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8-30 瞑想の湖に浮かびし球体


 俺たちは今、アザレアの森の中を歩いている。


 クルーガ国王が勧めてくださったとおり、長距離・長期間の移動は幌馬車での移動が一般的らしい。しかし、魔穴(まけつ)のあるアンスリウム山を目指すともなれば話は別だ。

 モンスターと遭遇(エンカウント)するたびに、幌馬車と馬を守らなければならないのは荷が重い。

 目的地のアンスリウム山へ行くためには、アザレアの森を抜け、足場の悪い瞑想の湖を経る必要があるらしく、一旦の目標地点として瞑想の湖を目指している。


 俺たちがアザレアの街を出発したのは昨日のこと。アザレアの森はさほど広くはないようで森の端まで進んだようだ。

 しっとりとした土の上に落ちた枯れ木を踏んでパキパキと鳴る音を楽しんでいたはずが、気づけば青々とした芝生の上を歩いている。もともと広かった樹間もさらに広くなり、陽の光を直に浴びるようになってきた。


 そしてなんだか……。


「なんだか向こうのほう、すごく眩しくないか?」

「本当だな!」


 テンションが上がる俺たち。

 引率兼護衛のサーガさんも大きく首肯する。なんて寡黙な人なんだろう、と俺は思う。


 ◇


 青々とした芝生に囲まれた、群青の湖。

 眩しい光は、湖に反射する陽の光だった。

 空の雲が合わせ鏡のように描かれた群青のキャンパスの中心には、浮かび上がる水の塊があった。


「サーガさん、あれは何ですか?」

「さぁ、見たこともないです」


 ――『創太……はじまり(創世)の錬金術士よ……』


「フレイヤ?」

「⁉︎」

 

 亮もサーガさんも驚いてこちらを見た。ということは、このフレイヤの声はまた俺にしか聞こえてないということだ。


 ――『あれは珍しい錬金素材アイテムじゃ。滅多に取れるものではない。取っておくがいい』


「創太、何だって?」

「湖の中央の球体、見えるか?」

「ああ、声は聞こえないけれど、球体は見える」

「あれはすごく珍しい錬金素材アイテムだから、取っておくように、とのことだ」

「でも……」


 亮が戸惑うように、湖には歩道――架け橋がない。策を練らなければ、泳いで行くようだ。湖の中にどんなモンスターが潜んでいるかもわからない中、闇雲に潜るのは危険だ。


「俺が参りましょうか? 一応、泳げます」


 サーガさんは、言いながらも上着を脱ぎ始めていた。細マッチョな亮とは少し異なる、鍛え上げられた筋肉。褐色の肌に太陽の光が反射して、まるでボディービルダーを見るようだ。


「サーガさん、俺たちは貴方より年下です。できれば敬語も態度も、改めてください。タメ口きいてくださると嬉しいです。な、亮」

「はい。……っていうか俺はそれよりも完璧なまでの筋肉に見惚れちまってた」


「ハハハハ! 本当に欲の無い方々だ。じゃあ、お言葉に甘えて。……俺が行くよ。俺、泳げるし」

「でもこの湖、モンスターがいるかもしれませんよね」

「そうかもしれないな。でも、身体を張って君らを守るのが俺の任務だから」


 ――そうは言われても、なんとかできないものだろうか。せめて、橋があれば……。


「――そうだ!」

「ん? 閃いたか? 創太」

「ああ。多分。やってみる。――しがらみの(くさび)


 地の利を活かして、湖を囲う森の木々から緑色の蔦を絡め上げて、即席の橋を作ってみた。これなら多分、行けるだろう。


「俺が行ってみるよ。俺も泳げるし。2人は俺がもしモンスターに襲われたら助けてくれ」

「そういうわけには……」

「――多分なんですけれど。俺が行くべきだと思うんです。フレイヤからの、指示だから」

「なる……ほど」


 俺は橋をつたって一歩一歩進んで行く。さすが即席の橋だ。ギシリギシリと軋む音はするし、時々スニーカーが水に浸る。後で乾かさないと。


 俺は、湖の中央へ辿り着き、両手を軽く水に沈め、大事そうに水中に浮かぶ輝く蒼の球体――瞑想の湖の結晶を取り出した。


 ――ピコン!

『探索魔法により感知。危険度パープル。敵、2体、1分後に遭遇(エンカウント)します』


 何て運が悪いんだ。


「亮! サーガさんっ! ピギーウルフ2体が1分後に遭遇(エンカウント)します!」

「マジかよ……」

「了解! ソウタくんは水辺から戻ることだけを考えて……」


 ――?

 この感覚……!


「亮、サーガさん! 違う、ピギーウルフじゃないッ!」


 ()()()()()、湖から吸盤付きの触手が現れた。イカか? タコか? それとも何なんだ。……それに、今まで探索魔法に引っ掛からなかったのに今引っ掛かるってことは、この結晶を採ったことがキッカケか?


 ――ギシリギシリ……!


 即席の橋を揺らしながら、瞑想の湖から浮かび上がったのは、大きなイカだった。


「うわっ」

「創太!」

「来ちゃダメだ!」


 俺は亮を信じて、瞑想の湖の結晶を投げた。

 お互いの呼吸がバッチリ合って、なんとか結晶は亮の手元へ。


「ナイスキャッチ! ――とか言ってる場合じゃないんだよな。てか俺【マジックバッグ】にしまえばよかったじゃん。アホか」


 そう。俺はめちゃくちゃ焦っているし、動揺している。なぜなら俺は錬金術士兼魔法使い。近接戦にはめっぽう苦手な職種である。


「鑑定!」

『●クラーケン 吸盤で人やモンスターを捉え、そのまま口へ運んで捕食するのが特徴。食べると美味しい』


「さて、どうしたもんか……。とりあえず、――聖女の慈愛!」


 俺は全員に保護魔法をかけた。薄いベールが、俺たちを覆う。これで大抵のダメージは防げるだろう。


「創太! 湖を凍らせてくれ! そしたら俺らも参戦できるから……!」

「亮、簡単に言ってくれやがって……! ……水属性、か。やってみるか!」

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