第18話 友達だから
翌朝。
目が覚めて。
最初に思い出したのは。
文化祭でも。
今日のシフトでもなく。
『誰もデートとか言ってないけど?』
「…………」
水瀬の言葉だった。
デート。
昨日。
黒瀬のスマホを取りに行った。
ただ。
それだけ。
二人で出かけたことなら。
夏休みにだってある。
ゲームショップ。
ゲームセンター。
飯。
あのときは。
何とも思わなかった。
いや。
本当に?
「…………」
スマホ。
午前六時四十分。
通知。
Yuu。
『おはよー!』
早い。
『早いな』
すぐ既読。
『文化祭だから!』
『普段も起きろ』
『起きてる!』
『一学期寝そうになってたじゃん』
『なんで覚えてるの』
「…………」
覚えてる。
黒瀬が。
眠そうにしていた日。
あの頃は。
Yuuだと知らなかった。
『朝倉君』
『何』
『今日も頑張ろーね』
『うん』
『あと』
『?』
『今日も一緒に回ろ!』
「…………」
指。
止まる。
昨日までなら。
普通に。
『うん』
それだけ。
だったはず。
なのに。
水瀬のせいだ。
絶対。
『六人で?』
送る。
数秒。
『うん!』
「…………」
なぜ。
少しだけ。
安心したのか。
自分でも。
分からなかった。
◇
「おはよー!」
教室。
黒瀬。
水瀬。
小宮山。
三人。
「おはよう」
小宮山。
「おはよ」
俺。
「朝倉君!」
「何」
黒瀬が。
こっちへ来る。
「今日も接客?」
「午後」
「私も!」
「知ってる」
「え?」
「シフト表」
「ああ」
「…………」
「…………」
何だ。
普通だ。
昨日と。
変わらない。
「朝倉君?」
「何」
「今日なんか変」
「何が」
「目合わせなくない?」
「…………」
鋭い。
「気のせい」
「ほんと?」
「うん」
見る。
黒瀬。
目。
合う。
「…………」
「ほら」
「何が?」
「合わせてる」
「…………」
黒瀬が。
笑う。
「変なの」
「そっちが言ったんだろ」
「そうだけど」
「湊ー!」
陽斗。
「写真!」
「朝から?」
「文化祭二日目記念!」
「何でも記念にするな」
「いいじゃん!」
玲司も。
来る。
「昨日何枚撮った?」
俺。
「百枚くらい?」
水瀬。
「撮りすぎ」
「今日も撮るよ!」
「スマホの容量なくなる」
「思い出は容量使うものなの!」
「名言っぽく言うな」
「いいこと言ったでしょ?」
「別に」
「朝倉君最近『別に』多くない?」
「誰かの影響」
「誰?」
「…………」
黒瀬。
見る。
「何で私見るの?」
「別に」
「ほら!」
みんなが。
笑う。
「…………」
やっぱり。
普通だ。
多分。
昨日の夜。
変なことを考えただけ。
◇
文化祭。
二日目。
一日目以上に。
人が多かった。
「最後尾こちらでーす!」
「パンケーキあと十!」
「ドリンク補充お願い!」
「会計詰まってる!」
教室。
完全に。
店。
「朝倉君!」
「何」
「六番!」
「分かった」
黒瀬。
注文。
俺。
配膳。
「橘!」
「はい!」
「三番空いた!」
「片付ける!」
「陽斗」
「何!」
「トレー」
「あ!」
「また傾いてる」
「師匠!」
「呼ぶな」
「助けて!」
「水平に持つだけ」
「それが難しいんだよ!」
「何で」
「湊がおかしい!」
「朝倉君!」
水瀬。
「陽斗放っておいてこっち!」
「俺!?」
「何」
「レジお願い!」
「玲司は?」
「飲み物!」
「分かった」
「湊!」
「頑張れ」
「裏切り者!」
「仕事しろ」
忙しい。
でも。
不思議と。
嫌じゃない。
◇
午前十一時。
「ありがとうございました」
客。
帰る。
「…………」
少し。
落ち着いた。
「朝倉君」
「ん?」
黒瀬。
「これ」
紙コップ。
「また水?」
「うん」
「ありがとう」
受け取る。
飲む。
「疲れたね」
「昨日より多い」
「ね」
「…………」
「…………」
黒瀬。
隣。
立つ。
「朝倉君」
「何」
「昨日」
「うん」
「楽しかった?」
「また聞く?」
「あ」
「何回目」
「分かんない」
「俺も」
「じゃあ聞かない」
「楽しかったよ」
「…………」
「何」
「いや」
黒瀬が。
少し嬉しそうに笑う。
「聞かなくても言ってくれた」
「…………」
「成長」
「何目線」
「最初の友達目線」
「何それ」
「私しかできない」
「…………」
確かに。
「そうだな」
「でしょ?」
黒瀬。
笑う。
「…………」
昨日。
水瀬に。
変なことを言われたせい。
それだけ。
そう思っていたのに。
黒瀬の笑顔を。
少し。
意識してしまう。
「朝倉君?」
「何」
「また見てる」
「見てない」
「絶対見てた」
「気のせい」
「最近そればっか」
「便利だから」
「私の真似?」
「…………」
「やっぱり!」
「うるさい」
◇
昼。
「後半組休憩!」
「よし!」
陽斗。
「今日はどこ行く!?」
「昨日大体回っただろ」
玲司。
「まだある!」
水瀬。
「体育館!」
「何やってるの?」
黒瀬。
「軽音とダンス部」
「行きたい!」
「じゃあ決まり」
「俺の意見は?」
俺。
「行きたくない?」
小宮山。
「……別に」
「じゃあ決まり」
「別に便利だね」
「小宮山まで」
「ふふ」
◇
体育館。
暗い。
ステージ。
照明。
音楽。
「すご!」
黒瀬。
「人多いね」
小宮山。
「前行こう!」
水瀬。
「無理」
俺。
「何で!」
「人多い」
「文化祭だよ!」
「理由になってない」
「ほら!」
水瀬。
黒瀬の腕を引く。
「行こ!」
「うん!」
女子三人。
前。
「俺らどうする?」
陽斗。
「ここでいい」
玲司。
「俺も」
俺。
「ノリ悪!」
「人多い」
「湊そればっか!」
「苦手なんだから仕方ない」
「…………」
陽斗。
少し笑う。
「何」
「いや」
「何」
「湊、そういうの普通に言うようになったなと思って」
「…………」
「前だったら」
陽斗。
「『別に』で終わってたじゃん」
「そう?」
「そう」
玲司も。
「人多いの苦手とか、前は言わなかったな」
「…………」
「何」
「いや」
陽斗が。
笑う。
「いいじゃん」
「何が」
「別に」
「それ俺の」
「黒瀬のだろ?」
「…………」
「…………」
「何で黒瀬?」
「知らん」
「お前」
「ステージ見ようぜ!」
「逃げるな」
陽斗。
絶対。
最近。
何か気づいてる。
◇
演奏。
終わる。
拍手。
「よかったー!」
黒瀬たち。
戻ってくる。
「朝倉君も前来ればよかったのに」
「人多い」
「知ってる」
「…………」
「何」
「知ってるんだ」
「まあ」
「…………」
当たり前。
毎日。
話してる。
俺が。
どういう人間か。
黒瀬は。
多分。
この中で。
一番知っている。
「次どうする?」
水瀬。
「写真撮りたい」
小宮山。
「どこ?」
「中庭に文化祭のパネルあったよ」
「行こ!」
◇
中庭。
巨大な。
文化祭の装飾。
「すご」
陽斗。
「誰作ったんだ?」
「美術部らしいよ」
小宮山。
「写真!」
水瀬。
「また?」
俺。
「何回言うのそれ」
「毎回撮るから」
「じゃあ毎回言う」
「はいはい!」
六人。
並ぶ。
「すみませーん!」
水瀬が。
通りかかった生徒に頼む。
「撮ってもらっていいですか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます!」
並ぶ。
いつもの。
六人。
「もうちょっと詰めてくださーい」
「…………」
詰める。
右。
陽斗。
左。
黒瀬。
「もうちょっと!」
「まだ?」
「朝倉君」
「何」
「こっち」
黒瀬が。
俺の袖。
少し引く。
「…………」
肩。
近い。
「これくらい?」
「うん」
「撮りますよー!」
「…………」
「朝倉君」
小声。
「何」
「笑って」
「分かってる」
「お」
「何」
「言わなくても笑える?」
「うるさい」
「はい、チーズ!」
カシャ。
◇
「いい写真!」
水瀬。
「見せて」
黒瀬。
六人。
全員。
笑っている。
「送るね!」
「うん」
「…………」
俺。
黒瀬。
隣。
肩。
少し。
触れそうなくらい。
「…………」
また。
意識。
する。
「朝倉君」
「!」
黒瀬。
「何?」
「どうしたの」
「何も」
「写真見てた」
「普通だろ」
「そうだけど」
「行くぞ」
「待ってよ」
何なんだ。
本当に。
◇
「次どうする?」
水瀬。
「俺腹減った」
陽斗。
「さっき食べたじゃん」
「文化祭は別腹!」
「昨日黒瀬も言ってた」
俺。
「え?」
陽斗。
「由香が?」
「…………」
また。
やった。
「朝倉君」
水瀬。
「何」
「昨日の由香の発言、結構覚えてるね」
「…………」
「そう?」
「うん」
「たまたま」
「ふーん」
水瀬。
笑う。
「由香」
「何?」
「朝倉君って記憶力いいんだね」
「そうだね」
「…………」
黒瀬。
普通に答える。
「ゲームでも結構――」
止まる。
「…………」
「…………」
「ゲーム?」
水瀬。
「え?」
黒瀬。
「今、ゲームって言った?」
「言ってない」
「言った」
玲司。
「藤堂君!?」
「聞こえた」
「…………」
まずい。
「由香ってゲームするの?」
水瀬。
「…………」
黒瀬。
俺を見る。
助けて。
また。
その目。
「スマホゲーム」
俺。
「え?」
「この前話してた」
「…………」
黒瀬。
「そ、そう!」
「へえ」
水瀬。
「何やってるの?」
「えっと……」
「パズル」
俺。
「パズル!」
黒瀬。
「…………」
「朝倉君」
水瀬。
「何」
「何で朝倉君が答えるの?」
「…………」
失敗した。
「前に聞いたから」
「いつ?」
「…………」
「莉央!」
黒瀬。
「何?」
「尋問やめて!」
「だって怪しいんだもん」
「怪しくない!」
「最近由香のこと、朝倉君の方が知ってること多くない?」
「…………」
沈黙。
陽斗。
玲司。
小宮山。
全員。
俺と黒瀬を見る。
「…………」
まずい。
本当に。
「数学」
俺。
「また数学?」
「テスト前に話すようになったから」
「それだけ?」
「それだけ」
「…………」
水瀬。
俺を見る。
黒瀬を見る。
「まあいいや」
「…………」
助かった。
「今はね」
「…………」
助かってない。
◇
午後。
接客。
「ありがとうございました」
客。
帰る。
「朝倉君」
「何」
黒瀬。
「さっきありがとう」
「何が」
「ゲーム」
「ああ」
「危なかった」
「黒瀬が言いかけるから」
「ごめん」
「水瀬には言ってないんだ?」
「うん」
「何で?」
「…………」
黒瀬が。
少し考える。
「別に隠すほどでもないんだけど」
「うん」
「なんか」
「何」
「学校の私と」
黒瀬。
「ゲームしてる私って、ちょっと違うから」
「…………」
「みんなに知られたら」
「うん」
「恥ずかしい」
「そう」
「朝倉君には」
俺を見る。
「もう全部バレてるけど」
「数学苦手なのも」
「それは学校でバレてる!」
「ホラー苦手」
「昨日バレた!」
「負けず嫌い」
「…………」
「あと」
「もういい!」
「痛い」
腕。
軽く叩かれる。
「朝倉君」
「何」
「でも」
「うん」
「朝倉君になら」
黒瀬が。
少しだけ。
声を落とす。
「知られててもいいかな」
「…………」
「何で」
「友達だから」
また。
その言葉。
友達だから。
秘密を知っている。
友達だから。
二人で出かける。
友達だから。
毎日話す。
友達だから。
俺のことを気にしてくれる。
全部。
それで。
説明できる。
なのに。
「…………」
なぜか。
今日は。
その言葉が。
少しだけ。
引っかかった。
「朝倉君?」
「何」
「どうしたの?」
「別に」
「またそれ」
「仕事戻る」
「うん」
◇
午後四時。
『文化祭を終了します』
校内。
拍手。
歓声。
「終わったー!」
陽斗。
「疲れた!」
水瀬。
「二日間長かった」
玲司。
「でも楽しかったね」
小宮山。
「うん!」
黒瀬。
「朝倉君は?」
「…………」
五人。
見る。
「何で俺に聞くの」
「重要だから」
黒瀬。
「何が」
「学校行事嫌い代表」
「代表になった覚えない」
「で?」
「…………」
文化祭。
二日。
接客。
六人。
お化け屋敷。
写真。
黒瀬。
全部。
思い出す。
「楽しかった」
言う。
今度は。
迷わない。
「おお!」
陽斗。
「湊が!」
「何」
「文化祭楽しかったって!」
「言うだろ」
「一学期のお前なら絶対言わない!」
「そう?」
「言わない」
玲司。
「俺もそう思う」
小宮山。
「私も」
水瀬。
「由香のおかげ?」
「え?」
黒瀬。
「何で黒瀬」
俺。
「だって」
水瀬が。
笑う。
「朝倉君変わり始めたの、由香と話すようになってからじゃない?」
「…………」
言われて。
考える。
違う。
黒瀬と。
学校で話すようになったからじゃない。
もっと。
前。
Yuu。
ゲームの中で。
『よかったらフレンド登録しませんか?』
あそこから。
始まった。
「……そうかも」
「え?」
黒瀬。
「…………」
みんな。
静か。
「あ」
「湊」
陽斗。
「今の」
「違う」
「まだ何も言ってない」
「…………」
また。
やった。
「朝倉君」
黒瀬。
少し。
顔。
赤い。
「そういうこと普通に言わないで」
「何で」
「何でも!」
「意味分からない」
「分からなくていい!」
水瀬。
ニヤニヤ。
「…………」
「何」
「いや?」
「やめろ」
◇
「最後!」
水瀬。
「六人で写真!」
「また?」
「最後だから!」
「昨日も言ってた」
「今日は文化祭本当の最後!」
「分かった」
教室。
装飾。
まだ。
そのまま。
黒板。
『2年B組 文化祭お疲れさま!』
誰かが。
書いている。
その前。
六人。
「タイマー十秒!」
水瀬。
スマホを置く。
「走れ!」
陽斗。
「分かってる!」
水瀬。
走る。
「莉央こっち!」
黒瀬。
「間に合う!」
小宮山。
「五!」
陽斗。
「四!」
玲司。
「三!」
黒瀬。
「二!」
水瀬。
「一!」
カシャ。
「…………」
確認。
六人。
笑顔。
「いいじゃん!」
陽斗。
「これグループの画像にしようぜ!」
「いいね!」
水瀬。
「今のやつ?」
小宮山。
「うん!」
「…………」
グループ。
『いつメン(仮)』
アイコン。
変更。
六人の。
写真。
「仮まだ取れないの?」
俺。
「忘れてた」
水瀬。
「じゃあ変える?」
黒瀬。
「何に?」
陽斗。
「最強の六人」
「ダサい」
玲司。
「即答!?」
「普通に六人組でいいじゃん」
俺。
「朝倉君もセンスない」
水瀬。
「じゃあ任せる」
「んー」
小宮山。
考える。
「『放課後』とか?」
「放課後?」
黒瀬。
「なんか」
小宮山。
「最近、放課後も六人でいること多いから」
「いいじゃん!」
水瀬。
「オシャレ!」
「グループ名っぽくない」
玲司。
「でもいい」
陽斗。
「決まり!」
グループ名。
『いつメン(仮)』
から。
『放課後』
へ。
「…………」
俺は。
その名前を。
少しだけ。
眺めた。
放課後。
以前の俺にとって。
学校から。
一人で帰る時間。
バイトがなければ。
ゲームをするために。
急いで帰る時間。
今は。
少し。
違う。
◇
片付け。
終わる頃。
外。
暗くなり始めていた。
「終わったー!」
陽斗。
「帰る?」
玲司。
「待って!」
水瀬。
「何」
「文化祭の打ち上げ!」
「今日?」
小宮山。
「今日でしょ!」
「どこ行く?」
黒瀬。
「ファミレス!」
陽斗。
「賛成!」
「…………」
俺。
「湊」
「何」
「来るよな?」
「…………」
少し前なら。
断っていた。
疲れた。
人が多い。
帰りたい。
理由なら。
いくらでも。
あった。
でも。
「行く」
「よし!」
「朝倉君即答した」
黒瀬。
「悪い?」
「ううん」
笑う。
「嬉しい」
「…………」
また。
それ。
◇
ファミレス。
「かんぱーい!」
ジュース。
六つ。
グラス。
当たる。
「文化祭お疲れ!」
陽斗。
「お疲れ」
玲司。
「楽しかった!」
水瀬。
「うん」
小宮山。
「またやりたい!」
黒瀬。
「来年ある」
俺。
「そういう意味じゃない!」
「分かってる」
「…………」
笑う。
食べる。
話す。
体育祭。
文化祭。
先生。
クラス。
ゲーム。
部活。
くだらない話。
気づけば。
時計。
午後八時。
「やば!」
水瀬。
「帰らないと!」
「親から連絡来てる」
小宮山。
「俺も」
陽斗。
「帰ろ」
玲司。
店。
出る。
駅。
六人。
「また月曜!」
「またね!」
「おつかれ!」
別れる。
俺。
黒瀬。
また。
途中まで。
同じ方向。
「…………」
「…………」
歩く。
「二日間」
黒瀬。
「うん」
「楽しかったね」
「うん」
「朝倉君」
「何」
「高校生活」
「…………」
「ちょっと好きになった?」
その言葉。
俺は。
少し考える。
高校。
友達なんて。
いらない。
早く卒業できれば。
それでいい。
そう。
思っていた。
「……ちょっと」
「…………」
黒瀬が。
笑う。
「そっか」
「何」
「嬉しい」
「また?」
「うん」
「何で」
「友達だから」
「…………」
また。
友達だから。
「黒瀬」
「何?」
「それ」
「うん」
「便利だな」
「また言ってる」
「本当だろ」
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
「じゃあ」
「うん」
「友達だからじゃなくて」
「…………」
「私が」
一瞬。
言葉。
止まる。
「……朝倉君が楽しそうだと、嬉しいから」
「…………」
「これなら?」
「…………」
何も。
返せない。
「朝倉君?」
「……同じじゃない?」
「…………」
「そうかな」
「多分」
「そっか」
黒瀬が。
前を見る。
俺も。
前を見る。
「…………」
違う。
多分。
同じじゃない。
でも。
何が違うのか。
今の俺には。
まだ。
分からなかった。
◇
帰宅。
スマホ。
通知。
『放課後』
写真。
メッセージ。
『今日は楽しかった!』
『また六人でどっか行こ!』
『賛成』
『次どこ行く?』
流れていく。
「…………」
俺も。
『また行こう』
送る。
既読。
すぐ。
陽斗。
『湊が自分から言った!!!!』
『スクショした』
水瀬。
『保存』
黒瀬。
『歴史的瞬間』
玲司。
『みんなひどいよ笑』
小宮山。
『うるさい』
俺。
でも。
笑っている。
通知。
個人。
Yuu。
『今日はゲームする?』
『さすがに疲れた』
『私も笑』
『じゃあ寝ろ』
『まだ寝ない!』
『何するの』
『写真見てる』
「…………」
『文化祭の?』
『うん』
少し。
間。
『いっぱい増えたね』
『何が』
『思い出』
「…………」
スマホ。
写真。
体育祭。
文化祭。
六人。
黒瀬。
確かに。
増えた。
『そうだな』
『来年もいっぱい撮ろうね』
「…………」
来年。
高三。
同じクラスか。
分からない。
進路。
受験。
今みたいに。
毎日一緒にいられるか。
分からない。
なのに。
『うん』
自然に。
返していた。
その夜。
俺は。
文化祭の写真を。
何度か。
見返した。
六人で撮った写真。
陽斗。
玲司。
水瀬。
小宮山。
黒瀬。
俺。
そして。
何枚か。
黒瀬と。
隣に写っている写真。
「…………」
前より。
少しだけ。
気になる。
理由は。
まだ。
分からない。
ただ。
一つだけ。
分かることがある。
最近。
『友達だから』
黒瀬が。
そう言うたび。
なぜか。
ほんの少しだけ。
胸の奥に。
何かが残る。
その感情の名前を。
このときの俺は。
まだ。
知らなかった。




