プロローグ
見切り発車ですが、(いつも)おつきあいしていただけると嬉しいです。
「ミーケ」
敬愛する主人の言葉に、故郷のことを考えていたミーケは、疎かになっていた手元へと再び神経を向け直した。主人の淡い金髪は、櫛を通す必要がないほどに滑らかで、まさしく絹のようなといった形容が似合う。
主人は、ミーケの心が故郷に行っていたことを見破っていたらしい。ミーケは謝罪をして、「今日は、どのようにしますか?」と主人に問うた。
「いつもと同じで構わないよ」
そんな答えが返ってくる事はわかっていた。ミーケは、勿体無いなと心の中で思いつつ、「かしこまりました」と言う。
主人は、ミーケより少し下の年齢だが、幼い頃から戦場に出ているからか、同い年の娘達よりも少し大人びて見える。蝶よ花よと育てられた娘達よりも、ミーケは主人を立派だと思っていたが、世間はどうも、そうではないらしい。
まだ十四の少女を捕まえて、やれ婚期が遅れるだの、貰い手がいなくなるだのと、心無い陰口を叩く大人のなんと多いことか。その大人に影響されて、敬わなければならない皇帝の一族を軽んじる子供達もいることは、なんとも嘆かわしかった。
反対に、主人のそばにいるミーケは、“特選”の所属なので、非戦闘員の格好をする必要がある。お洒落に気を使う多感な年頃の娘を演じており、肌の手入れにも気を遣っているので、「従者の方が貰い手がありそうだ」と、ミーケをダシにして主人を下げる声もある。そんな時、主人は笑いながら言うのだ。言わせておけと。そんなことを言う人間は、いずれ来る激動の時代に淘汰されてしまうのだと。
ミーケがせめてもと、近くに置かれている小机の上の、銀盆に乗せられた、色とりどりの紐を手に持っていた時である。
「ミーケ」
草原を吹き渡る風のような、爽やかな声。もうひとつ、主人に関して、「男に生まれていれば」と言う悪口も聞いたことがある。男に生まれたところで、どうせ変わりはしないのに。この人の魂は、清らかなままなのに。
ミーケが返事をすると、鏡の中の主人は、少し眉を下げた。彼女にしては、珍しいことである。だが、それはほんの一瞬。ミーケだからこそ、捉えることができた表情だ。なぜか、柔らかな日差しを見る時のように。目を細めた彼女は、ミーケにこう告げた。
「君に、暇を出したい」




