第17話 友達と回る文化祭
『文化祭を開始します』
校内放送が終わった瞬間。
「よーし!」
陽斗が両手を上げた。
「開店!」
「まだ客来てない」
「湊、雰囲気!」
「知らない」
「朝から冷たい!」
教室の前。
二年B組。
喫茶店。
入口には。
昨日までみんなで作った看板。
中には。
並べ替えた机。
装飾。
メニュー表。
いつもの教室なのに。
まるで。
違う場所みたいだった。
「朝倉君」
「何?」
黒瀬。
「エプロン曲がってる」
「え」
「後ろ」
振り返ろうとする。
見えない。
「どこ?」
「ちょっと待って」
黒瀬が。
俺の後ろへ回る。
「…………」
エプロンの紐。
触られる。
「動かないで」
「うん」
「これが……」
少し。
引っ張られる。
「よし」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「…………」
「…………」
「由香ぁ?」
声。
水瀬。
「何!?」
「いや?」
「何!」
「朝から仲いいね」
「エプロン直しただけ!」
「何も言ってないけど?」
「その顔が言ってる!」
「ふふ」
「莉央!」
朝から。
いつも通り。
いや。
いつも以上に。
騒がしい。
◇
「いらっしゃいませ!」
最初の客。
一年生。
三人。
「三名様ですね。こちらへどうぞ」
「…………」
しまった。
自然に。
出た。
「朝倉君」
水瀬が。
小声。
「何?」
「やっぱ上手くない?」
「昨日練習したから」
「一日で?」
「…………」
「怪しい」
「注文行ってくる」
「逃げた」
逃げる。
「ご注文お決まりですか?」
「あ、はい」
メニュー。
注文。
確認。
「アイスティー二つとオレンジジュース一つ、パンケーキ三つですね」
「はい」
「少々お待ちください」
キッチン担当へ。
「注文」
「はい!」
伝票。
置く。
次。
「朝倉君!」
実行委員。
「四番テーブル片付けお願い!」
「分かった」
トレー。
コップ。
皿。
下げる。
テーブルを拭く。
椅子。
戻す。
「次のお客様どうぞ」
「…………」
体が。
勝手に動く。
「湊」
「何」
陽斗。
「お前」
「うん」
「やっぱ絶対何かやってるだろ」
「何を」
「接客」
「昨日練習した」
「嘘つけ!」
「声でかい」
「だって俺」
陽斗。
トレー。
傾いている。
「まずそれ直して」
「え?」
「コップ落ちる」
「あっ」
「…………」
「湊」
「何」
「師匠」
「嫌」
「教えて!」
「トレー水平」
「それだけ!?」
「あと客の前で叫ぶな」
「厳しい!」
向こう。
黒瀬。
笑っている。
「…………」
絶対。
楽しんでる。
◇
午前十時半。
予想以上。
混んだ。
「二名様入りまーす!」
「五番空いてる!」
「パンケーキあと五!」
「飲み物お願い!」
「会計こっち!」
「…………」
文化祭。
こんなに忙しいのか。
「朝倉君!」
「何」
「これ!」
黒瀬。
トレー。
ドリンク三つ。
「七番お願い!」
「黒瀬は?」
「注文!」
「分かった」
受け取る。
「七番」
「うん!」
「…………」
一瞬。
目が合う。
それだけ。
俺。
七番。
黒瀬。
別の客。
「…………」
なんか。
ゲームみたいだ。
誰が。
どこを見て。
何をするか。
言われなくても。
少しずつ。
分かる。
「朝倉君!」
「三番?」
「そう!」
「行く」
「お願い!」
やっぱり。
Yuuだ。
場所が変わっても。
やることが変わっても。
黒瀬とは。
妙に。
動きが合う。
◇
「……疲れた」
十一時。
客足。
少し落ち着いた。
「朝倉君」
「何」
「水」
「ありがとう」
黒瀬が。
紙コップを渡してくる。
「黒瀬も飲んだ?」
「うん」
「そう」
「…………」
「何」
「いや」
黒瀬が笑う。
「ゲームみたいだなって」
「…………」
「思った?」
「ちょっと」
「やっぱり!」
「連携」
「ね」
「…………」
「…………」
同じこと。
考えてた。
「でも」
黒瀬。
「何」
「朝倉君接客うますぎ」
「…………」
「完全に店員」
「声大きい」
「ごめん」
黒瀬が。
顔を近づける。
小声。
「バイトのときもこんな感じ?」
「まあ」
「へえ」
「何」
「見てみたい」
「ダメ」
「一回くらい」
「ダメ」
「ケチ」
「学校にバレたら終わる」
「分かってるけど」
「…………」
「でも」
「何」
「なんか安心した」
「何が」
「朝倉君」
黒瀬が。
俺を見る。
「ちゃんと働いてるんだなって」
「何だと思ってたの」
「無愛想な店員」
「…………」
「前に言ったじゃん」
「覚えてたの?」
「覚えてるよ」
「…………」
「Nagiのことなら結構」
「…………」
その瞬間。
「由香ー!」
「!」
水瀬。
「休憩終わり!」
「はーい!」
黒瀬が離れる。
「じゃあまたあとで」
「うん」
去っていく。
「…………」
Nagiのことなら。
結構。
何だ。
その言い方。
◇
十一時半。
「交代!」
実行委員。
「前半組、休憩入っていいよー!」
「よっしゃああ!」
陽斗。
「うるさい」
玲司。
いつの間にか。
会計から戻っている。
「腹減った!」
「さっきパン食ってただろ」
「文化祭は別腹!」
「使い方違う」
「湊!」
「何」
「回ろうぜ!」
「どこ」
「全部!」
「無理」
「二時間ある!」
「全部は無理」
「じゃあ面白そうなとこ!」
「二人?」
「いや」
陽斗が。
指差す。
黒瀬。
水瀬。
小宮山。
「六人!」
「…………」
また。
六人。
「いいね!」
水瀬。
「私お化け屋敷行きたい!」
「え」
黒瀬。
固まる。
「…………」
知ってる。
こいつ。
ホラー。
苦手。
「由香?」
「な、何?」
「お化け屋敷」
「いいよ?」
「…………」
明らかに。
強がっている。
「じゃあ決定!」
「待って」
俺。
「何?」
水瀬。
「先に飯じゃない?」
「…………」
黒瀬。
俺を見る。
少しだけ。
ほっとしている。
「それもそうだね」
小宮山。
「お腹空いた」
「じゃあ食べ歩き!」
陽斗。
「行こう!」
◇
廊下。
「人多っ!」
陽斗。
「文化祭だから」
玲司。
「分かってるけど!」
他クラス。
展示。
屋台。
装飾。
生徒。
保護者。
中学生。
「たこ焼き!」
水瀬。
「焼きそば!」
陽斗。
「甘いもの」
黒瀬。
「まだ昼」
俺。
「文化祭だからいいの!」
「その理論便利だな」
「朝倉君は?」
「何でも」
「一番困る答え!」
「前も言われた」
「誰に?」
「…………」
お前。
とは。
言えない。
「忘れた」
「怪しい」
実際。
初めて会った日。
『どこ行く?』
『どこでも』
『それ一番困るやつ』
黒瀬に。
言われた。
「湊!」
陽斗。
「焼きそば買うぞ!」
「はいはい」
「玲司も!」
「俺も?」
「男子組!」
「…………」
三人。
焼きそば。
女子三人。
クレープ。
「昼飯それ?」
俺。
「いいの!」
黒瀬。
「甘いの好きすぎだろ」
「知ってるでしょ」
「…………」
水瀬。
反応。
「ん?」
「…………」
黒瀬。
固まる。
俺も。
「朝倉君」
「何」
「由香が甘いもの好きって知ってるんだ?」
「…………」
「前」
「いつ?」
「…………」
詰めてくる。
「莉央」
黒瀬。
「私、普通に甘いもの好きって言ってるじゃん!」
「そうだっけ?」
「言ってる!」
「ふーん」
「何!」
「別に?」
「もう!」
「…………」
危ない。
本当に。
水瀬。
怖い。
◇
「次!」
水瀬。
「お化け屋敷!」
「…………」
黒瀬。
顔。
少し固い。
「由香」
「何?」
「嫌なら別のとこでもいいよ?」
小宮山。
「大丈夫!」
「ほんと?」
「余裕!」
「…………」
余裕。
ではない。
俺は。
知っている。
チャット。
『ホラー無理』
『怖い?』
『怖くない』
『じゃあ何』
『びっくりするのが嫌!』
『それを怖いって言う』
『違う!』
同じ顔。
「入るぞ!」
陽斗。
「六人一緒?」
「三人ずつだって」
受付。
「じゃあ男子女子で」
玲司。
「それが普通だな」
俺。
「えー!」
水瀬。
「つまんない」
「何で」
「せっかくだし混ぜようよ」
「どうやって」
「じゃんけん!」
「…………」
嫌な予感。
◇
結果。
俺。
黒瀬。
小宮山。
「…………」
陽斗。
玲司。
水瀬。
「よし!」
水瀬。
「何がよしなの」
俺。
「別に?」
「…………」
絶対。
何か企んでる。
「じゃあ先行くね!」
陽斗たち。
「おう」
数分。
待つ。
「黒瀬」
「何?」
「顔」
「何」
「固い」
「固くない」
「怖い?」
「怖くない」
「…………」
ゲームのチャット。
そのまま。
「小宮山」
「何?」
「黒瀬怖いらしい」
「朝倉君!」
「そうなの?」
「違う!」
小宮山が。
笑う。
「じゃあ行こっか」
「うん!」
◇
暗い。
「…………」
思ったより。
本格的。
「琴葉?」
黒瀬。
「いるよ」
「朝倉君?」
「いる」
「…………」
「何」
「確認」
「そう」
前。
小宮山。
真ん中。
黒瀬。
後ろ。
俺。
「何で私真ん中なの」
「安全じゃない?」
小宮山。
「そうだけど……」
ガタッ。
「ひゃっ!」
「…………」
「…………」
「今の誰」
俺。
「知らない」
黒瀬。
「黒瀬」
「何」
「今」
「知らない!」
「…………」
進む。
暗い廊下。
赤い照明。
横。
ロッカー。
「…………」
絶対。
出る。
ガンッ!
「きゃっ!」
黒瀬が。
後ろ。
下がる。
ドン。
「…………」
俺。
ぶつかられる。
「あ」
黒瀬。
俺の腕。
掴んでる。
「…………」
「…………」
「ごめん!」
すぐ。
離す。
「別に」
「びっくりしただけ!」
「はいはい」
「怖くないから!」
「分かった」
「絶対分かってない!」
「ふふ」
小宮山。
「二人とも仲いいね」
「…………」
「…………」
暗くて。
助かった。
多分。
黒瀬も。
同じことを思っている。
◇
出口。
「怖かったー!」
黒瀬。
「認めた」
「…………」
「あ」
「朝倉君!」
「痛い」
肩。
叩かれる。
「おっ!」
陽斗たち。
「どうだった?」
「普通」
俺。
「楽しかったよ」
小宮山。
「由香は?」
水瀬。
「余裕!」
「嘘」
俺。
「朝倉君!」
「何かあった?」
水瀬。
「何もない」
「朝倉君の腕掴んだ」
小宮山。
「琴葉!?」
「…………」
水瀬。
笑顔。
「へえ」
「違う!」
「何が?」
「びっくりしただけ!」
「私は何も言ってないよ?」
「もう!」
小宮山。
意外と。
容赦ない。
◇
そのあと。
六人で。
射的。
展示。
写真スポット。
軽音部の演奏。
いろいろ回った。
「朝倉君!」
「何」
「こっち!」
水瀬。
「写真!」
「また?」
「文化祭だよ!」
「分かった」
六人。
並ぶ。
カシャ。
「もう一枚!」
カシャ。
「次変顔!」
「嫌」
「湊やれ!」
「嫌」
「玲司!」
「俺も嫌」
「男子ノリ悪い!」
「陽斗一人でやって」
「分かった!」
「やるんだ」
カシャ。
「…………」
写真。
増える。
体育祭。
文化祭。
俺のスマホに。
学校の写真が。
どんどん。
増えていく。
◇
午後一時半。
「そろそろ戻らないと」
玲司。
「シフト二時からだろ」
「あ」
陽斗。
「忘れてた!」
「忘れるなよ」
「戻ろ!」
教室へ。
向かう。
途中。
「あ」
黒瀬。
「何?」
水瀬。
「スマホ」
「忘れた?」
「教室に置いたまま!」
「取りに行けば?」
「でもみんな戻るよ?」
「同じ方向」
「違う」
黒瀬。
「さっき休憩したところ」
「あー」
三階。
今。
二階。
「取ってくる!」
「間に合う?」
「走る!」
「私行こうか?」
水瀬。
「大丈夫!」
「黒瀬」
俺。
「一人?」
「え?」
「場所分かる?」
「…………」
黒瀬。
少し。
考える。
「多分」
「多分かよ」
「湊行ってやれば?」
陽斗。
「え?」
「お前場所覚えてるだろ」
「まあ」
「俺ら先戻ってるから」
「…………」
水瀬。
ニヤッ。
「そうだね」
「莉央」
「何?」
「その顔やめて」
「何もしてないよ?」
「…………」
俺。
「行く?」
「…………」
黒瀬。
「うん」
◇
六人。
だったのが。
二人。
になる。
階段。
上がる。
「ごめん」
黒瀬。
「何が」
「付き合わせて」
「別に」
「みんな先行っちゃったね」
「うん」
「…………」
「…………」
文化祭。
人は。
多い。
なのに。
さっきまで六人だったから。
二人になると。
急に。
静かに感じる。
「朝倉君」
「何」
「今日楽しい?」
「またそれ?」
「あ」
黒瀬が笑う。
「聞きすぎ?」
「何回目だろ」
「だって気になるんだもん」
「何で」
「…………」
少し。
間。
「最初に会った頃」
「うん」
「朝倉君」
黒瀬が。
前を向いたまま。
「学校、楽しくなさそうだったから」
「…………」
「ゲームしてるときと全然違ったし」
「そう?」
「うん」
「…………」
「だから」
階段。
上りきる。
「最近」
黒瀬が。
俺を見る。
「学校でも笑ってるから」
「…………」
「ちょっと嬉しい」
「何で黒瀬が」
「友達だから」
「…………」
また。
それ。
「便利だな」
「何が?」
「友達だから」
「便利?」
「何でもそれで説明できる」
「…………」
「違う?」
「…………」
黒瀬が。
少しだけ。
目を逸らした。
「……今は」
「え?」
「何でもない」
「何」
「ほら、スマホ!」
話を。
逸らされた。
◇
「あった!」
休憩場所。
椅子。
黒瀬のスマホ。
「よかった」
「ありがとう」
「俺何もしてないけど」
「一緒に来てくれた」
「それだけ」
「それがありがとうなの」
「…………」
「朝倉君」
「何」
「時間」
「え?」
スマホ。
一時四十五分。
「まずい」
「あと十五分!」
「走る?」
「廊下走ったら怒られる」
「早歩き!」
「行くぞ」
「うん!」
二人。
早足。
階段。
廊下。
人。
避ける。
「朝倉君!」
「何」
「待って!」
「遅い」
「歩くの速い!」
「黒瀬が遅い」
「女子!」
「関係ある?」
「ある!」
「…………」
いつもの。
やり取り。
チャットじゃない。
目の前。
黒瀬が。
笑っている。
俺も。
多分。
笑っていた。
◇
「間に合った!」
一時五十七分。
教室。
「遅い!」
水瀬。
「三分前」
俺。
「ギリギリ!」
「間に合えばいい」
「朝倉君らしい」
「スマホあった?」
小宮山。
「あった!」
「よかった」
「…………」
水瀬。
俺。
黒瀬。
見る。
「何」
「別に?」
「それやめろ」
「二人で楽しかった?」
「スマホ取りに行っただけ!」
黒瀬。
「誰もデートとか言ってないけど?」
「…………」
「由香?」
「莉央!」
「…………」
デート。
その言葉。
一瞬。
頭に残る。
違う。
スマホを。
取りに行っただけ。
「湊」
陽斗。
「何」
「お前も顔赤くない?」
「暑い」
「冷房効いてるけど」
「接客行くぞ」
「逃げた!」
「うるさい」
◇
午後。
客。
また増える。
「いらっしゃいませ」
「二名様ですね」
「こちらへどうぞ」
仕事。
する。
でも。
さっき。
水瀬が言った。
デート。
「…………」
「朝倉君」
「!」
黒瀬。
「何?」
「五番お願い」
「ああ」
「大丈夫?」
「何が」
「ぼーっとしてた」
「してない」
「今日二回目」
「…………」
「疲れた?」
「違う」
「ならいいけど」
黒瀬。
行く。
「…………」
デート。
違う。
俺たちは。
友達。
それだけ。
そう。
思っている。
はずなのに。
なぜか。
その言葉が。
いつもより。
少しだけ。
頭から離れなかった。
◇
午後四時。
『本日の一般公開を終了します』
「終わったー!」
歓声。
「疲れた!」
陽斗。
「足痛い」
水瀬。
「座りたい」
黒瀬。
「片付け」
玲司。
「現実言うなよ!」
「明日もあるから最低限」
「はーい」
文化祭。
一日目。
終了。
「六人で写真撮ろ!」
水瀬。
「また?」
俺。
「今日最後!」
「今日、ってことは明日も?」
「当然!」
「…………」
集まる。
六人。
「いくよ!」
タイマー。
水瀬。
走る。
「間に合う!?」
「莉央早く!」
「待って!」
カシャ。
「…………」
写真。
全員。
少し疲れている。
陽斗。
変な顔。
玲司。
苦笑い。
小宮山。
笑顔。
水瀬。
ピース。
黒瀬。
笑っている。
俺も。
笑っている。
「いいじゃん!」
黒瀬。
「うん」
俺。
「送って」
「もちろん!」
◇
帰宅。
風呂。
飯。
ベッド。
スマホ。
『いつメン(仮)』
写真。
大量。
今日だけで。
何十枚。
「…………」
保存。
保存。
また。
保存。
その中。
一枚。
見つける。
六人で。
校内を回っているとき。
誰かに撮ってもらった写真。
俺。
黒瀬の隣。
「…………」
別に。
普通の写真。
でも。
少しだけ。
長く見る。
通知。
Yuu。
『今日はおつかれ!』
『おつかれ』
『接客上手でした』
『見るなって言った』
『見ますって言いました』
『そうだった』
『楽しかった?』
「…………」
また。
俺は。
笑う。
『楽しかった』
即答。
『私も!』
そして。
『明日も楽しもうね』
『うん』
『あと』
『何』
少し。
間。
『スマホ取りに来てくれてありがとう』
『だから何もしてない』
『一緒に来てくれた』
『それだけ』
『それが嬉しかった』
「…………」
返信。
困る。
『そっか』
『うん』
そして。
『おやすみ、朝倉君』
『おやすみ』
送る。
でも。
その夜。
眠る前。
一度だけ。
思い出した。
『二人で楽しかった?』
『誰もデートとか言ってないけど?』
水瀬の言葉。
「…………」
違う。
俺と黒瀬は。
友達。
ただの。
友達。
それなのに。
この日から。
俺は初めて。
黒瀬と二人でいることを、少しだけ意識するようになった。
文化祭は。
まだ。
あと一日。




