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8-31 幼馴染


「湖を凍らせるだって? そんなことができるのか?」


 サーガさんが驚くのも無理じゃない。

 ――だって俺自身、初めてなんだから……!


 俺は亮に比べて筋力がないうえ、剣もない。

 あるのは身一つ、そして木のロッドくらいだ。


「――ウィンドカッター!」


 距離を取るために、クラーケンをまずは威嚇する。クラーケンは予想どおり、一旦この即席の橋から退いた。


「よしっ!」


 ――イメージだ。湖が凍りつく様を。そう、日本の、スケートリンクみたいに……!


「――ウィンターアイス!」


 木のロッドの先端を湖につける。するとみるみる蜘蛛の巣状に氷が張っていき、遂にはスケートリンクのようになった。

 クラーケン2体のうち、1体は上半身が半分出ている。もう1体は、スケートリンクの中だ。ただ、突き破って出てくるかもしれない……!


「亮、サーガさん! お願いします。――剣聖の逆鱗!」


 支援魔法を付与すると、2人の周りを炎が紅く揺らめき始めた。

 俊敏さ、脚力、腕力が増す代わりにモンスターの敵対心(ヘイト)を集める諸刃の剣。


 俺は急いで陸地へ向かう。亮は急いでクラーケンの元へ。すれ違いざまに、瞑想の湖の結晶を受け取り、【マジックバッグ】へ急いでしまう。


 一歩遅れて、サーガさんも湖の上へ躍り出た。


 ――ビタン! バタン!


 クラーケンは触手を巧みに動かし、亮たちを近づけないつもりだ。


 でも、橋もいらなくなった今、好きなようにはさせない!


「――しがらみの(くさび)!」


 俺は橋の蔦を解除して、クラーケンに縛りなおす。クラーケンの触手と、俺との根比べだ。


「うおおおおー! ヒートナックル!」

「――雷鳴剣!」


 サーガさんと亮の連携攻撃。さすが王の側役サーガさん。拳闘士の見事なパンチがクラーケンの触手に風穴を開けた。亮だって負けていない。触手が一本、また一本と千切れていく。


「今日の晩飯はイカ焼きだ! ――ウィンドカッター!」


 遠距離から俺も応戦し、クラーケンは上半身全ての触手を失った。


 ――ビュウウウ!


「うおっ!」


 クラーケンは、亮目掛けてイカスミを吐く。

 でも、剣聖の逆鱗を纏った亮にとっては足止めにもならない。


「よいせっと」


 軽々と避け、脳天から――


「――雷鳴剣!」


 ――ぶち込んだ。


 俺たちは、

《ドロップアイテム》

 ・クラーケンの触手

 ・クラーケンの墨

 ・クラーケンの姿焼き

 を手に入れた!


「錬金素材アイテムっていうよりかは、料理に近いな」


 ――! もう1体も、来る……!


「亮! サーガさん! 空いた穴からもう1体も来ます!」

「「了解」」


 サーガさんは、右拳に炎属性を宿していく。

 ――クラーケンが躍り出た刹那を狙った一撃。


「うおおおお! ヒートナックルゥ!」


 クラーケンはなす術もなく、後ろへバタンと倒れ、俺たちは再びドロップアイテムを得た。


「さすがですね! サーガさん! すごかったっす!」

「いや、君もすごかったよ。君は雷属性なんだね。俺は炎だから。違う属性の人に会えるっていいものだな」

「はい! 勉強になります」


 亮の目が輝いている。近接戦で亮に比肩する力を持った人に初めて出会えたからだろう。


「おーい! 2人とも、こっち来てくださーい! 湖、元に戻しますから」


 亮とサーガさんはクラーケンを分担して運んでくれた。瞑想の湖の結晶も取れて、夕飯の材料も取れて、一石二鳥だ。


 俺は木のロッドの先端を凍った湖に当てて、ウィンターアイスを解除した。みるみるうちに、もとの湖へと戻ってゆく。


「それにしても、魔法使いというのはすごいな」

「サーガさんや亮もすごいですよ」

「いや、魔法使いとはレベルが違うんだよ。属性で帯剣などして強化することと、MPを対価に魔法を発現させて放つことは雲泥の差があると言われている。それほど、女神フロレンス様の加護が強いということさ」

「なるほど……」

「やっぱ創太は規格外だよな、ホント」

「亮だってそうだよ」


 サーガさんの話には、実はそうではなくて、万象の女神フレイヤの加護だとは訂正しなかった。話がややこしくなりそうだから。


「さぁ、夕飯にしますか!」

「イカだけどたこ焼き食いたいなぁ」

「作ろうか? 小麦粉とネギあるからモドキは作れるぞ」

「でも、丸くはないよな」

「じーつーはー!」


 俺は【マジックバッグ】からたこ焼き専用の焼き器を出した。


「は? なんでそんなん持ってんの?」

「無性に粉物が食べたくてさ。昨日作った」

「ははは。まじウケる創太」


 サーガさんは、クククッと笑う。


「君たちはいいコンビだね。戦闘の攻守のバランスも良いし、仲がいいのはいいことだ」

「まぁ、俺ら、幼馴染なんで」

「男同士の幼馴染もいいな。俺はホラ、町長の秘書が幼馴染だから」

「「…………………………」」


 ――俺も亮も、言葉を失う。わかってる。サーガさんが悪いわけじゃあ全くない。あるひを知らないんだから。ただ、……ただ。感情に浸ってしまうのも仕方ないことだ。





「じゃあ、作りましょうか、たこ焼きモドキ」

「おう! 俺は触手を切るな」

「ああ、ヌメると思うから塩渡しとく。湖で塩まぶしながら洗ってきてくれ」

「オッケー!」



 ――あるひ。待っててくれ。

 もう、手の届くところまで来ているんだ。

 早く、君にもう一度会いたいよ。


 俺はそっと、あるひが入っている【マジックバッグ】にそっと手を添えた。

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