8-29 アースフェイス国
――ガタンガタン……。
御者台に座るのは、馬の操縦者1人に、護衛らしき冒険者が1人。俺たちは、手紙にあったとおり迎えに来てもらった馬車に乗ってアースフェイス国の王城へ向かっている。
「道路の舗装ばっかしてるからさ、後でここも舗装したくなるよ」
「亮、そりゃ職業病だ」
「はは。だな」
窓から見えるのは、開けた地にまばらな木。やはり、この国で森と呼べるのはアザレアの森くらいかもしれない。
いままで各村、街を復興してきたが、手をつけていない場所はどこも土が乾いて地面がひび割れていた。この道中も例外ではない。
揶揄してみたものの、亮が舗装したくなる気持ちは、俺にもわかる。
「着きました。お待たせいたしました。女神フロレンス様の使者様」
馬車の戸が開かれ、階段を降りると目の前には大きな王城があった。
と言っても、王だからといって国内を放り自城だけ煌びやかに装飾し豪勢にする、傲慢な王でなくて良かったと思えるほどの、簡素な王城。流石に外壁はあるが、本当に大きなただのお屋敷、といった印象を受けた。
「ここからは私が案内します。申し遅れました。私はサーガ。拳闘士です」
申し出たのは、一緒に馬車に乗ってきた冒険者だった。長い赤髪を無造作に後ろで束ね、褐色の肌に深い緑色の瞳という、いかにもモテそうな風貌の男性。年は20代半ばといった頃だろうか。
敷地を入ると、白と黄の花が絡められた丸いアーチ。アーチを抜けると、門番が2人。サーガさんが軽く手を挙げると、門番は恭しく戸を開いた。
RPGでお馴染みの、真っ赤な絨毯を歩いた先に、玉座が2つ。
歳の頃は40代くらいの男性と、30代くらいの女性。クルーガ=アースフェイス国王と、王妃だろう。2人とも金髪に碧眼。よくある設定だ。
「サーガ、只今帰城いたしました。こちらが女神フロレンス様の使者様方です」
俺たちは、サーガさんが膝をついて胸に右手を当て、左手は後ろで手を結んでいるのを真似て膝をついた。
「錬金術士のスズツリー=ソウタです」
「魔法剣士のカガ=リョウです」
「後ろに犬のポチとワイルドベアのくまがいますが、躾けてあるため害をなしません。同席をお許しください」
「許そう」
――俺は心の中でやっとカガ=リョウと名乗ったなと思い、軽く笑いそうになってしまった。リョウではなくリョーにすれば良かったのに、とも。
「よくぞ参ってくださった。国内の村や街を救ってくださったこと、心より礼を申し上げたい」
とても謙虚な国王、という印象を受けた。権力を振りかざさず、言葉遣いも丁寧で、相手は年下だというのにそれを理由に圧力をかける様子もない。
「サーガも、ご苦労だった」
「とんでもありません」
「では早速だが、手紙に書いたとおり、直接依頼をさせていただきたい。報酬はきちんと支払うことを約束する」
「発言してもよろしいでしょうか」
俺は我慢できずに、クルーガ国王の話を遮った。
「発言を許そう」
「この国の最古の秘宝――【生命の歯車】をいただきたいのです」
――ピリリ、とした緊迫感が室内に響き渡る。
「其方、どこでそれを」
俺は亮と顔を見合わせ、お互いに頷いた。
「私は、女神フロレンス様の使徒と呼ばれていますが、その実は万象の女神フレイヤに導かれし者たちです。最古の秘宝のことは、フレイヤ……様に聞きました」
「なんと……! フロレンス様であってもフレイヤ様であっても、その話が誠であれば、余が頭を下げねばならないな」
クルーガ国王は王妃と顔を見合わせて少し頭を垂れた。
「おやめください。ただ導かれただけであって、私たちには何の権力もありませんし、たとえあったとしても権力を振りかざさず気は毛頭ありません」
「なんと謙虚な……。万象の女神フレイヤ様といえば、高位の女神様だ。女神様に導かれし方々が我が国の再建に尽力いただいたとあっては……。もちろん最古の秘宝はお渡しましょう」
「「――!」」
俺と亮は目を合わせて喜ぶ。心の中ではガッツポーズだ。
「――ただし!」
「「………………」」
「――ただし、今回の依頼を受けていただいた後にお願いしたい」
「その依頼、というのは?」
「我が国にはアンスリウム山という山があります。その頂上から、モンスターが湧き出るといった報告があるのです。是非とも原因を突き止め、穴を塞いでいただきたい」
「――穴、ですか」
「なんと表現したらのいのかわからないのだ。穴、と呼ぶべきか、亀裂、と呼ぶべきか」
――おそらく魔穴だろう。
きっと亮もそう思ったはずだ。亮の視線と俺の視線はピッタリ合った。
「もちろん、2人だけとは言いません。サーガ。」
「――ハッ」
「お2人に同行し、旅の手助けをせよ」
「――確かに拝命致しました」
「旅の道具はこちらで揃えます。長旅になるでしょう。持ち物はサーガに馬車を操縦させればよい。できるな、サーガ」
「――ハッ。かしこまりました」
俺は亮と顔を見合わせる。
そして同じタイミングで、大きく頷く。
「アンスリウム山の場所がわからないので、案内役としてサーガさんのお力添えはありがたくいただきます。そして旅の荷物も。ただ、馬車はいりません」
「なんと……さすれば、どのように持ち物を運ぶのですか。サーガ1人に持たせるのはあまりに……」
俺はニコリと微笑む。
「問題ありません。俺にはこの、バッグがありますから。立ち上がっても?」
「許可しよう」
俺は【マジックバッグ】から、ダイニングテーブルを出してみせた。
「――! 神の御技だ。見たか王妃よ」
「素晴らしいですわ」
「俺はこのバッグに無限に出し入れできます。馬車もありがたいですが、戦闘になった時馬を守る役目が必要になります。なので歩いて行かせてください」
クルーガ国王は大きく首肯した。
「さすが、万象の女神フレイヤ様に導かれしお方。我々はなんと幸運なことか。サーガよ、よく学んでまいれ」
「――ハッ。かしこまりました」
こうして、俺たちは国王からの直接依頼を受け、アンスリウム山を目指すことになった。




