雪の日
「エルガー、出ておいで」
月夜に照らされた雪のような、少し青みがかった銀髪の兄は、エルガーの隠れている茂みの方を見てそう言った。エルガーは迷った後、おずおずと、茂みから這い出た。五つ上の兄は……ジューベルは、エルガーの元に近づいてきて、いつものように優しい笑みを浮かべながら、エルガーを抱き上げた。
「どうしてここに来たのかな?」
「あ……」
エルガーは、大好きな兄に理由を説明しようとしたが、目の前にいるジューベルが、本当にジューベルなのか自信が持てなかった。だから、唇からは、意味のない言葉ばかりが紡がれた。エルガーは、自分の身を守るように、ぎゅっと本を抱きしめた。ジューベルの瞳が本へ向く。
「ああ、そういえば、本を読む約束をしていたね」
「は、はい」
エルガーとの約束を覚えているのは、本物の兄である証拠だった。けれど、エルガーはその時思ってしまったのだ。この人が、偽物だったら良いのに、と。
ジューベルが本物であることは、偽物であることよりも、エルガーに衝撃を与えた。
「帰ろうかエルガー。外は寒いからね」
ジューベルが、エルガーを抱いたまま歩き出す。エルガーは、ジューベルの肩越しに、血の海に倒れ伏す人間たちを見ていた。
……この惨状を作ったのが、ジューベルだなんて、信じたくなかったのだ。
……それが、エルガーとジューベルの、今の形の始まりだったのだ。毎晩絵本を読み聞かせてしてくれる優しい兄は、あの日に消えてしまった。代わりに生まれたのが、裏切りを許さない、雪よりも冷たい兄である。
「いつの間にか、寝ていたのか」
最後に自分は、ミーケと喋っていたはずだが、気付くと、きちんとベッドに寝ていた。おそらくミーケがあの細腕で、運んでくれたに違いない。ああ見えて、ミーケは意外と力持ちなのである。
その様子を想像して、エルガーは口元に笑みを浮かべた。雪夜の夢を見て冷たくなっていた心は、だんだんと溶けていった。




