店主
「やあ、今日も暗殺されそうになったんだって?」
カウンター越しに笑うのは、この店の店主である少年だ。どこから聞き及んだかわからないが、この店主は、闇の住人であるから、特に気にする事はない。
エルガーは、店に置かれた長椅子に座った。店主が頬杖つきながら言う。
「毒でも塗られてたらどうすんのさ」
「金を落としてくれる良客だぞ、俺は」
エルガーがそう言うと、つばの長いキャスケットを被った店主は、どうやら笑ったようだった。「そりゃそうだ、君は大事なお客様だからね。殺したら、僕が損をしてしまう」などと言って、カウンターへと繋がる扉を開けて出てくる。
「それで、今日は何をお探しで?」
「この液体」
エルガーは、ガラス製の瓶を店主に見せた。仄暗い店内のわずかな灯りでも、キラキラと光って見える。瓶は六角形で、蓋の部分は、丸く二又に分かれている。エルガーは、瓶の中身が誤って溢れないよう、慎重に瓶を揺らした。中の液体を、店主に見せるために。
「これを扱っている業者を知りたい。すんでのところで助かりはしたものの、これを被っていたら、顔が溶けるなりなんなりしていたに違いない」
なにせ、毒々しい青色の液体である。エルガーを殺そうとしてきた、これまでのどんな毒よりも、強力に違いないのだ。
エルガーから瓶を受け取った店主は、店の灯りに瓶を翳して、「刺客がこれを君に被せようとしてきたわけ?」と聞いた。エルガーは頷いた。店主が帽子の下で、変な顔をしたのがわかった。よっぽどに酷い毒なのか、とエルガーは、頭から被らなかったことに、同時に安堵した。
しばらくして、店主から瓶が返却される。なにも細工をした後はない。この町外れにある寂れた店を支えているのは、王子であるエルガーの資金力である。
「王子様、本当にこれ、何か知らないの?」
「有名な毒なのか」
「ある意味ではね」
言い方に含みがある。店主は、エルガーの手の中にある瓶の、蓋を指差した。「これね、ハートを象っているんだよ」
エルガーは首を傾げた。ハート。心臓に効く毒ということだろうか。エルガーの考えを読んだらしい店主は、「違う違う」と呆れた声を出す。
「これはね、惚れ薬だよ」




