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『クラスでほとんど誰とも話さない俺の、人生で初めてできた友達は――クラスで一番人気の女子だった。』  作者: 湊


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15/45

第15話 初めて、楽しいと思った



 体育祭。


 嫌いだった。


 正確に言えば。


 体育祭だけじゃない。


 文化祭。


 球技大会。


 遠足。


 修学旅行。


 学校行事と呼ばれるものは、大体苦手だった。


 理由は簡単。


 学校行事は。


 普段よりも。


 一人でいることが目立つから。


 授業なら。


 席に座っていればいい。


 昼休みなら。


 一人で弁当を食べればいい。


 休み時間なら。


 机に伏せていればいい。


 でも。


 体育祭は違う。


 誰かと応援する。


 誰かと昼飯を食べる。


 誰かと写真を撮る。


 誰かと笑う。


 そういう。


 普段なら見えにくいものが。


 全部。


 見える。


 だから昨年は。


 早く終われ。


 それしか思わなかった。


 今年も。


 少し前までは。


 そうなると思っていた。


「湊!」


「…………」


 朝から聞き慣れた大声。


「何」


「写真撮ろうぜ!」


「嫌」


「即答!?」


 陽斗がスマホを構えている。


「まだ始まってない」


「始まる前だから撮るんだろ!」


「意味分からない」


「玲司!」


「俺はどっちでも」


「よし! 三人で!」


「何がよしなの」


「湊こっち!」


「嫌だって」


「いいから!」


 肩を組まれる。


「近い」


「笑え!」


「無理」


「玲司も!」


「はいはい」


 カシャ。


「…………」


 陽斗が写真を確認する。


「湊」


「何」


「顔」


「何か付いてる」


「そうじゃない」


「真顔すぎる!」


「写真だから」


「写真だから笑うんだよ!」


「そうなの?」


「何で知らないんだよ!」


 玲司が画面を見る。


「俺もそんな笑ってない」


「玲司はこれでいいの!」


「何で」


「キャラ!」


「…………」


 理不尽。


「もう一枚!」


「嫌」


「次笑えよ!」


「嫌」


「湊!」


「朝から元気だね」


 後ろ。


 水瀬。


 小宮山。


 黒瀬。


「莉央!」


 陽斗が手を振る。


「写真撮ろうぜ!」


「いいよー」


「琴葉も!」


「うん」


「由香も!」


「撮る!」


「…………」


 自然に。


 三人がこっちへ来る。


「じゃあ六人で!」


「え」


 俺だけ。


 反応が遅れた。


「ほら朝倉君」


 水瀬。


「詰めて」


「…………」


「湊、こっち」


 陽斗。


「…………」


 俺の右に陽斗。


 その隣に玲司。


 左。


 黒瀬。


「…………」


 近い。


 制服じゃない。


 全員。


 クラスTシャツ。


 同じ色。


 同じ文字。


「撮るよー!」


 クラスメイトがスマホを構える。


「朝倉君」


 小さな声。


 隣。


 黒瀬。


「何」


「笑って」


「無理」


「ゲームで一位取ったときの顔」


「どんな顔」


「ちょっと嬉しそうな顔」


「知らない」


「じゃあ」


 黒瀬が。


 俺にだけ聞こえる声で。


「昨日の一位」


「…………」


 思い出す。


 昨夜。


 二人で取った一位。


「はい、チーズ!」


 カシャ。


「オッケー!」


「見せて!」


 水瀬たちが集まる。


 俺も。


 なんとなく見る。


「…………」


 六人。


 陽斗。


 玲司。


 水瀬。


 小宮山。


 黒瀬。


 そして。


 俺。


「あ」


 俺。


 少し。


 笑っていた。


「ほら!」


 黒瀬が言う。


「笑えるじゃん」


「…………」


「何で由香が得意げなの?」


 水瀬。


「え」


「いや」


 黒瀬が固まる。


「別に!」


「ふーん」


「何!?」


「何でもないよ?」


「その顔やめて!」


 朝から。


 嫌な予感がする。


     ◇


 開会式。


 校長の話。


 選手宣誓。


 準備体操。


 そして。


 競技が始まった。


「赤組いけー!」


「負けんな!」


 グラウンド。


 歓声。


 音楽。


 放送。


 昨年も。


 同じだったはず。


 なのに。


「湊!」


「何」


「次応援行くぞ!」


「誰の」


「女子の二人三脚!」


「…………」


 陽斗に連れられる。


 玲司も一緒。


「別に俺たちが行かなくても」


「同じクラスだろ!」


「そうだけど」


「ほら!」


 トラック。


 二人三脚。


 黒瀬と水瀬。


「位置について――」


 足首が。


 紐で結ばれている。


「由香!」


 水瀬。


「最初右ね!」


「分かってる!」


「いち、に、で!」


「うん!」


 スタート。


「頑張れー!」


 陽斗。


「黒瀬ー! 水瀬ー!」


「声でか」


 玲司。


 俺は。


 見ている。


 黒瀬。


 水瀬。


 最初は。


 順調。


「いち! に! いち! に!」


 でも。


 カーブ。


「あっ!」


 少し。


 バランスが崩れる。


「黒瀬!」


 反射的に。


 声が出た。


「落ち着け!」


「…………!」


 黒瀬が。


 こっちを見る。


 一瞬。


 目が合う。


 そして。


 立て直す。


「莉央、いくよ!」


「うん!」


 再加速。


 一組抜く。


 もう一組。


 ゴール。


 二位。


「惜しい!」


 陽斗。


「二位なら十分」


 玲司。


「…………」


 俺も。


 少し安心した。


 すると。


「湊」


「何」


「今」


 玲司。


「結構でかい声出たな」


「…………」


「黒瀬って」


「…………」


「いや」


 玲司が少し笑う。


「何でもない」


「言えよ」


「あとで」


「何で」


「面白そうだから」


「意味分からない」


     ◇


「朝倉君!」


 競技を終えた黒瀬が。


 水瀬たちと戻ってくる。


「お疲れ」


「二位だった!」


「見てた」


「知ってる」


「…………」


「え?」


 黒瀬が止まる。


「知ってるって?」


「あ」


「…………」


「…………」


 まずい。


「朝倉君、声聞こえたから」


「…………」


「…………」


「そういうことね」


 水瀬。


「何?」


「別に?」


 また。


 その顔。


「朝倉君」


 小宮山。


「何」


「結構大きい声出るんだね」


「…………」


「私もびっくりした」


「忘れて」


「ふふ」


 黒瀬が笑う。


「忘れない」


「お前に言ってない」


「えー」


「…………」


 自然に。


 返してしまった。


 水瀬の目が。


 細くなる。


「…………」


 やばい。


     ◇


 午前十一時。


「次、障害物リレー!」


 とうとう。


 来た。


「湊!」


「分かってる」


「玲司!」


「いる」


「勝つぞ!」


「陽斗がミスらなければ」


「何で俺!?」


「一番心配」


「湊まで!?」


 集合場所。


 競技説明。


 最初。


 ハードル。


 次。


 ネット。


 最後。


 カードを引いて。


 指定された条件の人物を一人連れてゴール。


「…………」


 嫌な予感。


「面白そうじゃん!」


 陽斗。


「最後運だろ」


「それがいいんだろ!」


 走順。


 陽斗。


 玲司。


 俺。


「アンカー湊!」


「何で」


「盛り上がるから!」


「玲司でいい」


「俺は二番でいい」


「裏切った」


「頑張れ」


「…………」


 スタート位置へ。


     ◇


 陽斗。


 速い。


「いけー!」


 サッカー部。


 当然。


 ハードル。


 ネット。


 問題なし。


 最後のカード。


 陽斗が引く。


「…………」


 止まった。


「何してる?」


 俺。


 陽斗が。


 こっちを見る。


 叫ぶ。


「眼鏡かけてる人ー!」


「…………」


 玲司。


「行ってこい」


「俺まだ走者」


「ダメじゃん」


 近くの男子を連れてゴール。


 三位。


 玲司へ。


「頼む!」


「了解」


 玲司。


 速い。


 バスケ部。


 ハードル。


 ネット。


 陽斗より速い。


 カード。


「何だ?」


 玲司が読む。


 そして。


 観客席。


「背の高い人」


「雑!」


 近くにいた三年男子を捕まえる。


 ゴール。


 二位。


「湊!」


 バトン。


 受け取る。


 走る。


「朝倉君頑張れー!」


 声。


 黒瀬。


「湊ー!」


 陽斗。


「頑張って!」


 小宮山。


「朝倉君いけー!」


 水瀬。


「…………」


 聞こえる。


 俺を。


 応援する声。


 昨年。


 あっただろうか。


 覚えていない。


 ハードル。


 越える。


 ネット。


 くぐる。


 一位。


 すぐ前。


 追いつける。


 カード。


 箱。


 手を入れる。


 一枚。


 引く。


「…………」


 書いてある文字。


 俺は。


 固まった。


『仲のいい異性』


「…………」


 何だこれ。


 誰だよ。


 考えた奴。


「湊ー!」


 陽斗。


「早く!」


 分かってる。


 でも。


 仲のいい。


 異性。


「…………」


 俺に。


 そんな奴。


「…………」


 いる。


 顔を上げる。


 観客席。


 たくさんの生徒。


 でも。


 探す必要はなかった。


 目が。


 勝手に。


 一人を見つけた。


 黒瀬。


「…………」


 目が合う。


 そして。


 俺は。


 走った。


     ◇


「え?」


 黒瀬が。


 目を丸くする。


「朝倉君?」


 俺は。


 黒瀬の前。


 止まる。


「来て」


「え?」


「いいから」


「何!?」


「早く!」


 手を。


 伸ばしかける。


 止める。


 代わりに。


 黒瀬のクラスTシャツの袖を軽く掴む。


「ちょ、朝倉君!?」


「走る!」


「え、待って!」


 黒瀬と。


 走る。


 後ろ。


「ええええ!?」


 水瀬の声。


「マジ!?」


 陽斗。


「…………」


 玲司。


 絶対。


 笑ってる。


「朝倉君!」


「何!」


「何のカード!?」


「あとで!」


「気になる!」


「走って!」


「走ってる!」


 ゴール。


 一位。


 歓声。


「やった!」


 黒瀬が笑う。


「一位!」


「……うん」


 息を整える。


「で?」


「何」


「カード!」


「…………」


「見せて」


「嫌」


「何で!」


「いいから戻って」


「怪しい!」


「戻るぞ」


「朝倉君!」


     ◇


「湊」


「…………」


 戻った瞬間。


 陽斗。


「カード」


「嫌」


「見せろ!」


「嫌」


「何だった!?」


「何でもいいだろ」


「よくない!」


「一位だったんだから」


「そういう問題じゃねえ!」


「朝倉君」


 水瀬。


「…………」


「何」


「カード」


「…………」


「見せて?」


 笑っている。


 怖い。


「なくした」


「嘘」


「何で」


「ゴールしたあとポケット入れてたじゃん」


「…………」


 見られてる。


「湊」


 玲司。


「諦めろ」


「…………」


「何でお前まで」


「俺も気になる」


「…………」


 逃げられない。


 仕方なく。


 カードを出す。


 陽斗。


 水瀬。


 小宮山。


 玲司。


 そして。


 黒瀬。


 全員。


 見る。


『仲のいい異性』


「…………」


 沈黙。


「…………」


 最初に。


 口を開いたのは。


「へえええええ?」


 水瀬だった。


「うるさい」


「由香ぁ?」


「私!?」


 黒瀬の顔が赤くなる。


「仲のいい異性なんだ?」


「だって!」


 黒瀬が俺を見る。


「朝倉君!」


「何」


「何で私!?」


「…………」


 それ。


 本人が聞くのか。


「他にいないから」


「…………」


「…………」


 黒瀬が。


 止まる。


「おお」


 陽斗。


「湊」


「何」


「それ結構すごいこと言ってない?」


「事実だろ」


「自覚ないの怖いな」


「何が」


「朝倉君」


 水瀬。


「由香とそんな仲良かったっけ?」


「…………」


「一学期ほとんど話してなかったよね?」


 来た。


「数学」


「数学だけで?」


「…………」


「夏休み」


 水瀬の目が。


 光る。


「何かあった?」


「ない」


 即答。


「由香」


「な、何もない!」


「二人とも怪しい」


「怪しくない!」


「じゃあ」


 水瀬。


「夏休みに会った?」


「…………」


「…………」


 俺。


 黒瀬。


 二人。


 黙る。


「…………」


 終わった。


「あー」


 陽斗。


「これは」


 玲司。


「分かりやすい」


 小宮山が。


 口元を隠して笑っている。


「琴葉!」


「ごめん」


「違うから!」


 黒瀬。


「何が?」


 水瀬。


「だから……」


「何も聞いてないけど?」


「…………」


 黒瀬が。


 俺を見る。


 助けて。


 目が。


 そう言っている。


「水瀬」


「何?」


「競技始まる」


「逃げた」


「始まるのは本当」


「あとで聞くから」


「…………」


 怖い。


     ◇


 昼休み。


「…………」


 俺は。


 弁当を持っていた。


 そして。


 目の前。


「…………」


 陽斗。


 玲司。


 右。


 黒瀬。


 水瀬。


 小宮山。


「…………」


 六人。


「何で?」


 俺が聞く。


「何が?」


 陽斗。


「何で全員いるの」


「昼飯だから」


「それは分かる」


「一緒に食おうぜ」


「…………」


 陽斗が。


 当然みたいに言う。


「嫌?」


 小宮山。


「別に」


「じゃあいいじゃん!」


 水瀬。


「…………」


 地面。


 レジャーシート。


 六人。


 座る。


「いただきまーす!」


 陽斗。


「声でか」


 玲司。


「体育祭だから!」


「関係ない」


 黒瀬が笑う。


 水瀬も。


 小宮山も。


 俺も。


 弁当を開く。


「湊また唐揚げ!」


「悪い?」


「一個」


「嫌」


「また!?」


「朝倉君」


 小宮山。


「毎回お母さんが作ってるの?」


「うん」


「美味しそう」


「美味しいよ」


「へえ」


「湊」


 陽斗。


「何」


「今めっちゃ普通に『美味しいよ』って言ったな」


「何が」


「母親の弁当美味しいって普通に言えるのいいな」


「…………」


 少し。


 返事に困る。


「別に」


「俺も今度母ちゃんに言お」


「言ってないの?」


「恥ずいじゃん」


「…………」


「湊に負けた」


「勝負してない」


 笑い。


「…………」


 俺は。


 周りを見る。


 五人。


 みんな。


 普通に。


 そこにいる。


 俺も。


 普通に。


 その中にいる。


「…………」


 昨年。


 体育祭の昼。


 俺。


 どこで食べたっけ。


 確か。


 教室。


 一人。


 グラウンドが騒がしいから。


 静かな場所を探して。


 誰もいない教室で。


 弁当を食べた。


 今年は。


「朝倉君?」


 黒瀬。


「何」


「ぼーっとしてる」


「してない」


「してた」


「してない」


「またそれ?」


「…………」


「はい」


 黒瀬が。


 何か差し出す。


 卵焼き。


「何」


「いる?」


「何で」


「お弁当の卵焼き」


「見れば分かる」


「甘いやつ」


「…………」


 覚えてる。


 俺が。


 甘い卵焼きが好きなこと。


「もらう」


「はい」


「ありがとう」


 食べる。


「どう?」


「甘い」


「だから言ったじゃん!」


「美味しい」


「…………」


 黒瀬が。


 少し笑う。


「でしょ?」


「…………」


 そのとき。


 気づく。


 静か。


 他の四人が。


「…………」


 見る。


 水瀬。


 ニヤニヤ。


 陽斗。


 ニヤニヤ。


 玲司。


 笑ってる。


 小宮山。


 優しく笑ってる。


「何」


 俺。


「いやー?」


 水瀬。


「何でも?」


「気持ち悪い」


「ひど!」


「湊」


 陽斗。


「俺にも卵焼きくれ」


「黒瀬に言え」


「由香!」


「嫌」


「何で!?」


「これは朝倉君にあげたから」


「…………」


「…………」


「…………」


 黒瀬。


 自分で言ってから。


 固まる。


「……あ」


 水瀬。


「由香?」


「違う!」


「何が?」


「だから違うの!」


「俺何も言ってないけど」


 陽斗。


「うるさい!」


 黒瀬の顔。


 真っ赤。


「…………」


 俺も。


 何となく。


 黒瀬を見られなくなった。


     ◇


 午後。


 体育祭は続く。


 クラス対抗リレー。


 綱引き。


 騎馬戦。


 応援。


 勝った。


 負けた。


 笑った。


 叫んだ。


 陽斗が転んで。


 みんなで笑った。


「笑うな!」


「派手だったな」


 玲司。


「湊まで!」


「ごめん」


「笑いながら謝るな!」


 小宮山が。


 ハンカチを貸している。


 水瀬が。


 写真を撮る。


「莉央撮るな!」


「記念!」


「消せ!」


 黒瀬が。


 隣で笑っている。


「陽斗すごかったね」


「橘な」


「え?」


「俺まだ橘って呼んでた」


「今さら?」


「…………」


 そういえば。


 最近。


 陽斗。


 玲司。


 自然に。


 名前で呼んでいる。


「朝倉君」


「何」


「変わったね」


「…………」


「またそれ?」


「だって」


 黒瀬が。


 グラウンドを見る。


「最初にゲームで話したとき」


「うん」


「友達いないって言ってたじゃん」


「…………」


「今は?」


「…………」


 見る。


 陽斗。


 玲司。


 水瀬。


 小宮山。


 そして。


 黒瀬。


「……分からない」


「また?」


「でも」


「うん」


「少なくとも」


 少しだけ。


 笑う。


「一人じゃない」


「…………」


 黒瀬が。


 俺を見る。


 そして。


 笑った。


「そっか」


「うん」


「よかった」


「…………」


 その言葉が。


 妙に。


 嬉しかった。


     ◇


 閉会式。


 結果。


 俺たちのクラスは。


 総合二位。


「あとちょっとだったー!」


 陽斗。


「十分だろ」


 玲司。


「一位がよかった!」


「障害物リレー一位だったじゃん」


 俺。


「湊のおかげ!」


「カード運」


「黒瀬連れてったのも?」


「…………」


「陽斗」


「何?」


「黙れ」


「何で!?」


 水瀬が笑う。


「由香のおかげでもあるよねー?」


「莉央!」


「何?」


「もう!」


 騒がしい。


 本当に。


 騒がしい。


 でも。


 嫌じゃない。


     ◇


 夕方。


 片付け。


 テント。


 椅子。


 道具。


 全部終わった頃。


 空は。


 少しオレンジ色になっていた。


「疲れたー!」


 陽斗が伸びる。


「帰ろうぜ」


「賛成」


 玲司。


「女子は?」


「もう来るんじゃない?」


 少しして。


 三人。


 水瀬。


 小宮山。


 黒瀬。


「終わった!」


「じゃあ帰ろ!」


 水瀬。


「…………」


 六人。


 校門へ向かう。


 誰も。


『六人で帰ろう』


 なんて言っていない。


 なのに。


 自然に。


 そうなった。


「今日写真めっちゃ撮った!」


 水瀬。


「送って!」


 黒瀬。


「グループ作る?」


「いいじゃん!」


 陽斗。


「…………」


 グループ。


「連絡先知らない人いる?」


 水瀬。


「私、朝倉君知らない」


「俺も水瀬知らない」


「じゃあ交換しよ」


「うん」


「私も」


 小宮山。


「ああ」


「俺も湊はゲームしか知らない」


 玲司。


「そういえば」


「じゃあ全員入れよ!」


 陽斗。


「グループ名どうする?」


「二年B組」


 俺。


「普通すぎ!」


「じゃあ陽斗決めて」


「体育祭最強メンバー!」


「ダサい」


 玲司。


「ひど!」


「六人でいいじゃん」


 小宮山。


「シンプル」


「じゃあ『6人組』?」


 黒瀬。


「そのまま」


 水瀬。


 結局。


 グループ名は。


『いつメン(仮)』


 になった。


「仮って何」


 俺。


「後でいいの考えるの!」


 水瀬。


「絶対そのままになる」


 玲司。


「分かる」


 俺。


「湊!」


 陽斗。


「何」


「お前今日めっちゃ喋るな」


「…………」


「そう?」


「うん」


 陽斗が。


 笑う。


「最初に話しかけたとき、こんな喋る奴だと思わなかった」


「俺も」


「何が?」


「陽斗とこんな話すと思わなかった」


「…………」


「おお」


「何」


「嬉しい」


「気持ち悪い」


「ひどくない!?」


 みんなが笑う。


「…………」


 俺も。


 笑った。


     ◇


 駅。


 それぞれ。


 帰る方向が分かれる。


「じゃあまた月曜!」


 陽斗。


「おつかれ」


 玲司。


「またね」


 小宮山。


「バイバーイ!」


 水瀬。


 黒瀬。


 そして。


 俺。


「…………」


「…………」


 たまたま。


 帰る方向が同じ。


 少し。


 二人になる。


「楽しかったね」


 黒瀬。


「うん」


「…………」


「何」


「今」


「何」


「楽しかったって言った」


「言ったけど」


「体育祭」


「うん」


「…………」


 黒瀬が笑う。


「そっか」


「何」


「朝倉君、学校行事嫌いそうだったから」


「嫌いだった」


「過去形?」


「…………」


 考える。


 今日。


 朝。


 写真。


 競技。


 昼飯。


 応援。


 六人。


 全部。


「……今日のは」


「うん」


「楽しかった」


 黒瀬が。


 少しだけ。


 嬉しそうに笑った。


「よかった」


「何で黒瀬が喜ぶの」


「私のおかげでもあるから?」


「…………」


「友達の練習」


「まだ言う?」


「言う」


「もう練習じゃないだろ」


「…………」


 黒瀬が。


 止まる。


 俺も。


 少し遅れて止まる。


「朝倉君」


「何」


「それ」


「何」


「もう練習じゃないって」


「…………」


 自分で言った。


 意味。


「だって」


 俺は。


 少しだけ。


 視線を逸らす。


「友達……できたし」


「…………」


 恥ずかしい。


 ものすごく。


「陽斗と」


「うん」


「玲司」


「うん」


「小宮山と……水瀬も、多分」


「多分なんだ」


「まだそんな話してないから」


「ふふ」


「あと」


 黒瀬。


 見る。


「Yuu」


「…………」


 黒瀬が。


 目を丸くする。


「一番最初は」


 俺は言う。


「Yuuだったから」


「…………」


 夕方。


 人の多い駅前。


 黒瀬は。


 何も言わない。


「……何」


「いや」


 少し。


 俯く。


「嬉しいなって」


「…………」


「私」


 黒瀬が。


 顔を上げる。


「朝倉君の最初の友達なんだ」


「……そうなる」


「そっか」


 笑う。


 いつもの。


 学校でみんなに見せる笑顔より。


 少しだけ。


 静かな笑顔。


「じゃあ」


「何」


「これからもよろしくね」


「…………」


 俺は。


 少しだけ笑う。


「うん」


「よろしく」


     ◇


 その日の夜。


 風呂。


 夕食。


 ベッド。


 疲れた。


 ゲームをする体力は。


 さすがにない。


 スマホ。


 通知。


『いつメン(仮)』


 未読。


 四十二件。


「…………」


 多すぎ。


 開く。


 ほとんど。


 今日の写真。


 陽斗が転んだ写真。


『消せ!!!』


『保存した』


 玲司。


『私も』


 小宮山。


『俺も保存した』


 俺。


『湊まで!?』


「…………」


 笑う。


 次。


 朝。


 六人で撮った写真。


「…………」


 俺が。


 少し笑っている。


 保存。


 その次。


 昼。


 六人。


 その次。


 閉会式。


 その次。


 帰り道。


「…………」


 写真。


 こんなに。


 学校の写真を保存したこと。


 なかった。


 昨年の体育祭。


 スマホの中に。


 一枚も残っていない。


 今年は。


 もう。


 何枚もある。


 通知。


 今度は。


 個人。


 Yuu。


『今日はゲームなし?』


『疲れた』


『私も笑』


『寝る』


『待って』


『何』


 少し間。


『今日楽しかった?』


「…………」


 また。


 その質問。


 でも。


 今度は。


 迷わない。


『楽しかった』


 既読。


『よかった!』


『何でYuuが喜ぶの』


『友達だから?』


「…………」


 友達だから。


 最近。


 こいつは。


 よくそれを使う。


『何それ』


『友達は友達が楽しそうだと嬉しいんです』


『そうなの』


『そうです』


『知らなかった』


『覚えてください』


『はい』


『素直!』


 そして。


『おやすみ、朝倉君』


 俺も。


『おやすみ、黒瀬』


 送る。


 スマホを置く。


 目を閉じる。


 今日。


 俺は。


 初めて。


 体育祭を。


 楽しいと思った。


 理由は。


 多分。


 体育祭が変わったからじゃない。


 変わったのは。


 俺の周り。


 そして。


 俺自身。


 昨年。


 一人で弁当を食べていた俺は。


 今年。


 五人と一緒に。


 笑っていた。


 その始まりは。


 たった一通の。


『よかったらフレンド登録しませんか?』


 だった。


 たった一人。


 友達ができただけ。


 それだけだったはずなのに。


 気づけば。


 俺の高校生活は。


 少しずつ。


 別のものになり始めていた。


 ――そして。


 翌週。


 俺たち六人は。


 体育祭のときよりも。


 さらに長い時間を一緒に過ごすことになる。


 次の学校行事。


 文化祭。


 その準備が。


 始まろうとしていた。

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