騎士団の少年
「どこに行くんすか? エルガー様」
兄さえクリアすれば、簡単にこの城は抜け出せる。そう思っていたが、まだ、邪魔者がいることを、エルガーは思い出した。
自分の背くらいの剣を背負うようにして、柄の部分で肩をとんとんと叩いている。柔らかな藍色の髪の彼が羽織るフード付きケープの留め具には、雄々しさを象徴する鷲の意匠が彫り込んであった。
「ルーカス」
名前を呼ぶと、気難しそうな顔がぱっと晴れる。エルガーの前に小走りで来て、気安く肩を叩いてくる。
「もう、水臭いじゃないっすか。昨日、“道具屋”に行ってたでしょ。俺も連れてってくれれば良かったのに。俺、護衛として役に立ちますよ?」
力瘤をつくって、片目を瞑ってみせる。ルーカスは騎士団の有望な新人だが、少々、いや、結構なサボり癖があった。エルガーはため息を吐いた。
「お前のサボりの理由になっては構わん」
「あ、バレました?」
などと、ニコニコ笑うルーカスだが、その腕は一級品であり、事実、先日の襲撃でエルガーを救ったばかりだ。
サボり癖があるのに厳格な騎士団で解雇されないのは、ひとえに、その実力のおかげだ。
本音を言えばついてきてほしい。だが、ついてこられては、騎士団のエルガーに対する心証が悪くなってしまうのだ。
「訓練に戻れ、ルーカス」
「あの薬の出所がわかったんですか?」
「……」
戻れと言っているのに、ルーカスはぽてぽてと、エルガーの後をついてくる。親鳥の後ろを歩く雛鳥のように。
「あー、俺、命を賭してエルガー様を守ったのになー。使うだけ使ってなんにも詳しいことを教えてくれないのかー。騎士団のみんなの前で、捨てられちゃったって泣いてみようかなー」
ただし、その独り言は、雛とは程遠い邪悪なものだった。エルガーは振り返って、騎士団の秘蔵っ子のことを睨んだ。だがその時点で、勝負に負けたようなものである。
王都フォリアは、国の中心部だけあって賑わいがある。だがそれは大通りに限っての話で、道を二、三本外れるだけで、すぐに薄暗い道へと出てしまう。
「俺、こういうとこ好きなんですよね〜」
もう使われていない水路を進んでいると、結局ついてくることになったルーカスが、はしゃいだ声を出す。勿論、庶民の格好をしている。
「完全に汚いのはごめんですけど、こうやって、落ち葉とか、泥がある程度とっぱらってあるところは、歩きやすくて好きっす」
「騎士団は、どこでも歩きやすいようにしているのではないか?」
「そういう訓練、あるにはありますけど……やっぱり移動手段としての馬なんで。戦闘員は、そういう“道ならし”とかはやんないんです」
「そうなのか」
などと会話しながら歩いていると、目的の場所に着いた。エルガーは、木の扉をこんこんと叩いた。




