2日目
濡れ鴉の性能は予想以上だった。
最初こそ普通の包丁と大差ない能力しか持っていなかったが、この子は生き物を切れば切るほど能力が上がるといった壊れた仕様になっていたのだ。
2日に入り私が濡れ鴉の餌にした人数は3人だ。
まだ普通の包丁よりちょっと強い程度の能力しかないけれど、濡れ鴉の刃は初めの時より赤くそして透き通っていた。
キレイ―――
私は濡れ鴉をみてため息を吐く。
今回の目的は茜色のスカーフだったけれど、もうどうでも良くなっちゃったかも。
だってこんなにきれいな物を手に入れる事が出来たんだもの。
今は1Fの倉庫で休憩中だ。パンや干物なんかも置いてあるが、半分以上は常には使わないであろう家具が置いてある。多分このパンと干物はこの大会の参加者への配慮なんだろう。
ここはゲームの中だが疑似的にも6日間を過ごす事になる。そうなると参加者の精神上、食事という行動をしないと現実で脳が空腹を訴え最悪餓死の可能性が出てくるらしい。
VR技術と電脳世界内での時間圧縮技術ができたばかりの時に本当にあった事らしい。
今ではゲーム内で空腹を覚えるとステータスがダウンし、それを無視し続けると強制的にシャットダウンされる仕様になっている。
因みに現実に戻ったらご飯を食べたい気持ちが溢れているのにそこまでお腹減って無くてさびしい気持ちになりたいって人以外には強制シャットダウンはお勧めできない。
アレは本当に辛いから。
私なんか3回強制シャットダウンしただけで体重が5キロも増えたからね。その後のダイエットが辛いんだ、イヤ本当に。
ゲームの世界ならいくら食べても太らないし、体重の事とか気にしなくていいんだよね。
まぁ、このバトル×バトルではあんまり美味しい物を食べた記憶はないけどさ。
私はシャットダウンの恐怖に怯えながら倉庫にあったカンパンを食べる。
「うん、すごいパサパサしてて不味い。もう一個!」
・・・
カンパンを食べ終わってパサパサした口を水で潤して私は城内の探索に出る。
濡れ鴉の方もまだ3人しか斬っていない状態ではちょっと強い武器程度でしかない。
まだまだ斬りたりない。もっともっともっと!
濡れ鴉も斬れば斬るほどキレイになって行くし、どうせだったら限界まで育てたいし。
2日目にもなれば武器持ちも増えているはずだ。気を引き締めて行かないとね。
この大会で最初から持っている唯一のアイテムである地図を開いて現在位置を特定する。
どうやらここは城の中でも西の離れに位置しているらしい。
取りあえずこのまま本館の方に移動して敵を探す事にしよう。
西の離れから本館に向かうには連絡通路を通るか外に一度出る必要がある。
連絡通路を使った方が楽だし早いけど、罠が仕掛けてある可能性があるんだよね。
罠にはまるとそれだけで死んじゃう可能性があるからなぁ・・・
外に出ても罠がある可能性があるけど・・まぁ通路よりは罠の可能性は少ないよね。避ける事も通路より簡単だろうし。
だから私はせっかくだから外を選ぶぜ!
窓を叩き割って外に出る。
外は雨が降っていた。服が濡れるのは嫌だけど、この際仕方ない。
バシャバシャと歩くたびに水が撥ねる。何とも憂鬱だ。
雨の日の足元バシャバシャで気分が高揚する年齢でもないし、それに必要なアイテムである長靴が今は装備されていない。台無しだ。
取りあえず速く本館に行こう。だって濡れるの嫌だし。
本館には窓ガラスを割らずに裏口から入る。人があまりいなかった西の離れとは違って本館は音をたてたら直ぐに人が集まってきそうだし・・まぁ、それはそれで面白そうだけど、今はそれやると死んじゃいそうだから止めておこう。
ドアを開けて入ってみると、そこは厨房だった。
いや、ここは厨房というには手洗い場みたいな設備と湯沸かしの道具位しかないから厨房とはいえないかもしれない。
たぶん使用人みたいな人達が外作業をした後に休憩する場所なんだろう。
今回みたいな大会中は使用人みたいなNPCは居なくなっちゃうけど、フリーモードではきっとここにはメイドさんとかがキャッキャウフフしているに違いない。
通路に出て敵を探す。後7人位倒せば濡れ鴉も最強武器の仲間入りを果たすに違いない。
慎重に気配を消しながら歩く。探索結果、大柄の男が1人と小柄の男を2人見つけた。どうやらあいつ等はチームを組んだみたいだ。大方リアルでも友人関係なんだろう。
大柄の奴がリーダーで他が小分ってところかな?
武器は大柄の男が棍棒を持っているだけだ。殺してあげたいけど多数を相手にするのは今はまだ困難だ。それに殺しても1日経てば復活するし、チームを組んでいる奴等は後回しにしたいところだけど・・・
「そんなの気にしてられないよねぇっ!」
私は姿勢を低く駆け出す。
右手に濡れ鴉、左手に包丁を持って大男に近づく。
男達は私に気付いて構えるが遅い。私は大男の懐に入ると包丁を横腹に抉りこむように突きだす。
「――ってぇ!?」
男は横腹の衝撃にたまらず体がくの字に曲がる。私はそのまま濡れ鴉で大男の喉を斬りつける。
「まず一人♪」
血を噴き出しながら大男は倒れ、光になって消えて行った。
濡れ鴉の赤い輝きが最初より増える。
「ダラスさん!!」
「てめぇ!いきなり何しやがる!?」
残るのは2人、武器は持っていないし何とかなりそうだ。
私は大男・・ダラスとか言う奴が消えた後に残った包丁を拾い上げ、棍棒を遠くに蹴飛ばす。
「何しやがるって―――なんか三下臭いセリフよねぇ?何をしたかなんて分かり切ってるじゃない。ポイント稼ぎよポイント稼ぎ!あははっ♪」
「ふざけやがって!殺してやる!グラウ、同時に行くぞ。」
「あぁ、ハズラム・・油断すんじゃねぇぞ?」
三下2人は左右に散ってタイミングを計っているみたいだ。
なんて無駄な行為なんだろう。確かに同時に左右から来られたら少し不味いかもしれないけど・・私がそれまで余裕に様子見なんかしていると思っているのかしら?
愚か愚か愚かだわぁ!!私は包丁をグラウとかいう男の方に投げつける。
グラウはいきなり投げつけられた包丁に驚いて咄嗟に防御の体勢になった。
私はグラウの方に向かうことはせずハズラムの方に向かう。濡れ鴉でハズラムに斬りかかるが避けられた。
これはまぁ、予想通り。そのまま首に腕を絡めて足払いでハズラムを投げる。
巻き込む形で私も一緒に倒れこみ、ハズラムを抑え込んで首を斬りつけて念押しで胸にも一刺ししておく。
背後から気配を察知してハズラムから転がるように離れると、さっきまで私がいた場所に向かってグラウが包丁を振り抜いていた。
顔は怒りに染まっている。
「よくも・・よくも2人をぉっつ!」
「何叫んでるのよ、うるさいなぁ。1日経てば復活するし良いじゃない。」
「あああああぁああぁぁあっ!!このクソ野郎!殺してやる殺して殺してやるぅっ!!」
「うるさいわねぇ、ツバも汚いしさ。それに駄目よ、死ぬのはあなただし、殺すのは私なんだから。」
言葉はそこで終わりだった。
グラウは憎しみが籠もった目で私を睨み駆け出してきた。
でも遅い。私はグラウの攻撃を余裕でかわして背中に濡れ鴉を突き付ける。
そのまま手首を捻って傷を広げてから濡れ鴉を引き抜いた。
「ぎゃっ!?」
ここはゲームの中だ。痛みもある程度緩和されている。
だけど【背中に包丁を突き付けられてしかも抉られた】っていう経験は精神に大きく傷を作る事だろう。
ダメージ自体も大きくグラウの体力ゲージは殆ど0に近くなっている。
「て、てめぇ・・」
「そんな顔しないでよ。これ、ゲーム何だしさぁ。ね?」
精神的にも体力ゲージ的にも限界なグラウは動くことはできず、出来てもせいぜい睨む程度だった。
「じゃあね、バイバイ。」
私はグラウの喉を濡れ鴉に突き立てて、グラウが消えるのを笑顔で見送った。




