メイド
「どうでしたか、エルガー様?」
明るい茶髪の、元気いっぱいなエルガーのメイドは、胸の前で両拳を握り、緊張した面持ちで聞いてきた。密かに王城に帰ってきたエルガーは、「これは、惚れ薬らしい」と結果を伝える。彼女は、大きな目をさらに大きく見開いて、「ええっ!?」と、これまた大きな声を出した。
ここがエルガーの私室で良かった。どうもこのメイドには、そそっかしいところがある。
エルガーの着替えを手伝いながら、メイドが、「それにしても、板についてきましたねぇ。庶民の格好」と失礼なことを言ってくる。だが、彼女に悪意などないことを、エルガーは、とっくに知っていたので気にしない。本当に危険なのは、エルガーの心の穴を埋めるふりをして殺そうとしてきた人間達である。
「考え方によっては、エルガー様を好いている人間がいるとも言えますね」
「ああ。だが、俺の地位の失墜を望んでいる人間の犯行の線の方が濃いだろうな」
王族の、やたらと金を使った衣装に着替えたエルガーは、肩が凝るような思いだった。
「アルシアとの仲を壊そうとする人間がいるのかもしれない」
「アルシア様との、仲……」
メイドが深刻そうに言う。純粋な疑問だろう。エルガーは軽く笑った。たしかに、あの氷の婚約者様との間に、仲も何もあるまい。
「誇張しすぎたな。俺が、形だけでもアルシアを愛せなくなり、大貴族であるアルシアを無碍に扱えば、王族の地位から引き摺り下ろされる可能性もあるだろう」
「ええ、確かに、そうかもしれませんが」
メイドはなおも深刻そうに、眉間に皺を刻んでいる。陽気な彼女にしては珍しいことだ。
「その場合、エルガー様が好きになっていたのは」
「ああ、刺客の男だったかもしれないな」
言って、エルガーは身震いした。惚れ薬は、被せられた直後に見た相手に惚れるらしい。ということは、あの騎士団見習いの少年に切り伏せられた死体を、エルガーは好きになっていた可能性があるのだ。
「その薬は、どうするんですか?」
「刺客にでも使ってみるか。そうすれば、殺されないだろうし」
エルガーが冗談混じりに答えると、メイドは眉を下げて、「それはあまりお勧めできません」と言った。
「逆に、殺意を増長させてしまうかもしれません」
「そういうものなのか」
エルガーは、素直にメイドの話を受け入れることにした。王城で育った自分と、各国を転々としてきた彼女の経験の差は、あるに違いない。エルガーは、欠伸をした。
「明日は、この薬を売っている業者を訪ねてみるよ。その間に、兄上をなんとかごまかしておいてくれ、ミーケ」




