購入者
中から出てきたのは、小さな丸メガネを掛けた、顔にシミの多い老人だった。エルガーは、会釈をする。
「ああ、お前さんが、“道具屋”の言っていた王子様か。これはたまげた。本当に、エルガー王子じゃないか」
まったくたまげていなさそうな老人は、エルガーのそばに控えるルーカスに目をやり、それからエルガーに「こいつの手綱を握っておけよ」とばかりの視線をくれ、二人を手招きした。
「早く中に入れ。人が来てしまう」
「“道具屋”から、何か言われているのか」
こじんまりとした店内だった。質素な丸椅子に座りながら、エルガーは、早速、気になっていた質問をした。老人は頷く。
「面倒なことになる前に吐いてしまえば良いとさ。あっちは、騎士団の腕利きを連れてくるはずだから……と。そのとおりになったな」
老人は、にやりと口の端を吊り上げた。エルガーとルーカスは、顔を見合わせた。ルーカスがエルガーを見つけて同行したのは、ほんの偶然だったはずだが。それよりなにより、騎士団のケープを羽織っていないルーカスを、騎士団と判定した理由も気になる。
「頭と胴体が真っ二つになるなんてことは御免だからな」
だが長く話す気は無いらしい。老人は、エルガーたちの囲むテーブルに、さっそく、一枚の紙を差し出した。それは、手紙のようだ。端的に書かれているが、その内容は、驚くべきことだった。
「これって、ホンモノなんすかね……」
さすがに明るさを失ったルーカスがそうやって問うてくる。エルガーは、答えないでいたが、そうだろうという確信は持っていた。エルガーは、“彼女”の筆跡を知っている。他人行儀なやり取りではあるが、月に一回は、婚約者という名目上、手紙のやり取りをしているからだ。
そう、老人から惚れ薬を購入した人物は、エルガーの婚約者ーーアルシア・ロドイスを名乗る人物だったのである。




