ふたたびの道具屋
「いい年して、お兄ちゃんに手紙の内容を見られるなんて、それでいいの?」
ミーケのようなことを言う道具屋の少年に、エルガーは苦笑してしまった。
ふたたびの道具屋である。確かな情報を与えてくれた店主には感謝しているが、そういえば、聞き忘れたことが一つあった。エルガーは、店内のものを物色しながら、それを聞いた。
「どうしてお前の店では、惚れ薬を扱っていないんだ」
「そんなの、毒にも薬にもならないからだよ」
「それなのにお前は、あの惚れ薬の存在を知っていたのか?」
「たまたま、仕事する内に知ったんだよ」
なんだか、店主まで素っ気ないとエルガーが思っていると、カウンターの扉が開いた。店主がエルガーの隣に立つ。ふわりと、異国の香の匂いがした。
「……惚れ薬というのはね、真の意味で、人を殺す薬なんだよ」
「大袈裟なことを言う」
「本当さ……たとえば、君のお兄ちゃんに、僕が惚れ薬を使えばーーこの国は、僕が掌握できる」
帽子の下で瞳が煌めいた。エルガーは、ごくりと、唾を飲みこんだ。店主はエルガーの肩を抱き込み、低く心地よい声を耳に吹き込んだ。
「毒にも薬にもならないなんて嘘だよ。僕にとって、その薬は、何よりも危険な薬なんだ。だから、僕はそれを扱わない」
「道具屋のプライドか?」
「というより、僕個人のプライドかな」
エルガーからさっと離れて、六角形の瓶を弄ぶ。エルガーは「あっ」と声を上げた。懐を探ると、無い。お守りがわりに入れていた、惚れ薬が。
「こうやって簡単に盗まれちゃうんだから、携帯するのはお勧めしないな。これは僕が預かっておこう」
「いざという時に俺に惚れさせて命を助けてもらうんだ。返せ」
「それは、君のメイドにお勧めされてないだろ?」
エルガーは、目を見開いた。どうしてそれを、この店主が知っているのだろうか。疑問に思っていると、こつんと、額に瓶が当たる。
「覚えておくといいよ。エルガー・オド・トレンダフィア。人は憎しみ以外でも、人を殺すことがある」
「ミーケ、お前、道具屋と知り合いだったりするのか?」
「はあ、道具屋、ですか?」
鏡の中のミーケはブラシを持ったまま、きょとんとしていた。何かを思い出そうとするかのように、小さく首を傾げる。
「それって、エルガー様の通っているお店の名前ですよね? 一年前にできたという……でしたら、私にそのようなお知り合いはいませんが……」
「そうだよな」
あの店主の出まかせだろう。ブラシが髪を通る心地よさに身を任せ、エルガーは、知らず、寝息を立て始める……。
「道具屋、ですか」
寝入ってしまった主人をベッドに寝かせて、ミーケは小さく呟いた。こんなにも信用してくれるようになるとは、初めて会った時は、思わなかった。
「もうさほど、時間は無いということでしょうか」
別れ際に貰った髪紐は、ミーケの宝物だ。それを解いて、ミーケは自嘲した。
「また、あの方の髪を結えるようになるというのに……どうしてこんなに悲しいんでしょうか」




