第19話 知らなかった君のこと
文化祭が終わった。
月曜日。
教室に入る。
「湊、おはよ!」
「おはよう」
「…………」
陽斗が。
固まる。
「何」
「いや」
「何」
「お前から普通に『おはよう』返ってくるの、まだちょっと感動する」
「毎日返してるだろ」
「最近な!」
「じゃあ慣れろ」
「冷た!」
「おはよ」
玲司。
「おはよう」
「…………」
「玲司まで何」
「いや」
少し笑っている。
「陽斗の気持ちちょっと分かる」
「何で」
「一学期のお前なら」
玲司が。
俺の机を見る。
「今くらいの時間、もう寝てた」
「…………」
寝てた。
正確には。
寝たふり。
「そうだっけ」
「そう」
「おはよー!」
教室。
声。
水瀬。
小宮山。
黒瀬。
「おはよう」
小宮山。
「おはよ」
水瀬。
「…………」
黒瀬。
目。
合う。
「おはよう、朝倉君」
「おはよう」
「…………」
「…………」
普通。
ただの。
挨拶。
もう。
それを見ても。
陽斗は何も言わない。
玲司も。
水瀬は。
「…………」
ちょっと。
笑ってる。
「何」
「何も?」
「朝からやめろ」
「何が?」
「その顔」
「失礼だなー」
黒瀬が笑う。
「莉央最近ずっとこれだから」
「誰のせいかな?」
「知らない!」
「…………」
文化祭が。
終わっても。
俺たちは。
変わらなかった。
いや。
少し。
違う。
文化祭前より。
もっと。
自然になった。
◇
昼休み。
「今日どこで食う?」
陽斗。
「ここでいいだろ」
玲司。
「女子呼ぶ?」
「好きにすれば」
「湊」
「何」
「お前最近それ言うけど」
「うん」
「呼んだら普通に一緒に食うよな」
「うん」
「じゃあ呼びたいんじゃん」
「…………」
「違う?」
「別に」
「出た!」
「何」
「別に!」
「うるさい」
「由香ー!」
陽斗。
「昼食おうぜ!」
「いいよー!」
黒瀬。
水瀬。
小宮山。
三人。
机。
寄せる。
「…………」
六人。
体育祭。
文化祭。
あの頃は。
六人で集まると。
少しだけ。
特別だった。
今は。
違う。
「朝倉君」
「何」
「今日何?」
黒瀬。
「唐揚げ」
「また?」
「悪い?」
「好きだね」
「美味しいから」
「お母さんの?」
「うん」
「…………」
黒瀬。
弁当を見る。
「いいな」
「何が」
「毎日作ってくれるの」
「まあ」
「私、自分で作る日もあるよ」
「知ってる」
「…………」
「…………」
あ。
「朝倉君」
水瀬。
「何」
「何で知ってるの?」
「…………」
黒瀬。
止まる。
「前に聞いた」
「いつ?」
「…………」
「莉央!」
「何?」
「毎回尋問しないで!」
「だって!」
水瀬が。
俺を見る。
「朝倉君、由香のこと知りすぎじゃない?」
「そう?」
「そうだよ」
「仲いいからじゃない?」
「…………」
自分で。
言ってから。
少し。
止まる。
「…………」
黒瀬も。
止まる。
「へえ」
水瀬。
「朝倉君から認めるんだ?」
「何を」
「由香と仲いいって」
「友達だろ」
「…………」
黒瀬。
俺を見る。
「そうだけど」
「じゃあいいじゃん」
「う、うん」
「…………」
何だ。
その反応。
「由香」
水瀬。
「何?」
「顔」
「何!」
「何でもない」
「もう!」
玲司。
俺を見る。
「何」
「湊」
「うん」
「お前」
「何」
「多分、もうちょっと自覚した方がいい」
「何を」
「…………」
「玲司?」
「いや」
弁当。
食べる。
「まだいい」
「何が」
「そのうち分かる」
「…………」
最近。
みんな。
俺に分からない話をする。
◇
放課後。
「湊!」
「何」
「今日ゲーセン行かね?」
陽斗。
「今日?」
「うん!」
「玲司も?」
「行く」
「俺バイト」
「…………」
言ってから。
止まる。
「え?」
陽斗。
「…………」
まずい。
「バイト?」
「…………」
玲司。
「湊」
「…………」
終わった。
「お前バイトしてんの?」
「…………」
教室。
幸い。
近くに。
先生はいない。
「声」
「あ」
陽斗。
小さくなる。
「バイトしてるの?」
「…………」
どうする。
学校。
原則。
禁止。
陽斗。
玲司。
信用。
できないわけじゃない。
でも。
「……してる」
「マジ?」
「うん」
「どこ?」
「それは言わない」
「何で?」
「学校にバレたら困る」
「ああ」
玲司。
すぐ。
察する。
「禁止だからか」
「うん」
「じゃあ聞かない」
「…………」
玲司。
それだけ。
「陽斗も」
「もちろん!」
「…………」
「何」
「いや」
陽斗が。
少し。
真面目な顔。
「湊が言いたくないなら言わない」
「……ありがとう」
「おう!」
「でも」
「何」
「何のバイト?」
「言わない」
「ジャンルだけ!」
「嫌」
「コンビニ?」
「違う」
「塾?」
「違う」
「飲食?」
「…………」
「今の間!」
「うるさい」
「飲食だ!」
「陽斗」
玲司。
「やめとけ」
「分かったよ」
「…………」
でも。
陽斗。
笑う。
「なんか意外」
「何が」
「学校終わったらすぐ帰るから」
「うん」
「ゲームしたいだけだと思ってた」
「それもある」
「あるんだ」
「バイトない日は」
「なるほどなー」
「じゃあまた今度な!」
「うん」
「…………」
また今度。
普通に。
言われる。
俺も。
普通に。
「また今度」
返す。
「…………」
陽斗が。
また。
嬉しそうな顔。
「何」
「何でも!」
「気持ち悪い」
「ひどい!」
◇
校門。
出る。
駅。
向かう。
スマホ。
通知。
Yuu。
『今日バイトだよね?』
『うん』
『頑張ってー』
『ありがとう』
『何時まで?』
『8時くらい』
『じゃあ今日は9時?』
『ゲーム?』
『うん』
『元気だったら』
『了解!』
それだけ。
スマホ。
しまう。
「朝倉君!」
「…………」
振り返る。
黒瀬。
「何でいるの」
「何その言い方!」
「帰ったと思った」
「莉央たちと駅まで行くところ」
「ああ」
後ろ。
少し離れて。
水瀬。
小宮山。
「バイト?」
黒瀬。
小声。
「うん」
「頑張って」
「さっき聞いた」
「え?」
「…………」
スマホ。
指す。
「あ」
黒瀬。
「そっか」
「Yuuから」
「…………」
「何」
「いや」
黒瀬が。
少し笑う。
「学校で言って、ゲームでも言って」
「うん」
「二回言えるの変な感じ」
「確かに」
「頑張って」
「三回目」
「これは黒瀬由香として」
「何それ」
「Yuuとは別」
「同じ人だろ」
「気分!」
「…………」
笑う。
「じゃあ行く」
「うん」
「また夜」
「…………」
黒瀬。
少し。
目を丸くする。
「何」
「いや」
「何」
「学校で」
笑う。
「『また夜』って言われるの、なんかいいなって」
「…………」
「じゃあ」
黒瀬。
「また夜ね」
「うん」
別れる。
「…………」
また夜。
普通。
毎日の。
約束。
でも。
少し前の俺には。
なかった言葉だった。
◇
「いらっしゃいませ」
午後五時。
カフェ。
学校から。
電車。
自宅寄りの駅。
制服から。
バイト用の服。
着替える。
「朝倉君」
「はい」
「三番お願い」
「分かりました」
注文。
配膳。
片付け。
会計。
文化祭の接客とは。
違う。
当然。
こっちが。
本物。
「ありがとうございました」
客。
帰る。
「…………」
忙しい。
でも。
慣れてる。
「朝倉君」
「はい」
店長。
「最近ちょっと明るくなった?」
「え?」
「いや」
笑う。
「前より接客の声出てるから」
「…………」
「何かいいことあった?」
「別に」
「はは」
「…………」
また。
別に。
「学校楽しい?」
「…………」
聞かれる。
以前なら。
普通。
とか。
別に。
それで。
終わっていた。
「……最近は」
「うん」
「ちょっと」
「そっか」
店長。
それ以上。
聞かない。
「じゃあ三番下げてきて」
「はい」
◇
午後八時十分。
バイト。
終了。
「お疲れさまでした」
「お疲れー」
外。
夜。
スマホ。
通知。
『放課後』
十三件。
陽斗。
『ゲーセン到着』
写真。
玲司。
ゲーム。
水瀬たちも。
途中で合流したらしい。
「…………」
『湊も来ればよかったのに!』
陽斗。
『用事あるって言ってたじゃん』
小宮山。
『今度六人で行こう』
黒瀬。
『朝倉君クレーンゲーム上手いよ』
「…………」
また。
水瀬。
『なんで知ってるの?????』
「…………」
黒瀬。
『あ』
玲司。
『これは』
陽斗。
『何かあるな』
「…………」
俺。
『前に行った』
送る。
既読。
一。
二。
三。
六。
『え?』
水瀬。
『誰と?』
…………。
俺。
ミスった。
『黒瀬』
送る。
数秒。
グループ。
止まる。
「…………」
そして。
『ええええええええええ!?』
陽斗。
『やっぱり!!!』
水瀬。
『夏休み?』
玲司。
『二人で?』
小宮山。
黒瀬。
『朝倉君!!!!』
「…………」
何で。
俺が怒られる。
『何』
『言っちゃったの!?』
『ダメだった?』
『ダメじゃないけど!』
『じゃあいいじゃん』
『よくない!』
『どっち』
『もう!』
水瀬。
『由香』
『何』
『詳しく』
『嫌』
『明日聞く』
『嫌!!!』
陽斗。
『湊』
『何』
『お前夏休み黒瀬と二人でゲーセン行ったの?』
『うん』
『なんで????』
『友達だから』
「…………」
送る。
その瞬間。
なぜか。
少し。
引っかかる。
友達だから。
黒瀬が。
よく使う言葉。
俺も。
使った。
間違ってない。
俺と黒瀬は。
友達。
だから。
二人で遊んだ。
それだけ。
『なるほど』
陽斗。
『なるほどじゃないでしょ』
水瀬。
『何で』
陽斗。
『あんたは黙ってて』
『なんで!?』
玲司。
『まあ明日だな』
『何が』
俺。
『色々』
「…………」
嫌な予感。
◇
午後九時。
ログイン。
Yuu。
いる。
招待。
来る。
参加。
『朝倉君』
『何』
『言っちゃったね』
『ごめん』
『…………』
『何』
『ちゃんと謝れるんだ』
『俺を何だと思ってる』
『Nagi』
『そうだけど』
『笑』
マッチング。
『別に怒ってないよ』
『ならよかった』
『いつかバレると思ってたし』
『うん』
『体育祭から怪しまれてたし』
『黒瀬が分かりやすいから』
『朝倉君も!』
『俺は普通』
『普通じゃない!』
ゲーム。
始まる。
降下。
物資。
集める。
『敵』
『見えてる』
戦闘。
一人。
ダウン。
『右』
『任せて』
二人目。
撃破。
『ナイス』
『そっちも』
いつも通り。
話さなくても。
分かる。
『朝倉君』
『何』
『今日』
『うん』
『陽斗君たちにバイトのこと言った?』
「…………」
『何で』
『放課後、用事って言ってたから』
『言った』
『え』
『俺が間違えてバイトって言った』
『そっか』
『場所は言ってない』
『うん』
『学校にも言わないって』
『…………』
『何』
『友達増えたね』
「…………」
また。
それ。
『そうだな』
『最初は私だけだったのに』
「…………」
指。
止まる。
『寂しい?』
冗談。
そのつもり。
送る。
返事。
少し。
遅い。
『ちょっとだけ』
「…………」
え。
『嘘笑』
「…………」
すぐ。
次。
『むしろ嬉しいよ』
『朝倉君が学校楽しそうだから』
「…………」
友達だから。
また。
そう言うと思った。
でも。
言わなかった。
『でも』
『うん』
『最初の友達の席は』
『私のだからね』
「…………」
『席って何』
『一番古い友達』
『古いって言うな』
『じゃあ初号機』
『もっと嫌』
『笑』
「…………」
ゲーム。
続ける。
でも。
さっきの。
『ちょっとだけ』
なぜか。
頭に残った。
◇
翌日。
「湊」
教室。
入った瞬間。
陽斗。
「何」
「座れ」
「俺の席」
「そうだよ」
「じゃあ座る」
「違う!」
「何」
「尋問!」
「帰る」
「来たばっかだろ!」
玲司。
隣。
いる。
「玲司」
「諦めろ」
「何で」
「俺もちょっと気になる」
「…………」
そこ。
女子。
水瀬。
小宮山。
黒瀬。
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「朝倉君」
水瀬。
「おはよう」
「おはよう」
「質問があります」
「嫌です」
「拒否権ありません」
「何で」
「夏休み」
「…………」
「由香と」
「うん」
「二人で」
「うん」
「ゲーセン?」
「うん」
「…………」
「何」
「何でそんな普通なの!?」
「友達だから」
「またそれ!」
「何が」
「いつから友達なの?」
「…………」
来た。
答え。
難しい。
「テスト前くらい?」
黒瀬。
「…………」
俺を見る。
「まあ」
「何で疑問形?」
水瀬。
「自然に」
「二人でゲームショップも行った?」
「…………」
黒瀬。
「莉央!」
「昨日聞いた!」
「誰から!?」
「由香が前に言ってたゲーム機材見た話と繋がった!」
「…………」
鋭い。
「朝倉君」
「何」
「由香のゲーム趣味も知ってる?」
「…………」
沈黙。
黒瀬。
俺を見る。
「知ってる」
言う。
「朝倉君!」
黒瀬。
「もう無理だろ」
「…………」
「体育祭からずっと怪しまれてる」
「それは……」
「ゲーム好きなの隠す必要ある?」
「ないけど」
「じゃあ」
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
そして。
ため息。
「……分かった」
「え?」
水瀬。
「私」
黒瀬。
「ゲーム好き」
「知ってる」
「え?」
「前から知ってる」
「何で!?」
「泊まりのときゲーム機持ってきてたじゃん」
「…………」
黒瀬。
固まる。
「じゃあ何で今まで」
「由香が隠したそうだったから」
「…………」
「別に引かないよ?」
「…………」
「何それ」
黒瀬。
少し。
力が抜ける。
「もっと早く言ってよ」
「聞かれなかったし」
「…………」
俺。
少し。
笑う。
「何?」
黒瀬。
「いや」
「何!」
「黒瀬っぽい」
「どういう意味!」
水瀬。
俺を見る。
「で」
「何」
「朝倉君もゲーム好き」
「うん」
「由香もゲーム好き」
「うん」
「それで仲良くなった?」
「…………」
俺。
黒瀬。
目。
合う。
嘘を。
つく必要。
もう。
あるだろうか。
「まあ」
俺。
「そんな感じ」
「へえええ」
「何」
「ゲーム友達だったんだ?」
「うん」
「なるほどねー」
水瀬。
納得。
……した?
「じゃあ」
「何」
「夏休み二人で遊んだのも」
「友達だから」
「はいはい」
「何」
「分かった分かった」
「絶対分かってないだろ」
「分かってるよ」
水瀬が。
笑う。
「二人が思ってるより仲いいってこと」
「…………」
「…………」
黒瀬。
顔。
赤い。
「莉央!」
「何?」
「もう終わり!」
「はいはい」
◇
昼休み。
六人。
机。
囲む。
「でも」
陽斗。
「湊と黒瀬がゲーム友達だったの意外だわ」
「そう?」
「うん」
「俺も」
玲司。
「学校だと最初全然話してなかったから」
「まあ」
「何のゲーム?」
「…………」
黒瀬。
俺を見る。
「言う?」
「いいんじゃない?」
「FPS」
「マジ?」
玲司。
食いつく。
「何やってる?」
「同じやつ」
俺。
「…………」
玲司。
止まる。
「待て」
「何」
「俺と湊がやってるやつ?」
「うん」
「黒瀬も?」
「うん」
「ランクは?」
「…………」
黒瀬。
言う。
「――くらい」
「高っ」
玲司。
「結構やってる?」
「結構」
「今度やろう」
「いいよ」
「…………」
俺。
見る。
Yuu。
玲司。
俺。
三人。
ゲーム。
それも。
悪くない。
でも。
ほんの一瞬。
二人でやる時間。
減るのかな。
そう。
思った。
「…………」
何で。
俺が。
「朝倉君」
「何」
黒瀬。
「今」
「何」
「嫌そうな顔した?」
「してない」
「ほんと?」
「うん」
「…………」
黒瀬。
俺を見る。
少し。
笑う。
「二人でやるのも続けようね」
「…………」
「え?」
玲司。
「何」
黒瀬。
「いや」
玲司。
俺を見る。
「何でもない」
「…………」
こいつ。
絶対。
分かってる。
◇
放課後。
俺。
鞄。
持つ。
「湊」
「何」
陽斗。
「今日バイト?」
「うん」
「…………」
「何」
「いや」
笑う。
「普通に言ってくれるんだな」
「もうバレたから」
「場所は聞かない」
「うん」
「頑張れ」
「ありがとう」
玲司。
「またゲーム」
「うん」
「黒瀬も」
「うん!」
黒瀬。
「…………」
少し。
不思議。
秘密。
一つ。
減った。
俺のバイト。
陽斗。
玲司。
知った。
黒瀬のゲーム。
水瀬。
小宮山。
玲司。
陽斗。
知った。
隠していたもの。
少しずつ。
見せていく。
それでも。
離れない。
「…………」
友達って。
こういうものなのかもしれない。
◇
その夜。
バイト。
終わり。
帰宅。
ゲーム。
ログイン。
Yuu。
招待。
参加。
『今日は玲司いないの?』
『呼ぶ?』
『ううん』
『いいの?』
『今日は』
少し。
間。
『二人がいい』
「…………」
『何で』
『なんとなく』
『そう』
『嫌?』
『別に』
『出た』
『何』
『便利な別に』
『うるさい』
マッチング。
開始。
降下。
いつもの場所。
二人。
走る。
言葉。
少なくても。
分かる。
敵。
右。
黒瀬。
左。
俺。
挟む。
撃破。
『ナイス』
『ナイス!』
やっぱり。
この感じ。
落ち着く。
玲司と。
ゲームするのも楽しい。
陽斗とやるのも。
多分。
楽しい。
でも。
Yuuと二人でやる時間は。
少し。
違う。
最初から。
ずっと。
そうだった。
『朝倉君』
『何』
『今日』
『うん』
『莉央たちにゲームのこと言えて』
『うん』
『ちょっとスッキリした』
『よかったじゃん』
『うん』
『でも』
『何』
『私たちが最初にゲームで会ったことは』
「…………」
『まだ秘密ね』
『何で』
『なんか』
少し。
間。
『それはまだ』
『二人だけの秘密にしてたい』
「…………」
理由。
分からない。
でも。
俺は。
『分かった』
送った。
『いいの?』
『黒瀬がそうしたいなら』
『…………』
『何』
『やっぱ朝倉君優しいね』
『普通』
『そういうとこ』
『何』
『何でもない』
「…………」
ゲーム。
終盤。
残り。
二部隊。
『行く?』
『行く』
同時。
前。
出る。
最後。
敵。
撃破。
画面。
WINNER
『やった!』
『うん』
『今日も一位!』
『相性いいな』
『今さら?』
『今さら』
『最初からでしょ』
「…………」
最初から。
そう。
最初から。
俺たちは。
妙に。
息が合った。
その相手が。
黒瀬だった。
今は。
学校でも。
話す。
昼飯も。
食べる。
二人で。
遊びにも行く。
俺の知らなかった。
黒瀬を。
たくさん知っている。
黒瀬も。
学校の誰にも話していなかった。
俺のことを。
たくさん知っている。
でも。
まだ。
知らないこともある。
俺の家のこと。
父親のこと。
部活に入らなかった。
本当の理由。
俺が。
どうして。
学校の禁止を破ってまで。
バイトをしているのか。
黒瀬は。
知らない。
いつか。
話す日が。
来るんだろうか。
そのとき。
俺は。
ちゃんと。
話せるんだろうか。
『朝倉君?』
『何』
『止まってる』
『考え事』
『珍しい』
『いつもしてる』
『何考えてたの?』
「…………」
少し。
迷う。
『秘密』
『えー!』
『黒瀬にも秘密あるだろ』
『あるけど!』
『じゃあ同じ』
『…………』
少し。
間。
『じゃあ』
『いつか』
『話したくなったら教えて』
「…………」
聞かない。
無理に。
踏み込まない。
陽斗も。
玲司も。
黒瀬も。
そうだった。
『うん』
送る。
『そのときは』
『話す』
『了解!』
その夜。
俺は。
少しだけ。
思った。
友達になるって。
相手のことを。
全部知ることじゃない。
知らないことがあっても。
無理に聞かず。
それでも。
隣にいられること。
そして。
いつか。
自分から話したいと。
思えること。
なのかもしれない。
俺は。
まだ。
黒瀬に。
話していないことがある。
そして。
俺も。
まだ。
黒瀬のことを。
全部知っているわけじゃない。
だから。
きっと。
これから。
もっと。
知っていく。
友達として。
――今は。
まだ。
それでいいと思っていた。




