまで。
あと。
少し。
そんな。
気がした。
高校生活。
最後の。
修学旅行。
一日目。
六人で作った。
思い出。
そして。
俺にとって。
初めて。
自分の恋を。
友達に。
認めた夜。
修学旅行は。
まだ。
始まったばかりだった。




