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『クラスでほとんど誰とも話さない俺の、人生で初めてできた友達は――クラスで一番人気の女子だった。』  作者: 湊


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第11話 初めて、友達と会う



『リアルで会ってみない?』


 画面に表示された一文を。


 俺は何度も読み返していた。


「…………」


 会う。


 Yuuと。


 ゲームの中で偶然出会って。


 フレンドになって。


 毎日のように一緒にゲームをして。


 気づけば、ゲームをしない日にも話すようになった。


 俺にとって。


 人生で初めてできた――。


「……友達」


 その友達と。


 現実で会う。


「…………」


 怖い。


 最初に出てきた感情は。


 それだった。


 もし。


 会ってみて。


 話せなかったら。


 俺は文字なら話せる。


 Yuuには何でも――とまでは言わないけど、学校の人間よりずっと自然に話せる。


 冗談も言える。


 くだらないことで笑える。


 でも。


 それは画面越しだからじゃないのか?


 実際に会ったら。


 いつもの俺に戻ってしまうかもしれない。


 何も話せなくて。


 気まずい空気になって。


 Yuuに、


『会わなければよかった』


 と思われたら。


「…………」


 それが。


 一番怖い。


 スマホが震える。


『ごめん!』


「?」


『やっぱ急だったよね』


 続けて。


『忘れて!笑』


「…………」


 Yuu。


 俺の返信が遅いから。


 断られたと思ったのか。


『別に今まで通りゲームだけでも楽しいし!』


 明るい文章。


 でも。


 なんとなく。


 無理しているように見えた。


「…………」


 俺は返信欄を開く。


『違う』


 送る。


 すぐに既読。


『え?』


『嫌じゃない』


 そこまで打つ。


 また。


 手が止まる。


 怖い。


 やっぱり。


 怖い。


 でも。


 最近。


 少しだけ分かった。


 怖くないから何かをするんじゃない。


 陽斗たちとの寄り道だって。


 怖かった。


 玲司とゲームするのも。


 クラスメイトと一緒に昼飯を食べるのも。


 黒瀬と相合傘で帰るのも。


 全部。


 俺にとっては。


 今までしなかったことだった。


 でも。


 やってみたら。


 思っていたほど悪くなかった。


 むしろ。


 楽しかった。


「…………」


 それに。


 会ってみたい。


 俺も。


 Yuuに。


 ずっと。


 どんな奴なのか気になっていた。


 最近は。


 特に。


『会ってみたい』


 送信。


 心臓が跳ねた。


「…………送った」


 取り消したくなる。


 でも。


 すぐに既読がついた。


 十秒。


 二十秒。


 返事がない。


「…………」


 遅い。


 さっきまで早かっただろ。


 ピコン。


『ほんと!?』


『うん』


『無理してない?』


『してない』


『ほんとにほんと?』


『しつこい』


『ごめん笑』


 そして。


『やった!』


「…………」


 その一言を見て。


 俺まで少しだけ嬉しくなった。


     ◇


『じゃあどこ行く?』


 そこから。


 話は思ったより早く進んだ。


『どこでも』


『それ一番困るやつ』


『Yuuが誘ったんだから決めて』


『丸投げ!?』


『誘った責任』


『ひどい笑』


 でも。


 実際。


 分からない。


 友達と遊びに行く場所。


 まして。


 顔も知らない相手と初めて会う場所。


 何をする?


 映画?


 会話しない。


 飯?


 いきなり向かい合って食事は難易度が高い。


 カラオケ?


 論外。


 歌えるわけがない。


『ゲーム関係がいい』


 Yuuから。


『ゲーム関係?』


『ゲーミングデバイス見に行かない?』


「…………」


 それなら。


 いいかもしれない。


『ちょうどマウス見たい』


『ほんと!?』


『今のちょっと合わない』


『じゃあ決まり!』


『キーボードも見たい』


『私ヘッドセット見たい!』


 目的が決まると。


 急に気が楽になった。


 ゲームショップ。


 デバイスを見る。


 なら。


 話すことがなくなっても。


 ゲームの話ができる。


『駅前の店知ってる?』


 Yuuから店の名前。


「…………」


 知っている。


 何度か行ったことがある。


『知ってる』


『じゃあそこ!』


『いつ』


『Nagiのバイトない日』


 カレンダーを見る。


 夏休み。


 バイト。


 予定。


『来週の土曜なら』


 少し間。


『空いてる!』


『じゃあ土曜』


『お昼から?』


『うん』


 日付。


 時間。


 場所。


 一つずつ。


 決まっていく。


 ただの文字だった話が。


 どんどん現実になっていく。


 そして。


『じゃあ13時に駅前で!』


「…………」


 決まった。


 来週の土曜日。


 午後一時。


 Yuuと。


 会う。


     ◇


 スマホを閉じる。


 ベッドへ倒れる。


「…………」


 天井を見る。


 数秒。


「……マジか」


 起き上がる。


 もう一度スマホ。


 確認。


『来週の土曜日』


『13時』


『駅前』


 消えていない。


「…………」


 本当に会うんだ。


 Yuuと。


 その瞬間。


 別のことを思い出した。


「…………黒瀬」


 可能性。


 Yuuが黒瀬由香である可能性。


 かなり高い。


 いや。


 八十四点まで同じだった。


 もう偶然で片づける方が無理がある。


「…………」


 もし。


 本当に。


 黒瀬だったら。


 俺はどうする?


 待ち合わせ場所で。


『Yuu?』


『Nagi?』


 そんな会話を。


 黒瀬とするのか?


「…………無理だろ」


 俺は枕に顔を埋めた。


 恥ずかしすぎる。


 今までのチャットが全部。


 黒瀬相手だった?


『数学滅びろ』


『私で友達の練習すればいいじゃん』


『もうちょっと話したいから』


『私たちの方が相性いい?』


 そして。


 俺も。


『楽しかった』


『ありがとう』


『会ってみたい』


「…………」


 無理。


 学校でどんな顔をすればいい。


 いや。


 夏休みだから学校はない。


 問題はそこじゃない。


「…………」


 でも。


 もし違ったら?


 黒瀬とはまったく関係ない。


 知らない女が来る?


 いや。


 そもそも本当に女なのか?


『私』


 とは言っている。


 でもネットだ。


「…………男だったら?」


 それはそれで。


 まあ。


 友達なら別にいい。


「…………」


 なんだ。


 そのとき。


 自分で気づいた。


 黒瀬でも。


 知らない女子でも。


 男でも。


 俺は。


 Yuuに会いに行く。


「…………」


 顔が見たいんじゃない。


 女だから会いたいわけでもない。


 クラスの人気者かもしれないからでもない。


 俺は。


 Yuuだから会ってみたい。


「…………そっか」


 少しだけ。


 気持ちが楽になった。


     ◇


 翌日。


 午前十時。


「湊、ゲームやろ」


 玲司からメッセージ。


『バイト』


『了解』


 今日は昼からシフト。


 制服――ではなく。


 バイト用の服に着替える。


「湊ー」


 母さんの声。


「何?」


「今日バイト?」


「うん」


「何時まで?」


「八時くらい」


「じゃあ晩ご飯どうする?」


「食べる」


「分かった」


 玄関へ向かう。


「あ、湊」


「何?」


「来週の土曜日もバイトだっけ?」


「…………」


 足が止まる。


「休み」


「珍しい」


「そう?」


「最近土曜日入ってたじゃん」


「…………」


「どっか行くの?」


「え」


 母さんが何気なく聞く。


「…………まあ」


「友達?」


「…………」


 その二文字。


 前なら。


 違う。


 と答えていたかもしれない。


 ゲームのフレンド。


 リアルでは会ったことがない。


 だから友達ではない。


 でも。


「……うん」


 俺は答えた。


「友達」


 母さんが。


 少し驚いた顔をした。


「何」


「いや」


「何だよ」


「別に」


 少し笑っている。


「楽しんできなさい」


「…………うん」


「バイト遅れるよ」


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 玄関を出る。


「…………」


 友達。


 自分の口で言った。


 Yuuを。


 友達だと。


 初めて。


     ◇


 バイト中。


「朝倉君」


「はい」


「三番テーブルお願い」


「分かりました」


 トレーを持つ。


 ドリンクを運ぶ。


「お待たせしました」


 いつも通り。


 仕事なら話せる。


 決まった言葉があるから。


 でも。


 来週は違う。


 マニュアルはない。


 Yuuと。


 直接。


 話す。


「…………」


「朝倉君?」


「はい?」


「これ五番」


「あ、すみません」


「珍しいね」


「何がですか?」


「ぼーっとしてる」


「……すみません」


「何かいいことでもあった?」


「別に」


「その顔は何かあるな」


「ないです」


「怪しい」


「仕事します」


 トレーを持って逃げる。


「…………」


 俺。


 顔に出てるのか?


     ◇


 その夜。


『バイト終わった?』


『終わった』


『おつかれー』


『ありがとう』


『今日忙しかった?』


『まあまあ』


『カフェ行ってみたい』


「…………」


 指が止まる。


『ダメ』


『なんで!?』


『学校にバレる』


『私学校知らないじゃん』


「…………」


 確かに。


 ――ということになっている。


『それでもダメ』


『ケチ』


『秘密だから』


『私知ってるけど』


『Yuuだけ』


 送って。


 少ししてから。


 返事。


『そっか』


「?」


『何』


『いや』


 そして。


『私だけなんだって思って』


「…………」


 何だ。


 その言い方。


『秘密にするって言っただろ』


『うん』


『だから』


『分かった!』


 続けて。


『絶対秘密にする』


『頼む』


 少しの間。


『Nagi』


『何』


『来週楽しみ』


「…………」


 俺は画面を見る。


『俺も』


 送信。


 今度は。


 迷わなかった。


     ◇


 それから。


 待ち合わせまでの一週間。


 長かった。


 異常に。


 月曜日。


『あと5日』


『数えるな』


 火曜日。


『服どうしよう』


『知らない』


『Nagiどんな服で来る?』


『普通』


『一番困る答え』


 水曜日。


『顔分からないけどどうする?』


『服装教えればいいだろ』


『じゃあ当日ね』


 木曜日。


『やっぱ緊張してきた』


『誘ったのYuu』


『そうだけど!』


『俺も緊張してる』


『え』


『何』


『Nagiも緊張するんだ』


『するだろ』


『なんか安心した』


 金曜日。


『明日だね』


「…………」


 とうとう。


 明日。


『そうだな』


『逃げないでね』


『逃げない』


『絶対?』


『絶対』


 送る。


 少しだけ。


 自分に言い聞かせる意味も込めて。


     ◇


 そして。


 土曜日。


 午前八時十二分。


 目が覚めた。


「…………」


 早い。


 待ち合わせは午後一時。


 普段なら。


 休みの日はもう少し寝ている。


 なのに。


 目が覚めた。


 スマホを見る。


 Yuuから。


 午前七時五十八分。


『おはよ!』


「…………早いな」


『おはよう』


 既読。


 ほぼ同時。


『起きた!』


『俺も』


『今日だね』


『うん』


『緊張してる?』


「…………」


『してる』


『私も笑』


 俺はベッドから起きる。


 洗面所。


 顔を洗う。


 鏡を見る。


「…………」


 髪。


 いつも通り。


 いや。


 少し寝癖。


 直す。


「…………」


 服。


 何着る?


 普段なら。


 適当にTシャツ。


 パンツ。


 終わり。


 なのに。


 クローゼットの前で止まる。


「…………」


 別に。


 デートじゃない。


 友達と。


 ゲーム用品を見に行くだけ。


「……何考えてるんだ」


 適当でいい。


 そう思いながら。


 一度着たTシャツを脱いだ。


 別のものを出す。


「…………」


 違う。


 戻す。


「何やってんだ俺」


 結局。


 シンプルなシャツと黒のパンツ。


 鏡。


「…………普通」


 それでいい。


     ◇


 十二時十分。


「行ってきます」


「早くない?」


 母さんが言う。


「電車あるから」


「そう」


「何」


「別に」


 また笑っている。


「何だよ」


「楽しんできて」


「……うん」


「友達によろしく」


「…………」


 誰なのか知らないのに。


「分かった」


 家を出る。


 夏。


 日差しが強い。


 駅まで歩く。


 心臓が。


 少しずつ。


 速くなる。


 電車に乗る。


 窓の外。


 景色が流れる。


 スマホを見る。


『今向かってる!』


 Yuu。


『俺も』


『服装送る?』


『駅着いてからでいい』


『了解!』


「…………」


 黒瀬。


 なのか。


 違うのか。


 もうすぐ。


 分かる。


     ◇


 十二時四十七分。


 駅到着。


 改札を出る。


 人が多い。


 夏休み。


 学生。


 家族。


 カップル。


 俺は待ち合わせ場所へ向かう。


 スマホ。


『着いた』


 送る。


 すぐに。


『私ももうすぐ!』


「…………」


 心臓。


 うるさい。


 俺は柱の近くに立つ。


 周囲を見る。


 誰だ。


 Yuu。


 顔を知らない。


 だから。


 誰を見ればいいのかも分からない。


 スマホが震える。


『Nagiどんな服?』


 俺は自分の服を見る。


『白っぽいシャツ』


『黒のパンツ』


『柱のところ』


 送信。


 既読。


『見つけたら声かける!』


「…………」


 いよいよだ。


 俺はスマホを握る。


 一分。


 二分。


 人が通り過ぎる。


「…………」


 来ない。


 いや。


 まだ一時前。


 そして。


 十二時五十七分。


 スマホが震えた。


『着いた!』


 心臓が跳ねる。


 俺は顔を上げる。


「…………」


 人混み。


 誰だ?


 右。


 違う。


 左。


 学生。


 違う。


 正面。


「…………」


 そのとき。


 人混みの向こうで。


 一人の女子が。


 足を止めた。


「…………え」


 長い黒髪。


 見慣れた顔。


 学校とは違う私服。


 でも。


 見間違えるはずがない。


「…………」


 向こうも。


 俺を見ていた。


 目を大きく見開いて。


 動かない。


 俺も。


 動けない。


 数メートル。


 人が。


 俺たちの間を通り過ぎる。


 それでも。


 お互い。


 目を逸らせなかった。


「…………黒瀬?」


 声が。


 漏れた。


 その瞬間。


 彼女のスマホが。


 震えた。


 俺の手の中のスマホも。


 同時に。


 通知を表示する。


 送信者。


 Yuu


『見つけた』


「…………」


 俺は。


 画面を見る。


 そして。


 もう一度。


 目の前の少女を見る。


 黒瀬由香が。


 困ったように。


 少しだけ笑った。


「……やっぱり」


 そして。


 俺に向かって。


 初めて。


 ゲームの中の名前で呼びかけた。


「Nagi――だよね?」


 夏休み。


 午後一時。


 俺は。


 人生で初めてできた友達の本当の名前を知った。


 いや。


 本当は。


 ずっと前から知っていた。


 毎日。


 同じ教室で。


 何度も目にしていた。


 俺の初めての友達。


 Yuu。


 その正体は――。


 クラスで一番人気の女子、黒瀬由香だった。


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― 新着の感想 ―
「駅前」だけでわかるの、おかしくない? まずどこに住んでいるのか徐々に絞り込んでいく過程は省略?
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