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『クラスでほとんど誰とも話さない俺の、人生で初めてできた友達は――クラスで一番人気の女子だった。』  作者: 湊


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30/45

第30話 修学旅行の前夜


 修学旅行まで、あと一週間。


「朝倉君」


「何」


「忘れ物しそう」


「黒瀬が?」


「うん」


「するだろうな」


「否定してよ」


「何忘れそう?」


「充電器」


「じゃあ今入れれば」


「まだ使う」


「予備は?」


「ない」


「買えば」


「もったいない」


「じゃあ忘れる」


「何でそうなるの!」


 昼休み。


 いつもの六人。


 机の上には弁当と、修学旅行のしおり。


 最近は、誰かが必ずこれを開いている。


「俺は完璧」


 陽斗が胸を張った。


「絶対何か忘れる」


 水瀬が即答する。


「俺を誰だと思ってる?」


「橘陽斗」


「そういう意味じゃない!」


「陽斗君、前の校外学習で財布忘れてなかった?」


 小宮山。


「…………」


「忘れてたね」


 玲司。


「今回は持っていく!」


「当たり前」


 笑いが起きる。


 俺も笑う。


 そのとき。


「そういえばさ」


 水瀬が、しおりから顔を上げた。


「自由行動の最後、駅前の商店街でお土産見るんだよね?」


「そう」


 玲司が答える。


「何買う?」


「家」


 俺。


「それは誰に買うかでしょ」


「母親」


「朝倉君、お母さんに何買うの?」


「まだ決めてない」


「いいじゃん、一緒に探そ」


「うん」


 自然に答えてから、気づく。


 一緒に。


 黒瀬と。


「…………」


「何?」


「いや」


「また考え事?」


「違う」


「怪しい」


「お前ら」


 陽斗が俺と黒瀬を交互に見る。


「修学旅行でも普通に二人で行動しそうだな」


「班一緒だろ」


「そういう意味じゃなくて!」


「じゃあどういう意味」


「湊……お前、分かってて言ってない?」


「何が」


「…………」


 陽斗。


 玲司を見る。


「玲司」


「諦めろ」


「最近の湊、難しい!」


「何が」


「前より分かりそうで分からない!」


「知らない」


「由香は分かる?」


 水瀬。


「え?」


「朝倉君のこと」


「…………」


 黒瀬。


 俺を見る。


「まあ」


 少し考えて。


「前よりは」


「…………」


「分かると思う」


「へえ」


「何、その顔」


「別に?」


「莉央!」


 俺は弁当を食べながら、黒瀬を見る。


 前より分かる。


 それは多分、俺も同じだ。


 黒瀬が嬉しいとき。


 少し照れているとき。


 本当に怒っているわけじゃないとき。


 何か言いたいのに、言わないとき。


 前よりは、分かる。


 でも。


 まだ分からないこともある。


 例えば。


 黒瀬が、誰を好きなのか。


     ◇


 放課後。


「朝倉」


「何」


「今日バイト?」


 玲司。


「ない」


「じゃあ寄ってく?」


「どこ」


「駅前。旅行で使うもの買う」


「俺も行く!」


 陽斗。


「部活は?」


「今日は休み!」


「珍しい」


「湊、行こうぜ」


「いいよ」


「…………」


「何」


「即答」


「何回言うんだよ」


「嬉しいんだよ!」


「気持ち悪い」


「ひどい!」


「私たちも行こうかな」


 水瀬。


「ね、由香」


「行く!」


「琴葉は?」


「図書委員の仕事終わってからなら」


「じゃあ先に店見てる」


「うん」


 結局。


 六人。


 こうなる。


     ◇


 駅前。


 旅行用品。


 売り場。


「アイマスク!」


 陽斗。


「いる?」


 俺。


「男子部屋で寝るために!」


「普通に寝れば」


「湊」


「何」


「修学旅行の夜に普通に寝られると思ってる?」


「寝る」


「寝かせない」


「迷惑」


「玲司!」


「俺は寝る」


「お前も!?」


「部活で疲れてる」


「修学旅行だぞ!?」


「関係ない」


「男子部屋終わってる!」


 少し離れたところで。


「女子は楽しそうだな」


 水瀬が笑う。


「こっちはちゃんと起きてるよね」


「私は寝たい」


 小宮山。


「琴葉!」


「でも、少しくらいなら」


「よし」


「何するの?」


 黒瀬。


「恋バナ」


「…………」


「由香?」


「またそれ!?」


「だって修学旅行だよ?」


「他にもあるでしょ!」


「例えば?」


「…………」


「ゲーム」


「旅行先で?」


「お菓子食べる!」


「食べながら恋バナできる」


「…………」


 黒瀬。


 俺を見る。


「何」


「聞いてた?」


「聞こえた」


「忘れて」


「無理」


「忘れて!」


「…………」


 恋バナ。


 俺も。


 多分。


 逃げられない。


     ◇


「朝倉君」


「何」


 しばらくして。


 黒瀬。


 俺の横。


「これいるかな」


 小さい。


 モバイルバッテリー。


「あった方がいいんじゃない」


「写真いっぱい撮るしね」


「うん」


「ゲームも」


「旅行中はやらないだろ」


「夜」


「寝ろ」


「朝倉君もやろうよ」


「修学旅行来て二人でゲーム?」


「ちょっとだけ」


「いつでもできるだろ」


「…………」


「何」


「いつでも」


「うん」


「できる?」


「…………」


「修学旅行終わっても」


「当たり前」


「三年終わっても?」


「…………」


 急。


「大学行っても?」


 黒瀬。


 モバイルバッテリー。


 持ったまま。


 俺を見る。


「…………」


 大学。


 卒業。


 別々になる。


 かもしれない。


 でも。


「できるだろ」


「ほんと?」


「オンラインだし」


「そういうことじゃなくて」


「…………」


「朝倉君が」


 少し。


 声。


 小さくなる。


「一緒にやってくれる?」


「…………」


 そんなの。


「やるよ」


「…………」


「黒瀬がやめないなら」


「やめない」


「じゃあやる」


「…………」


 黒瀬。


 笑う。


「約束ね」


「うん」


 また。


 約束。


 一つ。


 増えた。


     ◇


 旅行まで。


 三日。


 ホームルーム。


「班別行動の計画表、今日が提出期限です」


 先生。


「班長、提出するように」


「俺の出番!」


 陽斗。


「書いたのほとんど玲司だけど」


 水瀬。


「言うな!」


「橘」


 玲司。


「何」


「集合時間間違ってる」


「え」


「九時半」


「九時?」


「半」


「危な!」


「班長交代する?」


「しない!」


「…………」


 楽しそう。


 本当に。


 修学旅行。


 行く実感。


 出てきた。


「朝倉君」


 黒瀬。


「何」


「ここ」


 しおり。


 指す。


 班別行動。


 最後。


 展望台。


「楽しみ」


「高いところ好き?」


「景色見るの好き」


「星も好きだもんな」


「…………」


「あ」


 黒瀬。


 俺を見る。


「覚えてた?」


「ブレスレット選んだ理由だろ」


「そうだけど」


 黒瀬。


 袖。


 少し。


 上げる。


 星。


 小さい。


 チャーム。


「今もつけてる」


「知ってる」


「…………」


「何」


「知ってるんだ」


「見えるから」


「ふーん」


「何」


「別に」


 嬉しそう。


「展望台」


 黒瀬。


「夕方なんだよね」


「予定通りなら」


「綺麗だろうな」


「多分」


「…………」


「写真撮ろ」


「六人で?」


「うん」


 そして。


「二人でも」


「…………」


「また?」


「嫌?」


「嫌じゃない」


「じゃあ決まり」


「うん」


 クリスマス。


 水族館。


 次。


 修学旅行。


 黒瀬との。


 二人の写真。


 増える。


 それが。


 普通に。


 嬉しい。


     ◇


 前日。


 午後。


 授業。


 ほぼ。


 誰も。


 集中。


 してない。


「明日は集合時間に遅れないように」


 先生。


「特に橘」


「何で俺!?」


 教室。


 笑う。


「お前、今日の計画表も時間間違えてただろ」


「先生まで!」


「朝倉、見張っとけ」


「嫌です」


「湊!?」


「藤堂にしてください」


「妥当だな」


「先生!」


「俺?」


 玲司。


「頼んだ」


「分かりました」


「勝手に決まった!」


 また笑う。


 去年。


 先生に。


 名前呼ばれるの。


 嫌だった。


 目立つから。


 嫌。


 誰かが笑う。


 嫌。


 今、同じ教室。


 笑い声。


 別に。


 嫌じゃない。


 俺も。


 少し。


 笑ってる。


     ◇


 放課後。


「じゃあ明日!」


 陽斗。


「絶対遅れるなよ!」


「お前がな」


 水瀬。


「七時集合だよ」


 小宮山。


「早い」


「寝坊するな」


 玲司。


「朝倉君」


「何」


「朝強い?」


「普通」


「起こして」


「何で」


「寝坊怖い」


「アラーム」


「朝倉君も」


「…………」


「六時」


「早い」


「六時十分」


「細かい」


「お願い」


「分かった」


「やった」


「電話?」


「…………」


 黒瀬。


 少し。


 固まる。


「メッセージで」


「起きないだろ」


「じゃあ」


 水瀬。


 にやにや。


「電話してもらえば?」


「莉央」


「何?」


「顔がうざい」


「由香に言われた」


「朝倉君!」


「何」


「メッセージでいい!」


「分かった」


「絶対!」


「うん」


「じゃあ明日!」


 六人。


 別れる。


 黒瀬。


 数歩。


 行って。


 振り返る。


「朝倉君!」


「何」


「楽しもうね!」


「…………」


「うん」


「楽しもう」


     ◇


 夜。


 荷物の確認。


 着替え。


 財布。


 充電器。


 モバイルバッテリー。


 しおり。


 その他。


「…………」


 忘れ物。


 ない。


 多分。


 スマホ。


 鳴る。


『放課後』


『寝れない!!!!』


 陽斗。


『寝ろ』


 玲司。


『まだ21時』


 水瀬。


『私も楽しみで寝れないかも』


 小宮山。


『遠足前みたい』


 黒瀬。


『湊は!?』


『寝る』


『冷たい!!!』


「…………」


 笑う。


 個人。


 通知。


 Yuu。


『ほんとに寝る?』


『まだ』


『だよね』


『何』


『ちょっとだけゲームしない?』


『明日早い』


『一試合だけ』


『黒瀬』


『一試合!』


『…………』


『お願い』


「…………」


 ログイン。


     ◇


『ナイス!』


『うん』


『やっぱ二人だと勝てる』


『黒瀬今日雑』


『明日のこと考えてる』


『ゲーム集中しろ』


『朝倉君は楽しみじゃないの?』


『楽しみ』


『…………』


『何』


『最近ちゃんと言うね』


「…………」


『悪い?』


『ううん』


『嬉しい』


 試合。


 終わる。


 一位。


『約束通り一試合』


『はーい』


『寝ろ』


『朝倉君も』


『うん』


 少し。


 間。


『朝倉君』


『何』


『明日』


『うん』


『ゲームで初めて会った頃の私たちからしたら』


「…………」


『修学旅行で同じ班になるなんて』


『絶対想像できなかったね』


「…………」


 確かに。


 あの頃。


 黒瀬。


 俺。


 クラスメイト。


 でも。


 ほぼ他人。


 ゲーム。


 Yuu。


 Nagi。


 だけ。


 友達。


 だった。


『そうだな』


『変な感じ』


『うん』


『でも』


『何』


『嬉しい』


「…………」


『俺も』


 送る。


 今は。


 迷わない。


『じゃあ明日』


『うん』


『いっぱい思い出作ろうね』


『うん』


『六人で』


『うん』


 少し。


 止まる。


『二人でも』


「…………」


 黒瀬。


 最近。


 よく言う。


 六人だけじゃなく。


 二人でも。


『うん』


『作ろう』


 既読。


『約束』


『約束』


     ◇


 スマホ。


 置く。


 電気。


 消す。


 目。


 閉じる。


「…………」


 眠れない。


 陽斗のこと笑えない。


 修学旅行。


 楽しみ。


 班別行動。


 ホテル。


 観光。


 写真。


 六人。


 全部。


 楽しみ。


 そして。


 もう一つ。


『男子部屋も恋バナやる?』


 陽斗。


 思い出す。


「…………」


 黒瀬。


 好き。


 それは。


 もう。


 分かってる。


 玲司には。


 好きかもしれない。


 そう。


 言った。


 でも。


 今なら。


 違う。


 かもしれない。


 じゃない。


 好き。


 ちゃんと。


 分かる。


 もし。


 明日。


 陽斗に。


 聞かれたら。


『黒瀬のこと好きだろ』


 俺は。


 何て。


 答える。


「…………」


 否定する?


 もう。


 したくない。


 でも。


 口に出したら。


 何か。


 もっと。


 進んでしまう。


 気がする。


「…………」


 そして。


 女子部屋。


 水瀬。


 多分。


 黒瀬に。


 聞く。


『由香、朝倉君のこと好きなの?』


「…………」


 黒瀬。


 何て。


 答える。


 知りたい。


 怖い。


 もし。


『友達だよ』


 そう言ったら。


「…………」


 嫌。


 でも。


 俺だって。


 本人には。


 言えてない。


 同じ。


 か。


「…………」


 天井。


 見る。


 高校。


 最後。


 修学旅行。


 去年の俺なら。


 面倒。


 早く終われ。


 思ってた。


 今は。


 逆。


 まだ。


 始まっても。


 いないのに。


 終わってほしくない。


 なんて。


 思ってる。


     ◇


 午前五時五十八分。


 アラーム。


 鳴る。


「…………」


 眠い。


 スマホ。


 見る。


 六時。


 黒瀬。


 起こす。


「…………」


 メッセージ。


『起きろ』


 送る。


 既読。


 つかない。


 一分。


 二分。


 三分。


「…………」


『黒瀬』


 つかない。


 六時五分。


「…………」


 電話。


 押す。


 呼び出し。


 一回。


 二回。


 三回。


『……もしもし』


「起きろ」


『…………』


「黒瀬」


『……朝倉君?』


「六時」


『…………』


 沈黙。


『え!?』


 大きい。


 声。


 スマホ。


 離す。


「うるさ」


『六時!?』


「そう」


『起きる!』


「起きてる」


『起きてない!』


「どっち」


『今起きた!』


「やっぱ電話で正解だった」


『…………』


「何」


『朝倉君』


「うん」


『おはよう』


「…………」


「おはよう」


『ふふ』


「何」


『朝一番に朝倉君の声聞いた』


「…………」


 朝。


 六時。


 それ。


 言う?


「早く準備しろ」


『照れた?』


「切る」


『待って!』


「何」


『ありがとう』


「うん」


『あと』


「何」


『今日』


 黒瀬。


 少し。


 笑ってる。


 声。


『楽しみだね』


「…………」


「うん」


『じゃあ後で!』


「後で」


 切れる。


「…………」


 修学旅行。


 まだ。


 集合すら。


 してない。


 なのに。


 もう。


 心臓。


 うるさい。


     ◇


 七時。


 集合場所。


「湊ー!」


 陽斗。


「おはよう」


「眠い!」


「元気だろ」


「テンションで動いてる!」


「危ない」


 玲司。


「おはよう」


「おはよう」


「朝倉君」


 小宮山。


「おはよう」


「おはよ!」


 水瀬。


「おはよう」


「由香は?」


「…………」


 来てない。


 まさか。


「朝倉君」


 声。


 後ろ。


 振り返る。


 黒瀬。


 走って。


 来る。


「間に合った!」


「ギリギリ」


「まだ十分ある!」


「それギリギリじゃない」


「朝倉君のおかげ」


「電話しなかったら?」


「…………」


「多分」


「うん」


「寝てた」


「やっぱり」


「ありがとう」


「うん」


「由香」


 水瀬。


「何」


「朝倉君に起こしてもらったの?」


「…………」


 黒瀬。


 止まる。


「電話で?」


「…………」


「へえ」


「莉央」


「何?」


「朝からその顔やめて」


「何も言ってないよ?」


「顔が言ってる!」


「湊」


 陽斗。


「何」


「モーニングコール?」


「起きなかったから」


「黒瀬に?」


「そう」


「…………」


 陽斗。


 玲司。


 見る。


 玲司。


 ため息。


「橘」


「何」


「旅行始まる前から疲れるからやめろ」


「何で俺が悪い!?」


「…………」


 笑う。


 黒瀬。


 俺の。


 隣。


「朝倉君」


「何」


「行こ」


「うん」


 六人。


 歩き出す。


 高校生活。


 最後の。


 修学旅行。


 俺にとって。


 初めて。


 誰かと行くことを。


 心から。


 楽しみにしていた。


 学校行事。


 その一日目が。


 始まった。


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