第23話 これは、デートじゃない
十二月二十四日。
午前八時十二分。
「…………」
目。
覚める。
天井。
見る。
「…………」
早い。
待ち合わせ。
午後一時。
あと。
五時間。
「…………」
二度寝。
するか。
目。
閉じる。
『いっぱい楽しもうね』
「…………」
開く。
無理。
◇
午前十時。
「…………」
服。
見る。
黒。
白。
グレー。
「…………」
いつも通り。
でいい。
友達と。
遊ぶだけ。
なのに。
なぜ。
十分以上。
服を選んでる。
「…………」
白。
やめる。
黒。
「…………」
暗い。
グレー。
「…………」
普通。
これ。
鏡。
見る。
「…………」
何してんだ。
俺。
◇
午前十一時。
スマホ。
『起きてる?』
Yuu。
『起きてる』
『よかった』
『何で』
『寝坊したらどうしようかと思って』
『待ち合わせ2時間前』
『朝倉君なら寝てそう』
『失礼』
『私はもう準備できた』
「…………」
早い。
『早くない?』
『普通です』
『まだ2時間ある』
『女の子は色々あるの』
『そう』
『…………』
『何』
『何でもない』
「?」
『朝倉君』
『うん』
『今日』
少し。
間。
『ちゃんと来てね』
「…………」
『行くって』
『約束だからね』
『うん』
『じゃああとで』
『あとで』
スマホ。
置く。
「…………」
ちゃんと来てね。
行くに。
決まってる。
むしろ。
俺は。
もう。
家を出たいくらいだった。
◇
午後十二時四十分。
駅。
「…………」
早い。
二十分。
でも。
前より。
まし。
スマホ。
『着いた』
送る。
既読。
すぐ。
『え!?』
『早くない!?』
『黒瀬に言われたくない』
『ちょっと待って!』
『まだ?』
『もういる!』
「…………」
いる?
周り。
見る。
人。
多い。
クリスマスイブ。
家族。
友達。
カップル。
その中。
「朝倉君」
後ろ。
「…………」
振り返る。
「おはよ」
黒瀬。
「…………」
いつも。
学校。
制服。
夏休み。
私服。
何度も。
見た。
でも。
今日。
少し。
違う。
淡い色のコート。
マフラー。
髪。
いつもより。
少し。
整えてる。
小さなバッグ。
「…………」
「朝倉君?」
「何」
「…………」
黒瀬。
自分の服。
見る。
「変?」
「いや」
「じゃあ何?」
「…………」
何て。
言う。
「似合ってる」
「…………」
「何」
「いや」
黒瀬。
目。
逸らす。
「ありがとう」
「うん」
「…………」
「…………」
何だ。
これ。
「朝倉君も」
「何」
「今日」
「うん」
「いつもよりちゃんとしてる」
「いつもちゃんとしてないみたいに言うな」
「そういう意味じゃない!」
「じゃあ何」
「…………」
「黒瀬?」
「似合ってるってこと!」
「…………」
「ありがとう」
「…………」
「…………」
二人。
黙る。
「行く?」
俺。
「うん」
歩き出す。
まだ。
何も。
していない。
なのに。
いつもと。
少し違う。
◇
「で」
俺。
「どこ行くの」
「え?」
「考えたんだろ」
「もちろん」
黒瀬。
スマホ。
出す。
「まず」
「うん」
「お昼」
「最初から飯?」
「一時だから!」
「そうだけど」
「そのあと買い物」
「うん」
「それから」
少し。
止まる。
「…………」
「何」
「夕方」
「うん」
「駅前の広場」
「何かある?」
「…………」
「イルミネーション」
「…………」
「あ」
黒瀬。
慌てる。
「別に深い意味ないからね!」
「何が」
「クリスマスだし!」
「うん」
「有名らしいから!」
「そう」
「莉央が綺麗って言ってたから!」
「分かった」
「…………」
「何」
「朝倉君」
「うん」
「何でそんな普通なの」
「何が」
「…………」
「?」
「何でもない!」
難しい。
◇
昼。
「オムライスじゃない」
俺。
「毎回オムライス食べると思ってる?」
「好きじゃん」
「好きだけど!」
「じゃあ」
「今日はパスタ」
「そう」
「朝倉君は?」
「ハンバーグ」
「子ども」
「何で」
「何となく」
「黒瀬も食べる?」
「え?」
「…………」
言ってから。
前回。
思い出す。
スプーン。
黒瀬。
顔。
赤くなった。
「…………」
「…………」
「皿」
俺。
「お皿ね!」
黒瀬。
「分かってる!」
「まだ何も言ってない」
「分かってるから!」
「そう」
「…………」
店員。
少し。
こっち。
見る。
「黒瀬」
「何」
「声」
「あ」
「…………」
「ごめん」
「別に」
二人。
少し。
笑う。
◇
食事。
終わる。
「次」
黒瀬。
「買い物!」
「何買うの」
「色々」
「雑」
「いいの」
ショッピングモール。
人。
多い。
「朝倉君」
「何」
「人多いけど大丈夫?」
「平気」
「ほんと?」
「黒瀬いるし」
「…………」
止まる。
「何」
「今」
「うん」
「何て言った?」
「黒瀬いるし」
「…………」
「人多いの苦手だけど、一人じゃないから平気」
「…………」
「何」
「それ」
「うん」
「普通に言う?」
「何が」
「…………」
黒瀬。
顔。
逸らす。
「何でもない」
また。
それ。
◇
雑貨屋。
「猫」
黒瀬。
「また?」
「可愛い」
「黒瀬猫好きすぎ」
「朝倉君もでしょ」
「まあ」
猫。
マグカップ。
クッション。
ポーチ。
大量。
「これ」
黒瀬。
猫耳。
カチューシャ。
「朝倉君」
「嫌」
「まだ何も言ってない」
「顔で分かる」
「一回だけ」
「嫌」
「写真撮るだけ!」
「もっと嫌」
「友達でしょ?」
「友達でも嫌」
「ケチ!」
「何でも友達使うな」
「…………」
言う。
黒瀬。
少し。
止まる。
「確かに」
「何」
「私たち」
「うん」
「最近」
猫耳。
戻す。
「『友達だから』って、よく言うね」
「…………」
「そう?」
「うん」
「黒瀬が言い始めた」
「朝倉君も言うじゃん」
「移った」
「私のせい?」
「多分」
「…………」
笑う。
「じゃあ」
「何」
「今日は」
少し。
間。
「友達だからじゃなくて」
「うん」
「朝倉君と来たかったから来た」
「…………」
何。
それ。
「……そう」
「うん」
「俺も」
「え?」
「黒瀬と来るって約束したから来た」
「…………」
「それ約束だからじゃん」
「あ」
「もう!」
「違う」
「何が?」
「…………」
考える。
「黒瀬じゃなかったら」
「うん」
「クリスマスに出かけてないと思う」
「…………」
黒瀬。
止まる。
「朝倉君」
「何」
「そういうの」
「うん」
「ほんと……」
「何」
「何でもない」
「また?」
「いいの!」
◇
午後三時。
カフェ。
「ケーキ!」
黒瀬。
「念願」
「約束したからね」
ショートケーキ。
黒瀬。
チョコ。
俺。
「朝倉君」
「何」
「一口交換する?」
「…………」
「お皿で!」
「分かってる」
「先に言っただけ!」
「そんな警戒しなくても」
「誰のせい!?」
「黒瀬」
「違う!」
皿。
少し。
交換。
「美味しい」
黒瀬。
「うん」
「そっちも」
「食べる?」
「うん」
俺。
フォーク。
ケーキ。
切る。
黒瀬。
見る。
「…………」
「何」
「いや」
「何」
「何でも」
目。
逸らす。
「…………」
俺。
何してる。
今日。
何回。
黒瀬。
見てる。
いつも。
見てた?
学校でも。
黒瀬が。
教室。
入ってくる。
気づく。
笑ってる。
気づく。
誰かと。
話してる。
何となく。
目。
行く。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「また見てた」
「見てない」
「今日は絶対見てた」
「…………」
「私の顔何かついてる?」
「ついてない」
「じゃあ何?」
「…………」
可愛い。
「…………」
頭。
浮かぶ。
「朝倉君?」
「何でもない」
「怪しい」
「ケーキ食べろ」
「誤魔化した」
「溶ける」
「ケーキは溶けません」
「クリーム」
「それもそんなすぐ溶けない」
「…………」
「ふふ」
笑う。
「…………」
また。
見てしまう。
◇
午後四時。
「朝倉君」
「何」
「プレゼント」
「今?」
「うん」
ベンチ。
人。
少ない。
「はい」
黒瀬。
紙袋。
「メリークリスマス」
「…………」
「何」
「いや」
「言って!」
「メリークリスマス」
「棒読み」
「慣れてない」
「まあいいや」
受け取る。
「開けていい?」
「うん」
中。
箱。
開ける。
「…………」
マフラー。
シンプル。
濃い。
落ち着いた色。
「…………」
「どう?」
「いい」
「ほんと?」
「うん」
「…………」
黒瀬。
安心。
したように。
笑う。
「朝倉君、こういう色似合いそうだと思って」
「ありがとう」
「うん」
「使う」
「ほんと?」
「明日から」
「学校冬休みだよ」
「…………」
「あ」
「ふふ」
「じゃあバイト」
「うん」
「…………」
「朝倉君は?」
「ああ」
鞄。
紙袋。
出す。
「これ」
「…………」
「メリークリスマス」
「今度はちゃんと言えた」
「二回目だから」
渡す。
黒瀬。
受け取る。
「開けていい?」
「うん」
紙。
開く。
「…………」
中。
小さな。
箱。
「これ……」
ブレスレット。
細い。
シンプル。
派手じゃない。
小さな。
星。
ついている。
「…………」
黒瀬。
何も。
言わない。
「黒瀬?」
「…………」
「嫌だった?」
「違う!」
顔。
上げる。
「違う」
「じゃあ」
「…………」
ブレスレット。
見る。
「可愛い」
「よかった」
「これ」
「うん」
「朝倉君が選んだの?」
「そう」
「一人で?」
「うん」
「…………」
「何」
「どれくらい悩んだ?」
「…………」
「朝倉君?」
「一時間くらい」
「…………」
「笑うなよ」
「笑ってない」
黒瀬。
笑ってる。
でも。
少し。
目。
潤んでるようにも。
見える。
「何で星?」
「…………」
理由。
ある。
黒瀬。
夜。
好き。
ゲーム。
終わったあと。
たまに。
『今日星綺麗』
送ってくる。
それを。
覚えていた。
「前」
「うん」
「星見るの好きって言ってたから」
「…………」
「チャットで」
「覚えてたの?」
「うん」
「…………」
「黒瀬?」
「朝倉君」
「何」
「ずるい」
「何が」
「そういうの覚えてるの」
「普通だろ」
「普通じゃない」
「友達なら」
「…………」
止まる。
俺も。
止まる。
また。
友達。
「…………」
黒瀬。
少し。
笑う。
「そっか」
「うん」
「友達だから」
「…………」
なぜか。
言った俺が。
少し。
嫌だった。
◇
「つけていい?」
「今?」
「うん」
「いいけど」
黒瀬。
ブレスレット。
手首。
つけようとする。
「…………」
「あれ」
「何」
「留めにくい」
「貸して」
「え」
「俺やる」
「…………」
手。
出す。
黒瀬。
少し。
迷って。
左手。
差し出す。
「…………」
細い。
手首。
触れないように。
留め具。
持つ。
「…………」
近い。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「手震えてない?」
「震えてない」
「ちょっと震えてる」
「細かいから」
「…………」
「動くな」
「うん」
カチ。
「できた」
「…………」
手。
離す。
黒瀬。
ブレスレット。
見る。
星。
小さく。
揺れる。
「どう?」
俺。
「可愛い」
「そう」
「…………」
「すごく」
黒瀬。
俺を見る。
「嬉しい」
「…………」
「ありがとう」
「うん」
心臓。
うるさい。
◇
午後五時。
外。
暗い。
「そろそろ」
俺。
「行く?」
「うん」
駅前。
広場。
向かう。
人。
多い。
さっきより。
さらに。
カップル。
多い。
「…………」
「…………」
黒瀬。
俺。
並ぶ。
前。
カップル。
後ろ。
カップル。
右。
カップル。
左。
「…………」
「朝倉君」
「何」
「気づいた?」
「何に」
「…………」
周り。
見る。
「カップル多い」
「やっぱり」
「クリスマスだから」
「うん」
「…………」
「…………」
「私たち」
黒瀬。
「うん」
「浮いてない?」
「何で」
「だって」
「友達でもイルミネーション見るだろ」
「…………」
「多分」
「最後弱い」
「分からない」
「ふふ」
笑う。
でも。
俺も。
思う。
周りから。
俺たち。
どう。
見えてる。
んだろう。
◇
午後五時半。
点灯。
「…………」
「わ」
黒瀬。
声。
漏れる。
木。
街路樹。
広場。
一斉。
光。
白。
青。
金。
「すご」
「うん」
「綺麗」
「うん」
黒瀬。
横顔。
光。
反射。
瞳。
少し。
輝いてる。
「…………」
俺。
イルミネーション。
じゃなく。
黒瀬。
見てる。
「…………」
また。
「朝倉君」
「!」
「何見てるの」
「イルミネーション」
「私こっちだけど」
「…………」
「見てたよね?」
「…………」
「今日何回目?」
「知らない」
「私も分かんない」
「…………」
「何」
黒瀬。
俺を見る。
「……そんな見られると」
「うん」
「恥ずかしい」
「…………」
「だから」
「うん」
「何で見てるの?」
分からない。
いや。
少し。
分かってる。
気がする。
でも。
言葉に。
できない。
「……ブレスレット」
「え?」
「似合ってるか見てた」
「…………」
黒瀬。
手首。
見る。
「そっか」
「うん」
「似合ってる?」
「うん」
「…………」
笑う。
「ありがとう」
違う。
ブレスレットだけ。
見てたんじゃない。
分かってる。
でも。
それ以上。
言えない。
◇
広場。
少し。
歩く。
「写真撮ろ」
黒瀬。
「イルミネーション?」
「うん」
「撮るよ」
「違う」
「?」
「二人で」
「…………」
「嫌?」
「嫌じゃない」
「じゃあ」
黒瀬。
スマホ。
出す。
「こっち」
「近くない?」
「二人入らないから」
「そう」
肩。
近い。
黒瀬。
顔。
近い。
「朝倉君」
「何」
「笑って」
「笑ってる」
「全然」
「これで限界」
「じゃあ」
黒瀬。
「今日楽しかった?」
「…………」
「楽しかった」
「…………」
「今!」
カシャ。
「何」
「笑った」
「ずる」
「見せてあげる」
「…………」
写真。
二人。
後ろ。
イルミネーション。
黒瀬。
笑顔。
俺。
少し。
笑ってる。
「いい写真」
「そう?」
「うん」
「送るね」
「うん」
スマホ。
通知。
写真。
保存。
「…………」
六人の写真。
たくさん。
ある。
黒瀬と。
二人。
これが。
初めて。
ではない。
でも。
今日の写真は。
何か。
少し。
違って見えた。
◇
帰り。
駅。
「今日」
黒瀬。
「うん」
「本当に楽しかった」
「俺も」
「…………」
「何」
「即答」
「悪い?」
「ううん」
笑う。
「嬉しい」
「…………」
「プレゼントも」
左手。
上げる。
星。
揺れる。
「大事にする」
「うん」
「朝倉君もマフラー使ってね」
「使う」
「絶対?」
「うん」
「写真送って」
「何で」
「確認」
「学校始まったら見れば」
「冬休み長い」
「二週間くらい」
「長い」
「ゲームで毎日話すだろ」
「そうだけど」
「…………」
黒瀬。
少し。
黙る。
「やっぱり」
「何」
「顔見て話すのと」
「うん」
「ゲームで話すの」
「違うね」
「…………」
俺も。
思う。
「また会えばいいじゃん」
「…………」
黒瀬。
止まる。
「何」
「朝倉君」
「うん」
「冬休み?」
「暇合えば」
「…………」
「嫌?」
「嫌じゃない!」
早い。
「じゃあ」
「うん」
「また連絡する」
「うん」
笑う。
「約束」
「約束」
◇
電車。
来る。
「じゃあ」
「うん」
「またね」
「またゲームで」
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
「今日は」
「うん」
「またゲームで、じゃなくて」
「?」
「また会おうね」
「…………」
「うん」
「またね」
「また」
電車。
乗る。
扉。
閉まる。
黒瀬。
窓。
向こう。
手。
振る。
俺も。
小さく。
手。
上げる。
電車。
離れる。
「…………」
静寂。
◇
帰宅。
「ただいま」
「おかえり」
母。
リビング。
「楽しかった?」
「…………」
何で。
知ってる。
「出かけるって言っただろ」
「ああ」
「友達?」
「うん」
「前に会った子?」
「…………」
「何で」
「夏休みも出かけてたでしょ」
「…………」
「まあ」
「そっか」
母。
それ以上。
聞かない。
「…………」
「あ」
「何」
「それ」
マフラー。
「もらったの?」
「…………」
「うん」
「その友達に?」
「うん」
「…………」
少し。
笑う。
「何」
「別に」
「その言い方やめて」
「誰かさんと同じ?」
「…………」
「何で知ってんの」
「知らないけど」
「…………」
部屋。
戻る。
◇
午後九時。
通知。
Yuu。
『今日はありがとう!』
『こっちこそ』
『プレゼント本当にありがとう』
『うん』
『今もつけてる』
「…………」
写真。
送られてくる。
左手。
ブレスレット。
星。
『家でも?』
『一回外したけど』
『またつけた』
『何で』
『嬉しいから』
「…………」
『そう』
『マフラーは?』
『部屋で巻けって?』
『写真!』
『嫌』
『送って!』
『嫌』
『プレゼントした人の権利』
『そんな権利ない』
『ある』
『ない』
『ケチ』
「…………」
笑う。
『朝倉君』
『何』
『今日』
『うん』
『デートみたいだったね』
「…………」
指。
止まる。
デート。
水瀬。
何度も。
言っていた。
俺。
否定。
していた。
友達だから。
違う。
そう。
思っていた。
『…………』
打つ。
消す。
『そうかも』
「…………」
送る。
既読。
つかない。
いや。
つく。
『え』
「…………」
『何』
『否定しないんだ』
『今日カップル多かったし』
『そういう意味?』
『他に何が』
『…………』
「…………」
『黒瀬?』
『なんでもない』
『またそれ』
『今日は許して』
「…………」
少し。
間。
『でも』
『うん』
『もし』
止まる。
『今日がデートだったとしても』
「…………」
『私は楽しかったよ』
心臓。
一つ。
大きく。
鳴る。
『俺も』
送る。
また。
間。
『そっか』
『うん』
『じゃあ』
『今日は』
『デートだったことにする?笑』
「…………」
冗談。
多分。
最後。
笑。
ついてる。
だから。
俺も。
冗談で。
返せばいい。
『しない』
それで。
終わる。
はず。
なのに。
指。
動かない。
「…………」
『どっちでもいい』
送る。
『何それ笑』
『楽しかったから』
既読。
「…………」
一分。
『私も』
それだけ。
◇
スマホ。
置く。
ベッド。
横。
今日。
一日。
思い出す。
駅。
黒瀬。
服。
似合ってた。
飯。
買い物。
ケーキ。
プレゼント。
ブレスレット。
イルミネーション。
二人の。
写真。
『デートみたいだったね』
「…………」
もし。
今日。
黒瀬じゃなく。
水瀬だったら。
同じだった?
小宮山だったら。
同じくらい。
楽しみにした?
服。
十分以上。
悩んだ?
顔。
何度も。
見た?
指。
少し。
触れただけで。
気にした?
プレゼント。
一時間。
悩んだ?
別れたあと。
また会いたいと。
思った?
「…………」
多分。
違う。
陽斗。
玲司。
水瀬。
小宮山。
大切な。
友達。
黒瀬も。
友達。
最初に。
できた。
大切な。
友達。
でも。
同じ。
じゃない。
「…………」
そこまでは。
もう。
分かっていた。
じゃあ。
何が。
違う。
答え。
出そうとして。
怖くなる。
もし。
名前を。
つけたら。
今までと。
同じでは。
いられなくなる。
そんな。
気がした。
「…………」
だから。
その夜も。
俺は。
答えを。
出さなかった。
ただ。
一つだけ。
もう。
言えなくなっていた。
――黒瀬と出かけるのは、友達だから。
それだけでは。
今日という一日を。
説明できない。
気がしていた。




