第29話 もう、余りものじゃない
三年生になって。
二週間。
「朝倉」
「何」
「消しゴム」
「あるだろ」
「落とした」
「拾えよ」
「遠い」
「お前の足元」
「湊の方が近い」
「…………」
拾う。
「はい」
「ありがとう!」
「次から自分で拾え」
「友達だろ?」
「便利な言葉にするな」
「朝倉君」
「何」
斜め前。
黒瀬。
振り返る。
「私も消しゴム落とした」
「落ちてない」
「…………」
「何」
「拾ってくれるかなって」
「落としてから言え」
「じゃあ」
「落とすな」
「まだ何もしてない!」
「やりそうだった」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「バレた」
「見れば分かる」
「さすが」
「何が」
「私のこと分かってる」
「…………」
そういう言い方。
やめてほしい。
いや。
やめてほしくない。
「湊」
陽斗。
「何」
「顔赤くない?」
「暑い」
「四月だぞ」
「暖房」
「ついてない」
「うるさい」
◇
昼休み。
机。
寄せる。
六人。
もう。
誰も。
何も。
言わない。
自然だった。
「朝倉君」
小宮山。
「何」
「これ」
「プリント?」
「うん。朝倉君昨日休み時間寝てたから」
「寝てない」
「寝てたよ?」
「目閉じてただけ」
「それ寝てるんじゃ」
「違う」
「昔の癖?」
水瀬。
「…………」
「何」
「由香から聞いた」
「何を」
「二年の最初」
「…………」
「休み時間、ずっと寝たふりしてたんでしょ?」
「黒瀬」
「え!?」
「何で言った」
「前にちょっと!」
「いつ」
「忘れた!」
「…………」
水瀬。
俺。
見る。
「今じゃ考えられないね」
「そう?」
「だって」
周り。
指す。
「今、昼休みずっと喋ってるじゃん」
「…………」
確かに。
「最初」
小宮山。
「朝倉君、話しかけたら迷惑かなって思ってた」
「何で」
「いつも寝てたから」
「寝てない」
「寝たふり」
「…………」
「認めた」
玲司。
「うるさい」
笑い。
起きる。
「でも」
水瀬。
「由香すごいよね」
「何が?」
「こんなにしたんだから」
「…………」
「私?」
「うん」
「別に私だけじゃ」
「黒瀬」
俺。
「え?」
「黒瀬だよ」
「…………」
全員。
止まる。
「何」
俺。
「いや」
陽斗。
「湊が」
「何」
「普通にそういうこと言うから」
「事実だろ」
最初。
黒瀬。
だった。
ゲーム。
フレンド。
そこから。
全部。
始まった。
「黒瀬がいなかったら」
「…………」
「多分、今もこんな感じじゃなかった」
「朝倉君……」
「だから」
弁当。
食べる。
「感謝はしてる」
「…………」
「何」
黒瀬。
黙ってる。
「…………」
「由香」
水瀬。
「顔」
「分かってる!」
「赤いよ」
「分かってるって!」
「朝倉君」
「何」
「そういうの」
「うん」
「急に言わないで!」
「何で」
「心の準備が!」
「感謝されるのに準備いる?」
「いる!」
「そうなの」
「いるの!」
よく。
分からない。
「朝倉」
玲司。
「何」
「お前も大概だな」
「何が」
「何でもない」
また。
それ。
◇
五時間目。
ホームルーム。
「はい、静かに」
担任。
前。
「今日は修学旅行について説明します」
「来た!」
陽斗。
「橘、うるさい」
「すみません!」
教室。
少し。
ざわつく。
修学旅行。
三年。
大きい。
イベント。
「日程は来月。詳細は配ったしおりを確認するように」
プリント。
回る。
「それから」
先生。
黒板。
書く。
『班別行動』
「班別行動については、一班六人を基本とします」
「…………」
六人。
陽斗。
俺。
見る。
「…………」
見るな。
「班は各自で決めてもらいます」
教室。
ざわ。
大きくなる。
「男女比は自由。ただし、必ず六人。決まったら班長が名簿を提出してください」
「…………」
班決め。
昔。
嫌いだった。
体育。
グループ。
校外学習。
何でも。
そう。
『好きな人同士で組んで』
先生は簡単に言う。
でも。
友達いない俺には。
一番。
嫌な言葉。
だった。
周り。
すぐ。
集まる。
俺。
残る。
先生。
困る。
『朝倉、どこか入れてもらえ』
入れてもらう。
その言い方。
嫌だった。
「…………」
「朝倉君」
小声。
黒瀬。
「何」
「どうしたの?」
「いや」
「…………」
「何でもない」
先生。
続ける。
「今から二十分取るので班を決めてください」
瞬間。
教室。
動く。
椅子。
音。
声。
「湊!」
「うん」
「決まりだな!」
「何が」
「何がって」
陽斗。
指。
一本。
俺。
二本。
玲司。
三。
水瀬。
四。
小宮山。
五。
黒瀬。
六。
「六人」
「…………」
「ちょうど」
水瀬。
笑う。
「奇跡的」
「奇跡っていうか」
玲司。
「最初から決まってたようなもんだろ」
「うん」
小宮山。
「私もそう思ってた」
「朝倉君」
黒瀬。
「何」
「いいよね?」
「…………」
聞く。
必要。
ない。
「もちろん」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「よかった」
「よし!」
陽斗。
「決定!」
「班長」
水瀬。
「陽斗ね」
「何で!?」
「声でかいから」
「理由になってない!」
「向いてると思う」
小宮山。
「琴葉……!」
「じゃあ橘」
玲司。
「玲司まで!」
「よろしく」
「湊!」
「よろしく」
「お前ら!」
「黒瀬!」
「よろしく、班長!」
「全員敵!」
笑う。
「…………」
俺。
しおり。
見る。
班員。
記入。
欄。
朝倉湊。
黒瀬由香。
水瀬莉央。
小宮山琴葉。
橘陽斗。
藤堂玲司。
「…………」
六人。
最初から。
決まってた。
誰も。
『朝倉どうする?』
聞かない。
『入れてあげよう』
言わない。
俺がいる前提。
「…………」
変な感じ。
「朝倉君?」
黒瀬。
「何」
「また考え事?」
「うん」
「珍しく認めた」
「…………」
「何考えてたの?」
少し迷う。
でも。
言う。
「去年まで」
「うん」
「こういう班決め」
「嫌いだった」
「…………」
黒瀬。
分かった顔する。
「余るから?」
「うん」
普通に言える。
もう。
過去だから。
「好きな人同士で組めって言われても」
「うん」
「組む相手いないし」
「…………」
「最後まで残って」
「うん」
「先生にどこか入れられる」
「…………」
「それが嫌だった」
黒瀬。
少し黙る。
「でも」
俺。
六人を見る。
陽斗。
班長嫌だと言いながら。
しおり書いてる。
水瀬。
横から。
字汚いって言ってる。
小宮山。
笑ってる。
玲司。
予定確認してる。
黒瀬。
隣。
「今回は」
「うん」
「考える必要なかった」
「…………」
「最初から」
俺。
言う。
「ここだったから」
「…………」
黒瀬。
笑う。
「うん」
「朝倉君」
「何」
「余りものじゃないよ」
「…………」
「知ってる」
「…………」
「今は」
ちゃんと。
知ってる。
「うん」
黒瀬。
嬉しそうに。
笑った。
◇
「問題!」
陽斗。
「何」
放課後。
六人でファミレス。
修学旅行の作戦会議。
「どこ行く!?」
「まだ一か月ある」
玲司。
「一か月しかない!」
「どっちでもいい」
俺。
「朝倉君」
黒瀬。
「それ禁止」
「…………」
「そうだった」
「春休みだけじゃないよ」
「一生?」
「一生」
「重い」
「何が!?」
「何でもいい禁止が」
「じゃあ朝倉君も考えて」
「分かった」
「素直」
水瀬。
「最近本当に変わったね」
「またそれ?」
「だって前なら絶対『任せる』で終わってた」
「…………」
そう。
だった。
どこに行きたい。
何したい。
聞かれても。
『何でもいい』
それが。
一番。
楽だった。
自分の希望言って。
否定されるくらいなら。
最初から。
何も。
言わない。
「朝倉君」
「何」
「どこ行きたい?」
黒瀬。
「…………」
しおり見る。
候補。
いくつか。
「ここ」
「どれ?」
黒瀬。
近づく。
「…………」
近い。
好きと自覚してから。
これ。
困る。
「朝倉君?」
「何」
「どこ?」
「ここ」
指。
差す。
「水族館?」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
「何」
「また?」
「違う」
「ふふ」
「この前とは別だろ」
「分かってる」
水瀬。
反応。
「この前?」
「…………」
「あ」
黒瀬。
止まる。
「何」
俺。
「朝倉君」
「うん」
「…………」
「何」
「言ってなかった?」
「何を」
「水族館」
「誰に」
「みんな」
「言ってない」
「…………」
水瀬。
笑う。
「へえ」
「何」
「春休み」
「うん」
「二人で水族館?」
「うん」
「…………」
陽斗。
「え!?」
「遅い」
玲司。
「お前知ってた!?」
「知らない」
「何で冷静!?」
「もう驚かない」
「確かに」
小宮山。
「朝倉君と由香ちゃん、二人でよく出かけるようになったもんね」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「水族館って!」
陽斗。
「何」
「デートじゃん!」
「…………」
以前。
なら。
『違う』
即答した。
クリスマスなら。
『友達だから』
そう言った。
今。
俺。
黒瀬。
好き。
知ってる。
「…………」
「湊?」
「楽しかった」
「答えになってない!」
「事実」
「デート!?」
「…………」
黒瀬。
俺。
見る。
何か。
待ってる。
「…………」
「どっちでもいい」
言う。
「…………」
全員。
止まる。
「え?」
陽斗。
「デートでも」
「…………」
俺。
水。
飲む。
「違っても」
「…………」
「楽しかったから」
クリスマス。
黒瀬に言った。
同じ。
言葉。
「…………」
黒瀬。
真っ赤。
「朝倉君」
「何」
「それ」
「うん」
「ここで言う?」
「何が」
「何でもない!」
水瀬。
口元。
隠す。
「莉央」
「何?」
「笑わないで」
「笑ってないよ」
「絶対笑ってる!」
「由香」
「何!」
「頑張って」
「何を!?」
「色々」
「意味分かんない!」
「…………」
俺にも。
分かる。
多分。
◇
作戦会議。
一時間。
「じゃあ」
陽斗。
紙。
見る。
「午前、ここ」
「うん」
「昼、ここ」
「それから水族館」
「時間足りる?」
小宮山。
「移動考えたら厳しい」
玲司。
「じゃあ一個削る?」
水瀬。
「朝倉君」
黒瀬。
「何」
「水族館は?」
「行きたい」
「…………」
また。
黒瀬。
止まる。
「何」
「いや」
笑う。
「じゃあ残そ」
「うん」
「俺の意見だけで?」
「私も行きたい」
「私も」
小宮山。
「俺もいいよ」
玲司。
「莉央?」
「もちろん」
「俺は!?」
陽斗。
「班長は多数決に従って」
「権限ゼロ!?」
「…………」
楽しい。
計画立てる。
だけ。
なのに。
楽しい。
◇
帰り。
「じゃあねー!」
水瀬。
「また明日」
小宮山。
「俺らこっち」
陽斗。
「朝倉」
玲司。
「何」
「また明日」
「うん」
四人。
別れる。
俺。
黒瀬。
「…………」
最近。
これも。
普通。
「朝倉君」
「何」
「修学旅行」
「うん」
「楽しみ?」
「楽しみ」
「即答」
「何」
「嬉しい」
「何で」
「朝倉君が学校行事楽しみにしてるから」
「…………」
「前なら?」
「絶対面倒って思ってたでしょ」
「思ってた」
「やっぱり」
「でも」
「うん」
「今回は」
六人。
一緒。
「楽しみ」
「…………」
「そっか」
黒瀬。
笑う。
「私も」
「うん」
歩く。
「朝倉君」
「何」
「班決めのとき」
「うん」
「ちょっとだけ」
黒瀬。
前。
見る。
「嬉しかった」
「何が」
「朝倉君が」
「うん」
「『ここだったから』って言ったの」
「…………」
「だって」
「うん」
「私たちのこと」
少し。
笑う。
「自分の居場所だと思ってくれてるってことでしょ?」
「…………」
居場所。
考えたこと。
なかった。
でも。
そう。
なのかも。
「うん」
「…………」
「多分」
「多分?」
「いや」
言い直す。
「そうだと思う」
「…………」
「ここが」
「うん」
「俺の居場所」
黒瀬。
黙る。
「何」
「…………」
「嬉しい」
「また?」
「だって嬉しいもん」
「…………」
「私」
「うん」
「朝倉君が最初の頃」
「うん」
「一人でいるの見てたから」
「…………」
「ゲームで話すようになってから」
「うん」
「学校でも」
黒瀬。
少し。
寂しそうに。
笑う。
「本当は話しかけたかった」
「そうなの?」
「うん」
「でも正体知らなかっただろ」
「途中から気づいてた」
「…………」
「そうだった」
「忘れた?」
「少し」
「ひどい」
「…………」
「だから」
黒瀬。
続ける。
「朝倉君が今」
「うん」
「陽斗君たちと笑ってるの」
「うん」
「結構嬉しい」
「…………」
黒瀬。
だった。
始まり。
全部。
「黒瀬」
「何?」
「前も言ったけど」
「うん」
「ありがとう」
「…………」
「友達になってくれて」
「…………」
黒瀬。
止まる。
俺も。
止まる。
「朝倉君」
「何」
「それ」
「うん」
「今言うのずるい」
「何で」
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「私も」
「うん」
「ありがとう」
「何が」
「友達になってくれて」
「…………」
友達。
今は。
その言葉。
前ほど。
苦しくない。
黒瀬を。
好きだからって。
友達だった時間が。
消えるわけじゃない。
でも。
いつか。
その先。
行きたい。
そう思ってる。
◇
その夜。
Yuu。
『修学旅行楽しみ』
『さっきも聞いた』
『何回言ってもいいでしょ』
『いいけど』
『朝倉君』
『何』
『水族館』
『うん』
『六人で行くのも楽しみだけど』
『うん』
少し。
間。
『この前の方が特別だからね』
「…………」
『何で』
送る。
知りたい。
既読。
長い。
『二人だったから』
「…………」
心臓。
速くなる。
『朝倉君は?』
「…………」
同じ。
俺も。
二人。
だったから。
特別。
『俺も』
送る。
『六人とは別』
既読。
『…………』
『何』
『今日の朝倉君』
『何』
『ずるい』
『またそれ』
『最近多い』
『何が』
『なんでもない』
「…………」
『黒瀬』
『何?』
『修学旅行』
『うん』
『楽しもう』
少し。
間。
『うん!』
『いっぱい写真撮ろうね』
『六人で?』
『もちろん』
そして。
『二人でも』
「…………」
『うん』
今度は。
迷わない。
◇
翌日。
昼休み。
「修学旅行まであと二十八日!」
陽斗。
「数えるの?」
小宮山。
「当然!」
「遠足前の小学生」
玲司。
「いいだろ!」
「楽しそうで」
水瀬。
「で」
陽斗。
「何」
「部屋!」
「まだ決まってない」
「男子三人同じがいい!」
「部屋四人じゃなかった?」
玲司。
「じゃあ誰か一人入れる!」
「知らない人来たら可哀想」
俺。
「何で!?」
「橘うるさいから」
「湊!」
笑う。
「女子も三人一緒がいいね」
小宮山。
「絶対」
水瀬。
「由香も?」
「もちろん!」
「夜寝かせないから」
「何するの!?」
「恋バナ」
「…………」
黒瀬。
固まる。
「由香?」
「何!」
「何で焦るの?」
「焦ってない!」
「ふーん」
「…………」
俺。
聞こえないふりする。
恋バナ。
黒瀬。
好きな人。
「…………」
俺。
知りたい。
でも。
怖い。
「湊」
陽斗。
「何」
「男子部屋もやる?」
「何を」
「恋バナ」
「寝る」
「逃げるな!」
「寝る」
「絶対聞くからな!」
「何を」
「好きな――」
「橘」
玲司。
「何」
「今言ったら夜聞くことなくなる」
「なるほど!」
「納得するな」
「…………」
水瀬。
笑う。
「男子も大変だね」
「女子もだろ」
「そうかも」
水瀬。
黒瀬。
見る。
「ね?」
「私見ないで!」
「…………」
黒瀬。
俺。
一瞬。
見る。
目。
合う。
すぐ。
逸らす。
「…………」
修学旅行。
六人。
同じ班。
昼。
観光。
夜。
男子。
女子。
別々。
そこで。
多分。
今まで。
避けてきた。
話することになる。
好きな人。
いる?
黒瀬のこと。
好き?
「…………」
答え。
もう。
俺は。
知ってる。
あとはそれを。
誰かに。
言えるか。
そして。
いつか。
本人に。
言えるか。
だけ。
修学旅行まで。
あと。
二十八日。
去年なら。
早く。
終わってほしい。
そう。
思っていた。
学校行事を。
今の俺は。
早く。
来てほしいと。
思っていた。
――五人の友達と。
そして。
一人の。
好きな人と。
過ごす。
初めての。
修学旅行を。




