8- かしこい子
「お姉ちゃん! 刀をしまって! 残り時間が少ないんだから!」
「ここで使わなきゃ私たちが死ぬ! あなたも剣を!」
「少し会話することってできませんかね……?」
どうも訳ありっぽい。
たくさんの布を組み合わせて、雑多な色の服。
そして何より目立つのが首に着いた金属製の大きい首輪。
奴隷の身分っぽいけど、奴隷ごときがここまで来れるわけがない。
『ギャギャギャ!!!』
音を出しすぎて気づかれたか!
ゴブリンジェネラルを筆頭に後ろにゴブリンキングがいる。
どうやら大群のお出ましらしい。
「――2人とも、少しじっとしてて。 【斬音】【多重演奏】」
音とかした斬撃がゴブリンたちを切り刻んでいく。
後ろにいたゴブリンが気が付いて盾を構えるも、盾ごときざんで粉々にする。
「――何。 力を見せて脅すつもり」
「そういう意味じゃないんだけどなぁ……」
『ぐぅ』
どこかから聞こえるかわいらしいお腹の音。
音の出し主はどうやら角の女の子のようで、顔を赤らめていた。
――気が抜けるけど今は助かった。 渡りに船ってやつかな?
「――何か食べる?」
「うん!」
「ちょっと! イル!」
とりあえず収拾がついた……
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サクッと準備をしてオークドラゴンの肉を焼いていく。
水が無いのが残念だが、ゆっくり食べれば何とかなる……かもしれない。
「これ美味しい! お姉ちゃん!」
「――毒なんて入ってませんよね」
妹の方は割かし打ち砕けた感じだが、姉の方が警戒心が高すぎる。
――よく見たら右目が潰れていて、眼帯を付けているみたい。
「毒は入ってないよ。 何なら私が一口食べてからでいいけど?」
「遅効性の毒なら意味が無いですし、あんなのを見せられたらいやでも従いますよ」
そういって銀髪の子は黙々と食べ始める。
最初の一口を食べた時に目が大きく開いたのが少し可愛かった。
「まぁゆっくり食べてよ。 水は無いからゆっくり食べてね」
「――お水ならあっちにあったけど?」
「イル。 しゃべりすぎです」
「あ、ごめんなさい」
というかこのイルとか言う子が水があるって言ってた気が……?
水があればしばらくは生き続けられる……
「――ねぇ、笛使いさん。 あなたは水が欲しいんですよね?」
「うん。 カツカツだからね。 ここらで補給しておかないと」
「取引です。 私はあなたに水の場所を教えます。 その代わりに食料と私達を守ってください」
「そのくらいなら別に大丈夫だよ。 幸い肉ならいっぱいあるし」
「わかりました。 よろしくお願いします」
「――疑わなくていいの?」
なんか急に砕けてくると逆に私が疑い深くなる。
「そっちも守れなかったら死活問題じゃないですか。 幸い私たち以外は取ることはできませんので」
「あーね、そういうことか……」
この子、意外とやリおる……
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2人が肉を食べ終わった後にしばらく移動し、たどり着いたのはまた壁でした。
この奥に水があるとでもいうのかな。
「イル。 頼みました」
「任せてお姉ちゃん!」
そういってイルは右手でに身長と同じくらいの大剣を取り出して壁に切りつける。
「――その剣どこから取り出しました?」
「さぁ? ほら、お水」
壁の切り口からはしっかりと水が出てくるがごまかされたような気がしてならない。
まぁ置いておこう。
とりあえずこれでしばらくは生きていられる……
――飲める水かはわからないけど無理すれば飲めるでしょ。
「これで契約は終了?」
「いえ? 私たちを守ってください。 それまでは契約は続きますよ?」
「でも外に出るよ。 あなたたちはどうするの? ついてくる?」
「お姉ちゃん……」
「ええ、わかってます…… もちろん外に出るまでです」
「――了解!」
意外とやる子だが、面白そうな子でよかった。
何で奴隷の首輪をしてるとか、耳と角のこと、剣と刀のことは後で聞こう。
「そういえば私の名前を言ってなかったですね。 シクです。 よろしくお願いします」
「私はイル!」
とりあえず仲はよさそうで何より。