8-32 アンスリウム山の中腹
「んんー! 今日もいい天気だな。火の番ありがとうな、創太」
「ありがとうございました、ソウタ様」
「大丈夫です。おはようございます。亮、サーガさん」
亮は湖で顔を洗って、ぐーんと伸びをしながら言う。
「一睡もしてないけど……大丈夫か? 創太」
「ああ、大丈夫。ちょっと錬成アイテム作りたかったから」
「なら……いいんだけどさ」
ここ最近、いろんな錬金素材アイテムを採集できたから、実験的に錬成をするのにハマっている俺。もちろん、フレイヤのメモ書きではわからないから、自分で分量を試行錯誤しながらだ。今日は、【ミール液】と【弾けたがりの爆弾】を作った。
『【ミール液】
料理によし! 錬成によし! まさに汎用アイテムだな。甘味として舐めてもよし! ……は行儀が悪いか。深い緑色から青色に変わったのを見計らってから水を足したものを、よーく煮込むこと。沸騰させすぎないようにな。
・ミール草 ×5
・冷たい水 ×1
【弾けたがりの爆弾 火力(小)】
モンスターに投げて使うこと。間違っても人間に……いや、米粒くらいのカケラくらいなら投げてもいいか。お仕置き程度にちょっとだけな。耳は塞いだ方がいいと思うぞ?
・メシュメルの実の殻 ×3
・火薬草 ×5
・小麦粉 ×1
・【ミール液】×1 』
分量やポイントは、未来の錬金術士に向けてわかりやすく書き留めている。もっとも、新たな錬金術士が生まれるのかはわからないが。
「そうだ! 俺爆弾作ったんだよ、亮」
「はぁ? 爆弾⁉︎」
「今度実戦で試すから」
「いいけど、声掛けと周り見ることを忘れないでくれよ?」
そんなことを話しながら、俺たちはもうアンスリウム山を登り始めている。せっかくの爆弾を試したいのに、運悪く(?)モンスターに出会わない。魔穴も近いはずなのに……。
アンスリウム山の地面は水分量が少なく、固く所々ひび割れている。
山といえば草木の緑で満ちたものを想像していたが、アンスリウム山は岩山のようだった。乾燥の地に強い草木でないとあまり生えないのか、木も草もまばらにある程度。
また、山肌を削ったように道幅が確保されているので、モンスターの出没率が低いのならば、クルーガ国王の言うとおり、幌馬車で頂上を目指すのも良いのかもしれない。
――キラリ……キラキラ……!
「――?」
俺は固有スキルの「鑑定」をしながら過ごすように心がけている。さっきから、時折光る石ころが気になって仕方ない。鑑定を使っていると、アイテムの方から光ってアピールしてくることもある。
「鑑定!」
『◯スリウムの原石
見た目はただの石ころで、煤けたようにも見える。魔力で覆った手で拾い上げると、白とも銀ともいえるような光がぽうっと灯るように、煤けた石の内側から発光する。加工すれば武器や防具になる』
俺はスリウムの原石を拾いながら山を登った。亮もサーガさんも首を傾げたので、試しに1つ魔力で覆った手でスリウムの原石を見せてみた。
「なんだ、アイテムだったのか。俺は石を拾っているのはいつか敵に投げるためだと思ってたよ」
「同感だ」
「いやいや、流石にそれは……」
――まてよ。敵に土属性の魔法で石礫をくらわせるのもありかもしれない。
俺は腕を組み、ついブツブツと考え事を言ってしまう。
「ソウタ様は何かあったんですか?」
「ああ、気にしないでください。癖ですよ、癖」
――聞こえてるからな、亮。実戦で驚かせてやる。
そうこう言っている間に、アンスリウム山の中腹についた。
――ここは――!
考えている矢先にたどり着いたアンスリウム山の中腹。山の麓から続いていた傾斜も、中腹ではほぼ傾度を感じられない。
――それよりも――。
「すごく綺麗だな……」
「ほんとだな。夕陽みたいだ」
今までの渋い印象を与える山とはうってかわった景色――オレンジ色と白の2色の花畑が目に飛び込んできた。
乾いた土に力強く根を張るオレンジ色の花。花弁に包まれるようにふわふわと丸まるのは、白く柔らかな綿毛。ふわんと咲いたようにも見える白の綿毛と鮮烈なオレンジの花弁は、どちらも主役に見えて魅力的だ。花は横幅3メートル程度の池を隠すように囲んで咲いている。
「これは、ルフォニアの綿花ですよ」
と、サーガさん。
俺は錬成アイテムに出会えた喜びで、うきうきしながら採集していく。そんな俺を見た亮は、
「俺は土台錬金術士に向いてないわ。細かいことダメなんだよな〜。O型だからかな」
「俺は典型的なA型だからさ」
「だよなー。わかるわ」
「O型……? A型……?」
「あぁ、なんでもないです。すみません」
「――!」
――ピコン!
『探索魔法により感知。危険度パープル。敵、3体、2分後に遭遇します』
「亮、サーガさん、敵です! 2分後に3体遭遇します!」
せっかくルフォニアの綿花の採集をしてたっていうのに。綿花を潰されないように戦わなくちゃな。
俺の中ではもちろん、
綿花>>>>>>>>>>>モンスター だ。
「ったく、ルフォニアの綿花をぐしゃぐしゃにしたら承知しないぞ」
「創太、それ、俺たちにも言ってるだろ?」
「ソウタ様、難易度を上げてきますね」
「あ……そうなりますね」
――来た!
「ギュウウウウウウウウウ」
「あれは『一角牛』です!」
「牛だけにギュウッて……。売れない芸人かよ」
一角牛という名の所以でもある立派な角は、額から真っ直ぐ太い針ように飛び出している。長さは人の前腕ほど。体当たりされればまるでフォークで刺されたようにグサリと胴を突き抜けそうだ。
「とにかく、第一はルフォニアの綿花で!」
「善処するよ」 「善処します」
――あれ? まさか俺、無理難題言ってる?
まぁ、いいかそんなことは。錬金素材アイテムのためだ!
「やっぱA型だわ……」
亮がボソリと呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。




